悪魔と契約した僕は伝説の『ブルオーガ』を右手に宿し、やがて世界最強。

葉月

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第15話 オークロード後編

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 リリスが下ろしていた腰を上げて3人の元に歩み寄ると、アイリス、オルマ、クラリスはそれぞれの得物を掲げて気合十分のご様子だ。

「この俺を前にしても逃げないことは褒めてやろう。だが、それは無謀だ、身の程知らずの人間どもよ」
「無謀かどうかは試してみるとよい」
「神のご加護を……」
「僕、わくわくして来たよ」
「ハァ……ハァ。ドSな豚さんをいじめるなんて考えただけで……昂ぶってしまいますわ」

 いつかは嫌でも戦うことになるジャミコとの戦闘を考えて、ここで3人の実力を知っておくのも悪くないな。

「では、まずはリリスたち4人の力を見せてもらうとしますかね」

 僕がそう言うと、3人は不敵な微笑みを浮かべて駆け出した。

 オルマは正面から巨大ハンマーを引きずりながらオークロードへ猪突猛進。
 そのオルマの背後に重なるように一列になってアイリスとクラリスもオークロードに突っ込んでいく。

 オークロードの手前でオルマが勢いよく地を蹴り上げてハンマーを振りかぶると、アイリスとクラリスが左右に分かれて側面から攻撃を仕掛けた。

 オークロードの頭上から鈍い重低音が響き渡ると、両サイドからは風を切り裂く凄まじい音が響き渡る。
 3人の息の合った見事な連携が炸裂し、オークロードの足元が微かにフラついた。

 すると、ドス黒く禍々しい闇の球がオークロードの顔面を捉える。

 ん? あれはなんだ?
 振り返り後方のリリスに視線を送ると、リリスは3人を援護するために両手のひらに小さな魔法陣を形成し、闇のような球を作り上げてオークロードへと放っていた。

「リリス、それは何ですか?」
「これはただのデスボールじゃ」
「デスボール?」
「悪魔族特有のマナを練り上げて凝縮した、謂わば魔力の塊まりじゃな」

 なるほど。
 さすが上位悪魔だけのことはあるな。

 見事な連携でオークロードを翻弄しながらダメージを与え続けるリリスたちだが、戦闘経験豊富なオルマの動きにアイリスとクラリスが徐々についていけなくなってきている。

 オークロードは腐っても豚の王様。
 そのアイリスとクラリスの僅かな隙を見落としはしない。

 防戦一方だったオークロードはアイリスの頭上から王の一撃とも呼べる強烈な拳を振り抜いた。

 不味い、そう思ったその時――

 半透明の四角い箱がアイリスの体を囲うように形成され、オークロードの振り抜かれた拳を寸前で食い止めた。

「結合結界……『結』ッ! こうなったらワタシもやってやるね。防御はワタシに任せてガンガン突っ込むよろしい」

 ランランは素早く印を結び、オークロードの一撃を防いでしまうほど強固な結界を瞬時に築き上げていく。
 それだけじゃない。

 3人の動きとオークロードの機微を瞬時に見極めた上で、的確な場所に後方から結界を作り上げているんだ。
 それを見ただけでもランランが如何に優れた後衛職、タンカーかがわかる。

 本来タンカーは前衛職だ。
 しかし、前衛職のタンカーには欠点があると僕は考えていた。

 それは前衛職であるアタッカーの間合いにタンカーが入ることでどうしても邪魔になってしまうということだ。
 さらにタンカーは仲間を守るために体を張り続けるポジション、故に戦闘中に体力が尽きてその役割を十分にこなせなくなる場合が多々ある。

 だが、ランランのような一流の結界師なら前衛に出てアタッカーの邪魔になることはない。
 理想的なタンカーだと言える。

 正直レインみたいなへっぽこパーティーには勿体無すぎる逸材だ。

 アイリス、オルマ、クラリスの3人が前衛のアタッカーを務め、後方からはリリスの魔法デスボールによる攻撃、そこにランランの防御結界が加われば並の相手では手も足も出ないだろう。

 今回の相手はオークロード、並の相手ではないから手こずってはいるが、上出来だ。

 これから経験を積んでいき、個々の力量を上げていけば何れはジャミコとも……僅かではあるが希望は見えた。

 しかし、これ以上戦闘を長引かせるのは危険だな。
 と言うのも、長時間に渡る戦闘で洞窟内が崩れかけてきている。

 頭上からは土くれが落ち、このままだとここが崩れ落ちるのも時間の問題だ。
 オークの巣穴で生き埋めになるなんて死んでもゴメンだね。

 なので、僕は3人に指示を出す。

「3人とも一度下がって下さい。あとは僕がやりますから」
「私としたことがマスターに手を煩わせるなのど……怠惰です」
「僕、ようやく勘が戻ってきたんだけどな」
「わたくしも……もっと豚さんをいじめたかったですわ。残念です」
「みんなよくやってくれていますよ。ただ、このままだとここが持ちません。さっさと終わらせましょう」

 伝えると、僕は透かさず右腕に《ブルーオーガ》を憑依定着させた。
 アイリス、オルマ、クラリスの3人がリリスの元まで退避したことを確認し、僕はゆっくりとオークロードの元まで歩み寄る。

「圧倒的スケベ小僧! ナニを考えてるアルか!? オマエ死にたいのか……ってそのグロデスクな腕はナニね」
「大丈夫じゃ問題ない。黙って見ておれ!」

 僕のことを心配してくれているのか、ランランは戸惑いの声を響かせているが、リリスが大丈夫だと言うと、半信半疑で目を細めた。

「この俺とサシでやり合うだと? 人間如きが図に乗るなッ!」
「そうですか。でもそろそろこの場が持ちそうにないので……終わらせたいんですよ」
「舐めるなぁぁあああああああっ! …………えっ!?」
「どどど、どうなってるアルか!?」

 オークロードは驚愕に目を見開き、鼻水を垂らしている。
 そんな光景を見て後方から混乱するランランの声も聞こえてきた。

 まぁその反応は正しいかな。
 なぜならオークロードの振り抜いた拳を、僕は片手でいとも容易く受け止めたのだ。

「バッ、バカな!? ありえん! 人間に……それもこんな小さな人間に俺の一撃を止めるなどッ!」
「オークロードよ、お主は阿呆か? そやつの腕を見ればわかるじゃろ? お主が対峙しておるのは人間などではない。伝説の青鬼……《ブルーオーガ》じゃ」
「ブルーオーガ……だと!?」
「ただの《ブルーオーガ》じゃありませんよ。《ブルーオーガ》は歴史上4体存在していましたが、僕が喚び出しているのは初代……闘神と恐れられた最強の青鬼ブルーオーガです」
「……ありえんっ!」

 信じられない、何かの間違いだと言うように困惑するオークロード。

「ん~、今の僕に勝てる相手が居るとすれば、伝説の〝ホブゴブリン〟くらいですね」
「〝ホブゴブリン〟だと!? この俺がホブゴブリン以下だと侮辱するかッ!!」

 僕の言う〝ホブゴブリン〟はホブゴブリンでも、ジャミコなのだが……まぁいいか。

 オークロードの腕を払い除けて、僕は土手っ腹に拳を叩き込んでやる。

「ブギャァァアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 圧倒的膂力から繰り出せれた一撃はオークロードの体を引き裂き、衝撃波が後方の壁を木っ端微塵に粉砕する。

 それと同時に真っ二つに分かれたオークロードが完全に沈黙した。

 壁が破壊されたお陰で、その向こう側に捕らえられていた村のお姉さんたちを発見することもできた。

 お姉さんたちは裸で身を寄せ合い、ブルブルと震えている。
 その表情は恐怖に歪んでいた。

「もう大丈夫ですよ。この男の中の男である僕が助けにきましたからね」

 もう何も心配ないと伝えると、お姉さんたちは真っ二つに引き裂かれたオークロードを見やり、一瞬ギョッとしたのだが、僕の愛らしい笑顔を見た途端駆け出してきた。

 裸のお姉さんたちが僕の腰にしがみつきながら嗚咽を上げている。
 僕は肉体憑依を解き、そんなお姉さんたちの頭をいい子いい子してあげた。

「バッ、バケモノね……圧倒的バケモノ小僧ね。なんでこんバケモノがEランクなのか意味不明ね」
「どうやら一件落着のようじゃな。レインとの賭けもお前さまの勝ちのようじゃ」
「当然ですよ。あんなへなちょこに負けたら僕はショック死しているところです」
「さすがはマスターです。まさか神をその手に宿しているなんて……ああーこの出会いは運命だったのですね」
「本当に凄いよ! 僕、思わず濡れちゃった」
「私は昨夜……これほどまでに強い殿方をいじめていたのですね。思い返しただけで興奮致しますわ」

 ランランは僕を化物でも見るような目で見やり、呆然と立ち尽くしていた。
 リリス、アイリス、オルマにクラリスの4人は僕の元に駆け寄り頭をなでなでしてくれている。

「さて、それじゃあ村に凱旋と行きますよ」
「そうじゃな、妾も早う風呂に入りたいわ」
「それに、レインの奴も早く手当てしてあげた方が良さそうですしね」

 僕たちは今にも崩れそうなオークの巣穴から足早に外へと飛び出した。
 レインは双子姉妹に両手両足を持たれ、無様に運ばれている。
 本当に情けない。ああはなりたくないな。

 一方僕はというと、裸のお姉さんを20数名引き連れていたお陰で、終始テントを張り続けていた。
 でも、恥ずかしくなんてない。
 僕のは男の中の男ですからね。


 お姉さんたちも僕を見ては、王子様でも見るような目で蕩けてた。
 これはしばらく村に滞在かな?
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