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8話 対面
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♢
残す獲物は、大本命一人。
だがそれも、狩りまでは時間の問題だと思えた。
父と夜伽の約束をしていたのなら、エライザ本人がここにくるのは間違いない。
さながら、縄張りにやってくる魚を身を潜めて待つ鮫の気分だ。食らうための用意は、周到に整えた。
「あなたたち、今日はもういいわ」
部屋の外を警備兵はこう告げる。
「エライザ様、しかしこれは任務で……」
「お父様の命令よ。それにあたしも、恥ずかしいところ見られたくないの」
わざと乱した寝巻きから、右肩だけをのぞかせる。
さも行為が激しくなったことが理由かのように見せかけ、人払いした。
これで、エライザがやってきて不審に思う者はいない。
あとは、扉が開く瞬間を待つだけだ。
そう決意して私は、廊下側の壁の横で息を顰めて張り付く。
切りかかるまでの流れを何度も頭で反復していたら、やがて、外から足音が聞こえはじめた。
基本的に父の寝屋に来れるのは、彼が許可したものだけ。
間違いない。エライザのものだ。
決着の時が、刻一刻と迫ろうとしている。
胸の中で毒蛇がのたうち回っているのかと思うくらい、心音がうるさく駆け上がっていった。
必ずや全てを白日の元に引っ張り出して、世間に晒してやる。これまで散々されてきた分、今度は私が踏み台にしてやる。
そんなふうに思い詰め、自分との戦いに必死になっていたからか。
もしくは、これが終われば全てが叶うという、ほんの少しの油断からか。
直前まで気づけなかった。
足音が、一つだけではないことに。
不思議なことに一度分かると、いくつも聞こえてくる。
不測の事態だった。
こうなる可能性そのものを考えなかったわけじゃない。
けれど動揺で身体の動きが鈍くなることまでは、考えが回っていなかった。
「やっぱり、来てたのね。この不細工女」
殴りかかるどころか、だった。
一歩も動けず、しゃがんで壁に張りついたままの姿勢で、見つかってしまった。
エライザは、私の周りを兵隊たちに囲ませる。鼠一匹抜け出せぬ包囲網だ。
万にひとつも、逃がしてくれるつもりはないらしい。
「……エライザ」
「風呂に入ってる間に、あたしが外に散歩に出ていただなんて、ありえないもの。
すぐ、誰のことだか分ったわ。あんたの変装だってね。昔あたしを真似て、よくやってたでしょ。
なんで、あんたがここにいるの。なにを企んでーー」
そこで、怒りの声が悲痛な叫びへと一変した。
無残にも縛られ気を失った父の姿に、彼女はやっと気づいたらしい。
残す獲物は、大本命一人。
だがそれも、狩りまでは時間の問題だと思えた。
父と夜伽の約束をしていたのなら、エライザ本人がここにくるのは間違いない。
さながら、縄張りにやってくる魚を身を潜めて待つ鮫の気分だ。食らうための用意は、周到に整えた。
「あなたたち、今日はもういいわ」
部屋の外を警備兵はこう告げる。
「エライザ様、しかしこれは任務で……」
「お父様の命令よ。それにあたしも、恥ずかしいところ見られたくないの」
わざと乱した寝巻きから、右肩だけをのぞかせる。
さも行為が激しくなったことが理由かのように見せかけ、人払いした。
これで、エライザがやってきて不審に思う者はいない。
あとは、扉が開く瞬間を待つだけだ。
そう決意して私は、廊下側の壁の横で息を顰めて張り付く。
切りかかるまでの流れを何度も頭で反復していたら、やがて、外から足音が聞こえはじめた。
基本的に父の寝屋に来れるのは、彼が許可したものだけ。
間違いない。エライザのものだ。
決着の時が、刻一刻と迫ろうとしている。
胸の中で毒蛇がのたうち回っているのかと思うくらい、心音がうるさく駆け上がっていった。
必ずや全てを白日の元に引っ張り出して、世間に晒してやる。これまで散々されてきた分、今度は私が踏み台にしてやる。
そんなふうに思い詰め、自分との戦いに必死になっていたからか。
もしくは、これが終われば全てが叶うという、ほんの少しの油断からか。
直前まで気づけなかった。
足音が、一つだけではないことに。
不思議なことに一度分かると、いくつも聞こえてくる。
不測の事態だった。
こうなる可能性そのものを考えなかったわけじゃない。
けれど動揺で身体の動きが鈍くなることまでは、考えが回っていなかった。
「やっぱり、来てたのね。この不細工女」
殴りかかるどころか、だった。
一歩も動けず、しゃがんで壁に張りついたままの姿勢で、見つかってしまった。
エライザは、私の周りを兵隊たちに囲ませる。鼠一匹抜け出せぬ包囲網だ。
万にひとつも、逃がしてくれるつもりはないらしい。
「……エライザ」
「風呂に入ってる間に、あたしが外に散歩に出ていただなんて、ありえないもの。
すぐ、誰のことだか分ったわ。あんたの変装だってね。昔あたしを真似て、よくやってたでしょ。
なんで、あんたがここにいるの。なにを企んでーー」
そこで、怒りの声が悲痛な叫びへと一変した。
無残にも縛られ気を失った父の姿に、彼女はやっと気づいたらしい。
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