第18回漫画大賞 春の陣

第18回漫画大賞 春の陣

選考概要

今回、編集部内で大賞候補作としたのは「僕は隣りで夢を見る」「彼氏のAVで勝手に応援上映を始める女たち」「【 caramel 】」「転移先は女子大生の部屋でした‐Another‐」「眠れるレムのシュヴァリエ」「斉藤さんは迫られると死ぬ」「ビタードロップ」「とける初恋」「ひとつ屋根の下に暮らす青年と少女の日常」「雨の首」「ハーレムエンド.」「BlackHood」「動画投稿者がゴブリン転生するお話」「鬼の愛情メシ」「SNAKE HIT GIRL」「人間ダダンplot」「異世界に防具って必要?」「刀剣勤王維新録-袖解橋の怪奇談-」「二次元の嫁」「新日本昔話」「知的で文系な私が取り乱すVLOG」「短編「よわいぼくのはなし」」の22作品。

オリジナリティあふれる多彩な候補作の中から、編集部内で多くの支持を得た「【 caramel 】」を大賞(賞金50万円)に選出した。「大賞」作の選出はこれで6大会連続となり、投稿作品のさらなるレベルアップを感じさせる結果となった。

続く各賞の選考では、編集部内での人気を競っていた「眠れるレムのシュヴァリエ」を編集長賞(賞金10万円)に、「雨の首」をネコ部長賞(賞金10万円)に選出した。さらにBL作品の中でも編集部内で高い評価を得た「僕は隣りで夢を見る」をBL賞(賞金10万円)に、今後の活躍への期待感から、「ビタードロップ」と「鬼の愛情メシ」を特別賞(賞金5万円)に選出した。

「【 caramel 】」は、神様を信じる少女・エルマと不愛想な無神論者の青年・セナのすれ違いラブストーリー。繊細なタッチで丁寧に描かれるキャラクターの表情が非常にリアルで、各人物の魅力をしっかりと伝えられる画力と構成力が高い評価を得た。導入部分からしっかりと世界観を見せられている点も好印象。ストーリーの主軸を定め、テーマを絞ることでより読みやすい構成にしていくことを意識していってほしい。

「眠れるレムのシュヴァリエ」は過眠に悩む少年・レムと“夢喰い”と呼ばれる少年・ティアが悪夢と対峙し、成長していく物語。アクションシーンも迫力を出しながら描ける高い画力と少しずつ謎が解き明かされていくストーリー構成力が評価された。話が複雑な分、情報を整理して必要なタイミングで読者に伝えていくことを意識すると、より読みやすい構成になっていくだろう。

「雨の首」は、「干し首」を作る孤独な黒猫の青年と、彼に拾われた少女のお話。世界観をしっかりと表現できる画力の高さ、重暗さのある話の中に温かみと救いをしっかり入れ込める構成の上手さに評価が集まった。物語の後半部分の展開が前半に比べると早く、物足りなさを感じてしまったところが惜しい。心情描写やそこに至るまでの関係性の変化を端折ることなく描ければ、さらに読者の心に訴えかける作品になっていくはずだ。

「僕は隣りで夢を見る」は、添い寝バイトをする大学生と客であるサラリーマンの、片想いから始まるBL作品。「添い寝バイト」という分かりやすいながら独創性のある設定と読みやすいネーム構成が評価された。一方、物語の進みはオーソドックスでやや淡白な印象がある。「添い寝バイト」という設定を活かして恋愛ものならではのドキドキ感を演出できるとよりヒキの強い作品になっていくだろう。

「ビタードロップ」は、バーテンダーの青年と客として訪れた中年紳士の年の差BL。
どこかミステリアスな雰囲気を纏う青年が織り成す独特の雰囲気と世界観が評価を得た。ただ、ミステリアスな雰囲気を重視するあまり綺麗にまとまりすぎており、少々感情移入しにくい点が惜しい。キャラの背景を掘り下げ、作品内で伝えていけるとより読み味のある作品になっていくだろう。

「鬼の愛情メシ」は、定食屋を営む鬼の少女が店を訪れた異国の鬼の胃袋を掴むグルメファンタジー。主人公のエッジの効いたキャラクター性とその魅力をイラストでしっかり表現できる高い画力が評価された。全体的に情報量が多く画面が煩雑に見えがちなので、「引き算」を意識して台詞量や描き込みを調整し、より読みやすい画面を目指してほしい。

惜しくも受賞を逃した16作品もそれぞれに見所があり、将来性を感じる作品ばかりだった。

「彼氏のAVで勝手に応援上映を始める女たち」は、タイトルの通り彼氏のAVを持ち寄って鑑賞・批評会を開催する彼女たちのコメディ作品。話のテンポが非常に良く、ストレスなく最後まで読みきれた点が評価された。インパクトとスピード感を重視するあまり登場人物のキャラ性があまり伝えられていないため、導入部などでもう少し丁寧に掘り下げつつエピソードに絡めていくと、より印象的な作品となるはずだ。

「転移先は女子大生の部屋でした‐Another‐」は、異世界転移してきた騎士と転移先に住んでいた女子大生のラブコメディ。作品のターゲット層に合ったイラストや構図を意識している点が好印象。一方でストーリーの軸が見えておらず、話が散漫としてしまっているため、物語の冒頭で各キャラの目的を提示していけると格段にレベルが上がるだろう。

「斉藤さんは迫られると死ぬ」は、清楚系女子と陽キャに見られがちな男子のじれじれラブコメディ。ヒーローの経験豊富と見せかけて実は初心なところや、ヒロインの大人しい性格でありつつ大胆なところなどギャップが秀逸。恋愛作品としての盛り上がりも作りつつ、コメディらしく各話オチを作っているところも好印象。線の太さや人体のバランスなど、画力をもう一歩向上させられると、更に完成度が高くなっていくだろう。

「とける初恋」は、初恋をこじらせた青年と世話焼きな青年のBL作品。冒頭のインパクトとキャラクターの表情に光るものを感じる。ストーリーラインも起承転結を付けてきちんとまとめられており、読み切り作品としてレベルが高い。イラストで表現できる部分を文字で説明している節があるため、「漫画」であることをより意識した構成にしていってほしい。

「ひとつ屋根の下に暮らす青年と少女の日常」は、不愛想な青年と彼の婚約者である少女の日常の光景を描いたファンタジー作品。少女から初老のキャラまで幅広い人物を描き分け、それぞれのキャラを魅力的に表現する高い画力が評価された。ただし、原稿としては未完成であるためペン入れやトーン処理などをしっかりして完成原稿に仕上げることを目指してほしい。

「ハーレムエンド.」は、自分に対する好意が「視える」青年がその力を駆使してハーレムを築いていくラブコメディ。しっかりと伏線を張りながら、読者の予想を良い意味で裏切る意外性のあるストーリー展開が非常に秀逸。一方、人物のデッサンや表情の描き方などに大きな伸びしろが残されているため、画力のさらなるレベルアップを期待したい。

「BlackHood」は、狗と呼ばれる存在と戦う少女のアクションファンタジー。重厚なファンタジー作品として狗やハンターの設定がしっかり練られている点が評価を集めた。怪物の描写に迫力がある一方で、アクションシーンは動作とリアクションの繋がりがやや薄く、物足りなさを感じる。予備動作からのアクション、リアクションまでの流れを意識するとより一層滑らかな動きを見せることができるだろう。

「動画投稿者がゴブリン転生するお話」は、ゴブリンに転生した動画投稿者が転生先でも楽しく配信を続けていくコメディ作品。短い作品ゆえにストーリーの消化不良感は否めないが、その中でも設定やキャラクターの性格を伝え、インパクトを残す高い構成力や画力が評価を集めた。アイデアに独創性があるため、設定やキャラを掘り下げ、物語を続けていく力を付けられると格段にレベルアップしていくように感じる。

「SNAKE HIT GIRL」は、性転換した格闘家が男女の世界共に最強を目指す物語。性転換して男女統一チャンピオンを目指すという独創性ある設定が魅力的。アクションも迫力を出しながら描けているが、どのキャラも表情が似通ってしまっている点が惜しい。表情パターンを増やし、キャラクター性を反映していってほしい。

「人間ダダンplot」は、ゾンビとなった青年が「人間として生きたい」と奮闘するアクションファンタジー。コマ割りやパース使いを駆使して盛り上がりを作れている点や、作品を「描く」ことへの熱量を感じさせる紙面構成が評価を得た。見せ場のインパクトが強烈に記憶に残る一方、全体的にはエピソードの繋ぎの粗さが目立つ。「読者に伝える」ことを意識した構成にすることで、一気にレベルが上がるだろう。

「異世界に防具って必要?」は、筋力で全てを解決する最強の冒険者と凄腕ヒーラーが織り成すコメディ作品。訪れるピンチをゲンキが己の力でいとも簡単に解決していく軽快なテンポ感が心地良い。ギャグを意識するあまりキャラクターの設定や世界観が今一つ伝わっていないため、「ストーリーを作っていく」という意識をもう一息持ってほしいところ。

「刀剣勤王維新録-袖解橋の怪奇談-」は、刀の付喪神が過去に持ち主が巻き込まれた事件の解決を図る歴史ファンタジー。アクションシーンもさることながら、キャラクターたちの人間性を反映した表情描写が秀逸。視点の切り替えが多く、少々感情移入しにくい構成になっているため、しっかり視点を定めて描くことが出来るとより読者に訴えかけられる作品になるはずだ。

「二次元の嫁」は、AIに人権が認められるようになった世界でAIとの結婚を認めてもらおうとする青年のSFラブコメ作品。AIの設定がきちんと練られ、世界観に説得力を出している点が好印象。舞台が近未来な割に背景が現代的といった世界観とイラストの違和感を減らせれば、さらに作品の世界観が確立していくだろう。

「新日本昔話」は、昔話をベースに重厚なファンタジー設定を加えたバトルファンタジー作品。迫力のある妖獣のデザインやスピード感のあるアクションシーンが魅力。現状描きたいシーンを好きに描いている印象で話の展開に読者が置いていかれがちなため、読み手を意識したストーリー構成が出来ると作品のレベルが上がっていくはずだ。

「知的で文系な私が取り乱すVLOG」は、真面目に見えてどこか抜けている女子大生と周辺人物たちが織り成すコメディ作品。キャラクターへの愛を感じる表情や感情表現が好印象。各話ごとにエピソードをまとめているものの、オチの付け方がパターン化されてしまっているため、バリエーションを付けられると良いだろう。

「短編「よわいぼくのはなし」」は、兄に守られてばかりの弟が強くなろうと奮闘する成長物語。兄のように強くなりたい、という目的に向かってひたむきに頑張る主人公の様子が繊細に描かれ、惹き込まれた。コマ毎にきちんと演出が練られているが、ページ全体で見ると余白が目立ったり逆に煩雑に見えたりしているため、全体を俯瞰して構成できるとより良い作品になるだろう。

「第18回漫画大賞 春の陣」は1123作品とついに1000作品を突破し、過去最多の応募数を更新。さらには、6回連続の大賞選出という大変喜ばしい結果となった。応募作品はいずれもレベルが高く、ジャンルや作風等、バラエティーに富んだ作品が多く集まり、回を重ねるごとに各ジャンルの層の厚み、充実度を感じられている。次回以降も個性豊かで才能あふれる、大賞にふさわしい作品が多数集まることを期待している。

開催概要はこちら
応募総数 1,123作品 開催期間 2022年04月01日〜末日

編集部より

繊細で華のあるイラストと、表情豊かに描かれるキャラクターたちが非常に魅力的です。画力も安定しており、キャラクターたちがまるで実際に動いているかのように活き活きとしたイラストに仕上げることが出来ています。また、シリアスなシーンとコミカルなシーンを上手く使い分けることで物語にテンポを生み出せていることも読者を惹き付ける要素となっているでしょう。世界観の壮大さを冒頭からしっかり見せられている一方、まだ描きたいことがまとまりきっていない印象で、物語の輪郭がぼやけてしまっています。お話の軸を定めてそれを中心に話を展開させることで、より読みやすく、印象的なお話にしていくことが出来るでしょう。


編集部より

ポイント最上位作品として“読者賞”に決定いたしました。「異世界転生」や「神子」といった近年人気の高い要素を組み込みつつ、ファンタジー作品として設定や世界観がしっかり練られている点が好印象で、読み応えがあります。一方、全体的に台詞量が多く読み疲れがちな点や、人物のパースやバランスが少々不安定な点が惜しいです。構成や画力をもう一歩レベルアップさせることが出来れば、より完成度の高い作品となっていくでしょう。


編集部より

ファンタジーの世界観やアクションシーンをしっかり表現できる高い画力と、エピソード毎に起承転結を作りつつ、大きな物語も並行して進めていくストーリー構成力、共にレベルの高い作品です。ただ、ところどころ画面の情報量が多く、読みにくさが目立つページがある点が惜しいです。描き込みが多くなりがちなアクションシーンでは特に視線の誘導や画面のメリハリを意識して、煩雑な印象を与えないようにするように意識するとより読みやすい作品になっていくでしょう。

雨の首

91位 / 1,123件

編集部より

全体的にほの暗さや若干のホラー要素がある作品ではありますが、優しいタッチや可愛らしいキャラクターデザインが上手くそれらを中和し、シリアスな作品ながら重くなりすぎない、この作品ならではのカラーを生み出しています。前半部分はアメとロアとの関係性の変化、ロア自身の変化を丁寧に描き出すことが出来ており、読み応えがあります。一方、後半はそれらの描写があっさりしてしまい、物足りなさを感じます。しっかりと最後まで丁寧にお話を描き切ることができると、より印象的な作品になっていくでしょう。


編集部より

読みやすい絵柄とキャラクターの性格をしっかり反映した上で描かれる表情での繊細な感情表現に惹き付けられます。「添い寝バイト」という設定もオリジナリティと分かりやすさを両立させられており、魅力的です。一方、せっかくの「添い寝バイト」という設定を活かしきれていない節があるのが勿体ないです。恋愛作品としてドキドキ感を演出するために、触れたいのに触れられないじれったさなど、「添い寝」を活かしたストーリーを組めると、よりヒキのある作品になっていくでしょう。

ビタードロップ

51位 / 1,123件

編集部より

柔らかで繊細なタッチの絵柄と青年のミステリアスな雰囲気が合わさって独特な空気感が醸し出されています。ジミーの家族の話やルイスと後輩のやり取りを入れ込んで世界観を広げることで、人間ドラマとしての重厚さがある点も魅力的です。一方で、空気感を重視するあまり、感情の揺れ動きの表現がやや薄く、少々物足りなさも覚えます。キャラクターを掘り下げ、感情移入をしやすい構成にするとBLとしてさらにヒキの強い作品になりそうです。

鬼の愛情メシ

181位 / 1,123件

編集部より

無愛想ではありつつ相手のことをよく観察し、思いやれる優しさを持つ主人公のキャラクターと、ギャップのある性格を魅力的にイラストで表現できる高い画力に惹き込まれます。また、読み切りとしてお話をしっかりまとめることも出来ています。ただ、コマあたりの描き込みやトーンの貼り込みが多く全体的に煩雑な印象がある点が惜しいです。あえて「抜き」のコマを作ることでメリハリを生み出せると、より読みやすい画面になっていくでしょう。

※受賞作については大賞ランキングの最終順位を追記しております。

投票ユーザ当選者

投票総数 5,049票 当選 10名