悪魔と契約した僕は伝説の『ブルオーガ』を右手に宿し、やがて世界最強。

葉月

文字の大きさ
23 / 25

第23話 クッキングであ~~る!

しおりを挟む
 あれから数時間――やはりダンジョンは一筋縄ではいかない。

 別に魔物が強いからという訳ではない。
 僕にとって一番厄介なのは……下層に行けば行くほどダンジョンが広大になるということだ。

 しかも、ただ単に広くなるだけではなく、ダンジョンとは迷宮。
 つまり下に行くための階段を探すのが一苦労なんだ!

「もう疲れたアルよ」
「同感じゃ。こう何時間も似たような場所をぐるぐると歩かされていては、さすがの妾もくたびれてしまう」

 もう歩けないと岩壁を背もたれにして、2人仲良く座り込んでしまった。
 同時に妙な音が聞こえてくる。

 ――グゥゥウウウッ!

 リリスとランランは恥ずかしそうにお腹を摩り、ガクッとこうべを垂れた。

 まぁ、無理もない。
 昼にサンドイッチを食べたっきり何も口にしていないんだ。
 正直僕もお腹ペコペコだった。

「そういえば……ワタシたち急いでダンジョンに来たから糧食を持参してないね」
「ということは……妾たちは飲まず食わずでダンジョンに潜るのか?」
「そんなの無理ね。ワタシ干からびてミイラになるよ」
「右に同じくじゃ」
「「ハァ~~~~ッ」」

 情けなく長い溜息を吐き出す2人を一瞥し、僕は先ほど倒したハイオークの元まで歩き、それを引きずって2人の前に置いた。

「なんじゃ? そんな豚の死骸なんぞ持ってきて……臭いから向こうへ持っていくのじゃ」
「本当にひどい臭いね……タタリ悪戯良くないね!」
「違いますよ。お腹が空いていると思ってわざわざ運んできたんですよ」
「「ッ!?」」
「冗談ではないわッ!? 妾にこんなに臭い豚を食えと言うんじゃなかろうなッ! 絶対食わんぞッ! そんモノ食うくらいじゃったら飢えて死んだ方がまだマシじゃ!」
「リリスの言う通りね! 好き嫌いのないワタシでも、魔物なんて絶対に食わないね! ウ○チの臭いがするから早くあっちに持ってくよろしいッ!」

 2人にハイオークを食べようと提案すると、先ほどまで一歩も動けないと嘆いていた癖に、タッと立ち上がって物凄い剣幕で抗議してくる。

 もちろん僕だってこんな臭いハイオークの肉をそのまま食べようなんて思わない。
 だけど、2人は僕がこのまま食べると勘違いしたのだろう。

 とにかくお腹が空いている2人は機嫌が悪いし、美味しいものでもご馳走して機嫌を直してもらおう。
 それに腹が減っては魔物とも満足に戦えない。

 僕は腰袋から小さなカプセルを取り出して、後方にポイッと投げた。
 するとあら不思議。

 立ち込める白煙の中からキッチンと調味料を保管する棚や冷蔵庫が一瞬で殺伐としたダンジョンに設置される。

 その光景を目の当たりにした2人は興味津々と言った様子で見ている。

「これは……何アルか!?」
「まさか……マジックアイテム収納カプセル!? お前さまはこんな便利なモノを所持しておったのか!」
「ポエマー族はみんな専用キッチンを所持しているんですよ」

 リリスが驚くのも無理はないかな?
 マジックアイテム収納カプセルはとても高価なモノなんだ。

 だけど僕たちポエマー族は数百年かけて収納カプセルなどの便利アイテムを集め、代々受け継いで来た。

 その中でもポエマー族の必需品がこのキッチンセットだ。

 僕たちポエマー族は天幕生活をしているから住居にキッチンがない。
 それにポエマー族が暮らす森はとても広大で、時には数日かけて狩りに出かけることもある。

 そんな時、料理をするためのキッチンがないととても不便なので、ポエマー族は皆専用キッチンを収納カプセルに収めて持ち運んでいる。

「しかし……お前さまは見かけによらず料理ができるのか?」
「料理のできる男はとても需要があるね!」
「じゃが待つのじゃッ! キッチンがあっても肝心の食材がないではないか?」
「食材ならここに、新鮮な豚があるじゃないですか!」
「アイヤーーー! やっぱりワタシパスね! 今の発言は前言撤回ね。料理ができても糞料理は勘弁ね」
「同感じゃな」

 本当に2人は何もわかっていないな。
 僕は〝超〟がつくほどの一流シャーマンなのに……。

 僕は2人に背を向けて、豚をキッチンまで運ぶとあるお方を黄泉の国より喚び出した。

「出番ですよ。ムッシュ《パスタ・マリゲリ~タ》さん」

 僕は黄泉の国よりパスタ・マリゲリ~タさんというシェフを喚び出し、人格憑依という技を使用した。

 死霊憑依の技の一つ、人格憑依は文字通り喚び出した死霊に体を貸し与える能力だ。

 パスタ・マルゲリ~タさんを人格憑依させたことで、僕の頭には長くて立派な料理長帽子が現れる。

「ペペロンチ~~~~~ノッ! 久々の料理に腕がな~~~~るであります!」
「なッ、なんじゃ!? 急に変な口調になりおって」
「腹が空き過ぎてどうかしてしまったね」
「ハイオークを食べると吐かすくらいじゃからの……」
「可哀想なタタリね」

 好き勝手言っている2人のことは放って置いて、僕は頭の中でパスタ・マルゲリ~タさんと会話をする。

(シェフ! 本日の食材は新鮮なハイオークなんですが、美味しく頂けますか?)
「もちろんであ~~~るッ! ハイオ~~クはとてもトレビア~~~ンな食材であ~~る!)
(お腹ペコペコなので、早速調理をお願いしますですよ!)
(ちゃちゃっと作るであ~~~~るッ!)

 シェフは心良く調理を引き受けてくれると、手際よくハイオークを捌き、棚から幾つかの香辛料と、冷蔵庫に保管してあった食材を取り出した。

(シェフ、ところでそれは何をしているんですか?)
(ハイオ~~クの肉は臭みが強くてそのままではとても食べれたものではあ~~りません。そこで一度調理しやすいように適度な大きさに切り分けてから、臭みの原因を取り除くので~~す)
(なるほどです!)
(臭みの原因は血抜きが不十分だからで~~す。血抜きの仕方は他の肉と同じで、水、牛乳、ヨーグルト、塩、麹などに通常は30分から一晩浸けて置きま~~す。しか~~し、それでは時間がかかってしまいま~~す。そこで私の能力クッキングで時間を短縮しま~~す)

 パスタ・マルゲリ~タさんの能力、クッキングは下ごしらえにかかる調理時間を短縮してしまう効果がある。
 人格憑依しているため、シェフの力も僕の体を通して使うことが可能なんだ。

 本来魔物は家畜ではないので食べることはない。
 だが、このようなダンジョンでは魔物を食すことが多々ある。

 なぜならダンジョンの深さや広さは誰にもわからない。
 そんな誰にもわからない未知のダンジョンに潜るとき、保存食などを持参していても尽きてしまう。

 じゃあそんなとき、どうやって飢えを凌げばいいのか、答えは簡単だ。
 魔物を喰らえばいい。

 だけど魔物ってのは大半がひどく臭い上に硬くて不味い。
 とてもじゃないけど食べれたものではない。

 なので有名パーティーには魔物を専門に調理する、戦うコックさんが同行していることが多い。

 僕が黄泉の国から喚び出した、パスタ・マルゲリ~タシェフもかつては勇者パーティーに所属していた。

 シェフが考案した魔物料理の多くが、現在の魔物を専門に調理するコックさんたちの基礎になっている。

 つまり、パスタ・マルゲリ~タさんは伝説のシェフである。

 では、そんな凄い人をどうして僕が喚び出せるのかって?
 それは、パスタ・マルゲリ~タシェフの料理人としての更なる探求心が、この世に未練を残しているからだ。

 さらに、シェフはオーク種の肉を柔らかくする方法も教えてくれた。

 オーク肉を柔らかくするコツ。

 オーク肉は取ってすぐは硬いので、本来は少なくとも2~3日置いてから食べるのが吉。
 そうすると肉質が柔らかくなって食べごろに……。

 また、通常のオークとは違い、ハイオークは肉の脂肪分が少ないので、焼き過ぎると固くなってしまう。

 焼いて食べるときは焼き過ぎないのがコツらしい。

 血抜き作業に牛乳を使用すると、さらに肉質がやわらかくなり一石二鳥とのこと。

 煮込むときは一度表面を焼いてから煮込むとさらに柔らかく、美味しい煮込み料理ができる。
 焼かずに煮込むときにはかなり長時間煮る必要があるが、そこはシェフの能力クッキングがあるから問題ない。

 通常は三時間以上煮込めば大変柔らかくなるとのこと。

 そうこうしているうちに、あっと言う間に美味しそうな匂いがダンジョン内に漂ってくる。

 その匂いに釣られて、先ほどまで絶対に食べないと頑なに拒んでいたリリスとランランも近づいて来た。

「なッ、なんじゃこの美味そうな料理はッ!?」
「信じられないね! 恐ろしく不味そうだったハイオークが……高級レストランのメニューに早変わりね!」

 料理を見てヨダレを流す2人を傍目に、僕はシェフに別れを告げる。

(ありがとうです、シェフ!)
(礼などいいので~~す。それよりもまた、料理を作らせて欲しいのであ~~るッ)
(もちろんですよ。その時は是非、お願いするですよ)

 僕はシェフにお礼言い、シェフは久々の料理に満足して黄泉の国へと還って行った。

「さてと、食べるとしますかね。本当はみんなと一緒に食べた方が美味しいんですが……僕一人で頂くとするですよ」
「こッ、こんなに沢山あっては……お前さま一人では食べきれんじゃろ?」
「リ、リリスの言う通りね!」

 目の前に並べられたハイオークのソテーやテールスープに喉を鳴らす2人は、全然素直じゃない。

「別に無理して食べなくてもいいですよ。余ったら冷蔵庫で保存しますから。そうすれば明日も食べれますからね。いただきまーーーす!!」

 ――グゥゥウウッ!

 なんて卑しい音を響かせるんだ。
 それにそんなに見つめられたら食べにくいじゃないか!

「素直じゃない子には上げないですよ!」
「「…………」」
「妾が悪かった……腹が減りすぎて死にそうなんじゃ」
「ワタシも糞とか言ったこと謝るよ」

 仕方ない、頭を下げる2人にもご馳走してあげますか。
 それに食事はみんなで摂った方が美味しいしね。

「では、3人で仲良く食べましょう!」
「お前さまは本当にいい子じゃな!」
「タタリ大好きね!」

 僕たちは3人で美味しくハイオークさんを頂いた。
 そして、食事を済ませてダンジョン内で寛いでいると……。

「ワタシちょっとトイレね」
「あっ、妾もトイレじゃ」
「女同士の連れションね」
「下品じゃぞ、ランラン」

 と、楽しそうな2人に、僕は無言でコップを差し出した。

「2人の持ち運び簡易おトイレですよ」
「「……………………ッ!?」」

 悲しそうな顔でコップを握り締めるリリスとランラン。
 どうせ野ションするんだから、コップでするのも同じだと思うんだけどな?


 こうしてダンジョンでの、僕たちの長い一日が終を告げた。
 それは同時に絶世の美女を求める、長い冒険の幕開けでもあったんだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?

猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」 「え?なんて?」 私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。 彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。 私が聖女であることが、どれほど重要なことか。 聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。 ―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。 前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

処理中です...