どうかわたしのお兄ちゃんを生き返らせて

なかじまあゆこ

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カラスと日記帳

仏壇がガタガタ

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  お兄ちゃん、どうしていなくなったの?  ねえ、お兄ちゃんどうしてわたしをおいていなくなってしまったのよ。

  お兄ちゃんから答えなんて返ってこないのは分かってはいるけれど、ねえお兄ちゃんと叫びたくなる、青空に向かって叫びたくなるよ。

   お兄ちゃん!

   お兄ちゃん!

  
  返ってこない返事が虚しくてわたしは、下を向いた。だけど、もう一度青空を見上げてわたしは歩き出した。

  お兄ちゃんの日記帳があるもん、お兄ちゃんはそばにいてくれているはずなんだから。

  さあ、家に帰ろう。お父さんとお母さんが待っていてくれるはずだ。

  それから、やっぱりカラスが何故わたしやお兄ちゃんを襲ってくるのかその真相も知りたい。

  わたしは、ゆっくり、ゆっくりと歩き始めた。

  
  家に着くとわたしは、仏壇の前に座った。

  お鈴を鈴棒でチーンと鳴らした。

『お兄ちゃん、わたしは今日も元気に頑張って生きているよ。お兄ちゃん、めんたい味のうまい棒は食べてくれたかな?』

  わたしは、心の中でお兄ちゃんに話しかけた。答えてくれなくても大丈夫。

『お兄ちゃん、今日はね、カラスにおでこを蹴飛ばされたの、酷いよね。ねえ、あのカラスは何かお兄ちゃんは知っているのかな?』

  お兄ちゃんに聞いてほしいことをわたしは、仏壇に向かって心の中で話しかけた。

  
  答えてくれなくても、話すと心の中がスッキリとする。

  そして、わたしはお兄ちゃんの遺影をちらりと見た。遺影の中のお兄ちゃんは穏やかな表情をしている。

  良かった。わたしはほっとした。

『じゃあね、お兄ちゃんまたね』

  わたしは、もう一度、お鈴を鈴棒でチーンと鳴らして立ち上がった。

  と、その時、ガタガタガタガタガタガタと音が鳴った。

  
  ガタガタガタガタと突然、お鈴と、お鈴台とそして鈴座布団が揺れて、そして飛んだ。

  お鈴が襖にドンッとぶつかりお鈴台はころころと畳の上を転がった。そして、鈴座布団はわたしの顔にペシッとぶつかった。

  な、これは何。

  お兄ちゃん、これはどういうこと?

  お兄ちゃんの遺影に目を向けると、遺影もガタガタと揺れた。

  どうしたの?   お兄ちゃん、どうしたのよ。

  そうだ、お母さんは家に居るんじゃないの?

「お母さん」とわたしは、お母さんを呼ぶが返事はない。


  
「お母さん、お母さん~」

 わたしは、廊下を走りお母さんを探す。だけど、返事はない。一部屋ごと襖や扉を開けるけれどお母さんの姿はなかった。

  玄関に行きお母さんの靴を確認するけれど靴はなかった。

  食堂の仕事は、お母さんは休みのはずなんだけど、きっとお母さんは買い物に行ったんだ。

  もうどうしてこんな時にいないのよ。

  わたしは、踵を返して恐る恐るもう一度仏壇がある和室に向かった。


  
  わたしは、ドキドキしながら仏壇がある和室に入る。お鈴とお鈴台、それからお鈴座布団は畳の上に転がっていた。

  お兄ちゃんの遺影を確認すると何事もなかったかのように、そこにあった。

  一体何が起きたというのかな?

  「お兄ちゃん、ねえ、お兄ちゃんがお鈴を飛ばしたの?  ねえ、お兄ちゃん、答えてよ」

  わたしは、お兄ちゃんの遺影に向かって叫んだ。だけど遺影の中のお兄ちゃんは優しい表情で微笑んでいるだけだった。


  
  お兄ちゃんの遺影が揺れたり、表情が変わったりするのには何か意味があるのだろうか?

  わたしに、お兄ちゃんは何かを訴えかけているのかな?

  分からない、分からない、分からないよ~

  ちゃんと言ってくれないと分からないんだから。わたしは、分からないんだから。

  わたしの明るくなったはずの心は、暗い闇に吸い込まれてドンドンと沼の奥底にでも引き込まれていきそうだ。

  

  わたしは、お兄ちゃんの遺影に手を伸ばした。

 そして、お兄ちゃんの写真をじっくりと見つめた。切れ長の綺麗な瞳がまるでわたしに笑いかけてくれているようだ。

「お兄ちゃん、笑っている場合じゃないんだよ。史砂はね、今、困っているんだよ」

  遺影を持つわたしの手に力が入った。

  カラスと日記帳とお兄ちゃんの遺影が揺れたりすることには、何か繋がりがあるのかな?

  
  わたしは、そうだと思い、遺影を置き、猫の鞄からお兄ちゃんの日記帳を取り出した。

  お兄ちゃんの遺影に向かいわたしは、「お兄ちゃん、今ね、わたしお兄ちゃんの日記帳を読ませてもらっているんだよ。お兄ちゃんもいろんな悩みがあったんだね」

  わたしは、そういいながら日記帳をお兄ちゃんの遺影に見せた。

  すると、「史砂……」とお兄ちゃんの声が聞こえた気がした。

  
「お、お兄ちゃん、何かな?  わたしに言いたいことがあるのかな?」

  わたしは、お兄ちゃんの遺影を食い入るように見つめた。遺影を握る手にも自然に力が入る。

  だけど、お兄ちゃんは、何も答えてはくれない。どうして答えてくれないの。お兄ちゃん、ずるいじゃない。

  今、史砂って言ったよね?

  中途半端に史砂と言われてもわたしはどうしたらいいのよ。

  お兄ちゃん、答えてよ。わたしはお兄ちゃんの遺影を強く強く握りながら言った。

  
  答えてくれないお兄ちゃんにわたしは、何十回も「お兄ちゃん、何かな?   何かな?  何かな?  何かな?  何かな?  何かな?   何かな?  何かな?  何かな?  ねえ、なんなのよ。お兄ちゃん、答えなさい~」

  と喚いてしまった。

  だけど、わたしが何回、何十回喚いてもお兄ちゃんは、答えてはくれなかった。

  疲れ果てたわたしは、「もういいよ。答えてくれないんなら部屋に戻るから」と言ってわたしは、お兄ちゃんの遺影を床の間にポンと置いた。
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