森で出会った狼に懐かれたので一緒に暮らしていたら実は獣人だったらしい〜俺のハッピーもふもふライフ〜

実琴

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本編

5.家主は俺だぞ

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ようやく床の掃除を終えてぐったりと椅子に座り込む。1日森を歩き回っただけでも疲れたのに最後の最後にトドメを刺された。

そんなトドメを刺した張本人は、くあ~と大きなお口を開けて大欠伸。おい。誰のせいでこうなったと思ってるんだ。こうなったらモフモフさせてもらわなければ割に合わない。

俺のお気に入りのふわもこ絨毯の上でうつ伏せになりながらウトウトしている狼の側ににじり寄る。ピクリと耳が反応してチラッとこっちを見たが、また前足に顎を乗せて目を閉じた。

手始めに今日一日ですっかり慣れた頭を撫でてみる。向こうもそれは心地いいのか耳を後ろに倒して満更でもない顔をしている。今度は両手で頬を挟むようにして撫でてみる。これにも一瞬目を開けたが、すぐに目を閉じ受け入れてくれた。調子に乗ってモニュモニュと頬を揉んでも怒られない。

(これは、いけるのでは?)

ゴクリと唾を飲み、四つん這いになりながら狼の横に移動する。そして傷口に触れないよう、そっと狼の腹に顔を埋めた。

もふ。
顔が温かい毛に覆われる。
グリグリと頭を擦り付けてみたら若干居心地悪そうに身じろぎされたので、逃げられないように首元に抱きつく。

「すぅぅぅぅぅぅぅ」

そして思いっきり息を吸い込んだ。
鼻腔を抜ける独特の獣臭とお日様の香り。
うん、ちょっと臭いけど悪くないかも。
あれだ、噛めば噛むほど味が出るスルメみたいな感じ。決して良い匂いって訳じゃないけど慣れたら癖になるようなそういう匂い。

すーはーすーはー匂いを嗅ぎまくっていたらやはり鬱陶しかったのか、のっそりと身を起こした狼に振り落とされてべちゃりと床に崩れる。

「いてっ」

なんだよー、これくらいいいじゃん。
恨みがましく狼をジトっと見つめるも、向こうはフンと鼻息をひとつ零して身体をブルブルと震わせた。

くっ、なんだよ俺を汚いものみたいに扱いやがって。

俺から少し離れたところに再び寝転がった狼に、ちえっとやさぐれた気持ちになりながら仕方なく身を起こす。いい加減遊んでないで晩御飯の準備もしなくちゃな。今日は何を作ろうかと考えながらキッチンへ向かう。食糧庫を覗き、目ぼしい食材をピックアップしていく。

今日はもう疲れたから簡単なのにしよう。
適当な野菜を鍋にぶち込んだお手軽スープと、炒めた挽肉を魔獣の卵で包み込んだオムレツ。仕上げにストックしてあったパンを添えて完成だ。良い匂いがしてきたからか、いつの間にか俺の脇からフスフスと鼻を動かして様子を伺っている狼に苦笑いが溢れる。

「ったく。さっきまでのんびりしてた癖にご飯になったら近づいてくるとか現金なやつだな」

いつもならこれで十分なのだが、今日は特別ゲストが居るもんな。食糧庫から大きな肉の塊を持ってきてそれを3センチ幅に切り分けると、熱したフライパンに次々と焼いていく。
ジュージューと良い匂いがキッチンに広がっていき、狼の尻尾もゆらゆら揺れだした。

「塩胡椒……は確かダメだったよな」

塩胡椒に限らず、イヌ科は基本的に味付けの濃い食事は厳禁とされていたはず。昼間のサンドイッチのソースも少量とはいえ味付けされてあったのでマズかったかなぁと反省してペッパーミルに伸ばしかけた手を引っ込めようとしたら、腕の下から長い鼻にクンっと塞がれる。更にはグイグイと押し戻されてしまった。

「まさか味付けしろって言ってる?」
「ワフ」

タイミングよく鼻を鳴らす狼は、まるで人間の言葉を理解しているような。いや、そんな訳あるかと変な思考回路を蹴散らしながら、狼の押しに抵抗する。

「ダーメ!身体に悪いんだから」
「クゥー……」
「うっ!そ、そんな悲しそうにしなくてもいいだろ……」

へにょりと下がった耳と尻尾と切ない鳴き声のトリプルコンボの効果は敵面だ。
うううう、と迷いに迷ってほんの少しだけ塩をかけてやった。

「ちょーーーっとだけだからな!」
「ワフ!」

やっぱコイツ俺の言葉解ってるだろ…と疑いの眼差しを向けるが、まぁでも犬って芸を覚えるほどには賢いからなぁ。と深く考えることはやめた。心なしかキラキラと目を輝かせて肉を見つめる狼が可愛かったからなんでも良いかと思ったのもある。

「さて、晩飯にするか~」

ダイニングテーブルに俺の分の料理を並べて、テーブルのそばの床には肉の盛られた皿を置く。俺の周りをウロウロしていた狼はキチンとお座りして肉を見つめている。そしてチラチラと俺を見上げては、肉を見るの繰り返しだ。
もう食べてもいい?食べてもいい?と言わんばかりの仕草に噴き出し、よしよしと頭を撫でる。

「ちゃんと待てできて偉いなぁ。よし!食っていいぞ」

ハグハグと勢いよく食べ始めた狼を微笑ましく眺めつつ、俺も料理にありついた。
そしてあっという間に食べ終えた狼はまたもや物欲しそうに俺の食事を見つめてくるが、流石にこっちは人間用の味付けのため我慢させた。

名残惜しそうな狼に水を与えると、お腹いっぱいになり満足したのかキッチンから出て行った。後片付けを終えリビングに戻ると、ソファの上を占領してスピスピと寝息を立てていた。

「気持ち良さそうに寝やがって……はぁ~~可愛いなぁ」

モフモフの頭を撫でてやればピルピルと耳が震えるのが面白くて暫く遊んでいたが、穏やかな寝息に眠気を誘われて思わず欠伸が漏れる。ソファの傍らに寄りかかり、頭を狼の胴にもたれさせた。

初訪問の家で我が物顔でソファを陣取り、家主は床に座らせるなんて図々しいやつめ。でもそんなところが可愛く思えるんだから俺も大概絆されてんなぁ。

狼の寝息に合わせて頭が僅かに持ち上がる。まるでゆりかごのような寝心地に目を閉じれば、次第に意識は夢の世界へと誘われていった。
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