冥代文献

宮㠘 艮

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これが冥代文献・・・

「はい。

現存する冥代文献写本はこの三巻のみの筈です。
地の巻は私が現役時代にボストン公共図書館から。
天の巻と人の巻はバチカン図書館から同僚が持ち出したものです。」

確か、海軍閏島(うりゅうじま)学校・・・の出身でしたね?
つまりこれだけ膨大な史料を記憶術のみで・・・

「はい、そうです。
要するにスパイ、謀略組織ですね。」

自身を閏島学校の出身と言う高原老人は百歳を優に越えた老齢とは思えぬ滑舌の良い受け答えをしてくれた。

あの神社にあった冥代文献原典は廃仏毀釈の時に焚書されてしまった筈ですよ。


「ええ、大部分はあの神主の手による贋作です。
だって彼自身が焚書に荷担していた訳ですからね。」

そう。彼がとんでもない過ちに気付いたのは何と昭和になってからだった。

「はい、わずかに残っていた口伝を参考に『高志古伝(こしこでん)』や『毛人国風土記(もうじんこくふどき)』『紋田家文書(もんだけもんじょ)』等といった先行する様々な偽書を剽窃しながら創作された物です。
帝大は騙せても我々の目を欺く事は出来ない。」

これをどうする気ですか?

「・・・私は元来、超古代文明と言うものの実在を全く信じてはいませんでした。
我々の冥代教への潜入捜査もあくまで主義者の教団への浸透工作の兆候を察知したからです。」

・・・

「私は霊質文明(アトランティス・サイド)の産み出した精神感応文字(ペトログリフ・ホーミー)による人類奴隷化を試みる者達を許すつもりはありません。」

しかし、あくまで仮の話ですがもしも冥代文献ですら偽書であったとしたら?
精神感応文字の脅威は別にして貴方は冥代文献を何故そこまでしてまで守って来たのですか?

「・・・」


「成る程・・・貴方方はもうそこまで掴んでいるのですか。
これは、あくまで私の推測なのですが・・・」

聞かせて下さい。

「・・・エイリアン達にとっては最初から地球人によって偽書が捏造される事すら折込み済みの計画だったのでしょう。」

は!

「タイムマシンによる未来予知によって・・・精神感応文字が偽造される事すらも彼等は知っていた。」

「冥代文献写本と本来この世に存在しない筈の冥代文献原典を読み比べてみました。」

そんな!一体どうやって?

「霊媒体質の同僚が居ましてね。
卑弥呼の居た時代にまで霊体をタイムトラベルさせ彼女達に直接話を聞いたそうです。
彼は任務を成功させた直後に絶命してしまいましたが・・・」


・・・ゴクリ

「物質文明(アース・サイド)の為政者によってどれ程内容を焚書されようとも改竄されようとも・・・"それ"を"文字そのもの"が覚えている。
あの冥代教の巫女の様な強大な霊媒者にとっては全てが一目瞭然なのでしょう。
ベートーベンの名曲の音符を例えたった一つでも消してしまえば世界中の音楽家にそれはすぐにバレてしまう。
分かりやすく言うならば文字の形状記憶合金ですな。」

!?

文体が・・・・その記述が真実でなければ、それを読む者にとって非常な不快感を与える構造になっている文字・・・美を求める者が居る限り絶対に消滅する事が無い・・・むしろ改竄されたテキストが広められる事を前提に・・・

「歴史とは実に皮肉なものです。
我々、物質文明が霊質文明の兵器を自分達でわざわざ暗号化し後生大事に守っていた訳ですからね。」



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