森で出会った狼に懐かれたので一緒に暮らしていたら実は獣人だったらしい〜俺のハッピーもふもふライフ〜

実琴

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本編

6.いい加減“お前”じゃ不便だし

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気がついたら俺は雲の上にいた。
ふわふわに包まれて、太陽がいつもより近くて温かい。ごろんと寝返りを打てば顔に濡れた感触があった。雨か?あれ、でも雲の上なら雨は降らないんじゃなかったっけ?それになんだか顔全体がベチャベチャする。不快感が勝って思わず目を開けると、種類様々な犬に囲まれていた。

「え?うわっぷ、ちょ、やめ、あははは!」

ペロペロと顔を舐められたり、飛びついてきたりともうめちゃくちゃだ。もふもふふわふわでくすぐったい。あぁここが天国か。

幸せに浸っていると周りを取り囲んでいたもふもふ達の輪郭がぼやけていく。やがて一つの大きな塊になると、1匹の白銀の狼へと姿を変えた。

「なんだお前かぁ」

へにゃりと笑って大きな身体を抱きしめてやれば、ペロリと大きな舌で顔を舐められる。子犬の小さな舌と違ってたったひと舐めで顔中ヨダレだらけになってしまった。擽ったくて身を捩れば今度は首筋を舐められる。

「こらこら、なんだ腹減ってんのか?俺を食べても美味しくないぞ」

くすくすと笑い首元を撫でてやれば、俺の上に乗り上げずっしりと重かったのが急に軽くなった。

「そうか?凄く美味そうな匂いだけど」

耳元で低い声で囁かれて、ハッと目が覚めた。
目の前には見慣れた天井と、上から覗きこんでくる狼の顔が間近にある。

「あれ……今のは…夢?」

でもなんの夢を見てたんだっけ。なんか凄く幸せで、あったかくて……それで。
ぼうっとしている俺の顔を狼が舐めてきて我に返る。昨夜はうたた寝のつもりだったが、どうやらそのまま朝まで眠ってしまったらしい。
窓から差し込む朝日が寝起きの目に刺さる。

「ん……あれ、お前昨日はソファで寝てなかった?」

そう、確かに昨晩はソファの上で休んでいた狼が、今は俺の身体を包み込むように床で寝転がっている。モフモフの尻尾が掛け布団のように身体を包み込んでいて最高の寝心地だ。朝晩はまだ冷え込むというのに本格的に寝入っていたのはおかしいなと思っていたが、この体勢をみて納得する。どうりで朝まで目覚めないわけだ。

ゆらゆら揺れる尻尾の先が鼻先を擽り、へくしっと小さなくしゃみが出てしまった。その瞬間更に俺を抱き込むように身体を丸めた狼は、やはり俺を温めてくれていたらしい。

「ん、大丈夫。今のはくすぐったかっただけだから。ありがとな」

ふわふわ尻尾を撫でながらそう言うと、身体を覆う力が緩んだのでその隙に簡易モフモフベッドから抜け出す。まだもう少し微睡んでいたいところだが、今日は昨日できなかった木の実の煮出しを行わなければならない。最近は自分の趣味にばかり時間をかけすぎてしまったから、そろそろ店に卸す分の商品を作らなければ。

「朝飯……の前に顔洗ってこよ」

顔ペロで起こされた上にモフモフに包まれていた俺の顔は見事に毛だらけだった。これだけ毛に塗れてもアレルギー反応が出ないことに内心ホッとする。生まれ変わったとは言え、もしかしたらこの身体にもアレルギーがあるかもしれないと密かに懸念していたので本当に良かった。こんなに可愛いくて人懐っこい狼が目の前にいるのに触れないなんて拷問だからな。

身体を起こして伸びをする狼を横目に風呂場へ向かう。洗面ついでに昨日入れなかった風呂も済ませてしまおう。朝飯はそれからだな。

そのうちアイツも風呂に入れてあげたいところだけど、風呂嫌いな動物って多いからな、どうだろう。でももしこれからも我が家を訪れるつもりなら、工房に収まりきらない商品も時々居住スペースで管理してるので、それなりに身綺麗にして貰わなければ困る。この世界にもダニとかいるのかわかんないけど、布製品を扱っているとそういうのには気を付けなければならないし。あと純粋にシャンプーでモコモコになった姿を見てみたいってのもある。

今度街へ行ったら無添加のシャンプーと大きなブラシを調達してこよう。密かにそう決意して頭からシャワーを被った。


*****


「名前を決めようと思います」

本日の作業がひと段落ついたので、休憩がてら庭先の木の下で寝転び、顎の下をモフりつつそう宣言すれば狼は不思議そうに首を傾げていた。

今日一日一緒にいてみて思ったが、呼び名はあった方がいい。
狼はやはりある程度こちらの言葉を理解してるようで、俺の呼びかけには反応するし問題がないと言えば極論ないのだが、いつまでも狼を呼ぶのに「おい」とか「お前」とか言うのは個人的に遠慮したい。それにせっかくここまで仲良くなれたんだから他人行儀な呼び方は少し寂しい。

飼い犬もとい飼い狼まではいかなくとも、せめて友達ぐらいの関係にはなれたと自惚れてもいいよな?

「そんでもって肝心の名前だけど……うーん。俺ネーミングセンス皆無だからなぁ」

雑貨屋で商品名を考える時も両親からは「逆に記憶に残りやすくていいんじゃないか」と評されている。逆にってなんだ逆にって。それはもういっそ悪口だろ。とまぁそんなことは置いといて、今はこいつの名前を考えてやらないと。

今度は背中を撫でてやると気持ち良さそうに目を細める。見た目はデッカイ犬なんだよなぁ。野生の気高さどこ行ったんだ。今ではすっかり甘え上手な超大型犬って感じだ。

柔らかい毛並みが木漏れ日に反射してキラキラと輝く。家の中とか暗いところだと一見白く見えるが、陽に当たると銀色に輝いて美しい。まさに白銀と表すのが相応しい装いだ。

「……うん。シルバーとかどう?俺の昔いた世界では銀色のことをそう呼ぶんだ。俺、お前のその色カッコよくて好きだからさぁ。あーでも流石に安直過ぎるかな」

狼はピクリと反応して俺の顔を振り仰ぐ。

「お、反応したな。気に入った?」
「ワフ」
「ほんとに?これからお前のこと、シルバーって呼んでもいいのか?」
「ワフ」

心なしか2回目のワフは頷いたように見えた。
嬉しくなって用もないのに何度も「シルバー」と名前を呼べば、その度に尻尾がゆらゆら揺れた。

「シルバー」

ぎゅうっと首元に抱きつけばシルバーもスリスリと頬を擦り寄せてくれる。優しい温もりと、言葉では表せない愛しい気持ちが溢れてなんだか泣きそうだ。
シルバーと出会ってから、諦めていた俺の夢が一つずつ叶っていく。他人から見れば「なんだそんなことか」と、大袈裟だと馬鹿にされるような些細な夢かもしれないが、そんな小さな夢すら叶えられなかった前世と今世の俺が、シルバーのおかげで報われていく。

「シルバー、ありがとな」

シルバーの頬を撫で、額を擦り付ける。
この優しい狼を幸せにしてやりたい。
その為ならきっと俺はなんだって出来るだろう。
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