略奪は 奪い取るまでが 楽しいの

エイ

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Side:圭司13

 煽られて振り上げそうになった拳をぎゅっと握り込む。
 嘘だ。嘘なのは明白だ。
 理沙の服は朝出た時と同じだったし、脱がされたようには見えなかった。少しシャツが乱れていたが、それだけだ。
 嘘を吹き込んで煽っているだけ。この女のことだから、自分を殴らせて被害者になるストーリーを作ろうとしているのかもしれない。煽りに乗せられるのは愚策だと冷静になるよう深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。

「マジで息をするように嘘つくんだな。つーかお前は一体何がしたいんだ? ここまで理沙に執着する理由はなんなんだよ。まさか惚れてんの? 好きな子いじめちゃうってやつかよ気持ちわりーな」
「はあぁ⁉ 馬鹿じゃないの! 気持ち悪いのも付きまとってるのもアンタのほうじゃん! 死ねよ死ね死ね!」
「残念ながら俺は理沙の彼氏だから。俺の理沙に手を出して許されると思うなよ? ストーカー女」
「っ、アンタのじゃない! アレはずっと私だけのおもちゃなんだよ! アレで遊んでいいのも、壊していいのも私だけなんだから、邪魔者は入ってくんなあぁぁ!」

 激高した麗奈が髪を振り乱して叫ぶ。
 いつものねっとりした口調からは想像もつかない怒鳴り声に、一瞬気圧される。

「なんだそれ……理沙はお前のおもちゃじゃねえよ。何を勘違いしてんのか知らねえけど、世界はお前を中心に回ってないんだよ。他人は自由に使っていいおもちゃじゃねえし、使い捨てる駒でもない」
「違う、あたしの! あたしのなの!」

 まさに使い捨てられていた男たちに視線を向けると、それぞれ愕然として麗奈を見ている。
 圭司はずっとこの須藤麗奈という女の行動原理が読めなくて不気味だった。だがようやく少しこの意味不明な執着の理由が分かった気がした。
 この女はきっと、この現実が自分のために用意された舞台だと思っている。だから他人を傷つけても使い捨てても何の痛痒も感じない。自分のために存在している駒なのだから、弄んで楽しんでも罪悪感など抱かない。

「ホラ、取り巻き連中がドンびいてるぞ。本性バレていいのか?」
「知らないわよ……。アンタが関わってこなきゃ何もかもうまくいってたのに! なんで私の思い通りにならないのよ! どうしてくれんのよ何もかも滅茶苦茶じゃない!」
「自分のしたことのツケが回ってきただけだろ。取り立て屋にお前を引き渡すから、ツケの支払い頑張れよ」
「は?」

 ドカドカと足音が響き、また別の男たちがリビングに踏み込んでくる。
 麗奈が金を巻き上げた男が、金の回収を頼んだ業者が到着したらしい。もちろん杉下が仲介役として連絡を入れたのだ。

「さて、須藤麗奈さんは借金の返済義務がありますので、こちらの業者さんとお話をしてください」
「借金? なんのこと……ちょ、っと! 触んないでよ! ヤダ、ヤダヤダヤダ! むぐッ」

 須藤麗奈は問答無用で業者に連れて行かれた。
 どうやって借金を返していくのかは想像に難くない。堅気でない男と関わって利用したのだから、下手な別れ方をした時点でこうなることも予想すべきだった。と言っても恐らく彼女には伝わらないだろうけれど。
 拉致に関わった男たちも『話し合い』のために一旦業者に引き渡す。
 罪を償うか示談かを選べるが、失うものが多い彼らは恐らく己の行為が明るみに出ないよう以前の悪事と同じように示談を選ぶだろう。
 だが今回は相手が悪すぎた。
 失うものが多い人間が気軽に犯罪などすべきではなかったのだ。圭司とて本当のアンダーグラウンドを知っているわけではないが、裏社会の恐ろしさは多少知っている。この男たちの行く末を考えると、自業自得とはいえ本当に馬鹿なことをしたなと言わざるを得ない。

「圭司さん、引き揚げましょうか。理沙さんは……どうでしょうか。病院に連れて行きますか?」

 杉下が気遣わし気に声をかけてくる。先ほどの麗奈が発した言葉を気にしているようだが、首を振って断る。

「いえ、彼女が目を覚まして意思を確認してからにします。でも多分、あの女のはったりですから、その心配はいらないかと」
「そうですか。じゃあ車までお送りします。後のことはまたご報告いたしますので」

 近くに停めてある車まで送ってもらい、乗せ換えたが理沙はまだ目を覚ます気配がない。動かしても起きないことに少々不安を覚え、このまま自宅に帰るか病院に運ぶか迷いながら車を発進すると、そのタイミングで理沙がふと目を覚ました。

「……けい、じ?」
「うん。理沙、具合悪いとこない? 救急に行くか迷ってたんだけど……」
「かえりたい……圭司と、帰りたい」
「そっか、了解」

 それだけ聞くと、また理沙は目をつむり眠ってしまった。
 今日の出来事だけじゃなく、ここ最近気を張っていたから疲れがたまっていたのだろう。
 少しやつれた頬を撫でる。長いまつげが震えたけれど、まぶたは閉じられたままだった。
 静かにエンジンをかけ、二人の家へ帰るべくゆっくりと車を動かした。

 ***
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