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~カノンの生活編~

~大罪人~

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カノンの父オリヴァーはまとめた情報を読み上げていく。

「集まった情報をまとめたのがその資料に書いてある内容だ。
今の代は当時より酷いものだ…。領民の納税の増額はしていないが、当時と同様に支援金を横領していた。さらに近年の政策である年に二度の領民に還元する税の半分を横領。違和感を感じた領民からの問い合わせには嘘の情報を通した。おそらく支援金や税がまとまって入ってないだとか適当な事を言ってのけたのだろう。それから…これはカノン…おまえに聞かせるのは心苦しいが…。」
オリヴァーは内容を説明していたのだが、この先の内容は娘には苦だと言葉を濁し書類に向けていた視線をカノンに向ける。

「大丈夫ですわ…ある程度目は通しました…。続けてくださいまし。」
書類に目を通していたカノンの手や声は震えていた。
その様子をオリヴァーやライラックは心配し二人は顔を見合わせるが、ライラックが頷くとオリヴァーは答えるように内容の説明を続けた。

「卑劣さはお金の事だけではない。
………強姦だ。主に若い新人の使用人相手だそうだ。その者達は離職する際、心身ともに壊し故郷へ帰るのだそうだ。脅しのせいだろう…周囲に言えるような状態でも状況でもないとの事だ…。
今回それがわかったのは私が派遣した女性用心棒のシェルが怯えながら子爵の寝室に入って行く若い使用人の姿を目撃して、子爵が部屋に戻る前に保護し未然に防げた事で判明した。

怯えていた彼女は長い沈黙の後にシェルを信用してくれて、少しずつ話してくれたそうだ。
最初は仕事中の彼女の体を軽く触る程度で回数も少なかったそうだ。日が経つにつれて一人でいるのを狙い軽く触る程度では収まらず、回数も増えていき、あげくには…脅しをかけられ、寝室に呼び出されたらしい。
今回は未然に防げたが他にも被害者がいると思い、シェルに調べてもらった。
長年働いている使用人に辞めていった若い者の事を問い、その者達のもとを訪ね事情を聴きまわった。皆言いたがらなかったが、一人だけ協力してくれた者がいて全てを話してくれた。

そして今回シェルが助けた彼女の姉が子爵家で雇用が決まり喜んでいたが、ひと月後に心身を壊し実家に帰ってきたのだそうだ…。
彼女は姉から理由を聞けないまま子爵家での雇用が決まり、今回自分が体験した上を行く事を姉はされたのではと考えに至った。
彼女の姉は今は言葉を発する事もなく虚ろな目で生活を送っているそうだ。

この件は娘を持つ私としては放ってはおけず、さらに調査を進めさせ、署名を集めてある。
他にも強制労働を強いたり…挙げれば本当にキリがないくらいの卑劣さなのだ。

今回の誘拐はアザレアの領地権を奪う為カノンを捕らえ、あわよくばと考えての事だろう。
そうならず無事でいてくれて本当に良かった…。

誘拐や署名の件諸々の事もありリーデル子爵はすでに捕らわれており、尋問も始まっている。
拷問は…まぁ法に犯さない程度には受けるだろうし、受けずに牢獄入りだけかもしれない。
爵位は間違いなく剥奪になり財産も差し押さえ、彼が治めていた領土の領地権は今後の議題に上げる予定だ。
それまでは彼の貯えから政策をする事になった。
今言えるのは以上だ。」

調査内容を言い終えたオリヴァー。
静まり返った部屋で先に言葉を発したのはカノンだ。

「セクハラにパワハラ…ブラック企業並の……冗談じゃありませんわ!
人の体を…心を…壊しておいてそんなの……。
目が虚ろで生活している?そんなの死んでいるのと同じですわ!
わたくし…その方々に何ができるか考えます。同じ女性として放ってはおけません。
それとお父様、もしその子爵…いいえ、低俗の輩に判決を下す日はぜひわたくしも参加致しますわ。
その者の判決内容を見届けたいのです。それと…無理を承知でお願いしたい事があります。その判決の日にわたくしにも発言権や一部権利を頂きたいのです。
私利私欲のために数々の悪道にアザレアの領地権の為わたくしを誘拐、あわよくば強姦ですって…。
わたくしを敵に回した事、後悔させてやりますわ。」
先ほどカノンが書類を見て震えていたのは恐怖ではなく怒りだったのだ。

カノンの聞きなれない言葉や判決に関する発言にオリヴァーやライラックは固まる。
二人はまたも顔を見合わせカノンを宥めるなだめる

「カ、カノン…落ち着いてくれないか…。」
「カノン嬢…。さすがに…強気発言…何か考えがあるのかい?」

二人はおずおずとカノンに声を掛ける。

「お二人には秘密ですわ。」
カノンは笑顔で答えるが、その笑顔に身震いする二人だった。
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