【完結】黒猫になった甦りの魔女と子どもになった腹黒な元王子は不処カフェで宝石を待つ

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茶番劇の始まり

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 寝たフリを見抜かれたヨミは、ロイの冷たい視線を浴びながら、気まずそうに呟いた。

「……起きるタイミングがなかったのよ」
「そうですか」

 ヨミは顔を起こしてロイを見上げる。少年なので背が低く顔が近い。鋭い青水晶の瞳に負けじと睨み返した。

「で、留守番は?」
「あんな状況にしておいてカフェで傍観していろ、と? むしろ、助けたのですから礼の一つでも言ったらどうですか?」
「助けて、なんて頼んでないもの」

 ふん、とヨミはロイの膝の上で顔を反らした。ロイは気にすることなく、慣れた様子であしらう。

「はい、はい。では、さっさと人形を盗んで依頼を終了させましょう」
「それだけど。喜びの宝石と、それ以外も何かありそうなのよ」
「それ以外?」
「宝石は人の喜びの感情を引き出して力として集めるけど、ここまで人を呼び込んだり、何度も足を運ばせるほどの効果はないわ」
「あぁ、それは……」

 二人の会話を割くように廊下から怒鳴り声が響いた。

「今日はもう終わりって、どういうことだ!?」
「私はまだ見てないのよ!」
「金返せ!」
「いや、倍の金を払うから見せろ!」

 口々に出てくる文句の嵐。その声に混じり足音がこの部屋に向かっている。ヨミは目を閉じると、再びロイの膝で寝たフリをした。

「お待たせ!」

 婦人が息を切らせて部屋に飛び込む。手には雑に持った人形。

「これが幸せを呼ぶ異国の人形よ」

 婦人がロイの隣に座り人形を差し出した。ぼふん、とソファーが揺れたがロイは器用にバランスをとる。

 揺れが収まったところで、ヨミは薄っすらと目を開けて人形を見た。

 腰まで伸びた長い黒髪。前髪はまっすぐ切り揃えられ、その下には黄色に輝く丸い瞳。高すぎない鼻に小さく華麗な唇。
 服は異国の民族衣装で幾何学模様と花の刺繍が施された布を何枚も重ねてまとっている。

 その姿に、ロイは膝にいるヨミに視線を落とした。

「どうかしました?」
「別に。似た人がいたなぁ、と」

 ロイの素っ気ない言葉に婦人が明らかに不機嫌な顔になる。

「せっかく見せたのに、その程度の感想?」
「人形は人形。人に似ていることもある。それ以外に、どんな感想を持て、と?」
「……なんともないの?」
「なにか起きるのか?」

 ロイの質問に婦人が誤魔化すように笑う。

「い、いえ、別になにも。そ、そうよね。人形は人形。似た人もいるわよね」

 婦人が顔を反対側に向け舌打ちする。

「どこまで鈍感なのかしら。これで堕ちなかった人はいないのに」
「なにか?」
「なんでもないわ。気にしないで」

 ホホホと笑う婦人の声を吹き飛ばすように激しくドアが開いた。メイドが青い顔で報告する。

「奥様、大変です! 追い出した人たちが人形を見せろ、と迫ってます!」
「用心棒に追い払わせなさい。なんのために雇っているの」
「それが、集まった人数が多すぎて追い払えそうにありません」
「まったく、仕方ないわね」

 婦人は苛ただしい気に立ち上がると、ロイに微笑んだ。

「ちょっと待ってて」

 婦人がメイドを連れて部屋から出る。
 ロイはテーブルに置き去りにされた人形を手に取った。

「カフェに戻りますか?」
「待って。このまま人形が消えたら、依頼人が盗んだと疑われる可能性があるわ」
「では、どうします?」

 ヨミがニヤリと笑う。

「一芝居しましょう」

 その楽しげな声にロイの顔が引きつる。ヨミはワザとロイを無視して軽やかに立ち上がった。

「さてと」

 軽い足取りで床に下りる。そのまま、バルコニーの窓へ行き、こっそりと外を覗いた。

 館の表通りを埋め尽くす人々。筋肉ダルマが睨んで脅すが、人数で圧されている。

「中に入れろ!」
「人形を見せろ!」
「早くしろ!」

 怒号と叫び声が飛び交う。そんな人たちの中に、裏口で筋肉ダルマに蹴られた痩せ男もいた。表情は見えないが、他の人とは様子が違い、人混みに紛れてどこかへ移動している。

 そこに婦人が外へ出てきた。

「今日は終了です! これ以上騒ぎを起こすのであれば、人形は今後一切、展示しません!」

 突然の宣言に人々がざわつく。

「そんな……」
「明日からも見れなくなるのは、ちょっと……」
「どうする?」
「今日は諦めるか?」
「二度と見れなくなるのは……」

 先程までの喧騒が嘘のように静かになっていく。

「さすが、姉御! 助かりやした!」

 頭を下げた筋肉ダルマを婦人が睨む。

「これぐらい処理しなさい。なんで、こう私の周りには使えない人ばかり集まるのかしら」

 盛大なため息を吐いた婦人が回れ右をして館に足を向ける。そこでヨミはロイに合図を出した。

「ほら、人形を持ってバルコニーに出て」
「なにをするつもりですか?」
「早く。そのまま、人形を抱えて立ってるだけでいいから」
「はい、はい」

 ロイは言われるまま窓を開け、バルコニーに出た。人形が見えやすいように右腕に抱える。憮然とした顔にもかかわらず、すぐに人々から反応が返ってきた。

「ねぇ、あれ誰?」
「すげぇ、可愛い子だな……」
「え? 男の子でしょ?」
「いや、女の子だろ」

 ヨミの予想通り、ロイに視線が集まる。

「見たことない子よね?」
「服を見ろよ。男だろ」
「おとぎ話の王子様みたい」

 雑談が止まらず、肝心の人形の存在よりロイが目立つ。予想以上の反応にヨミは焦った。

「いや、ロイじゃなくて人形を見なさい。人形を」

 ヨミの呟きが届いたわけではないが、婦人がバルコニーを見上げて顔を青くした。

「な、なぜ人形を!? どうするつもり!?」

 その言葉に集まっていた人々がざわめく。

「本当だ! 人形だ!」
「今日も見れた!」
「良かったぁ」
「ありがとうよ!」

 口々に喜びの声が上がる。注目が人形に移ったところで、ヨミはロイの背中に飛びつき、くるんっと回って全身を光らせた。

「キャッ!?」
「眩しい!?」
「なんなの!?」

 その場にいた人たちが一斉に顔を背ける。ヨミは人形を隠すと、人の姿になった。

 光が収束し、人々が再び顔を上げる。

「ど、どういうことだ?」
「人形が人間に?」
「いや、そんなバカな!?」
「でも、人形そっくり……」

 ヨミは魔法で人形と同じ服を身にまとっていた。黒髪で髪型も同じ。目は黄色から黄金になったが、大差はない。人形が人間になったと錯覚してしまうほど似ている。

 そして、ヨミは右腕に呆然としているロイを抱えていた。
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