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狙われたシェットランド領
シェットランド領への侵攻
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映像の女性が震えをこらえて話し始めた。
「ティアナ。あなたがこれを見ているということは、無事に地球に到着できたのね。ここは隕石が衝突して、施設の内部が次々と爆発しているの。ここも長くないわ。だけど、これだけは伝えたくて……」
女性が強く両手を握る。
「私たちは、コピーではないの。一人の人間なの。同じ遺伝子だけど、同じ人なんて一人もいなかった。それぞれが必死に最期まで生きた」
クリスの脳裏に突如、記憶が蘇った。
同じ顔の人々に囲まれ、それを疑問に思わず穏やかに過ごしていた日々。時に厳しく、時に優しく、見守られながら。
ただ、ただ、普通に。みんなと一緒に生きていた。それが、突然奪われた。
クリスの目の奥が熱くなり視界が滲む。
「だから、私たちが生きていた証を残して! 私たちがしたことは神への冒涜ではない! 生き残るために必要っ……」
大きな爆発音とともに映像が切れた。
「テレサ姉さん!」
思わず叫んだクリスの目から涙が零れる。崩れ落ちそうなクリスをオグウェノが支えた。
「大丈夫か?」
「あぁ。思い、出した。私を、最後まで逃がしてくれたのは……テレサ姉さん、だった」
「……そっくり、だったな」
そっくりというより瓜二つ。姉妹でも、あそこまで似ることはない。
「ねぇ、さん……」
(生きなければいけないと思っていた理由がやっと分かった)
クリスは力なく俯き、服の下にある魔宝石を握りしめた。ほんのりとルドの気配を感じる。それだけで、心が安らぐ。
(私は……大丈夫だ。まだ、やれる)
クリスは自分に言い聞かせて顔を起こした。そこで、小型通信機で会話をしているカイの声が耳に入る。
「…………はぁ? なんで、そんなことに? わかった。すぐ戻る」
「どうしました?」
エーヴァの険しい視線にカイが肩をすくめた。
「この国の軍隊がシェットランド領に向かっているらしい」
「なぜです?」
「わからん。とりあえず、下におりて詳しい話を聞かないとな。流れ星に入っていた情報はこれで全部か?」
マーリアが頷く。
「隠し情報がなければ。念のため、もう少し詳しく調べてみます。新しい情報がありましたら報告します」
「頼む。クリスティ、動けるか?」
「あぁ。大丈夫だ」
「帰るぞ」
「私もご一緒してもいいですか?」
エーヴァの申し出にカイが頷く。
「あとから説明するより一緒に聞いた方が早いからな。来てくれ」
こうしてエーヴァとともにカイたちは急いで建物を後にした。
※※
クリスたちは帰宅すると食堂に直行した。テーブルに地図を広げたカリストたちが出迎える。
「おかえりなさいませ」
「どういう状況だ?」
「アンドレからの報告ですが……」
カリストが人や馬の形をしたボードゲームの駒を地図に並べる。その様子を見ながらルドが呟いた。
「そういえば、帝都でアンドレの気配が途中から消えたのは……」
「軍の動きで気になることがあり、アンドレに探りに行かせていました。そこで、判明したのですが……」
カリストが人の駒を地図に置く。そこはシェットランド領と隣接している、ゲッペンピン領とザスニッツ領の境にある山脈の麓。
「数か月前より、ここに数人の魔法師たちが集まり、何かをしていたそうです。そして五日前、魔法騎士団の中でも魔力が強い者を中心に組まれた編隊が、ここに向けて移動を始めました。あと、ゲッペンピン領とザスニッツ領の騎兵隊もここに向かっています」
カリストが馬の形をした駒を動かす。腕を組んだカイが唸った。
「これだけの情報でシェットランド領に向かっているとは言えないだろ。そもそも、そこからシェットランド領に入る道がない」
「ですが、最終目的はシェットランド領の制圧、だそうです」
「うーん。それなら、その目的以外でここに集まることはないだろうが……それにしてもなぁ。第三皇子と連絡は取れたか?」
「それが、オークニーには不在でして」
「連絡がとれない、か。まあ、第三皇子がいなくてもオークニー領は軍を通さないだろうな。そもそもシェットランド領を制圧する目的はなんだ? 理由を先に通達するもんだろ?」
カリストが軽く頭を振る。
「そこは後で考えましょう。それより軍です。春先とはいえ山脈には多くの雪があり、雪崩の危険もあります。この時期の道なき山越えは、まさしく自殺行為です」
「そうだな。それとも、ここから第三皇子が不在のオークニーの領地を無理やり通って、シェットランド領に入るか」
「オークニーからシェトランド領への道はありますが、この時期は無理があります」
地図にはシェットランド領の東側を囲むように駒が並ぶ。
黙って話を聞いていたエーヴァが小型通信機を出した。
「緊急議会を開きます。対応について検討しましょう」
クリスは頷きながらカイに訊ねた。
「対応については議会で決めないといけない。軍が山脈を越えてシェットランド領に侵入するのに、どれぐらい時間がかかる?」
「寒さに強い馬を連れていても足場は断トツに悪いからな。最低でも半月はかかる。魔法騎士団や騎兵隊とか腕がいいヤツを揃えていても、三分の一の兵力は減る」
カイが地図を指さしながらカリストに訊ねた。
「部隊が山脈の麓に到着するのは、いつだ?」
「最短で明日の朝、東の山脈の入り口にザスニッツ領の騎兵隊と魔法騎士団の先発部隊が到着すると思われます。そこで、ゲッペンピン領の騎兵隊と、魔法騎士団の本隊が到着するのを待つか、それとも斥候として山に入るか、までは分かりません」
「それまでに対応を決める必要がある、か」
考えるクリスにエーヴァが声をかける。
「議員を招集しました。あなた方も来てください」
頷くクリスとは対照的にカイが反論した。
「オレは引退したから、行かなくてもいいだろ?」
「軍の動きなど私たちは想像もつきません。専門家としての意見をお願いします」
「専門家扱いかい」
カイが渋い顔をするとオグウェノが手を上げた。
「なら、オレも参加していいか? 軍とか侵攻とかの知識はあるぞ」
「そうですね。お願いします」
カイが仕方なさそうに頷く。
「じゃあオレとクリスと第四王子が行くか。議事堂は護衛も入れるから、おまえさんたちも来るか?」
イディとルドが意気揚々と頷く。ベレンが伺うように訊ねた。
「その……議会、ですか? それは見学できますの?」
エーヴァはベレンの頭から足先まで見ながら少し考えた。
「普段の議会なら見学は問題ないのですが、今回は緊急事態ですから……」
「わかりました。私は助言できる知識などありませんから、ここで待っています」
ベレンの即断にエーヴァが微笑む。
「そうしてもらえると、助かります。では……」
場所を移動しようという雰囲気になったところで、ルドがカリストに訊ねた。
「この部隊を指揮しているのは、誰ですか?」
「クラウディウス第二皇子です」
無言のままルドが視線を伏せた。
※
クリスたちは高い建物の裏手にある白い建物に移動した。
大きな円形のすり鉢状の部屋。中心が一番低く、外側ほど床が高い。部屋の形に合わせた、曲線の机と椅子があり、大勢の人間が座れる。
沢山ある席はすでに半数近くが埋まっていた。ほとんどは金髪、緑目の女性だが、中には茶髪の男性や、赤茶髪の女性などもいる。
「〝神に棄てられた一族〟以外の人間もいるんだな」
少し驚いているオグウェノにカイが説明した。
「元奴隷とか故郷を失ったとかで、シェットランド領に移住してきた奴らだ。ほとんどはクリスティが連れてきたな。シェットランド領は移住したら領民と同じ権利が与えられ、条件さえ満たせば議会にも参加できる」
「太っ腹だな。ケリーマ王国でも、そこまではできないぞ」
「領土の大きさが違うからな。シェットランド領ぐらいの大きさだから管理出来る」
「それもそうか」
エーヴァが一行を最後列の席に案内する。
「端で申し訳ありませんが、こちらにお座りください。議会中に質問や意見がありましたら、こちらのボタンを押してください」
「わかった」
オグウェノとカイが椅子に座り、その後ろにイディが付く。
「師匠は座らないのですか?」
「私は別席だ」
そう言うとクリスはルドを連れて最前列の席に移動した。
「ここが私の席だ」
「席が決まっているんですね」
「これでも領主だからな」
クリスが椅子に座りルドが背後に立つ。ちらほらと空席があるが部屋の中心の壇上にエーヴァが立つ。
「議員の三分の二以上がそろいましたので、緊急議会を開始します」
その一言でざわついていた議場が静かになった。
「ティアナ。あなたがこれを見ているということは、無事に地球に到着できたのね。ここは隕石が衝突して、施設の内部が次々と爆発しているの。ここも長くないわ。だけど、これだけは伝えたくて……」
女性が強く両手を握る。
「私たちは、コピーではないの。一人の人間なの。同じ遺伝子だけど、同じ人なんて一人もいなかった。それぞれが必死に最期まで生きた」
クリスの脳裏に突如、記憶が蘇った。
同じ顔の人々に囲まれ、それを疑問に思わず穏やかに過ごしていた日々。時に厳しく、時に優しく、見守られながら。
ただ、ただ、普通に。みんなと一緒に生きていた。それが、突然奪われた。
クリスの目の奥が熱くなり視界が滲む。
「だから、私たちが生きていた証を残して! 私たちがしたことは神への冒涜ではない! 生き残るために必要っ……」
大きな爆発音とともに映像が切れた。
「テレサ姉さん!」
思わず叫んだクリスの目から涙が零れる。崩れ落ちそうなクリスをオグウェノが支えた。
「大丈夫か?」
「あぁ。思い、出した。私を、最後まで逃がしてくれたのは……テレサ姉さん、だった」
「……そっくり、だったな」
そっくりというより瓜二つ。姉妹でも、あそこまで似ることはない。
「ねぇ、さん……」
(生きなければいけないと思っていた理由がやっと分かった)
クリスは力なく俯き、服の下にある魔宝石を握りしめた。ほんのりとルドの気配を感じる。それだけで、心が安らぐ。
(私は……大丈夫だ。まだ、やれる)
クリスは自分に言い聞かせて顔を起こした。そこで、小型通信機で会話をしているカイの声が耳に入る。
「…………はぁ? なんで、そんなことに? わかった。すぐ戻る」
「どうしました?」
エーヴァの険しい視線にカイが肩をすくめた。
「この国の軍隊がシェットランド領に向かっているらしい」
「なぜです?」
「わからん。とりあえず、下におりて詳しい話を聞かないとな。流れ星に入っていた情報はこれで全部か?」
マーリアが頷く。
「隠し情報がなければ。念のため、もう少し詳しく調べてみます。新しい情報がありましたら報告します」
「頼む。クリスティ、動けるか?」
「あぁ。大丈夫だ」
「帰るぞ」
「私もご一緒してもいいですか?」
エーヴァの申し出にカイが頷く。
「あとから説明するより一緒に聞いた方が早いからな。来てくれ」
こうしてエーヴァとともにカイたちは急いで建物を後にした。
※※
クリスたちは帰宅すると食堂に直行した。テーブルに地図を広げたカリストたちが出迎える。
「おかえりなさいませ」
「どういう状況だ?」
「アンドレからの報告ですが……」
カリストが人や馬の形をしたボードゲームの駒を地図に並べる。その様子を見ながらルドが呟いた。
「そういえば、帝都でアンドレの気配が途中から消えたのは……」
「軍の動きで気になることがあり、アンドレに探りに行かせていました。そこで、判明したのですが……」
カリストが人の駒を地図に置く。そこはシェットランド領と隣接している、ゲッペンピン領とザスニッツ領の境にある山脈の麓。
「数か月前より、ここに数人の魔法師たちが集まり、何かをしていたそうです。そして五日前、魔法騎士団の中でも魔力が強い者を中心に組まれた編隊が、ここに向けて移動を始めました。あと、ゲッペンピン領とザスニッツ領の騎兵隊もここに向かっています」
カリストが馬の形をした駒を動かす。腕を組んだカイが唸った。
「これだけの情報でシェットランド領に向かっているとは言えないだろ。そもそも、そこからシェットランド領に入る道がない」
「ですが、最終目的はシェットランド領の制圧、だそうです」
「うーん。それなら、その目的以外でここに集まることはないだろうが……それにしてもなぁ。第三皇子と連絡は取れたか?」
「それが、オークニーには不在でして」
「連絡がとれない、か。まあ、第三皇子がいなくてもオークニー領は軍を通さないだろうな。そもそもシェットランド領を制圧する目的はなんだ? 理由を先に通達するもんだろ?」
カリストが軽く頭を振る。
「そこは後で考えましょう。それより軍です。春先とはいえ山脈には多くの雪があり、雪崩の危険もあります。この時期の道なき山越えは、まさしく自殺行為です」
「そうだな。それとも、ここから第三皇子が不在のオークニーの領地を無理やり通って、シェットランド領に入るか」
「オークニーからシェトランド領への道はありますが、この時期は無理があります」
地図にはシェットランド領の東側を囲むように駒が並ぶ。
黙って話を聞いていたエーヴァが小型通信機を出した。
「緊急議会を開きます。対応について検討しましょう」
クリスは頷きながらカイに訊ねた。
「対応については議会で決めないといけない。軍が山脈を越えてシェットランド領に侵入するのに、どれぐらい時間がかかる?」
「寒さに強い馬を連れていても足場は断トツに悪いからな。最低でも半月はかかる。魔法騎士団や騎兵隊とか腕がいいヤツを揃えていても、三分の一の兵力は減る」
カイが地図を指さしながらカリストに訊ねた。
「部隊が山脈の麓に到着するのは、いつだ?」
「最短で明日の朝、東の山脈の入り口にザスニッツ領の騎兵隊と魔法騎士団の先発部隊が到着すると思われます。そこで、ゲッペンピン領の騎兵隊と、魔法騎士団の本隊が到着するのを待つか、それとも斥候として山に入るか、までは分かりません」
「それまでに対応を決める必要がある、か」
考えるクリスにエーヴァが声をかける。
「議員を招集しました。あなた方も来てください」
頷くクリスとは対照的にカイが反論した。
「オレは引退したから、行かなくてもいいだろ?」
「軍の動きなど私たちは想像もつきません。専門家としての意見をお願いします」
「専門家扱いかい」
カイが渋い顔をするとオグウェノが手を上げた。
「なら、オレも参加していいか? 軍とか侵攻とかの知識はあるぞ」
「そうですね。お願いします」
カイが仕方なさそうに頷く。
「じゃあオレとクリスと第四王子が行くか。議事堂は護衛も入れるから、おまえさんたちも来るか?」
イディとルドが意気揚々と頷く。ベレンが伺うように訊ねた。
「その……議会、ですか? それは見学できますの?」
エーヴァはベレンの頭から足先まで見ながら少し考えた。
「普段の議会なら見学は問題ないのですが、今回は緊急事態ですから……」
「わかりました。私は助言できる知識などありませんから、ここで待っています」
ベレンの即断にエーヴァが微笑む。
「そうしてもらえると、助かります。では……」
場所を移動しようという雰囲気になったところで、ルドがカリストに訊ねた。
「この部隊を指揮しているのは、誰ですか?」
「クラウディウス第二皇子です」
無言のままルドが視線を伏せた。
※
クリスたちは高い建物の裏手にある白い建物に移動した。
大きな円形のすり鉢状の部屋。中心が一番低く、外側ほど床が高い。部屋の形に合わせた、曲線の机と椅子があり、大勢の人間が座れる。
沢山ある席はすでに半数近くが埋まっていた。ほとんどは金髪、緑目の女性だが、中には茶髪の男性や、赤茶髪の女性などもいる。
「〝神に棄てられた一族〟以外の人間もいるんだな」
少し驚いているオグウェノにカイが説明した。
「元奴隷とか故郷を失ったとかで、シェットランド領に移住してきた奴らだ。ほとんどはクリスティが連れてきたな。シェットランド領は移住したら領民と同じ権利が与えられ、条件さえ満たせば議会にも参加できる」
「太っ腹だな。ケリーマ王国でも、そこまではできないぞ」
「領土の大きさが違うからな。シェットランド領ぐらいの大きさだから管理出来る」
「それもそうか」
エーヴァが一行を最後列の席に案内する。
「端で申し訳ありませんが、こちらにお座りください。議会中に質問や意見がありましたら、こちらのボタンを押してください」
「わかった」
オグウェノとカイが椅子に座り、その後ろにイディが付く。
「師匠は座らないのですか?」
「私は別席だ」
そう言うとクリスはルドを連れて最前列の席に移動した。
「ここが私の席だ」
「席が決まっているんですね」
「これでも領主だからな」
クリスが椅子に座りルドが背後に立つ。ちらほらと空席があるが部屋の中心の壇上にエーヴァが立つ。
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