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覚悟の一刀

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 「ゴホッ ゴホッ 貴様は・・なんなのだ!?」

 「織田軍の合田武蔵。一応、織田家では相伴衆だったかな?まぁそんな感じの者です」

 「大局的に見れば武田軍の圧勝である。ゴホッ ゴホッ だが!その盤面、盤面で見ればあり得ない負けもあった。馬場信春、先の内藤昌秀、信廉もじゃ」

 「馬場はオレが。内藤はオレの妻のあやめが。信廉もさっきオレが討ちました」

 「これで線が繋がった。歯に挟まる魚の小骨のような感じじゃった。長篠から数十騎逃げたと報告があった。それからじゃ。馬場が討たれ、徳川の坊ちゃんには逃げられ・・・。小さな違和感を放っておいたツケが回ってきたようだな。ワシを餌にし、野戦に持ち込んだはいいが、まさか本陣までしかもこんな少人数で攻め立てられるとはな」

 「・・・・・・・・」

 「人は城、人は石垣、人は堀、情けは味方、仇は敵なり。人を失ったワシに最早、天下はあるまいて。だが、ワシは甲斐源氏流 第19代武田家当主!無様な負けはせん!抜けッ!合田!」

 抜けと言われてもオレは刀なんか抜かない。抜いた瞬間に斬られる事が分かるからだ。

 相手は病人と言えど、素人のオレにでも分かるくらいのオーラを放っている人だ。構わずオレはボウガンを構える。だが、その動作と同時に慶次さんとあやめさんを鍔迫り合いする事なく、足技も使い吹っ飛ばす。

 「あ・・・兄者・・・」

 最後っ屁というやつだろうか・・・。先に倒したと思った武田信廉が倒れたまま、オレの足を捕まえた。

 「ヤバイ!離せっ!!」

 「死ねいッ!!!小童がッ!!」

 信玄が刀を振りかぶったその時、オレは目の前が真っ赤になった。瞬間的に斬られたと思った。

 が、それは違ったようだ。

 「ほほほ。なにも敵は合田殿だけではありませんからね?合田殿も、よもや卑怯とは言わないでいただきたいですな」

 オレが助かった理由・・・自称 名軍師 自称 一騎打ち嫌いの竹中さんだ。

 「すいません、助かりました!まさか卑怯なんて思わないですよ!」

 信玄が刀を振りかぶった瞬間、竹中さんはオレを引っ張り後ろへ倒した。その瞬間に脇差しで信玄の首を斬った。その返り血がオレに飛散した感じだ。里志君も有沙さんも唖然としている。間近で刀の斬り合いを見たのは初めてだろう。オレは既に何回も味わっているからなんとも思わないけど2人は・・・

 「凄い!凄い!半兵衛さん!かっこいい!!!」

 「オェ~・・・さ、さすが竹中様です・・・あの武田信玄を討ち取るなんて・・・」

 里志君は少し吐いているけど、有沙さんに関しては心配要らずだな。

 「ほほほ。勝てばよいのです。ですが、私は手柄に興味はございません。卑怯と言われるのは嫌いですがね。おや?首を斬って、あれほど血が出ているのにまだ息があるようで?私の腕も鈍ってしまったようですね」

 「クッ・・・・してやられたか。まさか外野が手を出すとは思わなんだ。グハッ!」

 「確かに助けられなければ倒れていたのはオレでした。武田様、さすがです」

 「馬鹿にするでないッ!!チッ。ワシはここまでだが必ず次代の武田が織田も徳川も飲み込む。あの世でお前達が来るのを楽しみに待っておる」

 信玄がそう言うともう一つの刀をオレに差し出し、手で首叩いた。

 以前の誰かと同じような感じだ。前はオレは引いてしまったが、今回はちゃんとしないといけない気がする。いや・・・未来と決別するわけではないが、この時代の一員になるため、武将になるためしないといけない気がする。

 上手く斬れるか分からないが、オレは信長さんから貰った刀を抜き、振り上げる。慶次さんの方を見ると軽く頷いた。あやめさんも頷いた。里志君、有沙さん、竹中さんも同じだ。

 オレは以前、慶次さんが介錯?したような口調で似た事を言った。

 「武田徳栄軒信玄 見事也!」

 ズシャンッ

 刀の苦手なオレだが、はたまた刀の斬れ味が良かったのか・・・オレにしては見事な斬り方だったと思う。一刀で信玄の首を落とす事に成功した。

 ポンポン

 「武蔵・・・俺の知らない間に立派な武将になったんだな。首はどうするんだ?」

 「いや、この刀だけで充分。竹中様?首桶ありますか?一応、致命傷は竹中様が付けたから権利がオレにあるかは分かりませんが・・・」

 「ほほほ。全て思いのままに。久しぶりに楽しませてもらいましたよ」

 「ありがとうございます。慶次さん?首桶に信玄の首を」

 「相分かった」

 本陣に居た武田の兵は焼死したり有沙さん達が射殺した人達でいっぱいだ。逃げた奴も相当数居ると思う。

 とにかく、オレ達を遮る敵はこの場に居ない。オレは信玄の首を首桶に入れ、身体の横に丁寧に置いた。

 この場に敵は居ないと言ったが、追いかけている軍がこちらへ向かってくれば今度こそオレ達が死ぬのが分かる。

 みんなで、少しの黙祷をした後、平手さん達と合流して鳳来寺街道の脇道から浜松を目指した。本来の道から戻りたいが、確実に武田軍と出会うからだ。

 オレ達が城に戻ったのは次の日の早朝近くだった。戦が始まったのが夕方の17時前後だった。夜通し、道と言えるか分からない崖のような所も通った。土地勘がまったく分からないため、竹中さんが先導してくれたわけだが、あまりの疲れに最後の方は気力を振り絞り歩ききった。

 随分と南下して、最後の天竜川を渡る時が1番苦労した。寒さ、激流だからだ。だが、オレ達男はパン一になり、戦国の人達は褌一丁になりなんとか明るくなる前に城へ到着した。

 ちなみに女の子2人・・・あやめさんと有沙さんは服を着たままだ。着たままといっても現代のインナーを着ている2人。冬だったからかキャミソールを着ていたのでそれで渡ってもらった。

 そして、天竜川を渡りオレ達が城に帰った頃に珍しく未来の静岡ではこの時期には珍しい雪が降り始めた。

 オレはやっとこの時代の一員になれた思いホッとして肩の痛みに耐えながらやっと帰る事ができた。浜松城の城門を潜る時・・・いつからか分からないが、オレはあやめさんと手を繋いでの凱旋だった。
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