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一つ目の代価
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「シスター、落ち葉を集めたら焚き火をして、お芋を焼いたら駄目かな?」
「いいですよ、私も火の番してあげます。」
「ありがとうございます。小さい子たちが喜びますね。」
「友紀も大きくなりましたね、あんなに細く小さかったのに。」
シスターは、初めての時の事を思い出し涙を流す。
「シスター、もう泣かないで。僕は今幸せです。シスターたちやみんなのおかげで。だから笑ってください。」
「桜の咲く頃にはもう、友紀は此処にはいないのですね。」
「はい、でも、休みには帰ってきます。ここが僕の実家ですから。」
「ありがとう、友紀、もっと幸せにおなりなさい。そして、周りの人を幸せにしてあげなさい。」
「はい。」
僕は、春から中学生。そして、大阪で待つ愁の家族になる。
薫も春から大阪、愁と同じ高校に合格した。
広海も一緒に行きたいと、寂しそうに呟いていたけど、中学の3年間で薫の隣りで対等に話せる男になって、高校は大阪に行くから、また一緒に遊ぼうって、ぎこちない笑顔を見せる。
友紀には、弱いところを見せたがらない広海だが、薫には弱い部分も見せてるらしい。
先に大阪に向かう薫に会いに行った時、薫から広海との惚気を聞かされてしまった。
「浮気したら許さないからな。」
って広海が薫にだけは泣顔を見せると。
それが堪らなく可愛いのだと薫が幸せそうに笑うから羨ましいなぁ~と思ってしまう。
愁は優しいし、友紀を大事にしてくれる。
それは、弟としてだと思うと近くて遠い関係だなと悲しくて辛い。
友紀には、どうしても捨てられた子、母にも愛されなかった引け目があるから、また、拒否され、背を向けられるのが怖くて仕方ない。
今の距離は寂しく切なくなる時もあるけど、幸せでもあるから愁の気持ちを聞けない。
もしかして愁も友紀と同じ想いなのかと錯覚しそうな時もあるけど、一歩を踏み出す勇気が友紀にはまだまだだ。
『弟だとしか思えない。そんな風に俺の事見てたのか?』と言われ、冷たい視線を向けられたらと思うと怖くて仕方ないから。
愁に背を向けられたら友紀は生きていけないだろうと思う。
友紀にとって愁に嫌われる事は死を意味する事と同義だから。
友紀が施設を去る日がやって来た。
愁と愁のお父さんが車で迎えに来てくれた。
「シスター、友紀を今まで大切に育てて頂いてありがとうございます。これからは、私が責任を持って育てます。」
深々と頭を下げる愁のお父さん。
シスターと話す愁の父親をぼんやりと眺めていた。夢の様だと今だにふわふわした気持ちでいる。
ぼんやりと立つ友紀の頭を優しく撫でる大きな手、その手が、
「友紀、今日からよろしくな。」
握手を求めてきて嬉しくて涙が止まらない。
「友紀、これからはずっと一緒だから、もっと甘えてくれな。大好きだから一緒に暮らせて嬉しいよ。」
愁が泣いてグスグスと鼻を鳴らす友紀にハンカチで涙を拭い抱き締めてくれる。
僕はこの二人と家族になれる、なんて幸せな事なんだろう。
二人が自慢に思えるように頑張ろうと心に誓う。
新しい土地に車がどんどん近づいて行くと思うと、心がそわそわと不安と期待で友紀はより一層無口になっていく。
そんな友紀の肩を抱き締め、
「友紀、学校に一緒に行こうな。薫も待ってるぞ。」
薫も高校に合格して、友紀より先に大阪に着き、もう新しい家に住んでいる事を忘れていた。
「うん、ありがとう。薫兄のお家は近くなの?」
「自転車で5分ぐらいだから、近いな。荷物を片付けたら迎えに行こう。」
「迎えに行くの?何処かにその後行くの?」
「俺たちの家で合格祝いと歓迎会、親父と俺の手料理だけどな。」
運転席からは、
「俺の手料理だけで足らないようなら何か買ってこい。」
って心地よい低音が響く。
「おじさん、ありがとうございます。僕……。」
「友紀、ゆっくりでいいからな、父親みたいに思ってくれたら嬉しいよ。あんまり偉そうな事言えないがな、愁にばかり俺も甘えてる状態だからな。」
車の中、笑いが友紀の未来を色鮮やかなものにしてくれそうで涙が滲む。
「友紀は泣き虫だな。今日だけだからな、明日からは笑ってほしいな。」
友紀の笑顔が大好きなんだと愁は涙を拭ってくれる。
車は賑やかな中心地から離れ、緑の多い静かな町に入って行った。
駅を通り過ぎ少し走った所で車が止まった。
「着いたぞ、ここが今日から友紀の家だ。」
車から降りた友紀が目にしたのは、時代劇に出てくるような門扉。
「友紀、行くよ。」
愁が友紀の手を取り門扉を潜る。
二階建ての和風建物、その周りに小さな日本庭園、車庫、玄関までのアプローチには飛び石に玉砂利。
あまりにも立派な家にびっくりして動けないでいた。
車を車庫に納めた父が、
「どうした?」
「凄い……。」
「古いだけだ、親父、愁からしたら祖父だな、が死んで誰も住んでなかったから、最初は酷かったけどな。ちゃんとリホームしてやっと住めるようになったよ。友紀の部屋もその時にちゃんと作ったから、気に入ってくれるといいがな。」
そう言うと父は先に玄関に向かい扉を開け、
「友紀、ただいまだよ。」
愁が手を引いてくれる。
「ただいま…。」
二人は僕に微笑んで「おかえり」と言ってくれた。
今日だけで、友紀の涙は枯れてしまいそうだ。
外観は純和風だけど、中は今風にリホームされていた。
「友紀の部屋は二階だから、俺の部屋の隣。いつでも遊びに来ていいからな。」
家の奥から何かが飛び出してきた。
真っ黒の子犬。愁に飛びつき顔を舐めまくっている。
愁はわかったから、ステイと言っているが全然ダメだ。
「この子名前は?」
「犬」
「エッ、ウソ……可哀想だよ。」
「友紀、一緒に考えて。」
ケーキがあるから、食べながら考えようとリビングについていく。愁は、色々と名前を挙げたけど、悲しくなるほど酷い名前しか出てこない。
「真っ黒の体に真っ白の足、まるでブーツを履いてるみたいだね。」
「白黒だし、ゼブラなんてどうだ。」
ゼブラ、なんかかっこいいかも。
頷くと愁は、
「お前の名前はゼブラだ。俺と一緒に友紀を守るんだぞ。」
ゼブラと名付けられた子犬は、嬉しそうに友紀の膝に乗ってきた。
「可愛い、ゼブラよろしくね。」
一声鳴いて膝の上で尻尾を揺らしている。
僕の家族、もう一人で帰ってこない人を待たなくていいんだ。
段々と体が冷たくなってひとりぼっちで息をするのも辛くなる、もうあんな怖い思いは嫌だ。この幸せが消えないように、いつも笑顔でいられる様に、愛される事が叶わないとしても今度は、護られるばかりでなく、家族を、大切な人達を護れるように強くなろう。
「いいですよ、私も火の番してあげます。」
「ありがとうございます。小さい子たちが喜びますね。」
「友紀も大きくなりましたね、あんなに細く小さかったのに。」
シスターは、初めての時の事を思い出し涙を流す。
「シスター、もう泣かないで。僕は今幸せです。シスターたちやみんなのおかげで。だから笑ってください。」
「桜の咲く頃にはもう、友紀は此処にはいないのですね。」
「はい、でも、休みには帰ってきます。ここが僕の実家ですから。」
「ありがとう、友紀、もっと幸せにおなりなさい。そして、周りの人を幸せにしてあげなさい。」
「はい。」
僕は、春から中学生。そして、大阪で待つ愁の家族になる。
薫も春から大阪、愁と同じ高校に合格した。
広海も一緒に行きたいと、寂しそうに呟いていたけど、中学の3年間で薫の隣りで対等に話せる男になって、高校は大阪に行くから、また一緒に遊ぼうって、ぎこちない笑顔を見せる。
友紀には、弱いところを見せたがらない広海だが、薫には弱い部分も見せてるらしい。
先に大阪に向かう薫に会いに行った時、薫から広海との惚気を聞かされてしまった。
「浮気したら許さないからな。」
って広海が薫にだけは泣顔を見せると。
それが堪らなく可愛いのだと薫が幸せそうに笑うから羨ましいなぁ~と思ってしまう。
愁は優しいし、友紀を大事にしてくれる。
それは、弟としてだと思うと近くて遠い関係だなと悲しくて辛い。
友紀には、どうしても捨てられた子、母にも愛されなかった引け目があるから、また、拒否され、背を向けられるのが怖くて仕方ない。
今の距離は寂しく切なくなる時もあるけど、幸せでもあるから愁の気持ちを聞けない。
もしかして愁も友紀と同じ想いなのかと錯覚しそうな時もあるけど、一歩を踏み出す勇気が友紀にはまだまだだ。
『弟だとしか思えない。そんな風に俺の事見てたのか?』と言われ、冷たい視線を向けられたらと思うと怖くて仕方ないから。
愁に背を向けられたら友紀は生きていけないだろうと思う。
友紀にとって愁に嫌われる事は死を意味する事と同義だから。
友紀が施設を去る日がやって来た。
愁と愁のお父さんが車で迎えに来てくれた。
「シスター、友紀を今まで大切に育てて頂いてありがとうございます。これからは、私が責任を持って育てます。」
深々と頭を下げる愁のお父さん。
シスターと話す愁の父親をぼんやりと眺めていた。夢の様だと今だにふわふわした気持ちでいる。
ぼんやりと立つ友紀の頭を優しく撫でる大きな手、その手が、
「友紀、今日からよろしくな。」
握手を求めてきて嬉しくて涙が止まらない。
「友紀、これからはずっと一緒だから、もっと甘えてくれな。大好きだから一緒に暮らせて嬉しいよ。」
愁が泣いてグスグスと鼻を鳴らす友紀にハンカチで涙を拭い抱き締めてくれる。
僕はこの二人と家族になれる、なんて幸せな事なんだろう。
二人が自慢に思えるように頑張ろうと心に誓う。
新しい土地に車がどんどん近づいて行くと思うと、心がそわそわと不安と期待で友紀はより一層無口になっていく。
そんな友紀の肩を抱き締め、
「友紀、学校に一緒に行こうな。薫も待ってるぞ。」
薫も高校に合格して、友紀より先に大阪に着き、もう新しい家に住んでいる事を忘れていた。
「うん、ありがとう。薫兄のお家は近くなの?」
「自転車で5分ぐらいだから、近いな。荷物を片付けたら迎えに行こう。」
「迎えに行くの?何処かにその後行くの?」
「俺たちの家で合格祝いと歓迎会、親父と俺の手料理だけどな。」
運転席からは、
「俺の手料理だけで足らないようなら何か買ってこい。」
って心地よい低音が響く。
「おじさん、ありがとうございます。僕……。」
「友紀、ゆっくりでいいからな、父親みたいに思ってくれたら嬉しいよ。あんまり偉そうな事言えないがな、愁にばかり俺も甘えてる状態だからな。」
車の中、笑いが友紀の未来を色鮮やかなものにしてくれそうで涙が滲む。
「友紀は泣き虫だな。今日だけだからな、明日からは笑ってほしいな。」
友紀の笑顔が大好きなんだと愁は涙を拭ってくれる。
車は賑やかな中心地から離れ、緑の多い静かな町に入って行った。
駅を通り過ぎ少し走った所で車が止まった。
「着いたぞ、ここが今日から友紀の家だ。」
車から降りた友紀が目にしたのは、時代劇に出てくるような門扉。
「友紀、行くよ。」
愁が友紀の手を取り門扉を潜る。
二階建ての和風建物、その周りに小さな日本庭園、車庫、玄関までのアプローチには飛び石に玉砂利。
あまりにも立派な家にびっくりして動けないでいた。
車を車庫に納めた父が、
「どうした?」
「凄い……。」
「古いだけだ、親父、愁からしたら祖父だな、が死んで誰も住んでなかったから、最初は酷かったけどな。ちゃんとリホームしてやっと住めるようになったよ。友紀の部屋もその時にちゃんと作ったから、気に入ってくれるといいがな。」
そう言うと父は先に玄関に向かい扉を開け、
「友紀、ただいまだよ。」
愁が手を引いてくれる。
「ただいま…。」
二人は僕に微笑んで「おかえり」と言ってくれた。
今日だけで、友紀の涙は枯れてしまいそうだ。
外観は純和風だけど、中は今風にリホームされていた。
「友紀の部屋は二階だから、俺の部屋の隣。いつでも遊びに来ていいからな。」
家の奥から何かが飛び出してきた。
真っ黒の子犬。愁に飛びつき顔を舐めまくっている。
愁はわかったから、ステイと言っているが全然ダメだ。
「この子名前は?」
「犬」
「エッ、ウソ……可哀想だよ。」
「友紀、一緒に考えて。」
ケーキがあるから、食べながら考えようとリビングについていく。愁は、色々と名前を挙げたけど、悲しくなるほど酷い名前しか出てこない。
「真っ黒の体に真っ白の足、まるでブーツを履いてるみたいだね。」
「白黒だし、ゼブラなんてどうだ。」
ゼブラ、なんかかっこいいかも。
頷くと愁は、
「お前の名前はゼブラだ。俺と一緒に友紀を守るんだぞ。」
ゼブラと名付けられた子犬は、嬉しそうに友紀の膝に乗ってきた。
「可愛い、ゼブラよろしくね。」
一声鳴いて膝の上で尻尾を揺らしている。
僕の家族、もう一人で帰ってこない人を待たなくていいんだ。
段々と体が冷たくなってひとりぼっちで息をするのも辛くなる、もうあんな怖い思いは嫌だ。この幸せが消えないように、いつも笑顔でいられる様に、愛される事が叶わないとしても今度は、護られるばかりでなく、家族を、大切な人達を護れるように強くなろう。
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