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しおりを挟むジャスミンが、もう会うこともなくなった元婚約者のアーロの誕生日に間に合わなくなった時に出会った人物が、誰なのかがわかったのは、そんなゴタゴタが片付いてからだった。
(あの時、助けた一団の中に王太子殿下の恩師がいたなんてね。世間って、狭いわね)
ジャスミンは、お相手様だった子息の家にすぐさま向かわずに困っている一団を助けたのだ。助けてなければ、ぎりぎりでも誕生日には間に合っていたのだが、ジャスミンはそんなことしてまで間に合わせようと思わなかったのだ。
それこそ、あちらはジャスミンがお相手様の誕生日の祝いに行くところと聞いて、それがいかに大事なことかを知っていた年配の老人こそが、王太子の恩師だったようだ。
ジャスミンの国では、お相手様の元に婚約した最初の誕生日は駆けつけてお祝いするのだ。あちらは、そんな風習など知らなかったのだろう。ジャスミンの誕生日なんて、祝いの品もなかった。
(他国の文化に詳しかったのも、頷けるわ。何より立ち居振る舞いが、どんなボロを纏っていても品格がある方だったもの)
他の人たちは、ジャスミンに言われて手を貸す面々をよくやると笑っていたり、金にもならんのにと言ったり、慈善活動なら他所でやれとまで言っていたが、ジャスミンたちに通じないと思ってのことだったのだろう。
初老は、そんな面々が自国の民だからと謝罪してくれたが、ジャスミンたちが何を言われていたかもわかりながら、素知らぬ顔をしていたことを知って驚きながら笑っていた。
国を見て回ることが好きらしく、ジャスミンに色んな話をしてくれた。それが、何よりも貴重だとジャスミンが言ったことが嬉しかったようだ。
「いやはや、素晴らしい出会いをいたしました。ジャスミン様、どこに嫁がれるのですかな? 是非とも、祝いの品を贈らせていただきたい」
ジャスミンは丁重に断ったが、しばらくしたら、そちらに足を運ぶから、会いたいと言われて、ジャスミンも他の話も聞きたいと思って、あの家のことを話したのだ。
それを王太子が聞いて、恩師の代わりにジャスミンに会って礼をのべたいと思ったようだ。
それこそ、お相手様なうちなら、気軽に会えるが、呼び付けたりすれば、何を勘ぐられるかわからないと思ったのだろうが、婚約を破棄されたのを聞いて、頭に血が登っていたとは言え、王城にそのまま連れて行かずに姉のところに手当てを頼んでよかったのだ。
(王太子にお相手様がおられなくてよかったわ。そんなことになったら、今度は私が浮気相手呼ばわりされても、何も言えなくなっていたもの。ここにいる間にも、変な噂が流れないように手を打ってくれたからこそなのよね)
そんな風に思っていた。
この頃のジャスミンは、王太子が女性全般に優しい方だと思っていた。まぁ、初対面で血塗れになっている女性に優しくしないのは、あの元婚約者くらいだろうし、恩師が世話になったからと礼のつもりもあってのことだと思っていたのだ。それに巻き込んでしまっていることを申し訳ないと思っていた。
それが、ジャスミンだから一層誰よりも優しいとは思ってもみなかったのだ。
ジャスミンは、王太子に好かれていることに全く気づいていなかった。
この辺の疎さを親友だと思っていたミアや結婚するはずだったアーロに馬鹿にされる要因があったのだろう。
だが、気づかないままのジャスミンは平和そのものだった。周りは、そわそわしていたがそれにも気づいていなかった。
ただ、王太子がアーロの家に来た理由を知って、そうだったのかと思うだけだった。
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