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そっけない彼女
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皇と立ち話をしたせいで、チャイムが鳴り終えるまでに、教室に入ることはできなかった。
(……やべぇな)
高校入学して以来、欠席はおろか、遅刻なんかした事なかったのに。
恐る恐る教室に近づいたが、HR中は静かな教室が、何やら騒がしい。
そして、音を立てずにそっとドアを開けて――
(なるほど……)
教壇の方に目をやったが、担任の三原先生の姿がまだない。
いつもは必ずHRでは10分前には教室に居るのに、珍しい。
おかげで、皆席に座らずに、自由に立ち上がって周りとぺちゃくちゃ話に盛り上がっている。
(ラッキー)
何はともあれ、助かった。
心の中でガッツポーズを決めて、窓際の一番後ろにある俺の席に気配を消して、スッと座った。
誰も俺が今教室に入った事なんか、気にも留めてないだろうし、バレなきゃ問題ねぇ。
勿論、後ろめたい気持ちもあるけど……い、良いだろ!
別に一回ぐらい嘘ついたって!
――と、必死に俺が自己肯定しているその時だった。
前の席で、誰とも話すことなく、ヘッドホンをして、一人机に向かい、カリカリとペンを走らせ、自習をしていた西条が、パタンと参考書を閉じた。
そして、ヘッドホンを耳から外し、身体ごと俺の方に向き直って、そっけない声で、
「おはよ。ミツキ」
「お、おぅ」
肩先までかかった長くて艶がある黒髪。
目元に泣きぼくろがある、シャープな釣り目。
シュッと鼻筋が通っている彼女は、可愛いという印象を与える皇とは真逆で、まさに「美人」という言葉が誰よりも似合っている。
だが、妙だな……。
彼女に告白して以来、気まずくなってお互いに声を掛けることはなくなったのに、どういう風の吹き回しだ?
俺が頭の上に?マークを浮かべていると、西城はペン回ししながら、
「遅刻、したわね、ミツキ? 勿論、後で先生に自主的に報告するわよね?」
「は、はぁ? し、してねぇよ」
慌てて否定したが、西城は呆れた声で、自分の目を指さして、
「嘘。私、見てたわ。チャイムが鳴った後に教室に入ってきたでしょ? 何でそんな下手な嘘つくの?」
「……」
何だよ、勉強してたんじゃないのかよ。
視線を下に逸らして、黙っていると
「ほ、う、こ、く! 分かったわよね? 返事は?」
「……へいへい」
昔からだが、正義感が強い西条を丸め込むなんて俺には出来やしない。
遅刻した事、素直に報告するか。トホホ…。
丁度、先生も「すまん、すまん」と謝りながら教室に入ってきた。
俺は、遅刻の報告をしに行こうと仕方なく立ち上がり、教壇に向かったが、その背後で、
「せこい事なんかしないでよね? そういうのミツキがするのダサいんだから」
西条がそう溢すのが聞こえた。
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