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しおりを挟むどのくらい経っただろうか。
ガタン!と普段なら物音どころか。歩く音すら気にして歩く人しかいないのにそんなこと気にしていられないとばかりに音があちこちから聞こえ出していた。
それこそ、普段の神官たちからは想像もできないような慌てふためいた姿を晒していたが、ヴィルヘルミーネはそれに気づくことはなかった。
急げ急げと言葉にしていなかったが、言葉にするならそれがピッタリくる動き方をしていて、続々と集まり出していた。
数十分の間に神官たちが、ほぼ勢ぞろいして、ヴィルヘルミーネの後ろに膝をついて頭を深々と一人一人下げていた。
それに至るまで、最初は神官の一人がとんでもないことが起きていると他の神官を呼びに行って、何を訳のわからないことを言っているんだと見に来たら、その通りだと慌てふためいて、みんなを呼ばねばとなったことで、神殿の中に慌てる音が鳴り響いていたのだ。
それこそ、それぞれが自分の目で見るまでは、すぐに信じた者は少なかったが。知らせを聞いても馬鹿にして、ぎりぎりになって来た者も一人だけいた。その神官は、慌てすぎたのと恐れおののきすぎて一番遠いところで、五体投地していた。
そんなことになっていることにも気づかずにその光が遠退いて、しばらくするまで誰一人として動くことはなかった。いや、動けなかった。
ようやく動き出したヴィルヘルミーネは、大きく深呼吸をして立ち上がり、後ろに並ぶ神官たちの姿を見つけて、ギョッとしてしまった。
(な、何??)
するとこれまで見たことないほど、ヴィルヘルミーネに対して深々と頭を下げたのだ。一斉にではなくて、中にはポカーンとしていて、周りが頭を下げたのにハッと気づいて頭を下げて、床に額を思いっきりぶつける者もいた。
それにヴィルヘルミーネからは遠く、出入り口付近で、さっきから五体投地して動かない一人も、目に入って来て気になってもいたが。
(あれは、絶対に痛いわよね。大丈夫かしら)
ヴィルヘルミーネが、そんなことを思っていると……。
「聖女様」
「え?」
「あなた様が、新しい聖女様に選ばれました。立ち会えたこと、大変光栄に存じます」
ヴィルヘルミーネは、自分が聖女に選ばれたことを告げられて、口々に神殿たちから祝福の言葉を掛けられることになったが、あまりのことにしばらく、何をしていたかを覚えてはいなかった。
神様に会えたことに感激して、自分が聖女に選ばれたとまでは思っていなかったのだ。
(あれって、そういうことだったのね。……今更、それに気づくなんて)
あまりにびっくりしてしまい、そのまま祈り続けてしまっていて、誰もがヴィルヘルミーネが混乱しすぎて放心だと気づかなかった。
そこから、神殿からの知らせで、ヴィルヘルミーネの家族や街中の人たちが集まって、ヴィルヘルミーネが放心状態から脱して神殿から出た時には、凄い人だかりができていた。
(いつの間に……? こんなに人だかりができているなんて……、そんなに時間が経っていたのかしら?)
それこそ、ランドルフたちを見送った時より、大勢いる気がヴィルヘルミーネにはして、それに困惑を隠しきれずにいた。
中には家族や隣近所の人に支えながらヴィルヘルミーネを一目見ようとするお年寄りや怪我や病気で立っているのもやっとな者や荷台に乗せてもらって、ヴィルヘルミーネを祝福すべく集まって来たた者までいて、すっかりごった返していた。
でも、心から祝福してくれる人だけではなかった。
「こら、そんな汚らしい格好で寄るな!」
神官の一人が、そう言って足蹴にしようとするのを見つけて、ヴィルヘルミーネはそんな神官を止めるより、駆け寄っていた。
「大丈夫ですか?」
「っ、お、恐れ多い」
ヴィルヘルミーネに触れられて、恐れ多いと言いながら、神官たちがしたように膝をついてひれ伏そうとするのをヴィルヘルミーネは止めるのが大変だった。
それよりもっと大変だったのが、新しい聖女となったヴィルヘルミーネに媚びへつらって取り入ろうとする者がいて、それを遠ざけてくれたのは、まともな神官たちだった。
(ここにも、居るのね。そんなことして、私に何を期待しているんだろう。聖女に何を求めているんだろう? 不思議でならないわ)
ヴィルヘルミーネは、不思議でならないことを思い返してため息がこぼれてしまった。
(ここも、王都のようになってしまうのかしら。……そんなことになったら、ここも、苦手になってしまうわ)
そんなことを思って、ヴィルヘルミーネは肩を竦めずにはいられなかった。
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