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1巻

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  1 カツアゲは突然に、不良とともに異世界へ!


 俺の名前は佐藤悠斗さとうゆうと
 義務教育を終え、大人の階段を上り始めたばかりの高校一年生だ。
 そんな俺だが、今現在、生まれてから十五年の歴史の中で史上最大のピンチを迎えていた。

「なあ、お兄さん達、財布を落としちゃってさ。君の財布貸してくれない?」
「痛い目に遭いたくないだろ? ほら、財布を出せって」

 メガネをかけた不良と金髪ロン毛の不良が詰め寄ってくる。
 そう……今俺は、『カツアゲ』にっていた。
 いわゆるおどして金銭をうばおうとするアレだ。
 断じて、豚肉や牛肉にパン粉をつけて油でげた『カツ揚げ』などではない。
 事の始まりは、学校帰りに公園のトイレに寄り道したところ、見るからに悪そうな不良二人組に声をかけられたことだ。背が低く華奢きゃしゃな体格が災いしたか、あっさりとロックオンされ、気付いた時には、金銭を要求されていた。

「えっ、でもお金持ってなくて……」
「はぁ? そんな訳ねーだろ」
「じゃあ、俺達の目の前で跳んでみろよ」
「えっ、ええ……」

 勇気を振り絞って口にした言葉も通用することはなく、お決まりのように「じゃあ跳んでみろ」と言われ、泣く泣くジャンプする羽目になる。
 当然だが、お金を持っていないというのはうそで、制服の内ポケットには財布が入っている。そもそも、弁当や飲み物などを自分で調達しなければならない高校生にとって、財布は必需品ひつじゅひんだ。持ち歩かない方がおかしいかもしれない。
 なんなら、財布の中身の総額より残高が多い電子マネーも持っている。
 もし、不良二人組に「電子マネー残高を俺達のスマホに送れ」と言われたらどうしよう。そっちの方がよっぽど恐ろしい……。
 ちなみに、財布の中には小銭がたくさん入っている。
 十円チョコを一個買うのに、千円札を出したせいだ。
 店員さんに五百円玉のおつりがないと言われた時、「わかりました」と了承したのも、今思えば失敗だった。
 よりにもよって、俺の制服が、今後の成長を見込んで大きめに作られているのもよくない。ぶかぶかすぎて、今ジャンプしたら、財布ごと外に飛び出しそうな勢いだ。
 そうでなくても、大量の小銭が音を立て、財布を持っているのがバレるだろう。

「おい。早くしろよ」
「そうそう、簡単なことだろ?」
「わ、わかりました!」

 祈る思いで、その場にてジャンプすると、案の定、制服の内ポケットから小銭の音が鳴り響く。

「おいおい。財布持ってるじゃねーか」

 不良の一人が胸ぐらを掴むと、制服の内ポケットから財布を奪い取る。

「あーあ、俺達に嘘ついちゃって、そんなに痛い目に遭いたかったのかな?」

 そして、もう一人の不良がポキリと拳を鳴らした。
 まずい。この状況では、ひどい目に遭うのはけられない。
 そんなわけで、俺は人生始まって以来の窮地きゅうちに立たされているのであった。
 正直言って誰でもいい、今すぐに誰か助けてくれ……!
 不良のこぶしが眼前に迫ると同時に、そんな心の声が天に通じたのか、突然地面がまばゆく光り出した。そして、幾何学きかがく模様の描かれた魔法陣らしきものが足下に現れる。

「なっ! なんだ!?」
「なんだよこれ!?」

 そう驚く不良二人組。

「まさか……もしかして!?」

 ファンタジー系のライトノベルを頻繁ひんぱんに読んでいた俺の頭に、一つの推測が浮かび上がる。
 もしかしてこれ、異世界転移ってやつ!?
 地面に浮かび上がった魔法陣の放つ光がどんどん強くなり、俺の視界は真っ白につぶされていく。あまりのまぶしさに目を開けることもできない。
 次に目を開けた時、俺は見知らぬ建物の中に立っていた。


「おおっ、成功だっ!」
「や、やりましたな陛下……よもや三人も召喚できるとは」
「しかしどういうことだ? 【異世界人召喚の】で呼び出せるのは二人だけのはず。なぜ三人も召喚することが……」

 歓喜と困惑の入り混じる声を耳にした俺は、ゆっくりと周囲を見回した。
 するとそこは、先程までカツアゲをされていた公園ではなく、窓から明るい日差しが荘厳そうごんな大広間だった。
 唐突な出来事に俺が呆然ぼうぜんとしていると、後ろから騒がしいやり取りが聞こえてきた。

「おい! 暴れるな!」
「離しやがれっ! どこだよここは!」
「ふざけんじゃねぇ! 離せよっ、離せっ!」

 声のする方に視線を向けると、兵士と思わしき人達に組み伏せられている不良二人組がいた。
 どうやら俺が目を開ける前に、不良二人組はパニックを起こし、暴れ出したらしい。
 おおかた、近くにいた兵士につかかったとか、そういったところだろうか。
 もしそうだとしたら、武装している屈強な兵士を相手に歯向かおうとする二人の行動は頭が悪いとしか言えないのだが……。
 あえて元の世界基準で例えるなら、完全武装の自衛隊員に喧嘩けんかを売るようなものだ。俺だったら絶対にそんなことはしない。
 それはともかく、一体ここはどこなんだ?
 不良達にはお金を取られずに済んだみたいだけど、助かったと言える状況ではないような気がする。
 むしろ知らない場所に飛ばされたという点ではピンチかもしれない。
 そんな風に考えていると、きらびやかなローブを身にまとい笑みを浮かべる、六十代くらいの好々爺こうこうやが俺達に話しかけてきた。

「転移者の皆様、ようこそマデイラ王国へ。私は、この国の宰相さいしょうベーリング・ミッドウェイと申します。さて、今あなた方はさぞかし混乱されていることと思います。ですので、まずは私が陛下へいかに代わり、現状について説明させていただきたく存じます。早速ではありますが、あなた方がやってきたこのマデイラ王国は現在、存亡の危機に立たされておりまして……」

 そんな前置きから始まったベーリング宰相の話は、ファンタジー作品でよく聞く、胡散うさんくさいものだった。
 彼が言うには、ここは人族、亜人族、魔人族といった種族が存在する、ウェークと呼ばれる世界。
 マデイラは、ウェークの南側に位置する王国なのだが、とある一つの迷宮を巡り、隣国のアゾレス王国と何度か衝突しょうとつしているらしい。
 迷宮とは、この世界にいくつも存在する建造物や洞窟どうくつのことで、モンスターなどが現れる危険な場所だ。しかし同時に、迷宮でしか手に入らないものがあったり、人が集まり経済的に発展したり、国に利益をもたらす存在でもある。
 マデイラとアゾレスは互いに、自国の繁栄はんえいのため、そんな迷宮を欲しているとのことだった。
 しかし既に、度重なる戦争によりこの国の民は疲弊ひへいしきっており、戦況は厳しい。
 現在は停戦状態にあるため、アゾレス王国がすぐに攻め込んでくるということはないが、また戦争が始まればマデイラ王国は滅亡するかもしれない。
 そんな危機を脱するために、マデイラ王国は一か八か、異世界から人を召喚することを決めたようである。
 マデイラ王国のが開発した【異世界人召喚の儀】により召喚された転移者には、神様より異世界転移の特典として、この世界にない強力なユニークスキルが授けられると言われている。
 しかもそれだけでなく、転移者はスキルレベルや基礎能力も、現地の人間より上がりやすい傾向にあるようだ。
 つまり、転移させられたのは隣国との戦いに備え、強力な人材を確保するためだった。

「こちらの都合で召喚した上、身勝手なお願いではありますが、そのユニークスキルを駆使くしし、マデイラ王国を助けていただけないでしょうか。元の世界に戻すことはできませんが、この国を救ってくれたあかつきには、相応の地位と報酬ほうしゅうを約束いたします」

 宰相はそう言って、説明を終えた。
 ユニークスキルには興味があるけど、元の世界に帰れないのはかなり辛い。
 俺と同じことを考えたのか、宰相が一通り話し終えた途端、不良二人組が声を荒らげた。

「おい! 元の世界に戻れないってどういうことだよっ!」
「日本に帰せよっ! 日本に帰してくれよっ!」

 兵士に組み伏せられながらもわめく不良二人組。
 異世界であってもここまで元気な二人に、思わず感心してしまった。
 そんな風に俺が現実逃避げんじつとうひしていると、二人の様子を見て何を思ったのか、ベーリング宰相が更なる追い打ちをかけてきた。

「元の世界に帰してさしあげることができない点については、大変申し訳なく思っています。しかし困りました……あなた方が協力的にマデイラ王国のため戦わないとなると、私どもといたしましては放逐ほうちくするしかありません。とはいえ、その結果、強い力を持つ転移者が盗賊にでもなったら厄介やっかいですし、いっそのこと『隷属れいぞくの首輪』でもつけて強制的に働かせることにいたしましょうか? しかしその場合、せっかくのユニークスキルに制限がかかってしまうというデメリットがございます。こちらとしては、マデイラ王国のため、協力してくださると嬉しいのですが……いかがでしょう?」

 さっきまで下手したてに出ながら「この国を救ってくれ」と言っていたのに、俺達がちょっと渋っていただけでこの変わりようである。
 この豹変ひょうへんっぷりには、俺はもちろん不良二人組も驚いて目を見開く。
 俺達が唖然あぜんとした表情を浮かべていたら、宰相よりやや年上に見える偉そうなじいさんが口を開いた。
 腰掛けているのは、快適な座り心地とは全く無縁そうに見える玉座らしき椅子である。

「まあ待て、ベーリング宰相――転移者諸君、ワシはこの国の王、セントヘレナ・マデイラ二十世である」

 椅子の見た目からしてもしかしてとは思ったが、本当に王様だったとは。
 名乗り終えた王様は、兵士に向かって命じる。

「兵士よ、そこの二人を放してやれ。組み伏せられた状態ではまともに話もできん」

 王が命令したことで、ようやく不良二人組が兵士の拘束こうそくから解放された。
 不良二人組は悪態あくたいをつきながら立ち上がり、今度は「替えの服を持ってこい!」と叫び出す。
 どうやら組み伏せられた床が石畳いしだたみだったせいで、暴れた拍子に所々服が破けてしまったようだ。
 まあ、二人の服のことはどうでもいい。
 俺が視線を不良二人組から王様達に戻すと、ベーリング宰相は王様の後ろへと下がっていた。
 そして、再び王様が話し始める。

「さて、先に宰相より話があった通り、この国は今滅亡の危機にひんしている。ワシとしても転移者諸君に『隷属の首輪』をつけて戦争に向かわせることは本意ではない。できれば協力的に、この難局なんきょくを乗り切る手助けをしてほしい。なに、いきなり隣国との戦争に向かわせるようなことはせぬよ。まずは、そなたらの力を、ステータスを確認してみようではないか」

 王様はそう言って、ニヤリと笑う。

「まずは、ステータスオープンととなえてみよ」

 言われるがまま、俺達は「ステータスオープン」とつぶやく。
 すると視界に、まるでゲームのステータス画面のようなものが表示された。


【名前】佐藤悠斗
【レベル】1 【年齢】15歳
【性別】男 【種族】人族
【ステータス】 STR:5   DEX:50   ATK:5
        AGI:5   VIT:5   RES:5
        DEF:5   LUK:100(MAX)   MAG:100
        INT:100   ???:120
【ユニークスキル】言語理解 影操作かげそうさLv‌5
【スキル】鑑定かんてい


 どうやらこれが俺のステータスのようだ。
 まるでゲームのようだなと感じながら内容を確認していく。
 元いた世界で遊んでいたゲームになぞらえるなら、このSTRが力で、DEXが器用さ、といった感じだろうか。
 他のステータスも、ATKは攻撃、AGIは素早さ、VITは体力的なものだと思う。抵抗や防御を示すと思われるRESやDEFまで見ても、能力値がことごとく5ばかりだ。
 この世界の標準はわからないが、低すぎる気がする……。
 魔力量や知力を表すであろうMAGやINTが少し高いのがせめてもの救いだろうか。
 ――ってなんだこれ、LUK……幸運のところがカンストしている!?
 幸運度がかなり高いということか?
 もしかして、この値のおかげで、不良二人組からギリギリ殴られずに済んだのだろうか。
 いやいや、むしろ不良二人組と一緒に異世界に転移してる時点で、ラッキーどころかアンラッキーじゃないか?
 宰相からは脅されるし、王様からは遠回しに戦争に行けって言われているし……。
 とても幸運だとは言えないから、LUKの高さはあてにならないと思った方がいいだろう。
 スキルの方にも目を向けると、ユニークスキルの項目に『言語理解』の文字を見つけた。
 こんな異世界に転移させられても、言葉が通じるのはこのスキルのおかげかな?
 その近くにある『影操作』は多分、その名の通り影を操るスキルだろう。
 んっ? スキル欄に『鑑定』がある。転生ものにありがちなスキルだけど、この世界ではどうやって使うんだろうか?
 俺はとりあえず、不良二人組に視線を向けると小さな声で「『鑑定』」と呟いた。
 すると視界に、不良二人組のステータスが表示される。


【名前】鈴木愛堕夢すずきあだむ
【レベル】1 【年齢】19歳
【性別】男  【種族】人族
【ステータス】 STR:90   DEX:40   ATK:90  
        AGI:40   VIT:90   RES:40
        DEF:60   LUK:10   MAG:30
        INT:10
【ユニークスキル】言語理解 光魔法
【スキル】棒術Lv‌‌10(MAX)

【名前】田中多威餓たなかたいが
【レベル】1 【年齢】19歳
【性別】男 【種族】人族
【ステータス】 STR:90   DEX:40   ATK:90
        AGI:40   VIT:90   RES:40
        DEF:60 LUK:10   MAG:20
        INT:20
【ユニークスキル】言語理解 雷魔法
【スキル】棒術Lv‌10(MAX)


 最初に目に入ったのは、不良二人組の名前!
 愛堕夢に多威餓って!
 いわゆるキラキラネームだし、この読み方にするために一文字ずつ検索して格好良さそうな漢字を選んだかのようだ。
 そのままスキル欄を見れば、愛堕夢と多威餓の二人とも、『棒術』がカンストしていた。
 不良らしく鉄パイプのようなものを振り回し続けた結果なんだろうかという、恐ろしい推測が頭をよぎる。
 そんな感じでステータス欄をしばらく見ていると、ベーリング宰相の説明が始まった。

「転移者の皆様、ステータスは無事確認できましたか? まず初めに、レベルについて説明したいと思います。おそらく皆様のレベルは現在、1となっているのではないでしょうか? このレベルは、モンスターの討伐やスキルを使用することにより上昇し、最大で100まで上げることができると言われております。皆様には、まずこのレベルを上げていただこうと思います」

 聞いたところによれば、人族・亜人族・魔人族ともにレベルは100までのようだ。
 この国にいるのはレベル70までの人ばかりらしいが、他国では100に到達した人が数名確認されているとか……。
 またスキルレベルは10が最大で、『鑑定』など一部の特殊なスキルにはレベルそのものがない場合もある。
 さらに、この世界はレベルが上がらなくても、鍛えればステータスを上げることができるらしい。
 とはいえ、レベルアップ時程は上がらないそうだが。
 なお、この世界ウェークに住む一般的な住民のステータスについてだが、同年代だと大抵の能力値は20前後で、『生活魔法』を習得しているとのこと。
 ちなみに、ウェークの住人は『生活魔法』を習得していることが多いらしい。
『生活魔法』とは、『着火』、『飲水』、『洗浄』といった、たきぎに火を灯したり、少しの飲み水を出したり、汚れを落としたりできる便利な魔法である。
 教会に喜捨きしゃをすれば簡単に授けてもらうことができるようだ。
 そこまで説明して、宰相は最後にこう言い放った。

「転移者の皆様とはいえ、とりあえずレベル20まで上げないことには、戦争で使い物になりません。そのため、あなた方には、マデイラ王国で管理している『マデイラ大迷宮』においてレベル上げをしていただきます」



  2 影使いから無能へのジョブチェンジ!


 簡単な説明が一通り終わり、いよいよステータスの確認に移ることになった。

「まずは、皆様に与えられたユニークスキルとステータスを確認しましょう。こちらのステータスプレートに触れてください。このアイテムに触れることで、皆様のステータスに表示されていた内容が我々にもわかるように転写されます」

 そんな宰相の言葉に俺はあせりを覚える。
 愛堕夢や多威餓のステータスはともかく、俺のはどう見ても、この世界に住む一般的な住民のものよりも低いからだ。
 転移者には神様から異世界転移特典がもらえるんじゃなかったのだろうか? いや、『影操作』とかいうユニークスキルはもらったし、LUKやINT、MAGあたりの数値はたしかに高いのだけれども……。
 そんなことを考えているうちに、いつの間にか愛堕夢と多威餓が前に出てステータスプレートに触れていた。
 表示されたのは、先程俺が『鑑定』で見た、あのステータス。
 それを見て、宰相は目を輝かせた。

「流石は転移者様ですね。愛堕夢様も多威餓様も、ウェークの平均値を大きく上回るステータス。それぞれがお持ちのユニークスキル『光魔法』や『雷魔法』もかなり強力なはずです! さらには、『棒術』のレベルも上限のレベル10とは、頼もしい限りです」

 宰相の称賛に、ニヤニヤしながらふんぞり返る二人組。床に組み伏せられてうめいていたのが嘘のようなテンションの高さだった。
 INTの数値に差はあっても、頭の出来は変わらないらしい。愛堕夢も多威餓もそろって同じ反応をしていた。
 それはともかく、ついに俺の番である。

「それでは、最後の転移者様、ステータスプレートに触れてください」

 うわぁ~。こんなステータスで触りたくね~!
 そんなことを思いながら、俺は嫌々、ステータスプレートに触れる。


【名前】佐藤悠斗
【レベル】1 【年齢】15歳
【性別】男 【種族】人族
【ステータス】 STR:5   DEX:50   ATK:5
          AGI:5   VIT:5   RES:5
        DEF:5   LUK:100(MAX)   MAG:100
        INT:100 
【ユニークスキル】言語理解 影操作Lv‌5
【スキル】鑑定


 あれ? 【???:120】となっていた部分が、ステータスプレートに表示されていない?
 ステータスプレートを見ていると、ベーリング宰相は少しだけガッカリしたかのような声色こわいろで話しかけてくる。

「悠斗様はステータス値がかなり低いようですね……しかし、LUKやMAG、INTが高い傾向にあるようです。そうであれば問題ありません。それらの数値が高いということは、スキルやユニークスキルを高威力で行使できる可能性がございますので。悠斗様、申し訳ございませんが、ユニークスキルの『影操作』を発動していただいてもよろしいでしょうか?」
「わかりました」

『鑑定』は対象を見て呟くだけで使えたし、『影操作』も同じようにすれば発動するのだろうか。
 俺は早速、「『影操作』」と呟いてみたが……何も起こる様子がない。
 ベーリング宰相が目を丸くしてこちらを見ていた。
 俺は『影操作』が発動しない状況に顔を赤らめつつも、再び手を前に出し『影操作』を連呼した。

「『影操作』『影操作』! 『影操作』!」

 しかし、何回唱えても何も起こらない。
 ベーリング宰相は思案気しあんげな顔になっている。

「おかしいですね。魔力の波長を感じるので、たしかに『影操作』は発動しているはず……悠斗様、今度は、自分の影を動かすイメージで『影操作』を行使していただいてもよろしいでしょうか?」

 なるほど、影を動かすイメージか。その発想はなかった。
 宰相に言われたことを意識して、『影操作』を試す。
 すると、今まで動く様子のなかった自分の影から脈を打つ感じが伝わってきた。ほんの少しではあるが、影を動かすことに成功したようだ。
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