現代文学 静かな生存記録 小説一覧
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昼は小さな職場で働き、
夜は父の介護を手伝う22歳の少女・白石灯(しらいし あかり)。
仕事では小さなミスを何日も引きずり、
怒鳴り声に怯え、
「自分は役に立っていないのではないか」と胸を締めつけられる日々。
家に帰れば、年金暮らしの両親。
父の通院、薬の管理、家計の心配。
母の疲れた背中を見るたびに、
「私がしっかりしなきゃ」と思う。
けれど、本当は――
誰にも会いたくない夜がある。
そんな夜、灯は決まって駅前のカラオケ店に入る。
狭い個室。
柔らかな防音の壁。
マイクを握った瞬間だけ、
彼女は“娘”でも“部下”でもなくなる。
ただの、声。
点数が出るたびに一喜一憂しながら、
歌詞に自分の感情を重ね、
涙を流し、
それでも最後の一曲を歌いきる。
歌っているあいだだけ、
胸の奥のざわめきが静かになる。
介護の不安も、
仕事の失敗も、
将来への焦りも、
ネオンの光の向こうに溶けていく。
大きな成功はない。
劇的な救いもない。
それでも灯は、今日も仕事を終え、
財布の中身を少し気にしながら、
静かに個室へ向かう。
歌うことは、逃げではない。
それは、壊れないための選択。
――誰にも会いたくない夜は、歌う。
文字数 5,854
最終更新日 2026.02.22
登録日 2026.02.17
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