【R18】定時過ぎたら下克上!〜イケメン新入社員はバリキャリ女子を溺愛したい〜

染野

文字の大きさ
13 / 54

13.スランプと成長期②

しおりを挟む
 慌ただしく昼食を食べ終えオフィスに戻ると、立岡が何やら神妙な面持ちで岩村に話しかけていた。その手にはもうすぐ発売されるパウダーチークの試作品が握られている。

「ただいま戻りましたー。立岡くん、どうかしたの?」
「あっ……中里先輩、その」

 明希の姿に気付いた立岡は、なぜか気まずそうに眉を下げた。何かやらかしたのか、と今度は岩村の方に目を向けると、普段より数段低い声で問いかけられる。

「おい、中里ぉ。この商品のラベルシール、発注したのお前だよな?」
「え……は、はい、そうですけど」
「立岡が確認して気付いたらしいんだが、サイズが合ってないんだと。この発注書に書いてあるサイズ通りだと、思いっきりはみ出しちまうぞ」
「えっ……!?」

 ひったくるように岩村から発注書を受け取って、明希は自分が書いた内容を確認する。そして、岩村の言った通りシールのサイズが大きすぎることに気付いて、一瞬にして顔が真っ青になった。

「やばいっ、こ、工場に連絡しないと……!」
「……はあ。大丈夫だ、俺がもう電話した。幸い、刷り始めたばかりだったからやり直しはきくってよ」
「え……す、すみません!」

 慌てて頭を下げたけれど、岩村は呆れた表情でそんな明希を見つめているだけだ。岩村が本気で怒っていることを察して、明希の心臓がばくばくと大きく鳴った。

「お前がここに配属されてから、何回も言ってきたよな? 失敗はしてもいいが、手抜きはするなって。お前、この発注書見直したか?」
「み、見直した、つもりでした……」
「ほお? それじゃあ、どうして立岡に確認させなかった? 立岡の指導もお前の仕事のうちなんだから、お前がやってる仕事は全部立岡にも確認させろって言ったよな。立岡は、この発注書をさっき初めて見たらしいが」
「そ、それは……じ、時間がなくて」

 言い訳がましく言うと、岩村は鋭い視線を明希に向けたまま大きく嘆息した。
 忙しい時こそ確認を怠るなと、これまで岩村に何度も言われてきた。それなのに、立岡に発注書の内容を説明するのを面倒がって怠ってしまったのだ。

「いいか、新人じゃあるまいしわざわざ怒鳴ってやらないぞ。あとは自分で考えろ」
「は、い……すみませんでした」

 がっくりと肩を落とす明希を一瞥して、岩村は自分のデスクへと戻って行った。
 明希はとぼとぼとデスクに戻り、発注書を作り直そうとパソコンを立ち上げた。

「あの、中里先輩……? 僕、代わりにやりましょうか?」

 険しい表情で画面を見つめる明希に、立岡が心配そうに声をかけてくる。明希には他にも急ぎの仕事があることを分かっているからこその発言だったのだろうが、今の明希は立岡のその優しさを素直に受け取れなかった。

「ううん、いい。これくらい自分でできるから」

 自分で思ったよりもずっとそっけない言い方になってしまって、明希はまた自己嫌悪に陥る。これではまるで、立岡に八つ当たりしているみたいだ。
 立岡は、それ以上何も言わなかった。ただ黙って明希の元から去り、机に山積みになったサンプルとリストを一つずつ丁寧に確認している。
 立岡に謝らないと、と内心では思っていても、今は少しでも早く発注書を作り直して工場に送らなければならない。間違っていたサイズの部分を修正してから、明希はすぐさまそれをプリントアウトした。

「……おい、中里。それ、見せてみろ」
「えっ……は、はい」

 コピー機の前に立っていた明希に、岩村が低い声で命令する。コピー機から吐き出された発注書を恐る恐る岩村に手渡すと、彼はそれにさっと目を通してから、サンプル整理をしていた立岡を呼びつけた。

「立岡。これ、間違ってないか確認しろ」
「えっ……、あの、大丈夫です! サイズはちゃんと修正して……!」
「中里は黙ってろ」

 ぴしゃりと言葉を遮られ、明希は不本意ながらも口を閉ざした。
 立岡はそんな明希をまた心配そうな眼差しで窺ってから、発注書を受け取って目を通す。そして、ふっと眉をひそめたかと思うと、自分のデスクに置いてあったパソコンを操作してその画面と発注書を何度も見比べた。

「あ……やっぱり。これ、原料の部分が違ってます」
「えっ!? ど、どういうこと?」
「あの、少し前に表示名称の変更がありましたよね? その部分が、以前のままになってます。たぶんこれ、修正前のラベル案なんじゃ……」

 遠慮がちに指摘した立岡を押し退けて、明希も発注書と画面に表示されたラベル案を見比べる。立岡の言った通り、修正される前の案のまま発注書を作ってしまっていた。

「……中里」
「は……はい」

 振り返ると、岩村が明希を見据えながら仁王立ちしていた。新人の頃何度も見たその光景に、明希は思わず息を詰める。

「こんの、バカタレ!! 危うく二度も刷り直しさせるところだったぞ!」
「はっ……はい、すみませ」
「俺に謝ってどうすんだ! いいか、もう一度だけ言うぞ。失敗はしてもいいが、手抜きだけはすんな! それに、つまらねえ意地に周りを巻き込むな! いいな、分かったか!?」
「は、はい……」

 三課の面々だけでなく、通りがかった他の部署の社員まで何事かとこちらを窺っているのが分かる。情けなさと恥ずかしさで、明希の顔は真っ赤に染まった。
 そんな明希に追い打ちをかけるように、岩村は厳しい表情のまま言い放つ。

「今のお前と比べたら、立岡の方がよっぽど役に立つぞ。営業とアシスタント、交代したらどうだ?」

 それだけ言うと、岩村は鞄を手にとって三課を後にする。
 岩村がいなくなってからも、明希はその場で俯いたまましばらく動くことができなかった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

会社のイケメン先輩がなぜか夜な夜な私のアパートにやって来る件について(※付き合っていません)

久留茶
恋愛
地味で陰キャでぽっちゃり体型の小森菜乃(24)は、会社の飲み会で女子一番人気のイケメン社員・五十嵐大和(26)を、ひょんなことから自分のアパートに泊めることに。 しかし五十嵐は表の顔とは別に、腹黒でひと癖もふた癖もある男だった。 「お前は俺の恋愛対象外。ヤル気も全く起きない安全地帯」 ――酷い言葉に、菜乃は呆然。二度と関わるまいと決める。 なのに、それを境に彼は夜な夜な菜乃のもとへ現れるようになり……? 溺愛×性格に難ありの執着男子 × 冴えない自分から変身する健気ヒロイン。 王道と刺激が詰まったオフィスラブコメディ! *全28話完結 *辛口で過激な発言あり。苦手な方はご注意ください。 *他誌にも掲載中です。

恋は襟を正してから-鬼上司の不器用な愛-

プリオネ
恋愛
 せっかくホワイト企業に転職したのに、配属先は「漆黒」と噂される第一営業所だった芦尾梨子。待ち受けていたのは、大勢の前で怒鳴りつけてくるような鬼上司、獄谷衿。だが梨子には、前職で培ったパワハラ耐性と、ある"処世術"があった。2つの武器を手に、梨子は彼の厳しい指導にもたくましく食らいついていった。  ある日、梨子は獄谷に叱責された直後に彼自身のミスに気付く。助け舟を出すも、まさかのダブルミスで恥の上塗りをさせてしまう。責任を感じる梨子だったが、獄谷は意外な反応を見せた。そしてそれを境に、彼の態度が柔らかくなり始める。その不器用すぎるアプローチに、梨子も次第に惹かれていくのであった──。  恋心を隠してるけど全部滲み出ちゃってる系鬼上司と、全部気付いてるけど部下として接する新入社員が織りなす、じれじれオフィスラブ。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

腹黒上司が実は激甘だった件について。

あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。 彼はヤバいです。 サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。 まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。 本当に厳しいんだから。 ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。 マジで? 意味不明なんだけど。 めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。 素直に甘えたいとさえ思った。 だけど、私はその想いに応えられないよ。 どうしたらいいかわからない…。 ********** この作品は、他のサイトにも掲載しています。

独占欲強めな極上エリートに甘く抱き尽くされました

紡木さぼ
恋愛
旧題:婚約破棄されたワケアリ物件だと思っていた会社の先輩が、実は超優良物件でどろどろに溺愛されてしまう社畜の話 平凡な社畜OLの藤井由奈(ふじいゆな)が残業に勤しんでいると、5年付き合った婚約者と破談になったとの噂があるハイスペ先輩柚木紘人(ゆのきひろと)に声をかけられた。 サシ飲みを経て「会社の先輩後輩」から「飲み仲間」へと昇格し、飲み会中に甘い空気が漂い始める。 恋愛がご無沙汰だった由奈は次第に紘人に心惹かれていき、紘人もまた由奈を可愛がっているようで…… 元カノとはどうして別れたの?社内恋愛は面倒?紘人は私のことどう思ってる? 社会人ならではのじれったい片思いの果てに晴れて恋人同士になった2人。 「俺、めちゃくちゃ独占欲強いし、ずっと由奈のこと抱き尽くしたいって思ってた」 ハイスペなのは仕事だけではなく、彼のお家で、オフィスで、旅行先で、どろどろに愛されてしまう。 仕事中はあんなに冷静なのに、由奈のことになると少し甘えん坊になってしまう、紘人とらぶらぶ、元カノの登場でハラハラ。 ざまぁ相手は紘人の元カノです。

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

処理中です...