熱血俳優の執愛

花房ジュリー

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Side:伊織

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 PC画面に表示される時刻は、間もなく深夜二時。僕は一つため息を付くと、電源を落とした。すると、それを見計らったかのように、玄関の方で音がした。
おり、ただいま……って、お前も起きてたの?」
 帰って来たのは、同棲中の元同級生兼恋人、さくらはるだ。余計な詮索をされる前に、僕は先手を打った。
「締切りが近いからね」
「ちぇっ。俺の帰りを待っててくれたのかと思ったじゃん……。まー、お前がそんな殊勝な真似するわけないか」
 予想通り陽斗は残念そうな顔をすると、浴室へと消えて行った。本当は原稿データなんてとっくに保存し終えていたけれどね、と心の中でつぶやく。僕が見つめていたのは、何のソフトも立ち上がっていないPCだ。
(だって、陽斗が帰って来た時に手持ちぶさたにしていたら、格好がつかないじゃないか……)
 先に寝室へ入り、ベッドに横になる。しばらくして陽斗もやって来て、僕の横に寝転んだが、ひどくアルコール臭かった。
「……飲み過ぎだろう」
 つい苦言を呈すれば、「ん~」という困ったような声が聞こえてきた。
「でも、この世界は付き合いが大事だしな」
 陽斗の職業は、俳優だ。一年前、僕の書いた小説を原作にしたドラマを彼が主演し、その縁で再会した。今はこうして一緒に暮らしているが、幸いにも僕たちの関係は、誰にもバレていない。『再会した同級生同士、意気投合した』ということで、彼のマネージャーも事務所の社長も納得し賛成している。むしろ、女性スキャンダルを防げてラッキーだとすら思っているようだ。
「……てのは、ヒトミさんの教えだけど」
 言いながら陽斗は、チラと僕の方をうかがった。
「妬ける?」
「まさか」
 僕は、即座に返した。ヒトミさんというのは陽斗の事務所の先輩女優で、元カノである。
「過去を気にするなんて、時間の無駄だろう」
「……ったく。お前らしいっていうか……」
 口をとがらせながらも、陽斗は素早く僕の体に手を伸ばして来た。
「明日も早くから撮影だろう。もう寝た方がいい」
「だって、した方が、ぐっすり眠れる気がするし」
 こういう時の陽斗は、割と強情だ。僕は、もう一つため息を付くと、彼を受け入れる姿勢を見せた。
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