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10話 君は可愛い
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♢
エライザのこめかみには、一筋の汗が浮かんでいた。
ぎりっと歯軋りを立てる彼女は、冷静さを失っているようだ。
彼女は自分の顔を、両手覆う。
「……まぁちょうどいいわ。いい遊びを思いついたかも」
やがて指の隙間から、にやりと吊り上がった口角が覗いた。
「槍隊、一度下がりなさい。邪魔したら、処刑しますよ」
白目をひん剥いて、ふふ、と笑う。
一体なにをするつもりだろうか。
我が妹ながら、計り知れない。可愛い顔の裏で、残虐性や暴虐性を魔女の顔でひたすらそれらを煮詰めている。
それがエライザだ。
「無事か、無事であってくれ。バレッタ!」
そうとも知らぬだろうアルフレッドが、部屋へと飛び込んでくる。
あろうことか、単身。周りに護衛の者はいない。
なんで、どうして。
その疑問が口をつく前に、
「あぁん、アルフレッド! ひどい。ひどいのよ、エライザったら! 明日あなたと結婚する私が羨ましくなったのでしょうね。私を殺そうとしたの!」
耳をつんと刺したのは、こんな声だった。
まるで私の台詞。でも、私ではない。私はただただ言葉を失い、息を呑む。
エライザだ。
そこで、はっと思い出す。
今の私は、エライザと見分けがつかないのだった。
彼女が思いついた、いい遊びとはこれだったようだ。
エライザは、アルフレッドの足元に崩れ落ちる。彼に縋るようにして、そのお腹あたりに頭を埋める。
その途中、嘲けるような笑みをふっとこぼしたのを私は見逃さなかった。
「アルフレッド、違う。そいつは、そいつが、エライザよ」
「なにを言ってるの。あれがエライザよ。さぁ早く殺してください。あんなのを野放しにしていては、危険です」
「アルフレッド、私が バレッタよ。ほら二人でコテージで踊った記憶だって、私しか」
「盗み見してたのね、この子。なんて卑しい妹なの! あぁこわいこわい。早く処刑してよ」
自分で聞いていても分からなくなるほど、声も私のものに似せてきていた。
そして姿形は、ほとんど同じ。見分けがつかない可能性もある。
「アルフレッド、違う。私が。だってほら、私なんて本当は不細工で……」
自分の言葉が、ぐさりと胸に突き刺さる。
他人に何度言われて、もう慣れっこだと思っていたのに。自分で認めるのがこうも辛く、悲しいことだとは思わなかった。
涙が出そうになりながら、私は顔をこすりにかかる。
その手首が優しく掴まれていた。
アルフレッドは腰を落として、私に顔を寄せる。
頬を親指でちょっと撫ぜて、やっぱり可愛いな、なんて呟く。
「もうやめるんだ、バレッタ。君は可愛いよ。どんな化粧をしてようが、してなかろうが、君は君だ」
「…………へ。なんで、私だって」
「わかるものはわかるさ。今その話はやめよう。すぐに逃げるよ、バレッタ。あとはうちの兵に任せてくれ」
エライザのこめかみには、一筋の汗が浮かんでいた。
ぎりっと歯軋りを立てる彼女は、冷静さを失っているようだ。
彼女は自分の顔を、両手覆う。
「……まぁちょうどいいわ。いい遊びを思いついたかも」
やがて指の隙間から、にやりと吊り上がった口角が覗いた。
「槍隊、一度下がりなさい。邪魔したら、処刑しますよ」
白目をひん剥いて、ふふ、と笑う。
一体なにをするつもりだろうか。
我が妹ながら、計り知れない。可愛い顔の裏で、残虐性や暴虐性を魔女の顔でひたすらそれらを煮詰めている。
それがエライザだ。
「無事か、無事であってくれ。バレッタ!」
そうとも知らぬだろうアルフレッドが、部屋へと飛び込んでくる。
あろうことか、単身。周りに護衛の者はいない。
なんで、どうして。
その疑問が口をつく前に、
「あぁん、アルフレッド! ひどい。ひどいのよ、エライザったら! 明日あなたと結婚する私が羨ましくなったのでしょうね。私を殺そうとしたの!」
耳をつんと刺したのは、こんな声だった。
まるで私の台詞。でも、私ではない。私はただただ言葉を失い、息を呑む。
エライザだ。
そこで、はっと思い出す。
今の私は、エライザと見分けがつかないのだった。
彼女が思いついた、いい遊びとはこれだったようだ。
エライザは、アルフレッドの足元に崩れ落ちる。彼に縋るようにして、そのお腹あたりに頭を埋める。
その途中、嘲けるような笑みをふっとこぼしたのを私は見逃さなかった。
「アルフレッド、違う。そいつは、そいつが、エライザよ」
「なにを言ってるの。あれがエライザよ。さぁ早く殺してください。あんなのを野放しにしていては、危険です」
「アルフレッド、私が バレッタよ。ほら二人でコテージで踊った記憶だって、私しか」
「盗み見してたのね、この子。なんて卑しい妹なの! あぁこわいこわい。早く処刑してよ」
自分で聞いていても分からなくなるほど、声も私のものに似せてきていた。
そして姿形は、ほとんど同じ。見分けがつかない可能性もある。
「アルフレッド、違う。私が。だってほら、私なんて本当は不細工で……」
自分の言葉が、ぐさりと胸に突き刺さる。
他人に何度言われて、もう慣れっこだと思っていたのに。自分で認めるのがこうも辛く、悲しいことだとは思わなかった。
涙が出そうになりながら、私は顔をこすりにかかる。
その手首が優しく掴まれていた。
アルフレッドは腰を落として、私に顔を寄せる。
頬を親指でちょっと撫ぜて、やっぱり可愛いな、なんて呟く。
「もうやめるんだ、バレッタ。君は可愛いよ。どんな化粧をしてようが、してなかろうが、君は君だ」
「…………へ。なんで、私だって」
「わかるものはわかるさ。今その話はやめよう。すぐに逃げるよ、バレッタ。あとはうちの兵に任せてくれ」
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