6 / 14
6
しおりを挟む「確かにお父様が、シャルルの了承も得ずにしたのなら、問題ですね」
「そんな、お前だって、気が変わるといけないから早く返事を出せと言って急かしただろ!」
「っ、そ、そんなことしてませんわ!」
ギャーギャーと騒ぎたてる両親に、ユルシュルは頭が痛くなってきた。本当にろくなことしかしない。
「姉さん」
「……」
シャルルは、ユルシュルを情けない顔をして呼んだ。本日2回目だ。こちらも、勘弁してほしい。頼るしかできないのか。
「だぁー、ユルシュル! お前が、どうにかしろ!」
「そうよ。ユルシュル。あなたなら、どうにかできるでしょ!」
「……」
両親までも丸投げしてきたことにユルシュルは、ため息しか出なかった。
こんな家族しかユルシュルにはいないのだ。そう思うと執事が、ここに残ろうとしないのもよくわかる。何とも情けない当主とその妻と跡継ぎの息子だろうか。
ユルシュルは、冷めた目をして3人を見た。ユルシュルは、どうにもこの3人のようにはなれそうもない。
そもそも、おかしいことにすら気づいていない。
「お父様、いつ返事をなさったのですか?」
「昼過ぎだ」
ちらっと執事を見ると涼やかな顔をしている。侯爵宛なのに仕事中よ父の手元に届くことがおかしいではないか。
普段は、この家に届く。まるで、父の仕事がどこかを把握した者がわざわざ届けたみたいだ。まぁ、そこはいいとして……。
「……なら、お父様は一度、ここに戻って来たのですか?」
「? いや、戻って来ていないが……」
「お父様。何で、封蝋したのですか?」
「何って、これでした」
何でもないように指にはめているのを触った。そこは、本来侯爵家の紋章入りの指輪をしているはずだが、父はしていない。
「……侯爵家に来た返事をするのに職場の役職を示す封蝋をして返したのですか?」
「っ、!?」
そこで、初めて父はまずいことに気づいたようだ。
「なんてことをなさるのよ!?」
「あ、いや、いつもの癖でつい」
「なら、そこから出したなら、すぐに仕事場に戻って差し押さえてもらっては?」
「そ、そうだな!」
「お父様が行かなくて、止められないと思いますよ」
人を差し向けようとするのを見て、呆れながら父にユルシュルはそう言った。
本当にろくでもないことしかしない人だ。こんなんだから、この家の指輪をはめて外で過ごせないことをまるで自覚していない。
「信じられないわ」
「……」
大慌てて職場に戻った父を冷めた目で見送ったユルシュル。母はグチグチとぼやいていて、弟はホッとしていた。
ユルシュルが、目配せした相手は、デボラだ。封蝋を何でしたかを聞いて出て行ったから、まずいことにはならないはずだ。
何せ、侯爵家の紋章入りの指輪は、この家にある。ユルシュルに色々やらせているため、この家から持ち出さないことにしているのだ。
そう決めたのは、父だ。なのにあれだ。
このことに関して、執事は動くことはなかった。涼やかな顔をしているが、こんなことをする執事ではないから、別の者がしたのだろう。
この家の今後に興味の欠片もなくなっているのだが、この家に問題を起こすことをしたとは思えない。そもそも、この家に届いたものをユルシュルに許可なく持ち出すとも思えない。
そんなことを思いながら、ブリュエットも居なくなっているのに気づいて、ユルシュルは雇い主がドレスを仕掛けた人物と同じなのだろうかと首を傾げたくなった。
77
あなたにおすすめの小説
婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました
由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。
彼女は何も言わずにその場を去った。
――それが、王太子の終わりだった。
翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。
裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。
王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。
「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」
ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。
地味で結婚できないと言われた私が、婚約破棄の席で全員に勝った話
といとい
ファンタジー
「地味で結婚できない」と蔑まれてきた伯爵令嬢クラリス・アーデン。公の場で婚約者から一方的に婚約破棄を言い渡され、妹との比較で笑い者にされるが、クラリスは静かに反撃を始める――。周到に集めた証拠と知略を武器に、貴族社会の表と裏を暴き、見下してきた者たちを鮮やかに逆転。冷静さと気品で場を支配する姿に、やがて誰もが喝采を送る。痛快“ざまぁ”逆転劇!
婚約破棄をされるのですね、そのお相手は誰ですの?
綴
恋愛
フリュー王国で公爵の地位を授かるノースン家の次女であるハルメノア・ノースン公爵令嬢が開いていた茶会に乗り込み突如婚約破棄を申し出たフリュー王国第二王子エザーノ・フリューに戸惑うハルメノア公爵令嬢
この婚約破棄はどうなる?
ザッ思いつき作品
恋愛要素は薄めです、ごめんなさい。
【完結】公爵令嬢は、婚約破棄をあっさり受け入れる
櫻井みこと
恋愛
突然、婚約破棄を言い渡された。
彼は社交辞令を真に受けて、自分が愛されていて、そのために私が必死に努力をしているのだと勘違いしていたらしい。
だから泣いて縋ると思っていたらしいですが、それはあり得ません。
私が王妃になるのは確定。その相手がたまたま、あなただった。それだけです。
またまた軽率に短編。
一話…マリエ視点
二話…婚約者視点
三話…子爵令嬢視点
四話…第二王子視点
五話…マリエ視点
六話…兄視点
※全六話で完結しました。馬鹿すぎる王子にご注意ください。
スピンオフ始めました。
「追放された聖女が隣国の腹黒公爵を頼ったら、国がなくなってしまいました」連載中!
婚約者の家に行ったら幼馴染がいた。彼と親密すぎて婚約破棄したい。
佐藤 美奈
恋愛
クロエ子爵令嬢は婚約者のジャック伯爵令息の実家に食事に招かれお泊りすることになる。
彼とその妹と両親に穏やかな笑顔で迎え入れられて心の中で純粋に喜ぶクロエ。
しかし彼の妹だと思っていたエリザベスが実は家族ではなく幼馴染だった。彼の家族とエリザベスの家族は家も近所で昔から気を許した間柄だと言う。
クロエは彼とエリザベスの恋人のようなあまりの親密な態度に不安な気持ちになり婚約を思いとどまる。
「陛下、子種を要求します!」~陛下に離縁され追放される七日の間にかなえたい、わたしのたったひとつの願い事。その五年後……~
ぽんた
恋愛
「七日の後に離縁の上、実質上追放を言い渡す。そのあとは、おまえは王都から連れだされることになる。人質であるおまえを断罪したがる連中がいるのでな。信用のおける者に生活できるだけの金貨を渡し、託している。七日間だ。おまえの国を攻略し、おまえを人質に差し出した父王と母后を処分したわが軍が戻ってくる。そのあと、おまえは命以外のすべてを失うことになる」
その日、わたしは内密に告げられた。小国から人質として嫁いだ親子ほど年齢の離れた国王である夫に。
わたしは決意した。ぜったいに願いをかなえよう。たったひとつの望みを陛下にかなえてもらおう。
そう。わたしには陛下から授かりたいものがある。
陛下から与えてほしいたったひとつのものがある。
この物語は、その五年後のこと。
※ハッピーエンド確約。ご都合主義のゆるゆる設定はご容赦願います。
悪役令嬢として断罪? 残念、全員が私を庇うので処刑されませんでした
ゆっこ
恋愛
豪奢な大広間の中心で、私はただひとり立たされていた。
玉座の上には婚約者である王太子・レオンハルト殿下。その隣には、涙を浮かべながら震えている聖女――いえ、平民出身の婚約者候補、ミリア嬢。
そして取り巻くように並ぶ廷臣や貴族たちの視線は、一斉に私へと向けられていた。
そう、これは断罪劇。
「アリシア・フォン・ヴァレンシュタイン! お前は聖女ミリアを虐げ、幾度も侮辱し、王宮の秩序を乱した。その罪により、婚約破棄を宣告し、さらには……」
殿下が声を張り上げた。
「――処刑とする!」
広間がざわめいた。
けれど私は、ただ静かに微笑んだ。
(あぁ……やっぱり、来たわね。この展開)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる