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最後の異世界生活~カノン編~
~音色~
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カノンと原さんがショッピングモールのカフェで音楽療法の為の楽譜を検索し、その話で盛り上がっている中、時間を見るともう日が落ち、月が見え始めている頃だった。
時間が思いのほか過ぎていた事に、二人は慌てて帰る支度をしてカフェを出た。
カノン達が、ショッピングモールを出る為、出入り口に向かって歩いていると、一階にある、イベントが催されるであろう少しだけ広いホールに、カノン達が来た時にはなかったピアノが設置されており、人だかりが出来ていた。
「さっきまでなかったのに、なんだろう?ちょっと待ってね……。」
原さんがピアノと人だかりを見て、不思議に思い、制服のポケットから携帯を取り出し、ショッピングモールのイベントについて調べ始めた。
「んーと…今日の午後、18時からグランドピアノを設置…どなたでもどうぞ、心、行《ゆ》くまま弾いて行ってください…だって。ようは、ストリートピアノだね。」
「ストリート…ピアノ?ってなんですの?」
「演奏時間などの、ルールを守ったうえでなら、プロでも素人でも、誰でも弾いていいの。今、ネットの動画サイトでも人気なんだよ。」
「そういうものがあるなんて…この世界は…本当に発想や技術が面白いですわね。今は…どなたも弾いていませんわ。」
「うん…前の人が終わったばかりで、次の人を待っているのかな…。それにしても、次の演奏者がなかなか現れないみたいだけど…。……そうだ!カノンちゃん、やってみない?」
「えっ…わたくしですか?!いきなりは…その…心の準備というものがありまして…。」
「え~?カノンちゃんでも、心の準備とかあるんだ~?いつもの強気なお嬢様はどこ行ったのかな~?『出来るかどうかじゃなく、やるのです!』って言ってそうなのに。」
カノンの演奏を渋る様子に原さんは少し、煽り気味に顔をニヤつかさせながら、ピアノの演奏を促した。
その言葉にカノンは不本意ながらも乗り、意を決して、人だかりの中に入って行き、辺りを見渡し、他に伴奏者がいない事を確認してピアノの前の椅子に座った。
カノンは椅子の近くに自分の荷物を置き、鍵盤に手を置き、深呼吸を大きく一つして、頭の中にある曲を奏でていった。
カノンが奏でている曲は、どこか先ほど聞いた『カノン』にも似ており、それでいて違う曲調で、優しくも時に激しく、所々力強く全体的にはしなやかな曲だった。
原さんや、ピアノを取り囲んでいた人達は聞いた事がない曲にも関わらず、カノンが奏でる音色を聞き行っており、次第に皆の表情が心地よさそうな表情を見せ始めた。
中には目を閉じて、聞き入る者もいれば、わからないながらも、頭を動かし、リズムをとる者もいた。
そうして、カノンがピアノを弾き終え、顔を上げると、その場は拍手や喝采に包まれた。
カノンは恥ずかしそうに顔を赤らめ、荷物を取り、四方八方に軽く会釈をして原さんのもとに戻った。
「カノンちゃん、お疲れ様ーー!!演奏、すっごい良かったよーー!聞いた事ないけど、でもどこか懐かしい感じがして、感動した!!こう、なんて言うんだろう…優しくて、力強くて…なんだか、カノンちゃんみたいだった!!」
「あ、ありがとうございます…。お姉様が…よく弾いて聞かせてくださった曲ですの。亡くなったお母様が、いつも弾いていた曲みたいでして…。タイトルはありません。おそらく、お母様が作曲された曲なんだと思います。」
「そっかぁ。すごく、優しいお母さんだったんだね。」
原さんの言葉にカノンは照れくさそうに、けれど、優しい笑みを浮かべた。
二人は、ホールを背にして、今度こそショッピングモールの出入り口を目指して帰路に着いた。
カノンが一ノ瀬家に帰ってきたのは18時30分を過ぎた頃だった。
カノンが玄関先で挨拶をすると、ダイニングテーブルのある部屋から結の声で返事が返ってきた。
その直後に徹の声で、夕食の準備を済ませている事と、着替えを促す声が聞こえ、カノンは声に従って部屋で着替えを済ませたり、手を洗ったり、夕食を採る為ダイニングテーブルに向かった。
カノンがダイニングテーブルのある部屋に顔を出すと、飲み物を飲んでいた要が、カノンの顔を見るなり、吹き出した。
「なっ……はっ?!…おまっ…はぁ?!」
「落ち着いてくださいまし、要さん。あ、帰りが遅くなって申し訳ありません。ただいま戻りました、結お母様、徹お父様。……要お兄様?」
「そのお兄様ってのやめろ!つーか、なんだよ!その姿!!全くの別人じゃねーか!!声は美桜なのに、姿が別人とか、ゲシュタルト崩壊起こすわ!!」
「ゲシュ……なんですの?」
「………いや、もういい…。」
要はカノンの姿を見るなり、驚きでよくわからないツッコミをしており、徹は驚きのあまり目が点になり言葉がうまく出せずにおり、結は、驚いたのも束の間で、目を輝かせてカノンに駆け寄った。
「カノンちゃん、すごーい!!もしかして、メイクのおさらいをした時に教えた変身メイクをしたのね!!完成度高ーーい!!でも…その姿は…。」
「結お母様が教えてくださった技術を活用してみましたの。褒めて頂きありがとうございます。…この姿は…元の世界のわたくしの姿ですわ。」
カノンは結の言葉に返事をして、眉を下げ、少しだけ寂しそうに微笑んだ。
時間が思いのほか過ぎていた事に、二人は慌てて帰る支度をしてカフェを出た。
カノン達が、ショッピングモールを出る為、出入り口に向かって歩いていると、一階にある、イベントが催されるであろう少しだけ広いホールに、カノン達が来た時にはなかったピアノが設置されており、人だかりが出来ていた。
「さっきまでなかったのに、なんだろう?ちょっと待ってね……。」
原さんがピアノと人だかりを見て、不思議に思い、制服のポケットから携帯を取り出し、ショッピングモールのイベントについて調べ始めた。
「んーと…今日の午後、18時からグランドピアノを設置…どなたでもどうぞ、心、行《ゆ》くまま弾いて行ってください…だって。ようは、ストリートピアノだね。」
「ストリート…ピアノ?ってなんですの?」
「演奏時間などの、ルールを守ったうえでなら、プロでも素人でも、誰でも弾いていいの。今、ネットの動画サイトでも人気なんだよ。」
「そういうものがあるなんて…この世界は…本当に発想や技術が面白いですわね。今は…どなたも弾いていませんわ。」
「うん…前の人が終わったばかりで、次の人を待っているのかな…。それにしても、次の演奏者がなかなか現れないみたいだけど…。……そうだ!カノンちゃん、やってみない?」
「えっ…わたくしですか?!いきなりは…その…心の準備というものがありまして…。」
「え~?カノンちゃんでも、心の準備とかあるんだ~?いつもの強気なお嬢様はどこ行ったのかな~?『出来るかどうかじゃなく、やるのです!』って言ってそうなのに。」
カノンの演奏を渋る様子に原さんは少し、煽り気味に顔をニヤつかさせながら、ピアノの演奏を促した。
その言葉にカノンは不本意ながらも乗り、意を決して、人だかりの中に入って行き、辺りを見渡し、他に伴奏者がいない事を確認してピアノの前の椅子に座った。
カノンは椅子の近くに自分の荷物を置き、鍵盤に手を置き、深呼吸を大きく一つして、頭の中にある曲を奏でていった。
カノンが奏でている曲は、どこか先ほど聞いた『カノン』にも似ており、それでいて違う曲調で、優しくも時に激しく、所々力強く全体的にはしなやかな曲だった。
原さんや、ピアノを取り囲んでいた人達は聞いた事がない曲にも関わらず、カノンが奏でる音色を聞き行っており、次第に皆の表情が心地よさそうな表情を見せ始めた。
中には目を閉じて、聞き入る者もいれば、わからないながらも、頭を動かし、リズムをとる者もいた。
そうして、カノンがピアノを弾き終え、顔を上げると、その場は拍手や喝采に包まれた。
カノンは恥ずかしそうに顔を赤らめ、荷物を取り、四方八方に軽く会釈をして原さんのもとに戻った。
「カノンちゃん、お疲れ様ーー!!演奏、すっごい良かったよーー!聞いた事ないけど、でもどこか懐かしい感じがして、感動した!!こう、なんて言うんだろう…優しくて、力強くて…なんだか、カノンちゃんみたいだった!!」
「あ、ありがとうございます…。お姉様が…よく弾いて聞かせてくださった曲ですの。亡くなったお母様が、いつも弾いていた曲みたいでして…。タイトルはありません。おそらく、お母様が作曲された曲なんだと思います。」
「そっかぁ。すごく、優しいお母さんだったんだね。」
原さんの言葉にカノンは照れくさそうに、けれど、優しい笑みを浮かべた。
二人は、ホールを背にして、今度こそショッピングモールの出入り口を目指して帰路に着いた。
カノンが一ノ瀬家に帰ってきたのは18時30分を過ぎた頃だった。
カノンが玄関先で挨拶をすると、ダイニングテーブルのある部屋から結の声で返事が返ってきた。
その直後に徹の声で、夕食の準備を済ませている事と、着替えを促す声が聞こえ、カノンは声に従って部屋で着替えを済ませたり、手を洗ったり、夕食を採る為ダイニングテーブルに向かった。
カノンがダイニングテーブルのある部屋に顔を出すと、飲み物を飲んでいた要が、カノンの顔を見るなり、吹き出した。
「なっ……はっ?!…おまっ…はぁ?!」
「落ち着いてくださいまし、要さん。あ、帰りが遅くなって申し訳ありません。ただいま戻りました、結お母様、徹お父様。……要お兄様?」
「そのお兄様ってのやめろ!つーか、なんだよ!その姿!!全くの別人じゃねーか!!声は美桜なのに、姿が別人とか、ゲシュタルト崩壊起こすわ!!」
「ゲシュ……なんですの?」
「………いや、もういい…。」
要はカノンの姿を見るなり、驚きでよくわからないツッコミをしており、徹は驚きのあまり目が点になり言葉がうまく出せずにおり、結は、驚いたのも束の間で、目を輝かせてカノンに駆け寄った。
「カノンちゃん、すごーい!!もしかして、メイクのおさらいをした時に教えた変身メイクをしたのね!!完成度高ーーい!!でも…その姿は…。」
「結お母様が教えてくださった技術を活用してみましたの。褒めて頂きありがとうございます。…この姿は…元の世界のわたくしの姿ですわ。」
カノンは結の言葉に返事をして、眉を下げ、少しだけ寂しそうに微笑んだ。
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