激しい雨が降る 小説一覧
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企業の研究所で起きたソフトウェア不正使用の疑惑を追う主人公は、同僚・美沙の協力を得て真相に迫る。主任研究員が契約終了後も研究用ソフトを無断で使用し、外部にデータを転送していた証拠を掴むが、組織は事態を隠蔽しようとする。教授の前で形式的な謝罪を行う研究所長と主任に、教授は真相解明なしの和解を拒絶する。企業の体面を守ろうとする法務部に直訴した主人公は、内部秩序を乱す危険分子と見なされる。
一方、病を患う父は終末期医療を受け入れ、主人公は家族の決断に苦悩する。研究所では主任研究員が心不全で急死し、続いて内部告発に協力した幸宏が交通事故死、同僚の麻里も急逝する。三人の死は偶然とは思えず、真実を語る者たちが次々と消えていく中で、主人公は自らの行動が命を巻き込む恐怖と罪責に苛まれる。
会社は主任の死とともに事件を「なかったこと」にし、教授にCD-Romを内容証明で返送して幕を引こうとするが、それが大学側の怒りを買い、産学連携の信頼関係は崩壊する。主人公は事実を大学教授会で証言し、真実を公の記録に刻むが、直後に大阪転勤を命じられ、本社から遠ざけられる。
一連の出来事と父の死を経て、彼は「正義」と「沈黙」の狭間で最終的な選択を下す。組織に対し、「これ以上の不利益があれば株主総会で会おう」と告げ、内部の闇を握りつつ六十日の休職に入る。静かな脅しは「公正な取引(Fair Exchange)」として成立し、双方の暗黙の和解を導いた。
その後、株主総会を傍観する彼の姿は、もはや怒りではなく静かな決意に満ちていた。
やがて彼は早期退職を選び、ロンドンを経てアフリカ・ナイロビへ。
かつて失われた「ボタンの掛け違い」の意味を、父の過去と自らの再生の中に見出す。
不正と死の連鎖を超えた彼の旅は、「赦し」と「再出発」の物語へと昇華してゆく。
文字数 28,508
最終更新日 2025.11.04
登録日 2025.11.04
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