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第306話 要求

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通常、岩山に囲まれた国ヴルカーノに向かうには徒歩か馬しかない。街道には所々馬車が通れそうな広い道もあるにはあるが、大部分の道は人が横に並べば窮屈になるような狭い道ばかりなので馬車が使えないのだ。

そんな道を俺達グリトニルの使節団一行は少しずつ少しずつ進んでいる。本来なら一気に王都まで転移したところだが、以前レヴィアの背に乗って勝手に侵入した時の二の舞は避けたいので、今回は徒歩での入国となった。と言ってもある程度の距離までは転移で移動したので、全行程を徒歩で移動する訳ではないのだが…

「…疲れましたね。足が棒のようです…」
「クロウ様、そのセリフはもう十回ぐらい聞きましたよ…」
「行けども行けども見えるのは岩山ばかり。ヴルカーノの人々はよくこんな所で生活していられますね」

旅慣れた俺と違い、クロウ達文官は歩き出していくらもたたないうちに根を上げるようになった。その度に回復魔法で疲労を回復してやるが焼け石に水だ。一応夜は王都に戻ってゆっくり休むようにしていたが、結局到着するまで四日はかかってしまった。

ようやく王都に辿り着いた俺達は、普通のリザードマンとは毛色の違う…この場合は鱗色が違うと言うべきか、とにかく普通より強そうなリザードマン達の一行に出迎えられた。随分とタイミングよく出迎えてくれるなと思ったら、どうやら時折上空を通りかかるドラゴンライダーに監視されていたらしい。なら乗せて飛んでくれてもいいじゃないかと叫びたくなったが踏み止まった。以前グルーンが『ドラゴンライダーは誇り高いから、荷運び役には使えない』と言っていたのを思い出したからだ。

「こちらにどうぞ」

他の国に比べると無愛想としか言えない対応で、俺達使節団の一行は王城へと案内された。そして休む暇も無く謁見の間に案内される。謁見の間と言うわりには少し広い部屋程度の大きさだったが、立ち並ぶリザードマン達から受けるプレッシャーは他国の比では無い。そんなリザードマン達が並ぶ先、玉座には赤い鱗のリザードマンが玉座に腰かけていた。あれ?この国の王はてっきりグルーンだと思っていたんだが、違うんだろうか?

疑問に思う俺を他所に、クロウを先頭にした俺達使節団一行は玉座の前まで進むと膝をついた。

「ようこそグリトニルの方々。歓迎申し上げる。余はヴルカーノ国王ボルカンだ」
「お初にお目にかかります陛下。私はグリトニル聖王国の使節代表クロウ。そしてこちらに居りますのが…」

クロウによって順番に紹介されていく俺達。国王ボルカンは興味無さそうに聞いていたが、最後に紹介された俺の名前にピクリと反応を示した。

「ほう、そなたがあの勇者エストか…なるほど、そのレベルなら名を上げるのも理解できる。もっとも、実際に役に立つかどうかは別にしてだがな」

含みのある言い方にカチンと来た。思わず国王を見ると、彼は少しも臆することなく俺を静かに見据えていた。その目から悪意は感じられないが、かと言って親しみも感じない。まるで関わりたくない人物を見るかのような冷たい目だ。今までストレートに怒りや恨みをぶつけられた事はあったが、こんな目を向けられたのは初めてなので柄にもなく戸惑ってしまう。そんな俺達の不穏な空気を察したのか、半ば無理矢理と言った感じでクロウが割って入ってきた。

「と、ところで!今回の訪問に対して我がグリトニルから土産があるのです。まずはそれを受け取っていただきたく…」

頷くクロウの指示で使節団の面々が持参したバスケットの中から例の土モグラを取り出す。リザードマン達はそれを興味深げに見ていたが、相変わらずボルカンの反応は薄い。

「この魔物の主食は何と石!それも硬ければ硬いほど好物と言う変わった魔物なのです。現在我が国はこの魔物を大量に捕獲する準備がございまして、今回お願いしたい案件にご協力いただけるのなら、それらを無償で提供する用意があります!」

クロウの言葉に謁見の間が一気に騒めいた。自分達が見た事も聞いた事も無い魔物の存在。尚且つそいつの主食は自分達の国土をぐるりと囲っている岩山だと言うのだ。それが事実なら、すぐには無理でも将来的には肥沃な領土を手に入れられるかも知れない。その事実に彼等リザードマン達は興奮せずにいられなかった。だがそんな彼等も、ボルカンが腕を上げただけで一気に静まり返る。

「使節殿。大変魅力的な提案だが、その見返りには何を望む?我が国に要求する事とは何だ?」
「はい、ご説明申し上げます。実は…」

国を訪れるたびに何度となく説明してきた魔族の侵攻に関する計画をクロウが話すと、謁見の間は再び喧騒に包まれた。先日の指輪騒ぎからそれほど時間を置かずに魔族の侵攻があると聞かされては、屈強な彼等も平静ではいられまい。これにはさっきまで無表情だったボルカンも流石に冷静ではいられなかったらしく、その顔は苦々しく歪んでいた。

「…ですので、我が国としましては貴国ヴルカーノの協力を是非ともいただきたく参った次第なのです」
「話はよく解った。それに対する見返りについても納得できる。協力するのはやぶさかではないのだが、我が国からも一つ条件を出したい」

こちらの提案した条件だけでホイホイと乗ってくる訳が無いと思っていたが、やはり何かしらの要求を出してくるか。何を言って来るかと身構える俺達にチラリと視線を向けたボルカンは、予想もしない要求をつきつけてきた。

「我が国の要求は一つ。以前エスト殿と行動を共にしていたと言う黄金龍、あれを我が国に提供してもらいたい」

俺はその言葉に耳を疑った。
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