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9.レインボーのカッパ
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――うん、帰ろう。
ずっとヒノモトにいたから、感覚がおかしくなっていたのかもしれない。現実世界でも、なにかができるんじゃないかって。なにかを変えられるんじゃないかって。
僕には、なんの力もない。そんなことは、三年前から痛いほどわかってたはずなのに。
「……あれ、なんか鳴ってる」
おしりのポケットに入れていたスマートフォンが、着信音を響かせながら小刻みに震えている。てっきりお母さんからの電話かと思ったら、ヒノモトからのプッシュ通知だった。画面の上のほうに、ひょっこりと表示される小さなメッセージウインドウが、アップデートのためのメンテナンスの終了と、麗春祭の期間限定ボス――火車の実装を知らせてくる。
火車。火の車の物怪。車。きっと僕は絶対に戦えない。そもそも、メイくんもコロもいないのなら、戦う機会さえ訪れない。ううん、ひょっとしたらヒノモトに行くこと自体が、もうないのかもしれない。
「……」
しばらく画面を見つめてから、大きなため息をつく。最後にもう一度だけ、ぐるりと辺りを見回してから、僕はカッパに背を向けて歩き出した。
来たときとは正反対の、ゆっくりとした重い足取りで、お母さんが待ってくれているはずの駐車場をめざす。ずっと上を向いていたせいで痛くなった首を、今度は石畳しか目に入らないくらいに下へと落としながら。
車が視界に映り込まないように。涙がにじんだ目を、誰にも見られないように。
ずっとヒノモトにいたから、感覚がおかしくなっていたのかもしれない。現実世界でも、なにかができるんじゃないかって。なにかを変えられるんじゃないかって。
僕には、なんの力もない。そんなことは、三年前から痛いほどわかってたはずなのに。
「……あれ、なんか鳴ってる」
おしりのポケットに入れていたスマートフォンが、着信音を響かせながら小刻みに震えている。てっきりお母さんからの電話かと思ったら、ヒノモトからのプッシュ通知だった。画面の上のほうに、ひょっこりと表示される小さなメッセージウインドウが、アップデートのためのメンテナンスの終了と、麗春祭の期間限定ボス――火車の実装を知らせてくる。
火車。火の車の物怪。車。きっと僕は絶対に戦えない。そもそも、メイくんもコロもいないのなら、戦う機会さえ訪れない。ううん、ひょっとしたらヒノモトに行くこと自体が、もうないのかもしれない。
「……」
しばらく画面を見つめてから、大きなため息をつく。最後にもう一度だけ、ぐるりと辺りを見回してから、僕はカッパに背を向けて歩き出した。
来たときとは正反対の、ゆっくりとした重い足取りで、お母さんが待ってくれているはずの駐車場をめざす。ずっと上を向いていたせいで痛くなった首を、今度は石畳しか目に入らないくらいに下へと落としながら。
車が視界に映り込まないように。涙がにじんだ目を、誰にも見られないように。
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