森で出会った狼に懐かれたので一緒に暮らしていたら実は獣人だったらしい〜俺のハッピーもふもふライフ〜

実琴

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本編

4.せめて足は拭かせてくれ

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意図せぬ餌付けが功を奏したのか、狼は俺に撫でられても大人しかった。それどころかお座りの体勢から伏せの状態になったので、そのまま背中を撫でてやれば気持ちよさそうに目を閉じた。

(は~~~癒される……)

初対面の頃が嘘のように穏やかな時間だ。
そういえば怪我の具合はどうなっただろうかと、毛を掻き分けて傷のあった所を確認する。やはり跡は残ってしまっているが膿むこともなく、経過は順調なようで安心した。
ホッとしながら逆立てた毛並みを戻す。

「そろそろ帰るか」

よっこらせと立ち上がれば狼も俺に倣ったように身を起こした。四つん這いでも俺の胸あたりに頭がくる。狼って大きいんだな。それともこの世界の狼は総じて規格外のサイズだったのだろうか。よしよしともう一度頭を撫でる。

「よし、そんじゃ俺はもう行くな。お前も暗くなる前に住処に帰れよ」

ひらりと手を振り帰路を辿って歩き出す。
今日は良い日だったなぁ。
木の実も沢山手に入ったし、何より狼との距離も縮まった。気持ちよさそうにナデナデを受け入れる姿は本当に可愛くて癒された。
今度会えたらまた撫でさせてくれないかなぁ。

トス、トス、トス

「うお⁉︎」

聞き覚えのある足音がすぐそばで聞こえて振り返れば、狼は俺のすぐ斜め後ろからついてきていた。行きはあんなに頑なに姿を見せなかったというのに、帰りは随分と心を許されたものである。

「そういや行きも割と最初のほうからついてきてたもんな。もしかしてお前の住処も俺の家に近いのか?」

問いかけても反応はない。
そりゃそうか。言葉なんて通じないもんな。

「そんじゃ、途中まで一緒に帰ろう」

そう言って歩き出せば狼は大人しく付いて来た。気分は夢のお散歩タイムだ。俺が想像していたより何倍もデカいけど。

「そうだ。いつもペルの実を持ってきてくれてありがとな。おかげで助かってるよ。っつっても伝わってないかもだけど」

自己満足ではあるけれど、ずっとお礼を言いたかったからこうして伝えられてよかった。
狼を振り返りながら言えば、不思議そうに首を傾げながら見つめてくる。

「……あれ、お前よく見たらオッドアイなんだな」

まじまじと見たことがなかったから気付かなかったが、瞳は左右で色が違った。右はアクアマリンのように澄んだ水色で、左はまるで夜空に浮かぶ月のような綺麗な黄金色をしていた。
その神秘的な色はどちらも魅入ってしまうほどに美しく、狼の気高さを更に引き立てている。

「どっちも綺麗な色だなぁ、めちゃくちゃカッコいいじゃん」

わしゃわしゃと頭を撫でるとゆらりと尻尾が揺れた。クールな表情してるけど、尻尾が狼の気持ちを教えてくれるセンサーのようで可愛い。こんなに人懐っこいとは思わなかった。

束の間のお散歩気分を味わっていたら、帰りはあっという間だった。結局家までついてきたけど、もしかしたら家まで送ってくれたのかもしれない。本当に賢いなぁ。

「今日は楽しかったよ。また美味い肉準備しておくから、いつでも遊びにこいよ」

最後にもう一度頭を撫でて、森の中に帰るのを見守ろうと思っていたが、その場でお座りしたまま動かないので、どうやら向こうも同じように考えているのかもしれない。それなら仕方ないと苦笑いして、扉に手をかける。

「じゃあな。気をつけて帰れよ」

そうして扉を潜って戸を閉めようとした時だ。
ガッと扉の淵に前足が掛かり、僅かに空いた隙間からグイグイと身体を押し込んでくる。

「ちょっ、おい!待て待て待て!まさか入ろうとしてる⁉︎」

グググググと全身を使って侵入を防ごうとするも、体格差故にどんどん押し負けていく。

「コラコラコラコラ!流石に家はダメだぞ!家ん中狭いし、仕事道具とか色々出しっぱなしだし!ってあーーもう力強いな⁉︎」

そうしてついに扉を開け放つと、俺が止める隙もなく狼はするりと家の中に入ってきた。

「ちょおおおお!」

狼は我が物顔で家の中を進んでいくが、勿論土足だ。そもそも靴なんて履いてないしな!
しかし前世日本人の俺は家の中で靴を履くなんて考えられないし、今世でも玄関で靴は脱いで部屋の中ではスリッパか裸足だ。

家の中が物珍しいのだろう、そこら中をウロウロと歩き回る度にフローリングに大きな足跡のスタンプが量産されていく。今日は湿気の多い森を歩いたからなぁ、そりゃ足の裏も泥だらけになるよなぁと思わず現実逃避しそうになるが、狼の進路が俺のお気に入りのフワモコ絨毯の方へと切り替わった瞬間、はっと我に返り大声で叫んだ。

「分かった!分かったから!せめて足は拭かせてくれ!!!!」

大急ぎで洗面所へと駆け込み、タオルを持って狼のもとへ駆け寄った。意外にも大人しく座って待っていた狼は俺の勢いにビックリしたのか、大人しく足を預けてくれた。

ゴシゴシと立派な肉球の汚れを落としながら、このあと待ち受けている床の掃除を考えて深いため息を吐いた。

うん。木の実を煮詰めるのは明日にしよう。
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