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3王立学園に入学//少年期1

3-6 アルフレッド殿下

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 招待状の指定の時刻の少し前、僕は王城内のアルフレッド王子の居る来賓用宮殿を訪れた。

「こちらで少々お待ちください」

案内役がドアを開けると

「ビビ?!」

ソファの前に銀髪を後ろで一つにくくった、紫の目の少年が立ってこちらを見ていた。案内役がノックもしないでドアを開けてしまったことに慌てている

「王子!なぜ こちらに!!」
「だってさあ 待ちきれなかったんだよ~入って入って!!」

僕はフウと一つ息を吐き部屋に入り丁寧に礼をする。

「ビビ!ホンモノだ!!」

呟くような声が王子の口から洩れた。ビビ?ホンモノ?ルバートの言葉は殆どグレシエンドと同じだけれど聞き間違えたかな?

「ヒビキ殿 初めまして。アルフレッド・ルバートだ。会えてうれしいよ」

うん、さっきのは聞き間違えだな。アルフレッド王子は本当にうれしそうだ。予知夢というものに随分と興味がおありらしい。

「先に申し上げますが 夢見については国家機密も含まれますのでご期待に答えるほどのお話は出来ないかと存じます。」
「分かった。あ、座って!」

王子はソファに座り その前の椅子に座るようにと僕を促す。

「失礼いたします」

面喰いながらも 僕はその椅子に腰を下ろした。

「君たちはもう出て行っていいよ。ブラウは誰かにお茶を頼んできて」

王子が案内役と、王子の後ろに控えている黒い服の男性に声をかけた。
案内役は一礼をして去り、黒服の男性は王子にドアの方を指さされて、渋々といった様子で出て行った。

「ねえビビって呼んでいい?」

二人が出て行くと 向かい側に座った王子が身を乗り出した。

「はい?」
「やった!ボクの事はアルって呼んでくれる?」
「それは……」
「じゃあ 命令ね。ボクの事はアルって呼ぶように」
「……畏まりました……」

なんなんだ?自由な国だとは聞いてるけど自由すぎないか?僕は知らず知らずの内に押されて自分の背中がソファにピッタリとくっついているのに気が付く。

「君には姉君がいるんだよね?」
「はい」
「どんな方?学校では一緒にいるの?」

え?姉上に興味があるの?何とか姿勢を正して顔に微笑みを乗せる。落ち着いて僕、平常心、平常心……ちょうど、お茶が運ばれてきたから、姿勢を正して背中も背もたれから離す。

「今日は私一人で参りましたが学園では常に姉とは行動を共にしておりますので、学園にいらした時には紹介させていただきます」
「え?一緒にいるの?ベスと?」
「ベス?」
「ああゴメン、グレシエンド王国の貴族名鑑には目を通させてもらったんだ。姉君はエリザベスでしょ?ベスって呼んでいるのかなって思ってさ」
「いえ、そのようには…」
「そうなの、じゃあ なんて呼んでいるの?」
「私は姉上と、両親や友人達はザベスと呼んでおります」
「ザベス?!?え?じゃあ、もしかして君はビビって呼ばれてないの」
「ええ、家族や友人からはビイと呼ばれております」

ここで隠しても 学校へ行けば分かる事だ

「そうなんだね!じゃあ 僕もビイと呼ぶね」
「……御随意に」
「ビイね。うんビイ」

アルフレッド王子はなんだか嬉しそうにつぶやかれた。

「あのねビイ、君を指名したことについてだけどさ、ボクとフレーミイ王子が一緒に居たら学園の生徒や教師も必要以上に気を遣うことになるでしょ?だから、一般の貴族がいいなあってグレシエンドの貴族名鑑を見ていたら”夢見の一族”なんて変わった一族をみつけてさ、その家にたまたま同級生がいたから指名しただけで、夢見について色々聞き出そうと思っている訳では無いから安心して!ゴメンね世話役を押し付けて」

アルフレッド王子はそう言いながらもあまり悪いとは思っていなさそうだった。それから せっかく他国に来たのだから、学園には寄宿舎から通いたいと希望していたけれど、他の生徒との兼ね合いや警備の問題から王城から通う事になったのだと、不満顔で話した。
王城と言っても住んでいるのは離れだから 気軽に遊びに来て欲しいと言われたけれど、王城は僕達中流貴族の、しかも学生が気軽に入れるところではない。
 自由だなあ アルフレッド王子……僕は表面上は、ニコニコしながらも内心呆れていると、アルフレッド王子の侍女が時間が来たことを告げに来た。



 そして今、わが家の馬車になぜかアルフレッド殿――じゃなくて アルが乗っている。(今日一日、僕がアルフレッド殿下と言う度に『アルでしょ』と訂正され続けた。)下校時に僕たちが自分の家の馬車に乗り、扉を閉める直前にアルが無理やり乗り込んで来て、僕の隣に座ってしまった。隣国の、とは言え王子のやる事を止める事なんて出来ない。

「大丈夫 ボクの馬車はもう返したから気にしないで」

唖然とする僕達にアルは爽やかに笑いかけた。

「殿下、当家の馬車でこのまま王城へお送りいたしますわ。」

姉上がアルに負けないくらいにこやかに言った。

「ええええ そんな冷たい事言わないでよお。 ビイの家とか部屋とか見たいなあ」
「僕の部屋?」
「うん あと、ほらボクの学友のビイと家族の関係とかさ知っておきたいしさ?」

貴族名鑑には僕が養子だって書いてあったと思うし、お世話係は実質決定しているし、今更家族との関係って何を知りたいの?

「承知しましたわ」

姉上がため息交じりに承諾した。
 先ぶれでもあったんだろう。車寄せでは母上とルディが既に待っていた。母上にそつなく挨拶する様子は流石王族だった。

「ザベスは髪の色も目の色も母君に似ていないね、あの方は実母でないの?」
「色は違いますが実の母でございます。」

母上が居なくなった途端に失礼なコトを言ったアルに姉上は母上直伝の淑女の微笑みで応じていた。

 僕の部屋で、アルは本棚の本や寝室まで見て回り始終嬉しそうな顔をしていた。寝室だって夢見の一族だからといって特別なコトは無いし、書籍だってごく普通の13歳の学生の蔵書だと思うけれど、王子様から見たら「隣の国の一般人の同級生の部屋を見ている」感覚で面白いのかもしれない。

 姉上がお茶の用意をしたクレアを従えてやって来た。アルはお茶もお菓子も気に入ったようで、夕食に差し支えないのか心配になるくらいお菓子を食べお茶をお代わりした。

「ビイが養子でも使用人は敬意を払っているのだね 良かった」

アルは独り言のように言ったけれど、エディは「何様?あ王子様か?」と舌打ちしながら呟いていた。
 アルフレッド王子が来てから、間もなくひと月が過ぎようとしている。僕が学友として指名されている以上アルと離れるわけには行かない。だから僕と姉上とアルの三人は大概一緒に居る。どこかで見ているであろうアルの護衛もアルが一人で動き回るよりはよほど仕事が楽だろうね。
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