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おやゆび姫
アンネリーゼの現況
しおりを挟む「リードという男の子と友達になった、リセはそう言っていたね?」
「……えぇ、そうね。そして思い出したのはそこまでよ。それから私は夢を見なくなった……」
「リードはね、リードは我が国の王太子、ジークフリード殿下だ。そしてリセは」「ま、まさかっ!」
話の途中だったけれど私は思わず立ち上がって両手で口を覆った。
「まさか私……王太子妃の候補に上がったの?」
デボラさんに打ち明けられなかった理由のもう一つ、それは薄々リードの正体に薄々感付いていたからで……
だってあの神々しさすら感じる見目麗しい少年がお城の図書館でウロウロしているんだもの、純真無垢な12歳のアンネリーゼちゃんならまだしも私はいやーな予感がしていたんだ。ううん、アンネリーゼだって違和感はあったのだ。だから『本当の名前は?』って聞いてみたんだもの。
しかしヤツめはほんの小僧の分際でフフっとやたらセクシーに笑い『どうしてそんなことを聞くの?』って逆に聞き返して来やがって……。アンネリーゼは何だか自分がいけない事をしてしまったような気がして『ごめんなさい』って謝ったのだ。
アンネリーゼちゃんは何も悪くなんか無いのによ?
あやつめ、名を名乗らぬとは卑怯なり!何がリードだ。ジークフリード……いかにもなザ・王子様ネームではないですの!アンネリーゼが『王子様みたい……』って思った筈だ。正真正銘の王子様だったんだから。
両親が貴族社会での権力に興味がないからと油断してはならなかった。伯爵令嬢のアンネリーゼは分類上王太子妃の有資格者なのだ。ただあの夫婦は大それた野心を抱くよりも養蜂と関連の事業に夢中になって引っ込み思案な娘を売り込もうなんて夢にも思っていなかっただけで。相手側に目を付けられピックアップされる事だってなきにしもあらずだったんだろう。
驚きから一転、まんまと騙された憤りに震え思わず何の非もない兄さまを睨むと、兄さまはすいっと目を反らした。
でも何だかおかしい。兄さま、どうしてそんなに気まずそうなのよ?
「……ね、どうなの?候補に上がって他の候補者から嫌がらせでもされていたの?」
「……いや……公になった時には……候補じゃなくて確定だったから……」
「ヒャクっ!?」
自分の口から発せられたとは思えないおかしな風切り音がしたがそんなのはどうでもいい。確定って……確定ってことは……。
「私……リードと婚約しているの?」
「正しくは……していた……だ」
そっぽを向いてポツリと言った兄さまはぐっと唇を噛んでいた。つまりそれは……
「私、婚約破棄されたのね?」
身体中の力が抜けた私はどさりと腰を降ろした。婚約破棄か。アンネリーゼは辛かっただろうね?何もかも忘れて思い出したくないのも良くわかる。一度は信じて永遠を誓った人から裏切られるのがどんなに苦しいか、私は身をもって知ったのだもの。
と思いつつも何だろう?何だかしっくりこないこの感じは?いくら記憶を封印したからといってもアンネリーゼはリードが嫌いだった訳じゃない。初めの頃はぎこちなかったけれども何時しか人見知りのアンネリーゼも優しいリードとは楽しく語り合えるようになっていた。
そんなリードとの婚約破棄なのにどうして私はこんなにもホッとしたのかしら?
「リセ……。婚約していた……というのはそうじゃなくて……」
一人であれこれ考えてつい放置していた兄さまが躊躇しながら話しかけてきた。そしてきょとんと見返す私に深い溜め息を付いてからまた言葉を続ける。
「リセ……今のお前はジークフリード王太子殿下の婚約者じゃない」
私はからくりのお人形みたいに機械的にこっくり首を振った。
「リセ……今のお前は…………王太子妃だ」
「………………はい?」
今度はからくりのお人形みたいに瞼がぱちりと動き、それから極限まで見開かれそのまま動かなくなった。
「…………王太子……妃に……既に……なってるってこと……かしら?」
兄さまもからくり人形的に頷く。流石は兄妹。動きのタイミングもスピードもそっくり瓜二つ……なんてことに感心している場合じゃない!
「ヒャクっ!?」
またしても風切り音が鳴り響いたがやっぱりそれはどうでも良い。
「ウソよね?…………だって……私は今17だって……それなのに……それなのに王太子妃って……」
マリーアントワネットの輿入れは16歳、エリザベートもそうだったかな?ん?女帝エカテリーナもそのくらい?だけどやっぱり結婚するのは早すぎる。だってアンネリーゼの知るこの国の女性達はそんなに早婚ではない。確かに子どものうちから、なんなら生まれた時からの許嫁がいる場合は有るけれど実際に結婚するのはそんなに早くはないはずだ。
兄さまは喘ぐように声を絞り出す私の肩に両手を乗せた。私の慟哭が思っていたよりももっと酷く宥めなければと慌てたんだろう。ぐっと込められた力に思わず呻いた私に驚いてごめんごめんと泣きそうな顔をしている。
「だ、大丈夫。……それよりも教えてよ?どうしてそんなことになったの?一体何時王太子妃になんて」「リセが14歳の時だ!」
私の言葉を遮って兄さまは吐き捨てるように言った。
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