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40話 そして誰も居なくなった……後編
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厨房の製作状況は、調理場周りに関してはほぼ終っていた。
残っている作業と言えば、調理場を囲う小屋の製作がほとんどだった。
で、この厨房なかなかの高性能だったりする。
まず、コンロがありますっ!
それも、薪を使わない超経済的なやつですっ!
これは、風呂を造る際に作った発熱式の加熱機を転用したものだ。
薄っぺらいシート状に伸ばしたレンガに、発熱の魔術陣を施したシンプルなもで、外見はホットプレートとかIHクッキングヒーターなんかに似ていると思う。
レンガを作る際に、窯に施した魔術陣の縮小版だ。
ただし、あの時より性能は格段に向上しているがなっ!
まず、熱エネルギーを制御して、拡散させず全て魔術陣の中心に向かうようにした事で発熱効率を高める事に成功した。
しかも、魔術陣の外には一切熱が漏れないため、レンガ全体が熱を持つことが無く触っても火傷などの怪我を負うことの心配もない。勿論、発熱している魔術陣部分を触ってしまったのならその限りではないのだけどね……
この魔術陣式のコンロは現在試作品につき、今の所はこの銭湯の食堂にしかない代物だ。
これが問題なく動くようなら、村人たちに配布する事も視野に入れている。
で、更に水道が配備されておりますっ!
これはドリンクバーの方にも設置されている設備なのだが、機構そのものは浴室で使っているものと一緒だ。
川から組み上げた水は、一度ゴミや砂利を取り除くため貯水槽を通るのだが、この貯水槽を出た所から厨房とドリンクバーにそれぞれ竹パイプが一本ずつ引かれている。
この竹パイプは、浴室の物より更に細く穴のサイズも親指がギリギリ通る程しかない。だが、これが重要だったりする。
使い方は至って簡単で、竹パイプに刻まれている魔術陣に触れるだけでいい。
この魔術陣には、大気と水を制御するための論理回路が書き込まれており、魔術陣に触れることで竹の内部の空気を外部へと吐き出させる働きをする。
そうすることで竹の内部の気圧を下げ、反対側の水に浸かっている部分から水をチューチュー吸い上げさせるのだ。
ストローでジュースを飲むのと原理は同じだな。
あれの長くなった物だと考えれば、間違いではない。
で、魔術陣のある所まで水が来たなら、あとは外に向かって少しだけ加速をつけてやれば水は継続して排出されることになる。
この一連の流れのために、竹はどうしても細いものではなくてはならなかったのだ。
パイプが太くなると水を吸い上げるために、より大きな力を掛けなければならず、それはより大量のマナを消費する事に繋がってしまう。
それは正直、よろしくない。そんなのでは、水を使うたびに疲れてしまうからな。
浴室の竹パイプとの違いがあるとすれば、後ろから押し出すか、手前から引っ張るかの違いだろうか?
後ろから押し出す方式は大量の水を送ることが出来る反面、ON・OFFが難しい。
手前から引っ張る方式は手元で簡単にON・OFF操作が出来る代わりに水量は少なくなってしまう。
どちらも一長一短な技術という訳だ。
と、言うわけで……
俺は竹パイプの魔術陣に触れて、出てきた水をまず枡一杯になるまで溜めた。
一杯になったところで竹パイプから手を離し、枡に蓋をする。
そして、蓋に掘り込まれた魔術陣へと手を触れる。
あのマナを吸い上げられるチリチリとした感覚を味わうこと数秒……
外からでは何が起きているかは分らないが、蓋を開ければ一目瞭然だった。
そこにあったのは、氷の塊だった。
俺は、水が氷に変わった枡をあらかじめ用意しておいた水を張った桶に入れて、四方を軽く叩く。
すると、中の氷がするりと外へと出てきた。
そう、この枡の正体は小型の製氷機なのであるっ!
枡の底面に彫られている魔術陣が冷却用の魔術陣で、蓋に彫られているのがマナ供給用の魔術陣だ。
わざわざ、魔術陣を2つに分けたのには理由があって、それは誤って指を入れたまま冷却しないためだ。
そんな事をすれば、下手をすれば指ごと凍りかねないからな……
洗濯槽や加熱槽のような生態認証で機能を停止出来ればいいのだが、ここまで小さいと余計な回路を組み込むスペースが無いのだ。
なので仕方なしに、機械的に指が入らない機構を取り入れた、と言うわけだ。
『おおおおぉぉぉっ!!』
それを見ていたギャラリーから一斉に歓声が上がった。
「氷だっ! 氷っ!! スッッゲー!!」
「……はぁ~
この“熱くなるレンガ”といい、“飲み物を冷やす不思議な模様”といい……
それに、“お湯を作る箱”の次は“氷を作る箱”ですか……
僕がいない間に、この村に一体何があったと言うのか……」
タニアが、水に浮かんだ氷をつんつんしては“ちべてー!”っと叫ぶ中、テオドアさんは目頭を押さえ、眉間に皺を寄せて難しい顔をしていた。
テオドアさんは、村に戻ってくる前は結構大きな町に住んでいたらしく、村民の中では一番“世間”という物を知っている人だった。
故に、今のアストリアス王国に“魔術陣技術”が存在しない事をよく知っていた。
村民の多くは“都会ではこれが普通なのだろう”と勝手に思い込んで、なんの疑問も持たずに魔道具を使っているのだが、反面、テオドアさんの様に、少なからず“都会”というものを知っている人には違和感が凄まじいらしく、中々受け入れられないでいる様だった。
とはいえ、皆しっかり魔道具を使ってはいるのだけどね……まぁ、便利だから仕方ないか。
で、面白いのは大人より子どもの方が、圧倒的に順応するのが早かったという事だ。
シルヴィなんかも、初めて石ランプや洗濯槽なんかを見たときは、そりゃもう大変驚いて興奮状態だったとテオドアさんが話していたが、今となってはこの製氷機を見ても“流石はロディですわっ!”と、なんかすげーキラッキラした瞳で俺を見ているだけだった。
……うっ、なんかやり難いな……
で、この氷をあのイスっぽい物体の上に置くと、四本の足の間に適当な木の器をセット。
で、手前にある二本の足をしっかり掴むと……
『おおおっっっっ!!』
乗っかっていた氷が、グルグルと回転を始めたのだ。
スリットの部分には金属の板が少しだけ飛び出すように設置されているため、回転する氷はその金属板に削ぎ取られ、粉末状になった氷の粒がスリットを通り下に置かれた木の器へと落ちていく。
これは……そうっ!
カキ氷機なのであるっ!!
夏と言えばかき氷っ!
カキ氷があるから、夏なのであるっ!!
カキ氷を食べずして、夏を迎えたと言えるであろかうかっ! いや無いっ!(反語)
と言うわけで、急に食べたくなったので作ってみました。カキ氷機。
使っている魔術陣もほとんどが今までの応用だ。
“水”の制御用の回路で、氷も制御出来たので特に難しい所は何もなかった。
ただ、引力……と言うのか、“引き付ける力”と言うコマンドを見つけたので氷の固定に試しに導入してみた。
これによって、氷を金属板に一定の力で押し付け均等に削ることを目的としていたのだが、どうやらうまくいったらしい。
とりあえず、一杯目が完成したのでイチゴっぽい果実のドライフルーツから作ったジャムとミルク(ヤム乳)を混ぜ合わせて即席のイチゴミルクソースを作って、それを氷の上にたっぷりとかける。
このイチゴっぽい果物のジャムは、今日のために事前に用意して置いた物だ。
製作者はうちのママンなので、その味は折り紙付きだ。
これが美味しければ、レシピをテオドアさんに渡して量産してもらう腹積もりでいる。
「ねぇねぇねぇねぇ!!
これ、食べていいっ! ねぇ! 食べていいっ!! ねぇねぇねぇねぇ!!」
タニアが涎をダラダラ流しながら聞いてきた。
その表情たるや、もしタニアにしっぽが生えていたのなら、その勢いで空だって飛べるんじゃないかと思えるほどだった。
「あ~、はいはい、ちょっと落ち着け。
食べてもいいけど、そんなに沢山作れないから、ちゃんとみんなで分けて仲良く食べるんだぞ?」
「あ~いっ!」
俺は厨房にあった木で出来たスプーンをタニア・ミーシャ・シルヴィに渡すと、次の一杯の製作に取り掛かった。
彼女たちは、スプーンを受け取ると仲良く一緒にカキ氷を突付き始めた。
そして……
「んまーーーーっ!!」
「冷たくておいしぃ……」
「これは……美味ですわね……」
うむうむ。
どうやら、幼女トリオからの反応は上々の様だな。
で、新しく出来た一杯をテオドア夫妻に渡した。
持って来たジャムが、これでなくなってしまったのでもうこれ以上は作れそうにないな。
俺の分がなくなってしまったが、食べるのは量産されてからでも別にいいだろう。
「これを、食堂の夏の目玉商品として提供しようと思っているんですけど……どうですかね?」
夏の夜、風呂上りで火照った体にカキ氷……格別ではないかっ!
だが、一応飲食店で働いた経験を持つテオドア夫妻にお伺いを立ててみる。
子どもから人気を得ても、大人から支持されなくては商品として提供するには少し難しくなってしまうからな。
「これはっ……!?」
「んっ……甘くて、冷たくて、美味しいですね……」
「うん。これは売れる商品になると、僕は思うよ」
うむうむ。
大人からの評判も悪くないらしい。
俺は、イチゴ(っぽい)ミルクソースの作り方を書いたレシピをテオドアさんに渡して、量産をお願いする事にした。
「でも、なんでこれを食堂に出すんだい?
商品の系統から言えば、飲み物を出しているダリオ君の方だと思うんだけど……」
「ああ……それはですな……」
それは俺も思ったことなのだが、ドリンクバーには既にフルーツ・ヤム乳と言う目玉商品があるからな……
これ以上、目玉商品を追加してはまた、以前のようにマスターが魔力欠乏症でぶっ倒れてしまう……
それを回避するために、人気の出そうな商品を分散させる事にしたのだ。
それに、人気のでる商品が一つでもあれば収入も増える。
特に、戻り組みの人なんかは何かと物入りだろうし、お金があって困る事はないだろう。
「あっ! タニアちゃんそんなにいっぱい取ったらずるいよっ!」
「そうですわよ、タニア!」
「へへぇ~、早い者勝ちぃ~」
そんな声にふと、首を巡らせれば、タニアがスプーン一杯にカキ氷を乗っけてそれを勢い良く頬張る瞬間が目に映った……
「あっ! バカっ!!
お前そんなに一遍に喰ったら……っ!」
「あ~む……むぐむぐむぐ……んっ!?
くっ、くほぉぉぉぉぉ!!!
あっ、頭がっ! アタマガワレルゥゥゥ!!」
……バカめ……意地汚くそんなに食うから……
「タっ、タニアちゃん! だっ、大丈夫!!」
「タニアっ!?」
タニアの急変に、慌てて近づくミーシャとシルヴィだったが、そんなに心配する事はない。
だってアレは、カキ氷を食べるとだいたいなるのだ。
「ああ、全然大丈夫だよ。
冷たいものを一度に食べると、頭が痛くなるんだよ。
直ぐによくなるから心配しなくていいよ。ってか、意地汚いタニアの自業自得だ。
ちゃんと、分けて仲良く食べろよって言ったのに……」
俺は、あのキンキンと痛む頭痛に苛まれるタニアを哀れみの表情でもって見下ろしていた。
と、
「……ロディくんはこれ食べないの?」
俺がカキ氷を食べていないのに気付いたのか、ミーシャがそんな事を聞いてきた。
「ん? ああ……もう、材料も無くなっちまったからな……」
俺がそう答えると、ミーシャは自分が使っていたスプーンに一口分のカキ氷を乗せて、俺へ向かって差し出してきたのだった。
「はい……ロディくんの、あ~んして……」
まだカキ氷が食べれいない俺を、不憫に思ったのかミーシャが自分たちの分を分けてくれたのだ。
しかもっ! あのっ! 伝説のっ!
“はい、あ~ん♪”で、だっ!
苦節38年と約6年!!
俺は初めて“はい、あ~ん♪”を体験しようとしているのであるっ!
相手は幼女だが、んなこたぁ関係ねぇ!
“はい、あ~ん♪”は“はい、あ~ん♪”だっ!
「んじゃ、あ~ん……パクッ……」
一口頬張れば、甘酸っぱい果実の味と、まろやかなヤム乳の風味が口いっぱいに広がった。
これは正しくイチゴミルクそのものだった。
これはタニアもガメたくなる気持ちも分らなくはないな……
だがしかし……
確かに、美味しいのは間違いなかったが、この美味しさは素材の良さとかそういうのとは別に、この一口にはミーシャの優しさが詰まっているからだと俺は思った。
「ありがとなミーシャ」
「えへへへぇっ……」
俺は、お礼にとミーシャの頭をしこたま撫で回してやった。
ミーシャはなんだかんだで頭を撫でられるのがスキだからな。
キュピーーーン!!
ん? 今何か光らなかったか?
気になったのでふと、視線を巡らせるとシルヴィと目が合った。
「はい、ロディどうぞ召し上がれ、ですわ♪」
シルヴィもまた、ミーシャの様に自分が使っていたスプーンにカキ氷を乗せて俺へと差し出して来たのだった。
これはあれか?
こっちでも“はい、あ~ん♪”をしてくれるいうことか?
なに? 今日は“はい、あ~ん♪”の日か何かか?
それとも前世分の貯金が降ろされているのか?
まぁ、なんでもいい。
“はい、あ~ん♪”をしてくれると言うのなら受けようではないかっ!
「あ~ん……パクッ、むぐむぐ……シルヴィもありがとな」
「あっ……
あ、あの、私にはその……ミーシャの様な……その……は……ありませんの……?」
俺がお礼を言うと、シルヴィはもじもじしながらそんな事を聞いてきた。
ミーシャの様な……?
もしかして、シルヴィはミーシャにしたしたように頭を撫でて欲しいのだろうか?
「もしかして……シルヴィ、頭撫でて欲しいとか……?」
「っ!?
ロ、ロディが嫌だと言うのでしたら……その……無理にとは、申しませんわ……
ただ……その……」
別に嫌だなんて事はないので、俺はシルヴィの頭をそっと撫でてあげた。
「シルヴィもありがとな」
「あっ……いえ……そんな……ですわ……」
シルヴィはほっぺたを真っ赤にして、もじもじと俯いてしまった。
自分からペタペタ張り付いてくるのは大丈夫なくせに、人に触れられるのは不得意なのだろうか?
よく分らん子だ……
カチッ
ん? 今なにか変な音が……
「ロディくん」
「ん? どうしたミー……むぐっ!?」
ミーシャに呼ばれたので、振り返ってみれば……
突然、ミーシャにスプーンを口の中にねじ込まれた。
「どう? おいしい?」
「むぐむぐ……ごくんっ……
ん? あ、ああ……うん、おいしいよ」
「よかった……」
俺がそう答えると、ミーシャは実に嬉しそうにニッコリと笑った。
分けてくれるのは嬉しいが、無理やり口の中に突っ込むのは止めて頂きたいなぁ~。
なんて、考えていたら……
「ロっ、ロディ、こっ、こちらのもどーぞ、ですわ」
と、シルヴィもまた俺に二口目を勧めてきた。
で更に……
「はい、ロディくん……あ~ん……」
ミーシャが間髪入れずに三口目を進めてきたのだ。
「えっ? あっいや……そんな一遍に出されても……」
「ミーシャのは食べましたのに、私のはダメなのですか?」
「いや、別にそんなつもりはないんだけど……ただ、一度に出されても俺の口は一つしかない訳で……」
「ロディくんっ! はい、あ~んっしてっ!」
「むっ! ミーシャは先ほど食べてもらったじゃないですか!
次は私の番ですわよ!」
「ううん、私がロディくんに食べさせるからいいよっ!
シルヴィちゃんは自分の食べてていいからっ!」
ミーシャはそう語気を強めて言うと、持っていたスプーンを強引に俺の口元へと押し付けて来たのだった。
冷たいっ! 冷たいって!
「嫌ですわっ! 私もロディに食べさせてあげたいですわっ!!」
そして、シルヴィもまた、持ってたスプーンを俺の口元へと押し付けて来たのだった。
ダブルで顔面に氷を押し付けられて、そりゃ冷たいのなんの……
「ちょっ、お前ら冷たいってっ! いい加減にや……むぐっ!?」
俺が講義のために口を開いた瞬間、まるで狙い澄ました様に二人揃ってスプーンを俺の口へと突っ込んできた。
で、二口分の氷を一気に口へと放り込まれた俺はと言えば……
「くほぉぉぉぉぉ!!!
あっ、あたまがっ! アタマガワレルゥゥゥ!!」
と、まぁ、当然の結果を向かえる事になった……
「ロディくん、はい、あ~んっして……」
「ロディ、召し上がれですわ」
あのキンキンする頭痛に苦しむ俺を余所に、二人はまたしてもスプーンに氷を乗せて、それを俺へと押し付けてきた。
顔に氷が当たって冷たかったのだが、抗議の声を上げるとまたねじ込まれそうだったので、俺は必死に口を噤んでそれを耐えた。
これ以上一遍に氷を食わされたら、頭痛でマジで頭が割れかねん……
で、そんな抵抗を続けていると、次第に二人はスプーンを使ってゴリゴリと無理やり口を押し開けようとして来たのだった。
口の周りは冷たいわ、頭は痛いわ……
「むぐぐぐぐ~」
悪魔は天使の顔をしてやってくる……
そんな言葉を、いつか何処かで聞いたような気がするが、それが紛れもなく真実である事を、俺はこの時初めて知った……
間違いねぇ……こいつら悪魔やっ! 天使の皮を被った悪魔やっ!
「にゃはははっ! なんか面白そーなことしてるぅー!
あたしも、まぁぜろぉ~!!」
そして、ここに来て一番厄介な奴が、ダメージからから復活して、乱戦に参戦する意思を表明したのだった。
タニアもスプーン片手に、笑顔でこっちに近づいて来たのだが……
「おおっ!!」
タニアは、突然何かに躓いてバランスを崩し、俺たちに向かって倒れ込んできた。
そこからの光景は、まるでスローモーションのようにゆっくりと俺には見えた。
まずミーシャとシルヴィにぶつかったタニアが、そのまま二人を押し倒し、その先にいた俺へと倒れ込んできたのだ。
勿論、そんなもの今の体の俺では受け止める事なんて出来ず、抵抗する間もなく俺は三人に押し倒される形で転倒する事になってしまった。
この時、ミーシャが持っていたカキ氷の器は宙に舞い、それはそのまま放物線を描いて、倒れた俺の顔面へと着地したのだった……
「ひぎゃゃゃゃーーー!!
つっ、つめてぇぇぇぇぇ!!」
この時、運が悪い事に俺の両腕は三人の下敷きになってしまっていて、自由に動かす事が出来ないでいた。
その所為で、俺は自力でカキ氷の器を顔から退かすことが出来なかった。
取り敢えず、俺は首を振ってなんとか器を退かそうと試みるも、どうも良い具合にまっているらしくそれもうまくいかなかった。
「いててて……にゃはは……こけちった……おっ?
あははははっ! なんでロディお碗かぶってんの! おっかしぃーの! あははははっ!」
「誰の所為でこうなったと思ってやがるっ!!
いいから、お前ら全員そこから早くどけーーーーっ!!」
こうして散々な結果になったカキ氷試食会は、俺の絶叫を持って終わりを迎えたのだった……
銭湯からの帰り道……
俺は、俺に怒られたと思ってシュンとしているミーシャと、んなこたぁ知らんとばかりにケラケラ笑っているタニアを連れて帰路に付いていた。
シルヴィはそのまま両親の手伝いをしてから帰る、と言って銭湯に残っていた。
両親思いのええ子やねぇ~。
「はぁ~、もう別に怒ってないから、気にしなくていいぞミーシャ?」
「でもぉ……」
「にゃははっ! ロディが気にしなくていいって言ってるんだから、気にしなくていいんだって!
ミーシャは気にし過ぎなんだってぇ!」
「タニアっお前は少しは気にしろ! 止めを刺したのはお前なんだからなっ!」
「ぶーっ! 気にしなくていいって言ったくせに、ロディの嘘つきぃ~!」
「嘘つきじゃないっ!
俺はミーシャに言ったんだっ! タニアにじゃないっ!」
「あーっ! そう言うの何て言うかあたし知ってるぅ~、“へりくつ”って言うんだぁ~!」
「黙らっしゃいっ!!」
どこで覚えてきたよ、そんな言葉……
と、ガヤガヤ賑やかしく帰っていると、ふと、今後の予定についてテオドアさんと話し合わなければいけない案件があった事を思い出した。
最後の方は、ドタバタとしてしまっていたのですっかり忘れていた……。
緊急案件ではなかったが、このまま帰るとまた忘れてしまいそうだったので、俺は二人に先に帰るように言って、俺は銭湯に戻る事にした。
案の定二人とも付いてくるなんて言い出したが、丁重にお断りして帰らせた。
また、あんなドタバタされたら話し合いどころではなくなるからな……
「ちーっす……」
今度は、玄関を潜っても誰も居なかった。
俺たちが帰る前は、何人かの従業員の人たちが忙しなく動き回っていたのだが、皆どこかへ行ってしまったようだ。
まぁ、用があるのはテオドアさんだから、別にいいけど……
靴を脱ぎ、厨房エリアへと足を向ける。
「え~っと、テオドアさんは何処かな……っと」
さっきまで作業をしていた、場所にテオドアさんの姿はなかった。
別の場所だろうか?
辺りを見回しても、特にそれらしい人影は見当たらなかった。
取り敢えず、厨房エリアまで近づくと、建設途中の厨房小屋の中から人の話し声が聞こえてきた。
なんだ、中に入ってたのか……
と、思い更に厨房へと近づくのだが……
「……アレはダメよシルヴィ」
「はい、私も反省していますわ。おかあ様」
カウンター越しに聞こえてきたのは、シルヴィとセルヴィアさんの声だった。
「いい? 確かに自分をアピールするのはいいけど、それを相手に押し付けてはダメ。
あれじゃあ、返って“わがままな女”だと思われて好感度を落としてしまうわ」
「はい、おかあ様」
「ああいう場合は、むしろ一歩引いて“余裕のある大人の女”を演出した方が、相手に好印象を与える事ができるの。分るわね?」
「……はっ! なるほどっ!
余裕のあるところを見せることで、包容力があるところを示すのですねっ!
流石は、おかあ様ですわっ! 私、目から鱗が落ちる思いですわっ!」
……なんの話をしてるんだ一体?
盗み聞き、など決して褒められる行いではなかったが、少しだけ気になったのでそのまま聞いてみる事にした。
好都合な事に、カウンターが衝立となっていたので、向こうからこっちの姿は見えないだろうしな。
「おかあさんの下調べだと、“将来、ロディフィス君のお嫁さんになる子ランキング”の1位と2位はダントツでミーシャちゃんと、タニアちゃんだったわ。
この二人を抑えない限り、あなたに勝ち目はない……分るわねシルヴィ?」
「はいっ! おかあ様っ!」
……ホント、何話てんのこいつら?
何“将来、ロディフィス君のお嫁さんになる子ランキング”って?
いつの間にそんなん出来てたんだよ……
「あの子たちは、生まれた時からロディフィス君と一緒にいるそうで、それはもう仲が良いそうよ。
今日、実際にあの二人を見ておかさん確信したわ……あれは強敵になるって!
時間はそれだけで武器になるのっ!
シルヴィ、残念だけど、あなたはその武器を初めから持っていないわ……これは圧倒的に不利な状況なの……なら、何をしなければいけないのか……おかあさん教えたわよね?」
「はいっ! おかあ様っ!
いつでも側にいて、隙あらば手を繋いだり腕を組んだりするのですわ!」
「そうよっ! シルヴィ!
時間の付き合いを超える物があるとすれば、それは肌の触れ合いの付き合いよっ!」
なんか最近、シルヴィがやたらと張り付いて来ると思ったあんたの入れ知恵かっ!
母親が娘に、何教えてんだよっ!
それに“肌の触れ合いの付き合い”ってなんかやらしいわっ! 語感がっ!
「なっ、なぁセルヴィ……僕はそう言うのをシルヴィに教えるのはまだ早いと思うんだけど……」
あっ! テオドアさんそんなとこにいんのかよっ!
「何を悠長な事を言ってるのよ貴方はっ!
ロディフィス君は将来、絶対にこの村を背負う大物になるわっ!
お義父さんだって言っていたじゃない!
今の村はロディフィス君あっての物だってっ!
ロディフィス君と一緒になれば、シルヴィは絶対に幸せになれますっ!
そのためには、どうしても早いうちにライバルを蹴落とす必要があることくらい、貴方にだって分るでしょう?
それとも貴方は、シルヴィにまたあんな極貧生活を送らせたいの!?」
「そんな……一緒だなんて……気が早いですわよおかあ様……ポッ」
「いや……僕も彼が優れている事は認めてるけど、その、話が性急し過ぎなんじゃないかって……
そういうのはもっと、こう、お互いの気持ちも確かめつつ理解を深めて……」
「まったくっ! 貴方はニブチンですか!?
シルヴィがロディフィス君の事を憎からず思っていることなんて、一目瞭然じゃないですかっ!」
「おっ、おかあ様っ! そんな大きな声でっ! ……はっ、恥ずかしいですわぁ~!?」
「親なら、どんな手段を使っても子どもを幸せにしたと思う物なんじゃないんですかっ!
私は、必ずロディフィス君とシルヴィをくっ付けますよっ!
どんな手段を使っても必ず……ええっ! 例え、彼を罠にはめてでもっ!」
わっ、罠っ!?
罠って何だよ奥さんっ! ちょっ、怖ぇーよっ! マジで怖ぇーよっ!
さっきから発言が物騒だよっ!?
「シルヴィ、あなたがもう少し大きくなった、もっと効率的な方法を教えてあげるからね。
それまでおかさんと一緒にがんばって、ロディフィス君の攻略をがんばりましょうね!」
「? はいっ! おかあ様っ!
私がんばりますっ!」
効率的ってなんだよっ! なんか不穏な意味にしか聞こえないよっ!
あと、攻略って言うな!
……この奥さん怖ぇ上に腹黒だよ……
これ以上ここに留まっていてはキケンだと……俺の本能が告げていた。
もし、今ここに俺がいることがバレたらどうなるか……考えただけでもオソロシイ。
俺は、この人たちに気付かれないように、ソロリソロリとその場を離れたのだった。
テオドアさんとの話し合い?
んなこたぁ知らんっ!
そんな事より、身の安全の確保の方が何十倍も重要だっ!
ロビーを抜け、靴を履いて玄関を潜ったら、俺は脇目も触れず自宅へと向かって全力疾走で逃げ出したのだった……
数日後……
この日、晴れて銭湯のロビーに食堂がオープンした。
料理自体は、ホントに簡単な軽食がメインのこじんまりとした店だった。
肉の串焼きとか、パン生地に野菜を練り込んで焼いた物だとか……
そんな物でも、一人身の者や、外で手軽に済ませたい主婦などには好評でそれなりのオーダーが入っているようだった。
そんな中、圧倒的に注文数が多かったのがやはり“カキ氷”だった。
その人気の程は、出来上がっていた列の長さが如実に物語っていた。
“夏に氷を食べる”そんなありえない状況に、目新しさ、そして涼を求める者達がこぞって買い求めたのだった。
そして、一度カキ氷を口にすれば、その未体験の感覚と味に魅了され、食べ終わると直ぐに新た物を購入するために列に並んだ。
中には、一人で数杯をまとめて注文する者も現れ、カキ氷に関してはオーダーは一回に付き一つと制限が設けられたほどだった。
人が人を呼び、列が列を作る中、そこには、果ての見えぬ長蛇の列が出来上がっていた。
目玉商品としての面目躍如ここに極まれり、である。
厨房の皆も忙しそうに、激しく動き回っていた。
カキ氷の原材料など、そのほとんどが水だ。
シロップ用のジャムとヤム乳はたんまりと用意していた。
だから、作って売って作って売って作って売って作って売って作って売って……
それを延々と繰り返した。
村人もまた、食っては並んで、並んでは食って……と、無限ループの様に繰り返した。
こうして、食堂オープン一日目は、ものの見事な大盛況を持って終了することとなった……のだが……
翌日……
村は全滅していた……
理由なんて簡単だ。
お腹を壊して、皆寝込んでしまったのだ。
そりゃ一人で何杯も氷を食べれば、腹だって下すだろうよ……
限度って物を知らんのか、こいつらは?
ショックだったのは、あの質実剛健みたいな棟梁でさえ腹を壊して寝込んでいるという事だろうか……
なんでも、村長の家で顔を青くして寝込んでいるらしい。
今では、この村のほとんどの住人がトイレと大親友になってしまっていた。
一家でヤられてしまった所なんて、トイレの奪い合いで凄惨な事になっていると聞く……
勿論、うちだってミーシャのところだってカキ氷は食べたが、それだって一人一杯だ。
それが普通なのだ。
免疫の無いところに、薬を投入すると必要以上に効き目が出てしまう……これはそう言うことなのかもしれないな……
その日の夜、銭湯へ向かえばそのロビーは今までに見たことが無いほど閑散としていて静かなものだった。(営業時間中の銭湯ではって話な)
今はもう、手遅れになってしまった“カキ氷食べ過ぎ注意”というチラシだけが、ただただ空しく張り出されていた……
こうして、銭湯開業以来(と、言ってもまだ10日と少しだが……)初めて、ほとんど客の来ない静かな夜は過ぎていったのっだった……
ちなみにだが……
この日の、ペリン草の消費は過去最大量を記録したとかしないとか……
∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽
夏に冷たいものの食べすぎは注意しましょう! おいしいけど、ほどほどにね・・・
ってなわけで、謎道具は製氷機とカキ氷機でした!
そして、シルヴィ嬢が超攻めキャラになったのには、裏でお母さんが暗躍していたからでした・・・
長い間、苦労してきたので、娘に同じ思いはさせたくないという思いが爆発した結果・・・でしょうか?
玉の輿狙い・・・的な?
初の連日投稿になりましたっ! 土日だとまとめて書けるからいいやね・・・
次回も、こんなライトな感じの話になる予定(自分の予定は信頼値マイナスですが・・・)ですので、楽しみにしていたくれたらうれしいです。
残っている作業と言えば、調理場を囲う小屋の製作がほとんどだった。
で、この厨房なかなかの高性能だったりする。
まず、コンロがありますっ!
それも、薪を使わない超経済的なやつですっ!
これは、風呂を造る際に作った発熱式の加熱機を転用したものだ。
薄っぺらいシート状に伸ばしたレンガに、発熱の魔術陣を施したシンプルなもで、外見はホットプレートとかIHクッキングヒーターなんかに似ていると思う。
レンガを作る際に、窯に施した魔術陣の縮小版だ。
ただし、あの時より性能は格段に向上しているがなっ!
まず、熱エネルギーを制御して、拡散させず全て魔術陣の中心に向かうようにした事で発熱効率を高める事に成功した。
しかも、魔術陣の外には一切熱が漏れないため、レンガ全体が熱を持つことが無く触っても火傷などの怪我を負うことの心配もない。勿論、発熱している魔術陣部分を触ってしまったのならその限りではないのだけどね……
この魔術陣式のコンロは現在試作品につき、今の所はこの銭湯の食堂にしかない代物だ。
これが問題なく動くようなら、村人たちに配布する事も視野に入れている。
で、更に水道が配備されておりますっ!
これはドリンクバーの方にも設置されている設備なのだが、機構そのものは浴室で使っているものと一緒だ。
川から組み上げた水は、一度ゴミや砂利を取り除くため貯水槽を通るのだが、この貯水槽を出た所から厨房とドリンクバーにそれぞれ竹パイプが一本ずつ引かれている。
この竹パイプは、浴室の物より更に細く穴のサイズも親指がギリギリ通る程しかない。だが、これが重要だったりする。
使い方は至って簡単で、竹パイプに刻まれている魔術陣に触れるだけでいい。
この魔術陣には、大気と水を制御するための論理回路が書き込まれており、魔術陣に触れることで竹の内部の空気を外部へと吐き出させる働きをする。
そうすることで竹の内部の気圧を下げ、反対側の水に浸かっている部分から水をチューチュー吸い上げさせるのだ。
ストローでジュースを飲むのと原理は同じだな。
あれの長くなった物だと考えれば、間違いではない。
で、魔術陣のある所まで水が来たなら、あとは外に向かって少しだけ加速をつけてやれば水は継続して排出されることになる。
この一連の流れのために、竹はどうしても細いものではなくてはならなかったのだ。
パイプが太くなると水を吸い上げるために、より大きな力を掛けなければならず、それはより大量のマナを消費する事に繋がってしまう。
それは正直、よろしくない。そんなのでは、水を使うたびに疲れてしまうからな。
浴室の竹パイプとの違いがあるとすれば、後ろから押し出すか、手前から引っ張るかの違いだろうか?
後ろから押し出す方式は大量の水を送ることが出来る反面、ON・OFFが難しい。
手前から引っ張る方式は手元で簡単にON・OFF操作が出来る代わりに水量は少なくなってしまう。
どちらも一長一短な技術という訳だ。
と、言うわけで……
俺は竹パイプの魔術陣に触れて、出てきた水をまず枡一杯になるまで溜めた。
一杯になったところで竹パイプから手を離し、枡に蓋をする。
そして、蓋に掘り込まれた魔術陣へと手を触れる。
あのマナを吸い上げられるチリチリとした感覚を味わうこと数秒……
外からでは何が起きているかは分らないが、蓋を開ければ一目瞭然だった。
そこにあったのは、氷の塊だった。
俺は、水が氷に変わった枡をあらかじめ用意しておいた水を張った桶に入れて、四方を軽く叩く。
すると、中の氷がするりと外へと出てきた。
そう、この枡の正体は小型の製氷機なのであるっ!
枡の底面に彫られている魔術陣が冷却用の魔術陣で、蓋に彫られているのがマナ供給用の魔術陣だ。
わざわざ、魔術陣を2つに分けたのには理由があって、それは誤って指を入れたまま冷却しないためだ。
そんな事をすれば、下手をすれば指ごと凍りかねないからな……
洗濯槽や加熱槽のような生態認証で機能を停止出来ればいいのだが、ここまで小さいと余計な回路を組み込むスペースが無いのだ。
なので仕方なしに、機械的に指が入らない機構を取り入れた、と言うわけだ。
『おおおおぉぉぉっ!!』
それを見ていたギャラリーから一斉に歓声が上がった。
「氷だっ! 氷っ!! スッッゲー!!」
「……はぁ~
この“熱くなるレンガ”といい、“飲み物を冷やす不思議な模様”といい……
それに、“お湯を作る箱”の次は“氷を作る箱”ですか……
僕がいない間に、この村に一体何があったと言うのか……」
タニアが、水に浮かんだ氷をつんつんしては“ちべてー!”っと叫ぶ中、テオドアさんは目頭を押さえ、眉間に皺を寄せて難しい顔をしていた。
テオドアさんは、村に戻ってくる前は結構大きな町に住んでいたらしく、村民の中では一番“世間”という物を知っている人だった。
故に、今のアストリアス王国に“魔術陣技術”が存在しない事をよく知っていた。
村民の多くは“都会ではこれが普通なのだろう”と勝手に思い込んで、なんの疑問も持たずに魔道具を使っているのだが、反面、テオドアさんの様に、少なからず“都会”というものを知っている人には違和感が凄まじいらしく、中々受け入れられないでいる様だった。
とはいえ、皆しっかり魔道具を使ってはいるのだけどね……まぁ、便利だから仕方ないか。
で、面白いのは大人より子どもの方が、圧倒的に順応するのが早かったという事だ。
シルヴィなんかも、初めて石ランプや洗濯槽なんかを見たときは、そりゃもう大変驚いて興奮状態だったとテオドアさんが話していたが、今となってはこの製氷機を見ても“流石はロディですわっ!”と、なんかすげーキラッキラした瞳で俺を見ているだけだった。
……うっ、なんかやり難いな……
で、この氷をあのイスっぽい物体の上に置くと、四本の足の間に適当な木の器をセット。
で、手前にある二本の足をしっかり掴むと……
『おおおっっっっ!!』
乗っかっていた氷が、グルグルと回転を始めたのだ。
スリットの部分には金属の板が少しだけ飛び出すように設置されているため、回転する氷はその金属板に削ぎ取られ、粉末状になった氷の粒がスリットを通り下に置かれた木の器へと落ちていく。
これは……そうっ!
カキ氷機なのであるっ!!
夏と言えばかき氷っ!
カキ氷があるから、夏なのであるっ!!
カキ氷を食べずして、夏を迎えたと言えるであろかうかっ! いや無いっ!(反語)
と言うわけで、急に食べたくなったので作ってみました。カキ氷機。
使っている魔術陣もほとんどが今までの応用だ。
“水”の制御用の回路で、氷も制御出来たので特に難しい所は何もなかった。
ただ、引力……と言うのか、“引き付ける力”と言うコマンドを見つけたので氷の固定に試しに導入してみた。
これによって、氷を金属板に一定の力で押し付け均等に削ることを目的としていたのだが、どうやらうまくいったらしい。
とりあえず、一杯目が完成したのでイチゴっぽい果実のドライフルーツから作ったジャムとミルク(ヤム乳)を混ぜ合わせて即席のイチゴミルクソースを作って、それを氷の上にたっぷりとかける。
このイチゴっぽい果物のジャムは、今日のために事前に用意して置いた物だ。
製作者はうちのママンなので、その味は折り紙付きだ。
これが美味しければ、レシピをテオドアさんに渡して量産してもらう腹積もりでいる。
「ねぇねぇねぇねぇ!!
これ、食べていいっ! ねぇ! 食べていいっ!! ねぇねぇねぇねぇ!!」
タニアが涎をダラダラ流しながら聞いてきた。
その表情たるや、もしタニアにしっぽが生えていたのなら、その勢いで空だって飛べるんじゃないかと思えるほどだった。
「あ~、はいはい、ちょっと落ち着け。
食べてもいいけど、そんなに沢山作れないから、ちゃんとみんなで分けて仲良く食べるんだぞ?」
「あ~いっ!」
俺は厨房にあった木で出来たスプーンをタニア・ミーシャ・シルヴィに渡すと、次の一杯の製作に取り掛かった。
彼女たちは、スプーンを受け取ると仲良く一緒にカキ氷を突付き始めた。
そして……
「んまーーーーっ!!」
「冷たくておいしぃ……」
「これは……美味ですわね……」
うむうむ。
どうやら、幼女トリオからの反応は上々の様だな。
で、新しく出来た一杯をテオドア夫妻に渡した。
持って来たジャムが、これでなくなってしまったのでもうこれ以上は作れそうにないな。
俺の分がなくなってしまったが、食べるのは量産されてからでも別にいいだろう。
「これを、食堂の夏の目玉商品として提供しようと思っているんですけど……どうですかね?」
夏の夜、風呂上りで火照った体にカキ氷……格別ではないかっ!
だが、一応飲食店で働いた経験を持つテオドア夫妻にお伺いを立ててみる。
子どもから人気を得ても、大人から支持されなくては商品として提供するには少し難しくなってしまうからな。
「これはっ……!?」
「んっ……甘くて、冷たくて、美味しいですね……」
「うん。これは売れる商品になると、僕は思うよ」
うむうむ。
大人からの評判も悪くないらしい。
俺は、イチゴ(っぽい)ミルクソースの作り方を書いたレシピをテオドアさんに渡して、量産をお願いする事にした。
「でも、なんでこれを食堂に出すんだい?
商品の系統から言えば、飲み物を出しているダリオ君の方だと思うんだけど……」
「ああ……それはですな……」
それは俺も思ったことなのだが、ドリンクバーには既にフルーツ・ヤム乳と言う目玉商品があるからな……
これ以上、目玉商品を追加してはまた、以前のようにマスターが魔力欠乏症でぶっ倒れてしまう……
それを回避するために、人気の出そうな商品を分散させる事にしたのだ。
それに、人気のでる商品が一つでもあれば収入も増える。
特に、戻り組みの人なんかは何かと物入りだろうし、お金があって困る事はないだろう。
「あっ! タニアちゃんそんなにいっぱい取ったらずるいよっ!」
「そうですわよ、タニア!」
「へへぇ~、早い者勝ちぃ~」
そんな声にふと、首を巡らせれば、タニアがスプーン一杯にカキ氷を乗っけてそれを勢い良く頬張る瞬間が目に映った……
「あっ! バカっ!!
お前そんなに一遍に喰ったら……っ!」
「あ~む……むぐむぐむぐ……んっ!?
くっ、くほぉぉぉぉぉ!!!
あっ、頭がっ! アタマガワレルゥゥゥ!!」
……バカめ……意地汚くそんなに食うから……
「タっ、タニアちゃん! だっ、大丈夫!!」
「タニアっ!?」
タニアの急変に、慌てて近づくミーシャとシルヴィだったが、そんなに心配する事はない。
だってアレは、カキ氷を食べるとだいたいなるのだ。
「ああ、全然大丈夫だよ。
冷たいものを一度に食べると、頭が痛くなるんだよ。
直ぐによくなるから心配しなくていいよ。ってか、意地汚いタニアの自業自得だ。
ちゃんと、分けて仲良く食べろよって言ったのに……」
俺は、あのキンキンと痛む頭痛に苛まれるタニアを哀れみの表情でもって見下ろしていた。
と、
「……ロディくんはこれ食べないの?」
俺がカキ氷を食べていないのに気付いたのか、ミーシャがそんな事を聞いてきた。
「ん? ああ……もう、材料も無くなっちまったからな……」
俺がそう答えると、ミーシャは自分が使っていたスプーンに一口分のカキ氷を乗せて、俺へ向かって差し出してきたのだった。
「はい……ロディくんの、あ~んして……」
まだカキ氷が食べれいない俺を、不憫に思ったのかミーシャが自分たちの分を分けてくれたのだ。
しかもっ! あのっ! 伝説のっ!
“はい、あ~ん♪”で、だっ!
苦節38年と約6年!!
俺は初めて“はい、あ~ん♪”を体験しようとしているのであるっ!
相手は幼女だが、んなこたぁ関係ねぇ!
“はい、あ~ん♪”は“はい、あ~ん♪”だっ!
「んじゃ、あ~ん……パクッ……」
一口頬張れば、甘酸っぱい果実の味と、まろやかなヤム乳の風味が口いっぱいに広がった。
これは正しくイチゴミルクそのものだった。
これはタニアもガメたくなる気持ちも分らなくはないな……
だがしかし……
確かに、美味しいのは間違いなかったが、この美味しさは素材の良さとかそういうのとは別に、この一口にはミーシャの優しさが詰まっているからだと俺は思った。
「ありがとなミーシャ」
「えへへへぇっ……」
俺は、お礼にとミーシャの頭をしこたま撫で回してやった。
ミーシャはなんだかんだで頭を撫でられるのがスキだからな。
キュピーーーン!!
ん? 今何か光らなかったか?
気になったのでふと、視線を巡らせるとシルヴィと目が合った。
「はい、ロディどうぞ召し上がれ、ですわ♪」
シルヴィもまた、ミーシャの様に自分が使っていたスプーンにカキ氷を乗せて俺へと差し出して来たのだった。
これはあれか?
こっちでも“はい、あ~ん♪”をしてくれるいうことか?
なに? 今日は“はい、あ~ん♪”の日か何かか?
それとも前世分の貯金が降ろされているのか?
まぁ、なんでもいい。
“はい、あ~ん♪”をしてくれると言うのなら受けようではないかっ!
「あ~ん……パクッ、むぐむぐ……シルヴィもありがとな」
「あっ……
あ、あの、私にはその……ミーシャの様な……その……は……ありませんの……?」
俺がお礼を言うと、シルヴィはもじもじしながらそんな事を聞いてきた。
ミーシャの様な……?
もしかして、シルヴィはミーシャにしたしたように頭を撫でて欲しいのだろうか?
「もしかして……シルヴィ、頭撫でて欲しいとか……?」
「っ!?
ロ、ロディが嫌だと言うのでしたら……その……無理にとは、申しませんわ……
ただ……その……」
別に嫌だなんて事はないので、俺はシルヴィの頭をそっと撫でてあげた。
「シルヴィもありがとな」
「あっ……いえ……そんな……ですわ……」
シルヴィはほっぺたを真っ赤にして、もじもじと俯いてしまった。
自分からペタペタ張り付いてくるのは大丈夫なくせに、人に触れられるのは不得意なのだろうか?
よく分らん子だ……
カチッ
ん? 今なにか変な音が……
「ロディくん」
「ん? どうしたミー……むぐっ!?」
ミーシャに呼ばれたので、振り返ってみれば……
突然、ミーシャにスプーンを口の中にねじ込まれた。
「どう? おいしい?」
「むぐむぐ……ごくんっ……
ん? あ、ああ……うん、おいしいよ」
「よかった……」
俺がそう答えると、ミーシャは実に嬉しそうにニッコリと笑った。
分けてくれるのは嬉しいが、無理やり口の中に突っ込むのは止めて頂きたいなぁ~。
なんて、考えていたら……
「ロっ、ロディ、こっ、こちらのもどーぞ、ですわ」
と、シルヴィもまた俺に二口目を勧めてきた。
で更に……
「はい、ロディくん……あ~ん……」
ミーシャが間髪入れずに三口目を進めてきたのだ。
「えっ? あっいや……そんな一遍に出されても……」
「ミーシャのは食べましたのに、私のはダメなのですか?」
「いや、別にそんなつもりはないんだけど……ただ、一度に出されても俺の口は一つしかない訳で……」
「ロディくんっ! はい、あ~んっしてっ!」
「むっ! ミーシャは先ほど食べてもらったじゃないですか!
次は私の番ですわよ!」
「ううん、私がロディくんに食べさせるからいいよっ!
シルヴィちゃんは自分の食べてていいからっ!」
ミーシャはそう語気を強めて言うと、持っていたスプーンを強引に俺の口元へと押し付けて来たのだった。
冷たいっ! 冷たいって!
「嫌ですわっ! 私もロディに食べさせてあげたいですわっ!!」
そして、シルヴィもまた、持ってたスプーンを俺の口元へと押し付けて来たのだった。
ダブルで顔面に氷を押し付けられて、そりゃ冷たいのなんの……
「ちょっ、お前ら冷たいってっ! いい加減にや……むぐっ!?」
俺が講義のために口を開いた瞬間、まるで狙い澄ました様に二人揃ってスプーンを俺の口へと突っ込んできた。
で、二口分の氷を一気に口へと放り込まれた俺はと言えば……
「くほぉぉぉぉぉ!!!
あっ、あたまがっ! アタマガワレルゥゥゥ!!」
と、まぁ、当然の結果を向かえる事になった……
「ロディくん、はい、あ~んっして……」
「ロディ、召し上がれですわ」
あのキンキンする頭痛に苦しむ俺を余所に、二人はまたしてもスプーンに氷を乗せて、それを俺へと押し付けてきた。
顔に氷が当たって冷たかったのだが、抗議の声を上げるとまたねじ込まれそうだったので、俺は必死に口を噤んでそれを耐えた。
これ以上一遍に氷を食わされたら、頭痛でマジで頭が割れかねん……
で、そんな抵抗を続けていると、次第に二人はスプーンを使ってゴリゴリと無理やり口を押し開けようとして来たのだった。
口の周りは冷たいわ、頭は痛いわ……
「むぐぐぐぐ~」
悪魔は天使の顔をしてやってくる……
そんな言葉を、いつか何処かで聞いたような気がするが、それが紛れもなく真実である事を、俺はこの時初めて知った……
間違いねぇ……こいつら悪魔やっ! 天使の皮を被った悪魔やっ!
「にゃはははっ! なんか面白そーなことしてるぅー!
あたしも、まぁぜろぉ~!!」
そして、ここに来て一番厄介な奴が、ダメージからから復活して、乱戦に参戦する意思を表明したのだった。
タニアもスプーン片手に、笑顔でこっちに近づいて来たのだが……
「おおっ!!」
タニアは、突然何かに躓いてバランスを崩し、俺たちに向かって倒れ込んできた。
そこからの光景は、まるでスローモーションのようにゆっくりと俺には見えた。
まずミーシャとシルヴィにぶつかったタニアが、そのまま二人を押し倒し、その先にいた俺へと倒れ込んできたのだ。
勿論、そんなもの今の体の俺では受け止める事なんて出来ず、抵抗する間もなく俺は三人に押し倒される形で転倒する事になってしまった。
この時、ミーシャが持っていたカキ氷の器は宙に舞い、それはそのまま放物線を描いて、倒れた俺の顔面へと着地したのだった……
「ひぎゃゃゃゃーーー!!
つっ、つめてぇぇぇぇぇ!!」
この時、運が悪い事に俺の両腕は三人の下敷きになってしまっていて、自由に動かす事が出来ないでいた。
その所為で、俺は自力でカキ氷の器を顔から退かすことが出来なかった。
取り敢えず、俺は首を振ってなんとか器を退かそうと試みるも、どうも良い具合にまっているらしくそれもうまくいかなかった。
「いててて……にゃはは……こけちった……おっ?
あははははっ! なんでロディお碗かぶってんの! おっかしぃーの! あははははっ!」
「誰の所為でこうなったと思ってやがるっ!!
いいから、お前ら全員そこから早くどけーーーーっ!!」
こうして散々な結果になったカキ氷試食会は、俺の絶叫を持って終わりを迎えたのだった……
銭湯からの帰り道……
俺は、俺に怒られたと思ってシュンとしているミーシャと、んなこたぁ知らんとばかりにケラケラ笑っているタニアを連れて帰路に付いていた。
シルヴィはそのまま両親の手伝いをしてから帰る、と言って銭湯に残っていた。
両親思いのええ子やねぇ~。
「はぁ~、もう別に怒ってないから、気にしなくていいぞミーシャ?」
「でもぉ……」
「にゃははっ! ロディが気にしなくていいって言ってるんだから、気にしなくていいんだって!
ミーシャは気にし過ぎなんだってぇ!」
「タニアっお前は少しは気にしろ! 止めを刺したのはお前なんだからなっ!」
「ぶーっ! 気にしなくていいって言ったくせに、ロディの嘘つきぃ~!」
「嘘つきじゃないっ!
俺はミーシャに言ったんだっ! タニアにじゃないっ!」
「あーっ! そう言うの何て言うかあたし知ってるぅ~、“へりくつ”って言うんだぁ~!」
「黙らっしゃいっ!!」
どこで覚えてきたよ、そんな言葉……
と、ガヤガヤ賑やかしく帰っていると、ふと、今後の予定についてテオドアさんと話し合わなければいけない案件があった事を思い出した。
最後の方は、ドタバタとしてしまっていたのですっかり忘れていた……。
緊急案件ではなかったが、このまま帰るとまた忘れてしまいそうだったので、俺は二人に先に帰るように言って、俺は銭湯に戻る事にした。
案の定二人とも付いてくるなんて言い出したが、丁重にお断りして帰らせた。
また、あんなドタバタされたら話し合いどころではなくなるからな……
「ちーっす……」
今度は、玄関を潜っても誰も居なかった。
俺たちが帰る前は、何人かの従業員の人たちが忙しなく動き回っていたのだが、皆どこかへ行ってしまったようだ。
まぁ、用があるのはテオドアさんだから、別にいいけど……
靴を脱ぎ、厨房エリアへと足を向ける。
「え~っと、テオドアさんは何処かな……っと」
さっきまで作業をしていた、場所にテオドアさんの姿はなかった。
別の場所だろうか?
辺りを見回しても、特にそれらしい人影は見当たらなかった。
取り敢えず、厨房エリアまで近づくと、建設途中の厨房小屋の中から人の話し声が聞こえてきた。
なんだ、中に入ってたのか……
と、思い更に厨房へと近づくのだが……
「……アレはダメよシルヴィ」
「はい、私も反省していますわ。おかあ様」
カウンター越しに聞こえてきたのは、シルヴィとセルヴィアさんの声だった。
「いい? 確かに自分をアピールするのはいいけど、それを相手に押し付けてはダメ。
あれじゃあ、返って“わがままな女”だと思われて好感度を落としてしまうわ」
「はい、おかあ様」
「ああいう場合は、むしろ一歩引いて“余裕のある大人の女”を演出した方が、相手に好印象を与える事ができるの。分るわね?」
「……はっ! なるほどっ!
余裕のあるところを見せることで、包容力があるところを示すのですねっ!
流石は、おかあ様ですわっ! 私、目から鱗が落ちる思いですわっ!」
……なんの話をしてるんだ一体?
盗み聞き、など決して褒められる行いではなかったが、少しだけ気になったのでそのまま聞いてみる事にした。
好都合な事に、カウンターが衝立となっていたので、向こうからこっちの姿は見えないだろうしな。
「おかあさんの下調べだと、“将来、ロディフィス君のお嫁さんになる子ランキング”の1位と2位はダントツでミーシャちゃんと、タニアちゃんだったわ。
この二人を抑えない限り、あなたに勝ち目はない……分るわねシルヴィ?」
「はいっ! おかあ様っ!」
……ホント、何話てんのこいつら?
何“将来、ロディフィス君のお嫁さんになる子ランキング”って?
いつの間にそんなん出来てたんだよ……
「あの子たちは、生まれた時からロディフィス君と一緒にいるそうで、それはもう仲が良いそうよ。
今日、実際にあの二人を見ておかさん確信したわ……あれは強敵になるって!
時間はそれだけで武器になるのっ!
シルヴィ、残念だけど、あなたはその武器を初めから持っていないわ……これは圧倒的に不利な状況なの……なら、何をしなければいけないのか……おかあさん教えたわよね?」
「はいっ! おかあ様っ!
いつでも側にいて、隙あらば手を繋いだり腕を組んだりするのですわ!」
「そうよっ! シルヴィ!
時間の付き合いを超える物があるとすれば、それは肌の触れ合いの付き合いよっ!」
なんか最近、シルヴィがやたらと張り付いて来ると思ったあんたの入れ知恵かっ!
母親が娘に、何教えてんだよっ!
それに“肌の触れ合いの付き合い”ってなんかやらしいわっ! 語感がっ!
「なっ、なぁセルヴィ……僕はそう言うのをシルヴィに教えるのはまだ早いと思うんだけど……」
あっ! テオドアさんそんなとこにいんのかよっ!
「何を悠長な事を言ってるのよ貴方はっ!
ロディフィス君は将来、絶対にこの村を背負う大物になるわっ!
お義父さんだって言っていたじゃない!
今の村はロディフィス君あっての物だってっ!
ロディフィス君と一緒になれば、シルヴィは絶対に幸せになれますっ!
そのためには、どうしても早いうちにライバルを蹴落とす必要があることくらい、貴方にだって分るでしょう?
それとも貴方は、シルヴィにまたあんな極貧生活を送らせたいの!?」
「そんな……一緒だなんて……気が早いですわよおかあ様……ポッ」
「いや……僕も彼が優れている事は認めてるけど、その、話が性急し過ぎなんじゃないかって……
そういうのはもっと、こう、お互いの気持ちも確かめつつ理解を深めて……」
「まったくっ! 貴方はニブチンですか!?
シルヴィがロディフィス君の事を憎からず思っていることなんて、一目瞭然じゃないですかっ!」
「おっ、おかあ様っ! そんな大きな声でっ! ……はっ、恥ずかしいですわぁ~!?」
「親なら、どんな手段を使っても子どもを幸せにしたと思う物なんじゃないんですかっ!
私は、必ずロディフィス君とシルヴィをくっ付けますよっ!
どんな手段を使っても必ず……ええっ! 例え、彼を罠にはめてでもっ!」
わっ、罠っ!?
罠って何だよ奥さんっ! ちょっ、怖ぇーよっ! マジで怖ぇーよっ!
さっきから発言が物騒だよっ!?
「シルヴィ、あなたがもう少し大きくなった、もっと効率的な方法を教えてあげるからね。
それまでおかさんと一緒にがんばって、ロディフィス君の攻略をがんばりましょうね!」
「? はいっ! おかあ様っ!
私がんばりますっ!」
効率的ってなんだよっ! なんか不穏な意味にしか聞こえないよっ!
あと、攻略って言うな!
……この奥さん怖ぇ上に腹黒だよ……
これ以上ここに留まっていてはキケンだと……俺の本能が告げていた。
もし、今ここに俺がいることがバレたらどうなるか……考えただけでもオソロシイ。
俺は、この人たちに気付かれないように、ソロリソロリとその場を離れたのだった。
テオドアさんとの話し合い?
んなこたぁ知らんっ!
そんな事より、身の安全の確保の方が何十倍も重要だっ!
ロビーを抜け、靴を履いて玄関を潜ったら、俺は脇目も触れず自宅へと向かって全力疾走で逃げ出したのだった……
数日後……
この日、晴れて銭湯のロビーに食堂がオープンした。
料理自体は、ホントに簡単な軽食がメインのこじんまりとした店だった。
肉の串焼きとか、パン生地に野菜を練り込んで焼いた物だとか……
そんな物でも、一人身の者や、外で手軽に済ませたい主婦などには好評でそれなりのオーダーが入っているようだった。
そんな中、圧倒的に注文数が多かったのがやはり“カキ氷”だった。
その人気の程は、出来上がっていた列の長さが如実に物語っていた。
“夏に氷を食べる”そんなありえない状況に、目新しさ、そして涼を求める者達がこぞって買い求めたのだった。
そして、一度カキ氷を口にすれば、その未体験の感覚と味に魅了され、食べ終わると直ぐに新た物を購入するために列に並んだ。
中には、一人で数杯をまとめて注文する者も現れ、カキ氷に関してはオーダーは一回に付き一つと制限が設けられたほどだった。
人が人を呼び、列が列を作る中、そこには、果ての見えぬ長蛇の列が出来上がっていた。
目玉商品としての面目躍如ここに極まれり、である。
厨房の皆も忙しそうに、激しく動き回っていた。
カキ氷の原材料など、そのほとんどが水だ。
シロップ用のジャムとヤム乳はたんまりと用意していた。
だから、作って売って作って売って作って売って作って売って作って売って……
それを延々と繰り返した。
村人もまた、食っては並んで、並んでは食って……と、無限ループの様に繰り返した。
こうして、食堂オープン一日目は、ものの見事な大盛況を持って終了することとなった……のだが……
翌日……
村は全滅していた……
理由なんて簡単だ。
お腹を壊して、皆寝込んでしまったのだ。
そりゃ一人で何杯も氷を食べれば、腹だって下すだろうよ……
限度って物を知らんのか、こいつらは?
ショックだったのは、あの質実剛健みたいな棟梁でさえ腹を壊して寝込んでいるという事だろうか……
なんでも、村長の家で顔を青くして寝込んでいるらしい。
今では、この村のほとんどの住人がトイレと大親友になってしまっていた。
一家でヤられてしまった所なんて、トイレの奪い合いで凄惨な事になっていると聞く……
勿論、うちだってミーシャのところだってカキ氷は食べたが、それだって一人一杯だ。
それが普通なのだ。
免疫の無いところに、薬を投入すると必要以上に効き目が出てしまう……これはそう言うことなのかもしれないな……
その日の夜、銭湯へ向かえばそのロビーは今までに見たことが無いほど閑散としていて静かなものだった。(営業時間中の銭湯ではって話な)
今はもう、手遅れになってしまった“カキ氷食べ過ぎ注意”というチラシだけが、ただただ空しく張り出されていた……
こうして、銭湯開業以来(と、言ってもまだ10日と少しだが……)初めて、ほとんど客の来ない静かな夜は過ぎていったのっだった……
ちなみにだが……
この日の、ペリン草の消費は過去最大量を記録したとかしないとか……
∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽
夏に冷たいものの食べすぎは注意しましょう! おいしいけど、ほどほどにね・・・
ってなわけで、謎道具は製氷機とカキ氷機でした!
そして、シルヴィ嬢が超攻めキャラになったのには、裏でお母さんが暗躍していたからでした・・・
長い間、苦労してきたので、娘に同じ思いはさせたくないという思いが爆発した結果・・・でしょうか?
玉の輿狙い・・・的な?
初の連日投稿になりましたっ! 土日だとまとめて書けるからいいやね・・・
次回も、こんなライトな感じの話になる予定(自分の予定は信頼値マイナスですが・・・)ですので、楽しみにしていたくれたらうれしいです。
応援ありがとうございます!
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