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第三十八話

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 孤児院での一件を終えて、アリシアたちはヴェアトリーの天幕へと戻る。
 地図を机の上に広げて、盤上遊技の駒を並べるレオンは、アリシアの顔を見るなり、挨拶よりも先に、置いてある駒を手に取って……投げつけてきた。

「アリシア。軍議の前に一つ、言っておくぜ」

 レオンが投げつけてきた駒をアリシアは右手で受け取る。
 その駒は……白い王の駒だった。

「今回の戦を決めるのは、お前さんだ」

 つまり、本隊を指揮するのはアリシア……今回もまた前線に立つことになるのか。
 レオンは残った駒を地図上で動かしていく。

「お前さんの父上……ヴェアトリー候には最後の陽動作戦をお願いしている」
「またフスタヴィ砦に攻めるのか」
「ああ。少数で一気に攻め落とし、その隙に本隊が王都を落とす。これで戦は終了だ」

 本来であれば鉄壁であるフスタヴィ砦には、ほんの僅かな兵士の駒が集められていた。
 そこに騎馬の駒が先頭に置かれる。
 完全に孤立した部隊はあまりにも小さくて頼りなく感じてしまう。

「カルデシア辺境伯が持っている内部の地図情報、それからフォルカードの私兵部隊、それらを全力でぶつけて意識がそちらに向いている間、足下がお留守になっている王都を攻める」

 孤立した部隊とは別の駒が大量に配置されて、レオンは王都の上に大量の駒を置いた。
 だが、そう上手くいくものか。
 アリシアが駒を見つめる中、レオンは次々と違う色の駒をフスタヴィ砦の上に置いていく。

「斥候部隊からの情報でな。王国軍は大多数の部隊を砦に集めているって話だ」
「文字通り、『お留守』という奴か」

 砦に無駄な戦力を割いて、王都内の守りが手薄になるなら、この機会を活かすしかない。
 レオンは静かに地図から顔を挙げて、真剣な顔をする。

「だが、お前さんに言っておく」

 レオンは歩兵の駒を見せ付けてくる。
 アリシアに投げた駒と同じ色の、白い駒を。

「例え、俺たちが死ぬことになっても、お前さんは前に進め」

 急にそんなこと言われて、アリシアはレオンの顔を伺った。
 冗談を言っているようには見えない顔つき。

「急になんの話だ」
「いや。ただ例え、何があっても、お前さんは前だけ見てまっすぐに進み続けろ。光のようにな」

 それは、一つの予感に対する忠告のようにも思えた。
 アリシアは静かに腕を組み、彼の話を聞く。

「…………」
「お前さんが始めたケンカだ。そうそうやめるなんて言わねェだろうがよ」
「やめるつもりなど、毛頭ない」

 レオンに言われなくとも、アリシアはこの戦を終わらせるつもりはない。
 何があっても、この国を手に入れる。
 目的のためならば、手段を選ばない。

「さて、行こうぜ。出陣だ」
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