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第二章 呪文探しの旅に出よう!
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「もう湯浴みは終えたかと思っていたのだが、途中ならばそれでも構わぬ。一緒に入ればよかろう」
言いながらルチアーノは、仮面に手をかけている。ようやく真純は、彼の意図を悟った。
「三日ぶりであるな。いかがか、体の調子……」
真純は、ハッとした。先ほどの馬丁の言葉がよみがえったのだ。
――三日放っておかれたら、もう我慢できなくなったのかよ……。
「止めてください!」
真純は、反射的にルチアーノを押しのけていた。仮面の奥の瞳が、驚いたように見開かれる。真純は、狼狽した。
(淫乱だと思われたくないけど……、さすがに、無礼だったよな?)
「すみません。その……」
慌てて弁解の言葉を探していると、ルチアーノはかぶりを振った。
「よい。慣れない旅で、疲れたのであろう。私に配慮が無かった」
「いえ、そのようなことは……」
ルチアーノに謝ってもらう必要は無いが、他に拒絶の言い訳を思いつかない。まごまごしているうちに、ルチアーノはさっさと仮面を着け直している。その時だった。
「この野郎!!」
突如、外で大声が響き渡った。同時に、ドタバタという激しい物音が聞こえる。ルチアーノは、目を光らせた。
「ジュダ!?」
ルチアーノは、ガウンをひっつかむと、部屋の外へと飛び出した。真純も、用意してあったガウンを取りあえず羽織ると、彼の後を追った。騒動は、ルチアーノの部屋がある上階で起きているようだ。軽やかに階段を駆け上がって行くルチアーノに、真純も続いた。
階段を上がったところで、真純は目を見張った。廊下でジュダが、一人の男を組み伏せていたのだ。ルチアーノの部屋の前だった。
「殿下! やはりこの騎士団は、信用なりません!」
ジュダは、はあはあと息を切らせながら、ルチアーノに向かって叫んだ。
「こやつ、殿下のお部屋に忍び込んでいたのです!」
ジュダが捕らえた男の顔をよく見ると、確かに騎士団の一人だった。ジュダは、そんな彼の首元に、剣を突きつけている。
「殿下がお部屋を去られてしばらくして、何やら怪しげな物音が聞こえたのです。駆け付けてみれば……、この男が殿下のお部屋に入り込み、何やら不審な動きをしておりました。きっと、寝首を掻くつもりだったのでしょう!」
騒ぎを聞きつけたのか、下の階から、他の騎士たちが集まって来る気配がする。ルチアーノは、「下がれ」と一言叫んだ。
「殿下!? 他の連中も、きっと仲間ですよ。野放しにするなど……」
ジュダは眉を吊り上げたが、ルチアーノは静かにかぶりを振った。
「私を暗殺するつもりにしては、この者は帯剣していない。決めつけるのは早計であろう」
「しかし……」
「念のため、他に武器を隠し持っていないか、調べなさい。その上で、話を聞こう」
ジュダは、渋々といった様子で、男の衣服を探った。あちこち調べた後、彼は首を横に振った。ルチアーノがうなずく。
「私の部屋に連れて行け。……マスミ殿も、来るか?」
はい、と真純は答えた。ここまで目撃した以上、気になって仕方なかったのだ。
ジュダが、男を捕らえたまま、ルチアーノの部屋へと押し込む。ルチアーノと真純も続いた。真純が扉を閉めると、男は哀れっぽい声で訴え始めた。
「どうか、お許しを……。殿下のお命を狙うなど、そのような大それたことは考えておりません」
「なら、どうして殿下のお部屋に侵入した!」
ジュダは、男を羽交い締めにすると、再び首元に剣を突きつけた。ひいっと、男が悲鳴を上げる。
「言います! 全て打ち明けますので、どうか命だけは……。実は私は、ある書類を探しに、ここへ忍び込みました。それは……、ルチアーノ殿下をアルマンティリア王国の次期王位継承者と定める旨の、証明書です」
ルチアーノ、ジュダ、真純の三人は、思わず顔を見合わせていた。ルチアーノは、つかつかと男の元に近づくと、じっとその顔を見すえた。
「誰の命だ? 騎士団の他の者も、皆グルか?」
「そ、それは……」
男が、口ごもる。苛立ってきたのか、ジュダは剣先で、ひたひたと男の首筋を叩いた。その拍子に、切っ先が肌をかすめ、うっすらと血が滲む。男は青ざめ、ルチアーノは眉をひそめた。
「ジュダ、早まるな。うっかり殺してしまっては、命じた者の正体がわからぬだろう」
一体誰だろう、と真純は想像を巡らせた。
(ルチアーノ殿下が王位を継承しては困る人……?)
その時、男が震える声で語り出した。
「申し上げます。まず、この件は私個人に課された命令で、他の騎士たちは何も知りません。そして、私に命じたお方ですが……、ミケーレ二世陛下でございます」
真純は、耳を疑った。
言いながらルチアーノは、仮面に手をかけている。ようやく真純は、彼の意図を悟った。
「三日ぶりであるな。いかがか、体の調子……」
真純は、ハッとした。先ほどの馬丁の言葉がよみがえったのだ。
――三日放っておかれたら、もう我慢できなくなったのかよ……。
「止めてください!」
真純は、反射的にルチアーノを押しのけていた。仮面の奥の瞳が、驚いたように見開かれる。真純は、狼狽した。
(淫乱だと思われたくないけど……、さすがに、無礼だったよな?)
「すみません。その……」
慌てて弁解の言葉を探していると、ルチアーノはかぶりを振った。
「よい。慣れない旅で、疲れたのであろう。私に配慮が無かった」
「いえ、そのようなことは……」
ルチアーノに謝ってもらう必要は無いが、他に拒絶の言い訳を思いつかない。まごまごしているうちに、ルチアーノはさっさと仮面を着け直している。その時だった。
「この野郎!!」
突如、外で大声が響き渡った。同時に、ドタバタという激しい物音が聞こえる。ルチアーノは、目を光らせた。
「ジュダ!?」
ルチアーノは、ガウンをひっつかむと、部屋の外へと飛び出した。真純も、用意してあったガウンを取りあえず羽織ると、彼の後を追った。騒動は、ルチアーノの部屋がある上階で起きているようだ。軽やかに階段を駆け上がって行くルチアーノに、真純も続いた。
階段を上がったところで、真純は目を見張った。廊下でジュダが、一人の男を組み伏せていたのだ。ルチアーノの部屋の前だった。
「殿下! やはりこの騎士団は、信用なりません!」
ジュダは、はあはあと息を切らせながら、ルチアーノに向かって叫んだ。
「こやつ、殿下のお部屋に忍び込んでいたのです!」
ジュダが捕らえた男の顔をよく見ると、確かに騎士団の一人だった。ジュダは、そんな彼の首元に、剣を突きつけている。
「殿下がお部屋を去られてしばらくして、何やら怪しげな物音が聞こえたのです。駆け付けてみれば……、この男が殿下のお部屋に入り込み、何やら不審な動きをしておりました。きっと、寝首を掻くつもりだったのでしょう!」
騒ぎを聞きつけたのか、下の階から、他の騎士たちが集まって来る気配がする。ルチアーノは、「下がれ」と一言叫んだ。
「殿下!? 他の連中も、きっと仲間ですよ。野放しにするなど……」
ジュダは眉を吊り上げたが、ルチアーノは静かにかぶりを振った。
「私を暗殺するつもりにしては、この者は帯剣していない。決めつけるのは早計であろう」
「しかし……」
「念のため、他に武器を隠し持っていないか、調べなさい。その上で、話を聞こう」
ジュダは、渋々といった様子で、男の衣服を探った。あちこち調べた後、彼は首を横に振った。ルチアーノがうなずく。
「私の部屋に連れて行け。……マスミ殿も、来るか?」
はい、と真純は答えた。ここまで目撃した以上、気になって仕方なかったのだ。
ジュダが、男を捕らえたまま、ルチアーノの部屋へと押し込む。ルチアーノと真純も続いた。真純が扉を閉めると、男は哀れっぽい声で訴え始めた。
「どうか、お許しを……。殿下のお命を狙うなど、そのような大それたことは考えておりません」
「なら、どうして殿下のお部屋に侵入した!」
ジュダは、男を羽交い締めにすると、再び首元に剣を突きつけた。ひいっと、男が悲鳴を上げる。
「言います! 全て打ち明けますので、どうか命だけは……。実は私は、ある書類を探しに、ここへ忍び込みました。それは……、ルチアーノ殿下をアルマンティリア王国の次期王位継承者と定める旨の、証明書です」
ルチアーノ、ジュダ、真純の三人は、思わず顔を見合わせていた。ルチアーノは、つかつかと男の元に近づくと、じっとその顔を見すえた。
「誰の命だ? 騎士団の他の者も、皆グルか?」
「そ、それは……」
男が、口ごもる。苛立ってきたのか、ジュダは剣先で、ひたひたと男の首筋を叩いた。その拍子に、切っ先が肌をかすめ、うっすらと血が滲む。男は青ざめ、ルチアーノは眉をひそめた。
「ジュダ、早まるな。うっかり殺してしまっては、命じた者の正体がわからぬだろう」
一体誰だろう、と真純は想像を巡らせた。
(ルチアーノ殿下が王位を継承しては困る人……?)
その時、男が震える声で語り出した。
「申し上げます。まず、この件は私個人に課された命令で、他の騎士たちは何も知りません。そして、私に命じたお方ですが……、ミケーレ二世陛下でございます」
真純は、耳を疑った。
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