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第十一章 最強魔法対決!

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「うわっ……」
 
  庭に着地したとたん、真純は思わず声を上げていた。間近で見る魔物たちは、クオピボで退治したものよりも、ずっと凶暴そうだったのだ。あの時の魔物は猿のような外見だったが、今回はトカゲに似ていた。皮膚はくすんだ茶色で、表面は不気味な鱗で覆われている。たとえ魔物では無いと言われたとしても、身がすくんでしまいそうな恐ろしさだ。それらは、すばしっこく地面を這っては、騎士たちの足にまとわりつき、鋭い歯で噛みつく。彼らは、悲鳴を上げて逃げ惑っていた。

「ふわははははっ!」

 頭上からは、セバスティアーノの高笑いが聞こえてきた。

「せいぜい、奴らと遊ぶことだな!」

 言い捨てて、セバスティアーノはどこかへ飛び去って行く。腹立たしいが、今は彼の相手をしている暇は無い。ルチアーノとフィリッポは、すぐさま呪文を唱え始めた。ルチアーノは、高速の風で魔物に切りつけ、フィリッポは、岩や石を飛ばして魔物を攻撃する。だがこの魔物たちは、クオピボの魔物よりも相当手強かった。少々傷を負ったくらいでは、すぐに復活してしまうのだ。

「キリが無いな」

 肩で息をしながら、ルチアーノが言う。そこへ、ジュダが進み出た。

「やってみます……。皆、危ないので城内へ引っ込んでください!」

  ジュダの顔には、決意が満ちていた。その手は、ペンダントの魔石をしっかりと握りしめている。炎で魔物を焼き尽くすつもりだろう、と真純はピンときた。

 騎士たちが建物の中へ入ったのを確認すると、ジュダは深呼吸して、呪文を詠唱し始めた。すると、その隣にフィリッポが立った。

「一緒にやりましょう」

 そして彼は、土魔法の呪文を唱え始めるではないか。組み合わせてどうする気だろう、と真純は訝った。

「ギイイイイイッ!」

 一方、騎士たちがいなくなったことで標的をルチアーノと真純に変えた魔物たちは、一斉にこちらへ向かって来る。ルチアーノは、ひたすら風魔法の呪文を唱えては、それらを追い払った。

(ジュダさんが、成功しますように……!)

 真純は、祈るような気持ちで見守った。やがて、ジュダとフィリッポの詠唱が終わる。するとルチアーノは、真純の手を引いた。
 
「マスミ、下がって」

 ルチアーノに連れられて、真純は城の玄関前まで走った。たどり着くか着かないかといったその時、背後でドンという地響きが聞こえた。

(嘘――……!)
 
  思わず振り向いて、真純は瞠目した。地面から、マグマが噴出したのだ。
 
(火魔法と土魔法で、噴火が起きたのか!)
 
  魔物たちは、断末魔のような悲鳴を上げながら、炎の中に消えていく。その悲鳴が聞こえなくなった頃、ようやく炎も消えた。そこには、黒焦げになり、ぴくりとも動かなくなった魔物たちの遺骸が転がっていた。中には、無残にも胴体がバラバラに引きちぎれたものもある。

「俺……、やった?」

 呆然とした様子で、ジュダが呟く。フィリッポは、力強く頷いた。

「ええ……、ええ! よくできましたよ、セアン君!」
 
  感極まった様子で、フィリッポがジュダを抱きしめる。だがその時、ルチアーノの鋭い声が響いた。

「危ない!」

 真純は、息を呑んだ。分断された魔物の胴体の一部が、ピクリと動いたのだ。それは、あっという間に原形を復活していく。

(トカゲに似てるって思ったけど。まるっきり、尻尾切り状態じゃないか!)
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