【完結】秀才の男装治療師が女性恐怖症のわんこ弟子に溺愛されるまで

文字の大きさ
216 / 243
閉ざされた世界からの反撃

それは、決着と脱出でした

しおりを挟む
 クリスが勢いよく体を起こす。

 緊迫した空気。

 カリストたちが一点を見つめる。クリスも自然と視線が動いた。

 そこには、怒りで顔を歪めているボルケーノの姿。

「駒といい、貴様らといい、人間ごときが調子に乗るな!」

 ボルケーノが右手を振り下ろす。

『電雷!』

 電流が縦横無尽に走った。予測不能な電流の動きに、全員が飛び散る。
 カリストが大きな声で花子に訊ねた。

回路ルートの特定まで、あとどれぐらいですか!?」
「三分ちょうだい!」

 切迫した声をカリストがクリスにつなげる。

「だ、そうです! 時間稼ぎをお願いします!」
「三分とは、なんだ!?」
「時間の単位です! 紅茶の茶葉を蒸らす程の時間です!」
「長い!」

 クリスが怒鳴りながら右手を上げた。電流がクリスの手の中に集まる。そこにボルケーノが突進してきた。

「女! 貴様だけは、この手で引き裂く!」

 クリスが直前で攻撃を避ける。次々と繰り出される拳を紙一重でかわす。風圧で髪が揺れ、飛んだ汗が拳に殴られる。
 軽いステップで避けるクリスにボルケーノが吠える。

「何故だ!? 何故、当たらん!?」
「おまえの攻撃など丸見えだ。脳筋」
「くぉのぉぉぉお!」

 クリスの安い挑発にボルケーノの顔が赤くなる。拳の速度が上がったが動きは雑になった。
 攻撃を避けながらクリスがボルケーノに訊ねる。

「なぜ、そんなに人間を恐れている?」
「恐れるだと!?」 
「そうだろ? 人間が進化し、おまえたちに追い付くのを恐れている。だから、そうなる前に文明を消しているのだろ?」
「そ、そのようなことはない! 人間ごときが、我らと同等になるなど! ありえん!」

 否定ながらも攻撃はますます乱れていく。クリスが言葉で追い詰める。

「本当にそうか? 神や悪魔を名乗っているが、それは本当の姿か? それとも、おまえが知らないだけか?」
「うるさい!」

 怒り任せの攻撃は単調になり、動きがよみやすくなる。クリスはひたすら攻撃を避けながら会話に専念した。

「薄々、気づいているのだろう? だから犬の体を使い、近くで人間を観察をした」
「黙れ!」
神や悪魔おまえたちと大差なかっただろ?」
「黙れ! だまれ!! ダマレェェェェェ!!!」

 ボルケーノが我を忘れて攻撃する。どうにか避けていたが、服や体をかするようになってきた。
 目では追えているが徐々に早くなるスピードに体がついていかない。いつ攻撃をくらってもおかしくない。

 その光景にオグウェノが叫ぶ。

「月姫!」
「ダメです」

 飛び込もうとしたオグウェノをカリストが止める。

「魔力もなく、どうにか動けているあなたでは邪魔になるだけです」
「……クソッ!」

 オグウェノが吐き捨てる。ギリギリと奥歯を噛むオグウェノの肩に手が触れた。

「これを持っていてください」

 差し出された物をオグウェノは自然と受け取っていた。手の中には藁で出来た人形と楔。

「おまっ!? おい! これ……」

 オグウェノの前で赤髪が揺れる。その先では、バランスを崩したクリスが倒れかけていた。
 ここぞとばかりにボルケーノが踏み込む。腕に力をため、腰を捻る。

「終わりだ!」

 ボルケーノが拳を振り下ろす。が、その先にクリスの姿はなかった。床が風圧で砕ける。

「どこだ!?」
「ここですよ」

 ルドが左手でクリスの腰を支え、右手は手を添えて立っていた。まるでダンスのエスコートをしているような姿勢。
 クリスが顔をあげてルドを睨む。

「遅いぞ」
「すみません。寝坊しまして」

 思わぬ返しにクリスが笑う。

「おまえでも寝坊することがあるんだな」
「人間ですから。あと、師匠も」

 クリスの顔から笑顔が消える。ルドは悲しそうに微笑むとクリスを置いて前に出た。そこに花子の声が響く。

回路ルート特定完了! ゲート開放!」

 天井に大穴が現れる。闇のような漆黒一色。その中は底なしで、全てを吸い込むような不気味さで、ゆっくりと渦を巻いている。

 その穴にボルケーノが驚愕する。

「まさか、人間ごときがゲートを!?」
「大量のエネルギーを使用しますので、長くは維持できません」
「そういうことは早く言え!」

 カリストの説明にクリスが怒る。ルドが前に出た。

「ボルケーノをあの穴にぶち込めばいいんですよね?」
「ぶち込……はい、そうです」

 ルドの言葉使いにカリストは少し驚きながら同意した。

「早く済ませましょう」
「イディでも、あれだけやられたんだぞ。そう簡単には……」

 クリスがオグウェノを止め、ルドに視線を送る。

「やるぞ」
「はい」

 ルドがボルケーノに飛びかかる。すぐにボルケーノが飛び退くが、そこにクリスが手に持っていた電流を放出する。

『防壁!』

 ボルケーノが魔法で防ぐ。そこにルドの蹴りが飛ぶ。
 蹴りを避けながら、その反動を利用してボルケーノがルドに拳を繰り出す。ルドはワザと体のバランスを崩し、床を転がりながらボルケーノから離れた。すかさず追いかけるボルケーノにクリスが連続で魔法を飛ばす。

「クソッ!」

 ボルケーノが魔法を避けながらクリスを睨む。

「調子にのるな!」

 意識がクリスに向いた瞬間、ルドが飛びかかる。ボルケーノの懐に入り、腕を掴んで投げ飛ばす。そこにクリスが竜巻を起こし、ボルケーノを穴へと吹き上げた。

『消滅!』

 ボルケーノの魔法により、竜巻があっさりと消える。クリスが悔しそうに呟いた。

「普通の魔法は効かないか」
「残り一分!」

 花子の声に全員が焦る。

「このまま逃げ切れば、我の勝ちだな」
「クソッ!」

 ルドが突進するがボルケーノが体を傾けるだけで避けた。走り抜けたルドが勢い余って床にこける。

「フッ、無様な……なにっ!?」

 こけたフリをしていたルドは床に手を付き、油断していたボルケーノに足払いをした。

「しまっ!?」

 足払いが決まりボルケーノが前へ倒れる。そこにルドがボルケーノの背中を踏みつけた。

「グハッ!」

 ボルケーノが床に叩きつけられる。ボルケーノの背中を踏み台にして飛び上がったルドは両手を床に向けて詠唱した。

噴火!ボルケーノ

 床から火柱が上がり、ボルケーノの体を押し上げる。逃げようとするが、火柱の勢いから逃れられない。

「クソッ! このままで済むとおもぅ……」

 火柱が穴の中に突き刺さり、そのまま黒い柱となって塞ぐ。

ゲート封鎖!」

 すかさず花子が叫ぶ。天井から穴は消え、黒い柱だけが残った。
 地面に転げ落ちたルドが咳き込む。呼吸を整えながら体を起こした。
 そこに、クリスが駆け寄る。

「大丈夫か!?」
「だぃ、じょぅ……ゴホッゴホッ」

 ルドは返事をしたかったが息をするだけでむせた。

「あの魔法を使うとは無理をしすぎだ。また魔力が枯渇するぞ」
「加減した、ので、ゲホッ。大丈っ……ゴホッ」
「話すな。カリスト! これで終わりか!?」

 カリストが操作している花子を見る。少しして、花子が頷いた。

「よしっ! 隔離完了! これで神たちの世界から干渉されなく……」

 大きく床が揺れた。

「なんだ!?」
「地震か!?」

 揺れが続き誰も動けない中、爆発音が響く。
 カリストが宙を撫でた。そこに半透明のモニターが現れる。

「現状報告。図面の提示」

『地下C3地区より爆発、出火あり』

 モニターの地図上の一部が赤く光る。カリストが花子に指示を出す。

「皆を連れて、居住区へ移動してください。あそこが一番安全です」
「おまえは、どうするんだ!?」

 花子が答えるより早く、クリスがカリストに飛びかかった。爆発音が耳を突き刺し、床が揺れる。
 クリスの中で、幼い頃の記憶が甦る。

 爆発音と炎が迫ってくる中、必死に走って逃げていく。仲間を犠牲にして、残して、最後は一人だけ脱出した。嫌でも今と重なる。もう、あんな思いはしたくない。

「おまえも、来い!」
「月姫!」

 揺れが静まり、オグウェノがルドを支えて立ち上がる。だが、クリスはカリストから離れようとしない。

「ダメだ! カリスト、おまえも……」

 カリストが白く綺麗な指でクリスの口を塞ぐ。

「申し訳ございません。話している時間も惜しいので。花子、後は任せます」
「任せて!」

 花子が明るいく答える。クリスは怒りながら振り返った。

「おまえ、仲間ならっ……」
「ウォッ!」
「なっ!?」

 突然、床が消え浮遊感が体を包む。

「クリス様。生きて、幸せになってください」
「カリストォォォ……」

 四人は暗い穴の中に落ちた。





しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

病弱な第四皇子は屈強な皇帝となって、兎耳宮廷薬師に求愛する

藤原 秋
恋愛
大規模な自然災害により絶滅寸前となった兎耳族の生き残りは、大帝国の皇帝の計らいにより宮廷で保護という名目の軟禁下に置かれている。 彼らは宮廷内の仕事に従事しながら、一切の外出を許可されず、婚姻は同族間のみと定義づけられ、宮廷内の籠の鳥と化していた。 そんな中、宮廷薬師となった兎耳族のユーファは、帝国に滅ぼされたアズール王国の王子で今は皇宮の側用人となったスレンツェと共に、生まれつき病弱で両親から次期皇帝候補になることはないと見限られた五歳の第四皇子フラムアーク付きとなり、皇子という地位にありながら冷遇された彼を献身的に支えてきた。 フラムアークはユーファに懐き、スレンツェを慕い、成長と共に少しずつ丈夫になっていく。 だがそれは、彼が現実という名の壁に直面し、自らの境遇に立ち向かっていかねばならないことを意味していた―――。 柔和な性格ながら確たる覚悟を内に秘め、男としての牙を隠す第四皇子と、高潔で侠気に富み、自らの過去と戦いながら彼を補佐する亡国の王子、彼らの心の支えとなり、国の制約と湧き起こる感情の狭間で葛藤する亜人の宮廷薬師。 三者三様の立ち位置にある彼らが手を携え合い、ひとつひとつ困難を乗り越えて掴み取る、思慕と軌跡の逆転劇。

喪女なのに狼さんたちに溺愛されています

和泉
恋愛
もふもふの狼がイケメンなんて反則です! 聖女召喚の儀で異世界に呼ばれたのはOL・大学生・高校生の3人。 ズボンを履いていた大学生のヒナは男だと勘違いされ、説明もないまま城を追い出された。 森で怪我をした子供の狼と出会ったヒナは狼族の国へ。私は喪女なのに狼族の王太子、No.1ホストのような武官、真面目な文官が近づいてくるのはなぜ? ヒナとつがいになりたい狼達の恋愛の行方は?聖女の力で国同士の争いは無くすことができるのか。

【完結済】隣国でひっそりと子育てしている私のことを、執着心むき出しの初恋が追いかけてきます

鳴宮野々花@書籍4作品発売中
恋愛
 一夜の過ちだなんて思いたくない。私にとって彼とのあの夜は、人生で唯一の、最良の思い出なのだから。彼のおかげで、この子に会えた────  私、この子と生きていきますっ!!  シアーズ男爵家の末娘ティナレインは、男爵が隣国出身のメイドに手をつけてできた娘だった。ティナレインは隣国の一部の者が持つ魔力(治癒術)を微力ながら持っており、そのため男爵夫人に一層疎まれ、男爵家後継ぎの兄と、世渡り上手で気の強い姉の下で、影薄く過ごしていた。  幼いティナレインは、優しい侯爵家の子息セシルと親しくなっていくが、息子がティナレインに入れ込みすぎていることを嫌う侯爵夫人は、シアーズ男爵夫人に苦言を呈す。侯爵夫人の機嫌を損ねることが怖い義母から強く叱られ、ティナレインはセシルとの接触を禁止されてしまう。  時を経て、貴族学園で再会する二人。忘れられなかったティナへの想いが燃え上がるセシルは猛アタックするが、ティナは自分の想いを封じ込めるように、セシルを避ける。  やがてティナレインは、とある商会の成金経営者と婚約させられることとなり、学園を中退。想い合いながらも会うことすら叶わなくなった二人だが、ある夜偶然の再会を果たす。  それから数ヶ月。結婚を目前に控えたティナレインは、隣国へと逃げる決意をした。自分のお腹に宿っていることに気付いた、大切な我が子を守るために。  けれど、名を偽り可愛い我が子の子育てをしながら懸命に生きていたティナレインと、彼女を諦めきれないセシルは、ある日運命的な再会を果たし────  生まれ育った屋敷で冷遇され続けた挙げ句、最低な成金ジジイと結婚させられそうになったヒロインが、我が子を守るために全てを捨てて新しい人生を切り拓いていこうと奮闘する物語です。 ※いつもの完全オリジナルファンタジー世界の物語です。全てがファンタジーです。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
お気に入り1000ありがとうございます!! お礼SS追加決定のため終了取下げいたします。 皆様、お気に入り登録ありがとうございました。 現在、お礼SSの準備中です。少々お待ちください。 辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

王宮の万能メイド、偏屈魔術師を餌付けする

葉山あおい
恋愛
王宮で働く勤続八年のメイド、エレナ・フォスター。仕事は完璧だが愛想がない彼女は、いつしか「鉄の女」と呼ばれ恐れられていた。 そんな彼女に下された辞令は、王宮の敷地内にありながら「魔窟」と呼ばれる『北の塔』の専属メイドになること。そこの主である宮廷魔術師団長・シルヴィス・クローデルは、稀代の天才ながら極度の人嫌い&生活能力ゼロの偏屈男だった! ゴミ屋敷と化した塔をピカピカに掃除し、栄養失調寸前の彼に絶品の手料理を振る舞うエレナ。黄金色のオムレツ、とろける煮込みハンバーグ、特製カツサンド……。美味しいご飯で餌付けされた魔術師様は、次第にエレナへの独占欲を露わにし始めて――? 意地悪な聖女や侯爵夫人のいびりも、完璧なスキルで華麗に返り討ち。平民出身のメイドが、身分差を乗り越えて幸せな花嫁になるまでの、美味しくて甘いシンデレラストーリー。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

処理中です...