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第二章 夢と魔法の国
14.運命の?お茶会。now.1
しおりを挟む「本日はわたしのお茶会に参加してくれてありがとう。皆との親睦を深めるのを楽しみにしていた。皆も各々に親睦を深めてくれたら嬉しい。どうか楽しい時間を過ごしてくれ」
堂々としたサーフィス王太子殿下の挨拶で、お茶会が始まる。ちなみに、王家の家名はオルランドだ。
参加者は、伯爵家以上の10歳から12歳くらいまでの令息令嬢なので、全部で20人くらい。
お城の侍女たちがお茶にするかジュースにするかを聞いてくれて、それぞれに淹れたてを配ってくれた。マリーアと私はアールグレイの紅茶をお願いする。
にしても王子、さすがのイケメン。12歳だから、まだあどけなさが残るけど、金髪碧眼の、ザ・王子!!だ。マリーアも金髪にサファイア……青い目だけど、王子のそれの方が濃い青をしている。私にはかわいい王子様だけれど、これは10歳のリリーは憧れるわ。チラッと周りを見回すと、うっとりしている子たちは多い。
(だよねー。わかるわかる。でも、マリーは読めない顔してるなあ)
マリーアは笑顔固定はしているけれど、何だか雰囲気が微妙……な気がする。やっぱり緊張しているのかな?ちょっと注意しておこう。
「さすがサーフィス様ですわ。堂々とされていて、本日も素敵です」
侍女にお菓子をサーブして貰いながら得意気に話すのは、ピンクブロンドにパープルアイのグローリア=エクスシス公爵令嬢だ。私の一つ上。これは何ですか、さっそくの殿下は幼馴染みですアピールですか。この人、初めましての挨拶の後にマリーアを見て「ああ、この方が、例の」と、どっちとも取れる含みのある呟きをしたのよね。たぶん、敵。
でもどうぞー、殿下を争う気はありませんので!だ。
マリーアが競いたいなら、応援参戦しますけど。
「そうだね。フィスらしい振る舞いだ」
彼女の隣で殿下を愛称で呼ぶこの方は、ヒンター=アクシーズ公爵令息だ。この人は確か殿下と同い年だし従兄弟だし、幼馴染みで側近が決定している一人だろう。従兄弟だけあって、殿下と兄弟のように似ている。
アクシーズ公爵令息が黒目黒髪なので分かりやすいけど、色味が似ていたらパッと見ただけでは分からないほど似ていると思う。
そんな訳で、公爵令息にもチラチラと視線を感じる。うんうん、イケメンは万国共通の宝だよね!でも、私はイケメンは鑑賞用でいいなあ。この世界に来て(というか転生に気づいて)から、両親と姉をはじめ、顔面偏差値高めには慣れて来たけれど、それでもやはり一歩引いてしまうのは、前世の庶民の弊害か。
「マリーア嬢、リリアンナ嬢、イデアーレ嬢、今日のお菓子はどうだい?フィスに頼まれて、僕とマークスも一緒に考えたんだ。ねっ、マークス」
「……ああ、そう、だな」
マークス様は伯爵令息だ。この様子だと、彼も側近確定に見える。
ちなみに最初の挨拶の時に、ヒンター様に名前呼びでいいかと問われ、もちろん全員頷いた。そしてヒンター様からもそう言われている。
「何だ、マークス固いなあ。美少女に囲まれて緊張しているの?」
「そ……!ういう訳では……いや、確かに皆さんお綺麗ですが」
さすが小さくとも貴族令息。照れていようが何かあろうが、きちんと女性を褒めてくれる。すごいよね。……何故か少し焦りを感じるけれど。気のせいかしら。
「そうだよな?……で、ご令嬢方、どう?お菓子」
「とても美味しく戴いております。特にわたくし、このフィナンシェが好きですわ。リリー、リリアンナはどう?」
「わたくしも美味しく戴いてます!わたくしはこのチョコレートのクッキーが一番かしら」
「ふふっ、リリアンナはチョコレートが好きだものね」
再度のヒンター様の問いに、お姉さまから応える。
私たちの返事に、ヒンター様はうんうんと頷き、今度はイデアーレ嬢を見る。
「わ、わたくしは果物が好きなので……このイチゴのタルトが美味しいです。あっ、もちろん、全部美味しいです!」
公爵令息の視線を受けて、亜麻色の髪に茶目の、小動物っぽいイデアーレ嬢は緊張気味に応える。うん、かわいい。イデアーレ様も私の一つ上。
このテーブルは、グローリア様とヒンター様が公爵家、うちらが侯爵家、伯爵家とは言え、どうやら既に殿下と既知でありそうなマークス様がメンバーだ。伯爵家であるイデアーレ様は緊張しきりだろうな。彼女がお母様の言っていたかなり優秀な伯爵令嬢だけれど、優秀って言ったって緊張するよね、この面子じゃ。
……てか、わたくし思うのですが……側近候補は決まってそうじゃない?これ、ほぼ嫁探しなんじゃ……。……うん、深く考えるのはよそう。
その当の殿下は、私たちのテーブルから一番遠い所から挨拶回りをスタートさせたようだ。
「おっ、フィスがテーブルを回り始めたぞ。ご令嬢方、楽しみだね?」
「まあ?わたくしはお会いしようと思えばお会いできますけれど?」
「またまたー、グローリアだって二ヶ月くらい会ってないだろ?」
「うるさいですわよ、ヒンター兄さま!」
どうやらヒンター様はちょっとお調子者っぽい。そして兄さま呼び。公爵家同士でグローリア様と仲もいいのかな?ともかく公爵令息が率先して少し砕けてくれるのは、こちらとしてはありがたい。
「わた、わたくしは……その、皆様と同じテーブルに着かせていただいただけで、とても……。殿下なんて、畏れ多くて……」
イデアーレ嬢が蚊の鳴くような声で呟く。彼女は貴族令嬢にしては珍しく、あまり野心がないように見える。演技ならたいしたものだけれど。
「あら、それならば早々にリタイアしなさいな。本日が何の日か、理解していらっしゃるのでしょう?」
「こら、グローリア。何を言ってるんだ」
「わたくしは貴族令嬢としての覚悟でここにおりますわ。それがない方はいらっしゃらなくともよろしいかと」
「グローリア。今日は僕たち子どもの親睦会だ。勘違いするんじゃない」
ヒンター様の軽い叱責に、グローリア様も黙る。その様子に、イデアーレ嬢は今にも倒れそうな顔色になっている。まったくもー!公爵家って言っても、まだまだ子どもだなあ、仕方ないけどさっ。ここはおばちゃまリリアンナ、参戦。
「でも、イデアーレ様は謙遜していらっしゃるけれど、魔道具発明の天才……伝説のゲーニー様の再来と謳われているのでしょう?素晴らしいわ、わたくし、憧れます!わたくしなぞより、イデアーレ様の方がこの場所に相応しく思いますわ」
「えっ、リリアンナ様、そんな……!その評価も烏滸がましいと……魔道具作りは好きなのですけれど」
ゲーニー様は魔道具作りの父と言われている。私のお気に入りの、馬車の空間魔法の仕組みも、彼作なのだ。
ーーー初期版が。
「少しも烏滸がましくありませんわ!だって、わたくしのお気に入りの馬車の空間魔法……基本の広さから大小を変えられる仕組みを作られたのは、当時まだ5歳でいらしたイデアーレ様でしたのでしょう?」
「どこでそれを……!いえ、あの作ったと申しますか、子どものちょっとした思い付きを父に話してですね。完成させたのは父なんです」
イデアーレ様のお父様も、有名な魔道具師だ。
「いや、思い付きでも凄いことだ。さすが才女のイデアーレ嬢だな。リリアンナ嬢も、よくご存じだ」
ヒンター様が感心したように頷きながら話に入って来る。ちょっと、空気を変えたことを感謝してよね!分からないだろうけど……と思ったら、軽く黙礼された。気づいたのか、やるな、ヒンター様。まだ12歳なのに。
「リリアンナも何でも知っていて、とても賢いのですよ!わたくしの自慢の妹なのです!」
えっ、マリーアさん、何ですの?急な妹自慢!嬉しいけれど、お茶会の後にしてください!
「そうだろうな。それに、お二人は仲の良い姉妹で羨ましいよ。ドレスも揃いで、二人とも良く似合っているよ」
「ありがとうございます。すべてリリアンナのお陰なのです!このドレスもお互いの色をまとっておりますの」
「本当に仲良しだよね。ドレスもお似合いだし、姉妹でお互いの色と言うのも素敵です」
「マークス様もありがとうございます。本当に可愛い妹で」
「わたくしも羨ましいです。弟がおりますが、まだ小さくて……」
「まあ!イデアーレ様。小さな弟君もきっと可愛いのでしょうね」
うーん、さすがヒロインの笑顔。最高。私の話でデレてくれるとか……って、いかんいかん、そうじゃないぞ!妃、回避です!
「そ、そんなことございませんわ、マリーアお姉さま。お姉さまがお優しくて、素敵な方だからです」
私も慌てて謙遜し、マリーア推しを始める。姉妹でお互いを褒め合い、途中からイデアーレ様も巻き込み、終いにはツンツンのグローリア様も巻き込んだ。ちょっと敵認定はしているけれど、本人の希望通り王子の婚約者になってもらえれば助かるし、ちょっとつつけば本音も出るし、まだまだ可愛いわ。
「これは、フィスが回って来るのが楽しみだね……」
にこやかに私たちのやりとりを見ていたヒンター様の一人言と、その隣で苦笑気味のマークス様には気づかずに、思いもよらなかった女子会は結構盛り上がったのであった。
応援ありがとうございます!
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