【完結】黒猫になった甦りの魔女と子どもになった腹黒な元王子は不処カフェで宝石を待つ

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ロイ視点〜前編〜

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 時間は少し遡り――――――――


(さて、どうしてこうなったのか)

 王城にある執務室で、子どもの姿のロイは目前に控える有力貴族たちを眺めながら頬杖をついた。行儀は悪いがこれぐらいの悪態は許してほしい。

 しかし、それを良しとしない女性が斜め後ろから声をかけてきた。

「ロイ、態度が悪いですよ」

 飴のように艷やかな輝きを放つ、緩く巻いた白金の長髪。紺碧の瞳は海のように濃く深い。陶磁のように白い肌に、真紅のドレスで身を包んだ、美しさの見本と囁かれる容姿。
 美女として周辺諸国に知れ渡っている女性。

 ロイの姉であるガーベラが毅然とした態度で忠告する。

「王がそのような姿では臣下に示しがつきません」
「ここにいる者たちは、これぐらいで離れるような連中か?」
「そうではありませんが、失望はされるかもしれません」
「盲目的に崇拝されるよりはマシだ」

 古くから王家に仕え、忠誠を誓っている有力貴族の面々が並ぶ。みな生まれた頃からの顔見知りであり、ロイの腹黒さも知っている。

「その外見を使って盲目的に崇拝されたほうが、統治はしやすいでしょうね」
「この子どもの姿で、か? そもそも、世界の崩壊を治めるまでの代王だと言ったはずだ。それに弟のネイビはどうした? 私が国を捨てた時、跡継ぎはネイビと決めただろ」
「ネイビの優しさはご存知でしょう? あの子は王になるには優しすぎます。現に他の貴族たちに言い寄られ、一時は内政が傾きました。それに気づかないほどネイビも愚かではありません。これ以上、悪化する前に王位をロイに譲りたいと訴えているのです」

 ロイは自嘲するような薄笑いを浮かべた。

「私には優しさの欠片もないからな」

 話を茶化すロイをガーベラが嗜める。

「ロイ。今は世界の一大事かもしれませんが、国の一大事でもあるのです。父である王の急逝で、内政は混乱しています。この隙に内政を牛耳ろうとする貴族の動きもあります。そのような者たちから内政を守るためにも、あなたが必要なのです」

「素直なネイビに腹の探り合いは難しいな。だが、こんな外見の新王に付いてくる人間などいないだろ」

「その姿は魔女の呪い、ということにしているので問題ありません」

 ロイの目が一瞬で凍る。ブリザードが吹き荒れ、貴族たちが恐怖で一歩下がった。だが、ガーベラはそれを堂々と受け止める。

 怨念のような声がねっとりと地を這いガーベラの足に絡みつく。

「言葉に気をつけろ。私はいつ姿を消してもかまわないからな」
「ならば、こちらも宝石集めとやらに協力いたしません」

 二人の間に静かに火花が散る。

 周囲が固唾を呑んで見守る中、執務室のドアが開いた。ホッホッホッと聞き覚えがある声とともに老紳士が入る。

「失礼。呼ばれて来てみれば姉弟喧嘩中とは、元気そうでなにより。お久しぶりですな、マスター」

 騎士服を纏ったグリスが笑顔で話しかける。その気さくさにロイの背後にいた護衛騎士が顔を青くした。

「元騎士団長とはいえ、そのような口の効き方は……」

 ロイが片手を上げて制止する。

「別によい。急に呼び出して悪いな」
「普段なら無視するのですが、マスターには借りがありますからな」
「王家の呼び出しを無視するつもりだったのか。やはり噂通りの奇人団長だな」
団長ですぞ」

 律儀に訂正するグリスにロイが楽しげに笑う。

「奇人は否定しないのだな。だが、人形の件なら対価はもらった。借しなどないぞ」
「あれぐらいの対価では足りないぐらいです」
「ならば、そういうことにしておこう。で、協力してくれるか?」
「この老いぼれにできることでしたら」

 ロイがニヤリと笑う。

「では、騎士団の統率を今一度確認してほしい。王の急逝により、内政は混乱。この隙に騎士団を使い武力で政権を握ろうとする者が現れるかもしれん」
「ふむ。この場合は、武力を使わせないよう前もって動いていたほうが、いいですかな? それとも、少し泳がせて政権を握ろうとする者を炙りだしたほうが、よろしいかな?」
「できれば炙り出してほしいが、難しければ制圧でもいい」
「では、そのように動きましょう。ところで魔女殿はどこに?」

 ロイの肩が微かに揺れた。

「側にいなくても、いいのですか? それとも……」

 灰色の目が青水晶の瞳を探るように覗く。

「喧嘩でもされましたか?」

 ロイの肩がピクリと跳ねた。核心を突かれ、とっさに言葉が出ない。
 悟ったグリスがホッホッホッと笑う。

「意見の相違。若さゆえの喧嘩もありましょう。ですが、さっさと仲直りすることも必要ですぞ」
「…………別に喧嘩などしていない」
「そうですかな? まぁ、後悔する前に早めに仲直りしなされ」
「不吉なことを言うな」
「それは失礼。では、私は一仕事してまいります」

 グリスを見送ったロイは視線を天井に向けた。

「で、ソンブロには貴族内の勢力について調査してもらいたい。急速に派閥を拡大したり、提携を結ぼうとしている者がいないか調べてくれ」
「……」

 実際には見えないが痩せ男が天井裏で悪態をついている姿が想像できる。

 ロイは茶化すように言った。

「調査は探偵の基本だろ?」
「オレとしては、事務所で珈琲を飲んでいるところに依頼人がやってきて……っていうのを、したかったんだけどな」
「それは楽しそうだ。ぜひ、やろう」
「冗談はやめてくれ。のあんたが来たら、やっと借りられた事務所を追い出される。いらない騒ぎは不要だ。……そうだな。黒猫ちゃんと一緒なら考えてもいいか」
「……」

 今度はロイが無言になる。天井からクックックッと笑い声が漏れた。その態度に護衛騎士が抜刀しそうな勢いで天井を睨む。

「王の御前で無礼が過ぎるぞ!」

 ロイがため息とともに護衛騎士を止める。

「いい。そもそも私が無理を言っているのだ」
「……あんた、本気で王になるつもりはないのか?」
「ない」

 即答に肩を落としたような声が返ってきた。

「もったいないな」
「そんなことはない。あ、あと、密偵を数人、王座の近くに配置してくれ。たぶん、いろいろと指示を出すようになると思う。では、頼んだぞ。隠密部隊若頭ソンブロ
「御意」

 天井から気配が消えると、ロイは立ち上がった。

「どちらへ?」

 ガーベラの問いにロイが不敵に笑う。

「有象無象の貴族たちが謁見の間に集まった頃だろ。先手を打つ」
「では、その前にコレを」

 ガーベラがロイのマントの下にオレンジ色の宝石で飾られたブローチをつけた。

「そんな見えないところでは飾りとしての意味はないぞ」
「これは先王の父がお守りとして身につけていた代物。このブローチのように影から国を支えるという戒めの物でもあります」
「これこそネイビに付けろ」
「あの子には重すぎます」

 ブローチを付けたガーベラが一歩下がる。

「私は力持ちでもないんだがな。そういえばネイビはどこだ? 姿を見てないが」
「あまりに貴族に囲われて……今では、ほとんど部屋から出なくなりました」
「……そうか。そのうち顔を見に行かないといけないな」

 ロイは執務室から出ていった。
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