【完結】黒猫になった甦りの魔女と子どもになった腹黒な元王子は不処カフェで宝石を待つ

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王城探検

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 ヨミはガーベラの肩にのったまま移動した。足取りはリズミカルだが安定しており、意外と乗り心地が良い。
 すれ違う人々からは奇異の視線を向けられるが、それさえもを楽しんでいる様子のガーベラ。

 城の大広間を抜けたところで、背後から聞き覚えがある……いや、聞き慣れた声がした。

「あ、姉上。おはようござぃゐ!?」

 驚きが混じった声。久しぶりに聞いた……いや、実際には数日しか経っていないが、その声にヨミの心臓が飛び跳ねる。

 バクバクと駆ける心臓をヨミは落ち着かせようとするが、その前にガーベラが振り返った。そのため、ヨミも自然と振り返る。

「おはようございます、ロイ」

 優雅に挨拶をするガーベラに対し、目を丸くしてこちらを見上げるロイ。青水晶の瞳がこぼれ落ちそうなほど大きくなり、小さな口が無防備に開いている。

 滅多に見れない間抜け顔。これはこれで面白い。果たしてヨミと気づいているのか、いないのか。
 笑いをこらえてロイを見下ろすヨミ。一方のロイはなんとか平静を装いながらガーベラの肩を指さした。

「あ、姉上? その肩の猫、は?」
「城内の獣避けの罠に引っかかって怪我をしていたところを保護しました」
「そ、そうですか」
「飼い主を探していますので、心当たりがありましたら教えてください」
「は、はぁ……」

 青水晶の瞳が覗き込んでくる。ヨミはロイに興味がないフリをしてガーベラの顔にすり寄った。

「あら、あら。甘えん坊さんね。じゃあ、行きましょう」
「……あ」
「どうしました?」

 なにか言いたげなロイにガーベラが足を止める。

「い、いえ。なんでもないです」
「そう? では、また」

 滅多に見れないロイの戸惑った顔。ヨミは少し得した気分になった。心なしかガーベラの足取りも軽い。
 しばらく進むと、今度は正面から低い声で挨拶をされた。

「ガーベラ様、おはようございます」

 グリスと若い騎士が並んで歩いてくる。その光景にヨミは逃げ出しかけたが、なんとか踏みとどまった。

(ここで逃げたら、グリスに怪しまれる。猫のフリで乗り切るしかないわ)

 ヨミは廊下の窓の外に顔を向けながらも、チラチラと歩いてくる二人を観察した。

 グリスの胸には胸章があり、形からして先々代の騎士団長であったことが分かる。
 只者ではないと思っていたが、騎士団長だったとは。しかも、奇人にして人心掌握の達人と名高い先々代の騎士団長。

 隣にいる騎士はガーベラより少し年上。茶色の短髪。太い眉に鋭い焦げ茶の瞳。鍛えられた体。
 自然な立ち振る舞いながらも隙がなく、歴戦の騎士の見本のなる姿。しかも、胸には現在の騎士団長の胸章がある。

 ガーベラが二人へ軽く膝を折った。

「おはようございます。グリス様、パルド様」
「おはようございます、ガーベラ様。今日もお美しいですな」
「グリス様は相変わらず口がお上手ですね」
「いや、いや。本心ですぞ」

 ガーベラとグリスが笑い合う。そこに、パルドと呼ばれた騎士がグリスに声をかけた。

「所要を思い出しましたので、申し訳ないのですが先に行かれてください」

 なにかに気づいたようにグリスがパルドとガーベラを交互に見て頷く。

「おぉ、これは気が利かず悪かったですな。老兵はさっさとお暇しましょうて」

 パルドとガーベラが同時に慌てる。

「グ、グリス殿! 決してそのような!」
「違いますのよ、グリス様!」

 お互いに赤面して否定する姿。恋愛に縁遠いヨミでも察しがつく。

(昨日、ガーベラが話していた想い人って、この人のこと、ね。でも、ここでグリスがいなくなるのは助かるわ)

「ほっほっほっ。あとはお若い二人でゆっくりどうぞ」

 グリスが笑いながら歩いていく。すれ違いざまにヨミにウインクをして。

(本当に抜け目ない人、ね)

 ヨミは半目になってグリスを見送っていると、ガーベラが可愛らしく怒った。

「もう。グリス様はお戯れが過ぎますわ」
「申し訳ございません。グリス様の誤解は後で説いておきます」
「……私は別に誤解されたままでも構いませんけど」
「え……?」

 恥ずかしげに絡み合う二人の視線。見えないハートが二人を包む。完全に二人の世界。

 動くに動けないヨミは息を殺し、気配を断った。

(私は毛皮。私は毛皮。私は……って、なんで気を使わないといけないのよ!)

 我に返ったヨミと同時にパルドが思い出したように言った。

「そうだ。ガーベラ様、ネイビ様について報告があります」
「ネイビが、なにか?」
「失礼」

 気配が鋭くなったパルドが断りをいれ、ガーベラに近づく。周囲に人影がないことを確認すると、ガーベラの耳元で囁いた。

「警備兵を筆頭に、動けるすべての兵を使って、王都中の黒猫を集めております」
「なぜ、そのようなことを?」
「目的は調査中です。ただ、私の耳に入らないようにしていたようで報告が遅くなりました」

 報告を終えたパルドが一歩下がる。ガーベラが顎に白い手を添えて考えた。

「騎士団長であるパルド様の耳に入らないように……つまり、私に知られたくなかった、ということかしら」
「その可能性もあります」
「でしたら、私は知らないフリをしていたほうが、この猫ちゃんのためにも良さそうですね。調査は引き続きお願いします」
「わかりました」

 パルドが姿勢を正し、一礼して去る。

 ガーベラが済まなそうにヨミを撫でた。

「猫ちゃんはネイビのせいで、ここにいるのね。ごめんなさい」

(謝られても、私は気にしてな……いや、馬車に酔ったし怪我もしたし、ネイビに怒りはあるわ……って、あ、そこ。気持ち良すぎ)

 ガーベラの肩で溶けかけていたヨミに鋭い視線が刺さる。ヨミは思わず毛を逆立てて警戒した。

「姉上、その猫はどこで?」

 まるで地を這いずっているような重苦しい声。獲物を捕らえ、引きずり込もうとする禍々しさがある。

「あら、朝の挨拶もなし?」

 しかし、ガーベラがそんな雰囲気を軽く払った。さり気なくヨミを撫でて安心させる。

「失礼しました、姉上。おはようございます。で、その猫はどこにいました?」

 ネイビが事務処理のように淡々と話す。右手はカリカリと忙しなく胸にある飾りのボタンを引っ掻く。

 落ち着きがないネイビにガーベラが心配そうな顔になった。

「ちゃんと眠れています? 食欲もあまりないようですし、一度医師の診察を……」
「結構です! それより、その猫をどうしたのか、と聞いているんです!」

 ネイビが怒鳴るように声を荒らげた。歩いていた人の足が驚きの表情とともに止まる。だが、一番驚いた顔をしていたのはネイビだった。

 我に返ったのか、ネイビが気まずそうに顔を背ける。

「すみません。出直してきます」
「あ、ちょっ、ネイビ! 待ちなさ……」

 ガーベラが止めるのも聞かず、ネイビが歩き去った。ネイビが立っていた場所に残り香のような微かな魔力が漂う。

(この魔力は……)

 ヨミはガーベラの肩から飛び降りた。足の傷が少し傷んだが、歩くことはできる。

「猫ちゃんまで、どこへ行くの?」

 ガーベラが慌てて手をのばす。しかし、ヨミはするりと手をぬけた。
 振り返ったヨミにガーベラが肩をすくめる。

「もう。夕食までには帰ってきなさい」
「にゃあ」

 ヨミは猫っぽく返事をすると廊下を歩き出した。
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