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12,ご褒美

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 勉強は難しい。
 僕の高校が結構ブランドのある、学力高めの学校だから高度な内容をやらされるのもそうなのだけど、そもそも僕がそれほど勉強が得意でないことの方が大きいと思う。
 偏差値の高い高校で平均点を取ることが出来る程度の能力はあるけれど、周囲はそれ以上の人ばかりなのだから結果的に低くなる。
 それに応じて課題の難易度も上がるわけで、その為僕は、夏休みの課題に唸っていた。
 机に齧りついて、教科書や参考書を開いて頭を捻る。
 いい加減受験も考えなくてはいけない時期なので、こういう勉強はさっさと片付けなくてはいけない。
 実のところ既に課題は終わりそうではあったのだけど、昨日の白石さんの告白で集中出来なかった。
 情けない話だけど。

「恋愛に興じてる暇なんてないよなぁ……」

 夏休みも既に三分の一程度過ぎている。受験勉強自体はしているのだけど、本腰をそろそろ入れなくてはいけないな。
 白石さんも、今頃勉強している頃なのだろうか。
 まあ、しているよな。優等生だし。
 机に置いたデジタル時計の時刻を見ると、十三時に差し掛かる辺りだった。
 この時刻だとかなり部屋は暑くなる。クーラーは付けているのだけど、正直温いし汗ばんでくる。
 しばらくは我慢して勉強していたけど、やがて気分転換と称してスマホを弄りだした。
 駄目な奴だなと自嘲しつつ、ツイッターを開く。
 タイムラインには僕のフォローしているアカウントの呟きがズラリと並べられていた。
 白石さんの最後の呟きは、十一時間前。
「おやすみなさい」という一言だった。

「……連絡してみようかな」

 勉強しているとしたら邪魔かなと思いつつ、ラインを起動して「今何してる?」と訊いてみる。
 数分すると既読が付いて、彼女からの返事が来た。

『勉強中。朝起きてからずっと机の前』
『ああ、じゃあごめん。邪魔した』
『別に良いよ。そろそろ休憩取ろうと思ってた所だし。倉部くんはちゃんと勉強してるの?』
『してる』
『本当に? 課題くらいは終わらせてるよね?』
『……終わってないです。今やってるところ』
『どの程度終わらせてる? 最低九割は終わらせて無いと駄目だからね?』
『うん。九割くらいは終わってる。受験勉強もたまにしているけど』
『それならいいけど……でもね? 受験勉強は二年の夏が天王山だから』
『分かってる。ちゃんとやるよ』

 勉強はしていることはしているのだけど、正直集中出来ないのが本音だった。
 元々僕は勉強が得意ではないのもそうだし、昨夜の告白もあってぼぅっとしてしまう。

『……心配だなぁ。私が勉強見てあげようか?』
『え、いいの?』

 白石さんの提案はありがたかった。
 学力の高い人に教授してもらえるのは素直に助かる
 それに、彼女と少しでも長い時間過ごしたかったから。
 けれど、僕の勉強に付き合って自分の学習が疎かにならないか不安だったので、念のために僕は訊く。

『白石さんも勉強しなくちゃいけないんでしょ? 無理しなくても大丈夫だよ』
『一人に勉強教えるくらい別に変わらない。私の知識の再確認もしたいしね』
『じゃあ、教えて欲しい』
『区立図書館は分かる? そこで待ち合わせて勉強するってことで。涼しいし』
『分かった。今から?』
『倉部くんが大丈夫なら、今から向かう』

 僕は問題ない。
 約束が成立し、僕は荷物を鞄に纏めて家を出て、自転車に乗って図書館に向かった。

***

 駐輪所に自転車を停め、出入り口の自動ドアを通って館内に入る。
 入った途端に冷房の涼しさが身体を包み込み、心地良さで溢れかえる。
 中は図書館と聞けば万人が思い浮かべるような、ごく普通の内装だった。
 白石さんは既に到着していて、入り口付近の書棚の傍で本を立ち読みしていた。
 僕が話しかけると、「来た来た」と言いながら本を戻す。
 彼女はシャツと黒いパンツスタイルの格好をしていた。上品さと同時に機能性も重視したその服装。
 色味や装飾を抑えた着こなしは、どこか知的な雰囲気を湛えた彼女に似合っていた。
 足元に置かれた結構大容量なトートバッグを手に取ると、「二階の学習室に行こうか」と彼女は言う。
 彼女に連れられて階段を上がり、件の学習室へと入る。
 広々とした空間には机と椅子が大量に配置されていた。
 一つの机につき四つの椅子が並べられていて、何人もの人が既に利用していた。
 本を読んだり、勉強したりしていて、皆集中している。

「そこの番号が書かれたカードを取って。座席の番号が書かれてるから」
「うん」

 僕らはカードを取り、その番号の書かれた席に移動する。
 連番なのだから当然だけど、僕と白石さんは同じ机だった。というか、そうでなくては困る。
 僕らは隣り合って座ると、筆記用具や教材を机の上に置く。

「さて」

 白石さんがかしこまったように言う。他の利用者がいる空間だから、控えめな声量だった。

「倉部くんはどれくらい課題が出来てるか、見てあげる」
「……量は進んでるけど、あんまり正解はしてないんだ。今の内に告白しておく」
「大丈夫。教えがいがあるし」

 そう言って、僕から受け取った課題のノートをパラパラと捲っていく。
 しばらくそうして確認していたけど、段々微妙そうな表情に変わっていった。

「……悪くはないけど良くもないね……正解してる問題は思ったよりは多いけど、けど間違えてる問題は『どうしてこうなったの?』って言いたくなるものも多い』
「……駄目、だよね……」
「でも地頭の良さも見えてくる。考え方は間違ってないけど、解き方がおかしいんだよね。間違えてる問題は。ちゃんと授業聞いてれば、こういう間違えはしないはずって解答が多いかな」

 痛い。
 学校では真面目系を装っているけど、実のところ授業は上の空のことも多い。アニメや漫画の続きが頭に浮かんでいて、授業を聞いているようで聞いていない。
 一応帰ったら復習はしているのだけど、一時間程度の学習じゃ大した向上は見込めない。
 白石さんにはお見通しのようだった。

「壊滅的なの危惧してたけど、倉部くんはちゃんと教われば出来るようになると思う。勉強する機会に恵まれてなかったのかな。倉部くんは」

 ノートをぱたんと閉じて、白石さんは顎に手を当てる。
 どう教えればいいのか、分析しているらしい。

「……よし。基礎からやりましょう。土台の知識を固めていけば、どの解き方が正しいのかも理解できてくるはず」
「……頑張るよ」
「ビシバシ行くからね?」

 白石さんはトートバッグの中身を僕に見せる。そこには大量の参考書が詰め込まれていて、僕は少しクラりとした。

***

「……はい。今日はここまで。お疲れ様でした」

 白石さんからの言葉に、僕はふぅと息を付く。
 勉強開始から五時間が経過していて、僕はクタクタだった。

「倉部くん、結構出来るようになったね」
「白石さんの教え方が上手かったからだよ」

 本音だった。
 彼女の教え方は非常に的確で、難しい内容もかなり噛み砕いて教えてくれた。
 乾いたスポンジのような僕の脳みそが、急激に知識を吸収して重くなった気がする。
 白石さんから教わったのは数学だったけど、その一つの教科を教えてもらっただけでも彼女の該博さが窺えた。
「それはこっちの参考書の方が分かりやすい」「その解き方よりもこの考え方を使う方が良い」「確率漸化式は例えばイメージするなら……」
 彼女の教え方は僕の凝り固まった頭を少しずつ解していくやり方だった。
 少しヒントを与えて考えさせ、閃きを与えてその経験を噛み締めさせる。
 一種の快楽を感じさせることによって意欲を与え、脳内にも定着させてくるやり方。
 僕が中々上手く解けなくても、焦ることなく、苛立つ素振りすら見せず、ゆっくりと進めてくれた。

「白石さん、ありがとうね。頭が良くなった気がする」
「気がする。じゃ駄目だからね? 帰ったら復習すること」
「うん。そうするよ」
「しかし私も意外と分かってないことが実感できたなぁ。他人に勉強を教えるには自分はその三倍理解していないといけないって聞いたことがあるけど、自分の非力さを感じた」
「またまたぁ」

 彼女の使っているノートを見せてもらっただけで、その博雅を実感させられた。
 学年トップを維持しているだけあるなと思う。

「明日もやるけど、いい?」
「明日も?」
「倉部くんには、まだ教えるべきことが色々あると思った。私自身も自分の学力の確認したいし、他の教科もやるべきだと思うしね」
「……うん。明日もよろしく」

 普段だったら断っていたかもしれない。白石さん以外の人だったら断っていたかもしれない。
 でも、少しでも白石さんと一緒に過ごしたくて、僕は明日の勉強も了承した。

「じゃ、明日もよろしく。暑さには気をつけてね」
「白石さんこそ」

 僕らは荷物を纏めて図書館を出る。
 周囲にある木は図書館の建物のすぐ手前の大きな樹木だけだけど、蝉の鳴き声が降り注いで建物の間で反響していた。
 夏の夕方。まだ明るいけれど、空の青さが透き通って夜に近づいていく、そんな時間帯。

「今日はもう遅くなりそうだし、これでお開きかな」

 白石さんがそう言う。
 正直僕は、ちょっぴり「そういうこと」も期待していたのだけど、門限というものもあるので我慢する。

「倉部くん、ご褒美期待してたでしょ」
「え」
「顔に出てるけど」
「……お見通しなんだね」
「風紀委員に隠しごとは出来ないよ?」

 彼女には敵わない。

「でもまあ……勉強やり遂げたら、やってあげてもいいよ」
「本当?」
「分かりやすいなぁ。すぐ食いつくんだから。男子って単純だよね」
「ごめん。男ってそういう生き物だから」
「風紀委員やってるとよく分かる。まあ、倉部くんを馬鹿にするとかそういうつもりは無いから。……ご褒美、欲しい?」
「……いらないと言ったら、嘘になるかな」
「じゃあ、ちゃんと勉強しなくちゃね」
「……念のために訊いておくけど、ご褒美ってのはセッ……」
「口に出さなくていい」

 彼女の白い頬が、朱色に染まったのが分かった。

***

 それから僕らは十日ほど図書館に通い続けた。
 国語、数学、英語、社会、物理と色々な科目を彼女から学んだ。
 そのどれにおいても彼女は潤沢な教養を持って、惜しげもなく僕にその知識を授けてくれた。
 十日目の夕方。
 いつもより少しだけ早い時刻。
 僕らは図書館から出て来て、背筋を伸ばして勉強の疲れを取ろうとする。

「終わったぁ。よく頑張ったね。倉部くん」
「いやぁ……自分を褒めてやりたい」

 毎日午前九時から午後六時まで、お昼休憩を除けばずっと僕らは勉強していた。
 時間も長いし内容も濃い。
 白石さんは「優しいスパルタ」だったなと思いながら、肩をグルグル回す。

「もう少し長い期間勉強しようと思ったけど、後半になるとかなり倉部くんは頭良くなってたから、もう大丈夫だと思う。今日で終わりかな。……でも、勉強は続けてね」
「ああ……勿論」
「……ご褒美って約束したよね。ジュースでも奢ってあげようか?」
「いや、あのさ……」
「冗談。……シたいんだよね。分かってる。私も久しぶりにやりたいしね。ゴムはあるよね?」
「ちゃんと用意してある。……今回は生じゃないんだね」
「流石に何度もってのは覚悟いるから……妊娠したら本当に困ったことになっちゃうしね」
「まあ、そうだよね。僕も白石さんのこと、大切にしたいし」
「優しいね。そこの公園のトイレ、行こうか」

 彼女に手招きされ、僕はそちらの方向へと向かった。

***

 その公園は以前利用したのとは違う場所だった。
 遊具も広さもあるし、中々良く手入れが行き届いていた。
 暑いので人の姿は疎らだった。親子が数名、砂場やブランコで遊んでいるのが見える。

「見つからないように、そこのトイレを使うか」

 僕は手ごろな場所にあった公衆トイレを指差す。
 木々の陰に若干隠れて、目立ちづらい場所に設置されたトイレ。

「元々この公園にはそれしかトイレは無いからね。……倉部くんは、男子と女子のどっち使いたい?」
「……どっちでもいいけど、じゃあ、男子」
「分かった。中に誰もいないか確かめてきて。いきなり私が入って人がいたら、面倒なことになるし」
「いいよ。見てくる」

 僕は男子トイレに入り、ざっと中を確認する。
 利用者は誰もいなかった。少し外に出て、白石さんにそのことを告げる。
 彼女は周りを気にしながら男子トイレに入ってきた。
 個室に二人で入り、鍵を掛ける。
 便器の形は洋式だった。

「……どんな体位するの? 白石さんは提案とかある?」
「……対面座位したいかな。洋式で、座れるし」
「分かった。服脱ごうか」

 僕らは下半身を露出させはじめる。まだ羞恥心とかはあるにはあるのだけど、何度も性行為を重ねた関係なので、それは初期の頃よりはずっと薄まっている。
「あんまりジロジロ見ないでね?」と白石さんは言うけど、これから本番をする以上、極度に気にしているわけでもないらしかった。

 僕はゴムを箱から取り出すと、ピッと包装を破いてそれを自分の性器に装着する。

「先に濡らした方がいいよね」
「まあ、女の子としてはその方がいいけど」

 本番を始める前に愛撫をすることにした。
 立った彼女の下半身の前に僕は腰を下ろす。彼女のスリットが眼前に見えて、色気のある芳香も感じられた。

「触るよ」
「……うん」

 許可を貰った僕は、人差し指と親指を使ってその淫靡な裂け目を開く。
 くぱっと軽い音を立てて、彼女の内側が暴かれた。
 薄桃色の柔らかそうな肉。実際柔らかいのは経験済みだけど。
 微かに蜜に濡れて、てらてらと光っていた。
 その肉に直接触れてみると、彼女の身体がぴくんと震える。
 ひくひくと疼いているのが、指の腹に伝わってくる。

「っ……丁寧に扱ってよね……? デリケートな部分なんだから」
「指、入れてもいい?」
「この前痴態見せちゃったしなぁ。それ以外で」
「じゃあ、舐めてもいいかな」
「はぁ!? 汚くないのっ?」
「白石さんのなら、平気だから」

 うぅーと彼女は唸っていた。
 流石にまずいこと提案しちゃったかなと思ったけど、彼女の答えはこうだった。

「恥ずかしいけど、サービス。……こんなこと、倉部くん以外にはしないんだからね?」
「ありがとう」

 僕はそういうと、そのつるつるとした一本の線に向かって舌を伸ばす。
 彼女の肌は舌で触れると溶けてしまいそうなくらい柔らかかった。
 指で抉じ開けている彼女の外唇の向こう側に触れると、ねっとりととろみを帯びた柔肉があった。
 蜜を湛えた粘膜を舌先で弄る。

「あっ、んぁっ……ひぅっ……」

 白石さんの声は困惑混じりだったが、その声音には快美の色も混じっている。
 しばらくそうやって彼女の中を弄んでいたけど、舌を一旦引き戻して、彼女の顔を見上げた。
 白石さんの表情は目尻が下がって情惑的で、色気のにじみ出るものに変わっていた。
 目を再び下半身に戻すと、彼女の秘唇の上には先の丸まった突起が見える。
 クリトリス。花の種のように膨らんだその部位。
 その部分を舌で一撫ですると、白石さんは風を切るような鋭い声を発する。

「ひゃぁっ! 倉部くんっ」
「人、来ちゃうよ」
「そうだけど……君、本当に意地悪だよね」

 小さな尖りを押して、捏ねて、こりこりと刺激する。
 その鋭敏な突端はそうしていると、少しその膨らみを増したような気がした。
 蕾を弄ると、彼女の内側からは銀水が分泌され、濡れて、僕の舌に広がっていく。
 塩気のあるけど、どこか甘い体液。

「もうっ。もういいからっ。十分濡れたからっ」
「分かった。止める」
「変態。責任取ってよね?」

 その声や表情には本気で蔑む色は帯びていなかった。

「ほら、便器に座って。私がその上に跨るから」
「ああ」

 下半身を露出させた状態で、僕は便器に座る。
 僕の性器は恥ずかしくなるほど強く持ち上がっていて、上から来るものを貫きそうなほど硬かった。

「じゃあ、挿れるから」

 白石さんはそういうと、僕の欲望の上にゆっくりと腰を落としていく。
 ゴム越しに性器と性器が触れ合って、少しずつ僕は飲み込まれていく。
 避妊具をつけていても彼女の中は熱かった。
 やがて根元まで、僕のペニスは彼女の中に飲み込まれる。
 狭い膣が僕のことを締め付けて、搾り取ろうとして、圧迫してくる。

「なんかこの体位……お腹の奥に君のが収まってるんだって感じが強くて……」
「強くて?」
「……教えない」

 興奮するの? と訊くのはやめておいた。

「じゃあ、動くから」
「お願い」

 白石さんは腰を振り始める。上下に揺すると摩擦で僕らの肉が擦れあい、官能的な刺激が身体に巡り始める。

「っ……お腹の中っ圧迫されてっ……」
「痛い?」
「痛みは、殆ど無いけど……」

 僕らは僅かな隙間も許さぬほどに密着していた。
 僕と繋がる白石さんの目はトロンと蕩け、どこか情欲的な表情になっている。

「んっ……あんっ……く……あぐっ!」
「もうちょっと声抑えて。人が来たらマズいから」
「じゃあっ、キスっ。声抑えるためにキスっ」
「分かった」

 白石さんが僕に身体を寄せてくる。
 その腕で僕の胴を抱くと、柔らかい全身を身体に感じた。
 僕も抱擁を返す。熱い。火照っている。
 ちゅっ、ちゅっ、と何度か僕らは唇を重ねると、舌を絡ませて内側を確かめていく。
 唇を塞ぐと、彼女が声を堪えるのを手助けすることが出来た。
 黙って白石さんのことを感じる。
 口も性器も繋がったまま、彼女に極限まで密着する。
 そうしていると、物理的にだけではなくて、心も繋がっていくようで、それが何ともくすぐったい。
 服越しに触れる彼女の肌は、健康的に張りがあって、指を押し返す引きしまった肉付きをしていた。
 力を強めたら折れてしまうのではと思える細身。
 彼女を大切にするように、労わりながら抱きしめる。
 白石さんもそれに答えるように、僕に腕を絡み付けてきた。逃がさないと言いたげに。
 彼女の中はきゅんきゅんと疼いていて、何か少し刺激を与えれば決壊したダムのようにあふれ出しそうだった。
 好き。好き。気持ちいいよ。
 彼女の抱擁は僕に無言でそう告げているようで、愛おしくなってくる。
 僕らはお互い求め合って、腰を使って愛し合って、快楽の渦に溺れていく。
 膣はきゅっと締まって、僕のことを離そうとしないかのようだった。
 互いに高ぶっていく。
 絶頂の予感が近づいてくる。

「白石さんっ……出るっ……」
「出してっ……! ゴム付いてるから、ね……?」

 僕は彼女のことを更に強く抱きしめる。それと同時に、彼女の膣奥へと精液が迸った。
 薄い、本当に薄いゴム。0.01mmの壁に阻まれて僕の精子はその本懐を遂げることなく避妊具の中に吐き出される。

「あああああっ……っ♡ あっ、んぁっ♡」

 射精と言う刺激を与えた途端、彼女も達した。
 粘り気のある液体が接合部から溢れ、僕の腿を静かに濡らす。
 吐精の衝撃に目の前がチカチカと白く点滅して、搾り取られているんだなとぼんやりと思った。

***

 射精が終わり、個室には僕らの荒い息が響く。
 誰かがトイレを利用していたらまずいよなと思いながら息を堪えようとするけど、暑い中での性交の体力消耗とは案外馬鹿にならず、息を整えるのには時間が必要だった。

「はぁ……っ、はあぁ……っ」
「はぁっ……お腹の中熱い……」

 繋がったまま、向かい合ったまま、僕らは微笑みあう。
 獣のようにお互いを求め合って、貪るようで、本当にセフレって感じがした。

「私はそろそろ腰退かした方がいいよね。引き抜かないと」
「僕はもう少し白石さんと繋がっていたいな」
「私もそうだけど、ゴムって避妊率百パーセントじゃないから。精液が漏れちゃうかもしれないし、もう抜いとく」
「そっか。そうしよう」

 彼女が腰を持ち上げ、僕の性器が露になる。
 縮んで小さくなったペニスの先端には、しっかりと役目を果たしたゴムが付いていた。

「帰りにコンビニのゴミ箱にでも捨ててくるよ。僕が処理するから」
「じゃあ、よろしく」

 僕らはウェットティッシュで下半身を拭いて、消臭スプレーを身体に塗す。
 その後服を着て、とりあえずは元に戻った。
 僕が先に個室から出て、辺りを窺う。
 トイレには利用者は僕らの他には誰もいなかった。個室にいる白石さんにそのことを伝え、外に出る。
 景色はその薄暗さを増し、夜の帳が下りてきそうな時刻になっていた。
 公園から出て図書館にある駐輪所まで二人で歩く。停めてある自分の自転車に僕らは乗ると、出入り口付近でお互いに近づいて言葉を交わす。

「勉強教えてくれてありがとう」
「どういたしまして。倉部くんがどの大学受験するのかは知らないけど、ちゃんと勉強は継続してね?」
「ああ。頑張るよ。……それと……」
「それと?」
「『ご褒美』、気持ちよかった」
「っ……誰が聞いてるかも分からないんだから言わないっ」

 怒られた。

「じゃ、また今度ね。倉部くん」
「うん。花火大会かな。たぶん次に会えるのは」
「そうだね。勉強忙しくなるかもだし」
「楽しみにしておく。……後何回こうしていられるか、分からないし」
「そうだね……まあ、倉部くんなら私なんかよりずっといい子は見つかるよ」

 そうだろうか。
 彼女に代わる人が、僕の前に現れるとも思えなかった。
 初恋はいつだって特別だ。
 彼女以上に僕と気があう人は、いるのかな。

「……ま、しんみりしてても仕方ないよ。私もあっちにいっても頑張るからさ」
「転校先でも風紀委員はやるの?」
「やる」

 即答。

「弱み握られないように気をつけてね。女子高だからって油断しちゃ駄目だよ。というかむしろ女子の方が怖いと思う」
「気をつける。女子って男子の目が無いと結構自由奔放だから、仕事も多くなりそう。まあ、頑張るから。……長話しちゃったね。じゃ、また」
「ああ。またね」

 僕らは地面を蹴って自転車を動かし、図書館の敷地の外へと出る。
 そのまま僕らは別々の方向へと進み、帰路に着くのだった。
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