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313 メア②

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「ここの配管を通って爆発させた力を一方向へ吐き出すのよ。それを推進力にしてね……で、これがこうなって、こんな理屈で動いてるわけ」
「なるほどぉ、エネルギーを一度閉じ込めることで、強力な指向性を与えているんですねぇ。興味深いですわぁ」

 バイロードの仕組みを解説するレディアと、それを興味深げに聞くメア。
 そんな二人の様子をミリィと共に眺めていた。

「……しかし言葉は上手く通じているようだな」
「話術のペンダントだっけ? 便利だよねぇこれ」

 ――――話術のペンダント。
 魔導師協会の開発した通訳用のアイテムで、言葉が通じない同士でも念話の要領で言葉を伝え合うことが出来るのだ。
 ワシらの大陸ではこれが広まり過ぎた為、最終的に言語が統一されてしまい、結果的に不要になってしまったのだ。しかし、こういった未開の大陸では非常に便利である。

「とまぁざっくり説明で悪いけど、こんなものかな~」
「なるほど、とてもよく分かりましたわぁ。こんな素晴らしい物を造ってしまわれるなんて、やはりレディアさまは天才なのではぁ?」
「そ、そんなことはないけど~」

 バレバレのヨイショにも関わらず、レディアはメアにデレデレだ。
 ったくこのままだと日が暮れてしまうぞ……仕方ない、講義はそろそろ終わって貰うとしよう。

「おいメア、そろそろ約束通り村を案内して貰うぞ」
「あらあらはいはい、勿論でございますともぉ。面白いものを見せていただいたお礼に、たぁくさん案内させていただきますわぁ」

 そう答えるメアの足元に、チラリと何か蠢くモノが見えた。
 ――――蛇だ。いつの間にか忍び寄っていたらしく、ワシが気づいたときには既に、メアへと飛びかかる姿勢を見せていた。

「危ない、メアっ!」
「――――へ?」

 ワシが叫ぶと共に、無防備なメアへ噛みつくべく蛇が跳ぶ。
 咄嗟にメアの前に庇い立ち、ワシは蛇の前へと腕を差し出した。

「ゼフっ!?」
「……案ずるな。噛みつかせたのは義手の方だ」

 ぽろりと牙を欠けさせた蛇を捕まえ、そのまま握り潰す。

「全く、気をつけろよメア。そんな薄着で蛇のいるところをうろつくなんて、危機管理が足らないのではないか?」
「…………」

 返事がない。
 余程驚いているのか、メアは茫然とした顔をしていた。

「おーい、大丈夫か? メア?」
「……ぁ、あぁ! はい、はいっ! ありがとうございます。えぇ、本当に……」

 言い繕いながら、ペコペコと頭を下げるメア。
 その顔はほんのりと赤く、心ここにあらずと言った感じだ。

「……本当に大丈夫か?」
「えぇ! えぇ大丈夫ですとも! えぇ!」
「顔が赤いようだが……」
「嫌ですわぁ、ゼフさまったら! 元々こういう色ですのよぉ!」
「ならいいが……」

 妙に慌てているようだが……まぁいいか。
 ミリィの奴も訝しむように、ワシとメアを交互に見ている。

「そ、それより早く村へ参りましょうかぁ。日が暮れてしまいますわぁ」
「……まぁ、それもそうか。行くぞ、ミリィ、レディア」
「あ、ちょい待って! バイロードを隠さないとマズイんじゃない?」

 レディアが思い出したように声を上げる。
 そういえばそうだったな。案内して貰うにもバイロードを引いていけば目立って仕方ない。
 あそこに隠すとしよう。近くの岩にマナが溜まっているようだしな。
 だが、メアに見られるのは宜しくない。

「ふむ、恐らくこの辺りなら……」
「? 何の話ですかぁ?」
「あっはは、何でもないのよ。メアちゃんは目を瞑っててね~」
「ちょ、ちょっとレディアさまぁ?」

 レディアがメアの目を後ろから隠している隙に、ワシはテントを取り出す。
 これは大地の魔力、マナを用いて空間を作り出す協会の作り出したアイテムだ。
 ワシらが仮拠点としていた場所ではマナが少なすぎてテントは使えなかったが、この辺りならいけそうだ。
 テントを地面に取り付け扉を開くと、問題なく中に空間が生まれた。
 それでも小さいな……バイロードが何とか入る程度だ。
 魔物も殆どいなかったし、この辺りはマナが薄いのかもしれない。

「はいっ、おっけ~」
「んもう、ひどいですわレディアさまったら……あら、バイロードが……?」

 レディアから解放されたメアは、バイロードが目の前から消えた事に驚き目を丸くしている。

「隠させてもらったよ。盗まれたら困るのでな」
「隠したと言われましても……一体どこへ隠しましたのかしらぁ?」
「悪いが特秘だ。何でもかんでも教えるわけにはいかんのだよ」
「それは残念ですねぇ。……しかし素晴らしい技術をお持ちなのですねぇ、流石はゼフさまですわぁ」

 感心したように、ため息を吐くメア。
 こちらの大陸の技術は、あまりおおっぴらにするなと言われている。
 魔導などの使用もやむを得ない場合に限ると……バイロードに関しては、まぁ仕方なかろう。何も言われてないしな。
 事前に話し合っているが、心配なのはミリィである。
 あっさり口を滑らしそうだ。

(おい、気をつけろよ)
(わかっているわよ!)

 勢いよく親指を立てるミリィ。
 本当にわかっているのかよ……不安だ。

「では参りましょうかぁ!」

 そう言って先頭に立って歩き出すメア。
 メアの歩く速度は結構早く、荒れ地であろうとひょいひょい進んでいく。
 先刻、音もなく出てきただけの事はあって身体能力はかなり高いようだ。
 ワシやレディアはともかく、ミリィはついていくのがやっとといった具合だ。

「はぁ……ふぅ……」
「あららミリィさま、少しゆっくり歩きましょうかぁ~?」
「け……結構……よ……っ!」
「ならいいですけどもぉ」

 そういうと、メアは言葉の通り遠慮なく歩いていく。
 ミリィがついてこれるかというギリギリの速度だ。容赦ないな。
 その甲斐あってか、ワシらは三十分もせぬうちに村にまで辿り着いた。

「ふぅ、到着ですわぁ」
「これは……すごいな」

 村の入り口にはワシらを歓迎するかのような大きな門が佇んでいる。
 木と石で、歪みと曲線を多用したようなデザインは、独特の文化を感じさせる。
 昔、ワシらがいた大陸でエルフの村を一度訪れた事があるが、それとも違っているようだ。

「おやメアちゃん、そちらの人たちはお友達かね?」
「えぇ、村の外から来た方ですわぁ」
「ほぉう、旅の人かい? ゆっくりしていくとえぇ」

 メアに声をかけてきたは髭だらけの老人は、ワシらの方を向きにっこりと笑う。
 こちらもメアと同じように人懐っこいな。
 往来を行き交う人々も、どことなく明るい感じだ。
 エルフは気難しい者が多いと聞いていたが、そんな事もなさそうである。
 ……というか気難しいエルフだけがワシらの大陸に渡ってきたのではないだろうな。
 そんな事を考えていると、レディアがワシに耳打ちをしてきた。

「ねーゼフっち、この人たちエルフじゃないんじゃない? ほら耳が」
「……む、確かにそうだな」

 見れば村の人々の様相は様々だ。
 獣の耳や牙を持つもの、鱗の肌を持つ者、手が羽根の者……話に聞いていた亜人という種族であろうか。
 勿論エルフもいるようだ。それにしても多くの種族が住んでいる。
 イエラに聞いた話では、亜人は混じって住む事はないとの話だったが。

「どうかしましたかぁ?」
「あぁいや、ここはエルフの村と聞いていたのでな」
「昔はエルフしかいない閉鎖的な村でしたが、今は大分開かれていますからねぇ。色々な種族が集まったこの村を珍しく思われるのも無理はないですわぁ」
「メアはエルフなようだが」
「半分、ですけどねぇ。私の父親は別の種族だったらしいので……ほら、肌が黒いでしょう~」

 メアは見せつけるようにして褐色の手のひらをくるくると回す。
 そういえばエルフは他の種族と混じると、身体の一部が黒くなると聞いた事がある。
 セルベリエは髪が、メアは肌が黒くなっているのか。
 それ故エルフは混血を嫌い、他の種族と関わらないように暮らしているのだとか。
 だがどうもここは様子が違うらしい。

「みなさまぁ、少し喉が渇いたので、飲み物でもいかがですかぁ?」

 メアが近くにある屋台を指さす。
 このくそ暑い中を殆ど走るような速度で移動してきたのだ。
 丁度のどが渇いていたし、ありがたい。

「らっしゃいメアちゃん! お友達かい?」
「お客さまですわぁ……四つくださいましぃ」

 懐から財布を取り出し、金を支払う。
 石のような貨幣だ。数枚の石貨を支払いジュースを受け取る。

「それがこの地方での貨幣か」
「えぇ、ペルカ石を加工した貨幣なのですぅ。採掘したときは粘土のように柔らかいのですが、熱するとすごく硬くなるのですよぉ。……ちなみにジュース一杯500ペルカですぅ」

 じゃらりと手渡されたペルカには、特有の数字が刻まれている。
 見事な文様が刻まれているようだ。
 恐らく「型」か何かで大量に作っているのだろうが、それなりに文明は発達しているようだ。

「どうぞぉ、村の果実で作ったジュースです。旅の疲れも吹っ飛びますわよぉ♪ さ、ゼフさまぁ」
「うむ、ありがたくいただこう」

 この暑い中、殆ど走るような速さで移動したからな。喉も乾くとものだ。
 メアから飲み物を受け取り一気に飲み干すと、甘ったるい南国の果実、それらが混ざりあった味がする。普通に美味いがそれよりも……冷たい!

「わぁ! 冷たくて美味しいっ!」
「こんな暑い場所で、どうやって冷やしたのだ?」
「少々お待ちを……秘密はこれですわぁ」

 メアが店の人と何やらやっているかと思うと、小さな石を持ってきた。

「ツメタ石といいますわぁ。これがその秘密です」
「ほう、氷のようなものか」
「コオリ……とは何ですの?」

 首を傾げるメア。どうやら氷を知らないようである。
 この南国では氷など、出来ないのだろう。

「水がすっごく冷えると固まるの。それが氷っていうのよ」
「うーん……よくはわかりませんがぁ、ツメタ石は普段は特に冷たくはないのですが、水に浸けると一気に冷えますのよぉ」
「……ほんとだ!これ自体は冷たくないのね」
「特定の物質同士が混じると、色々な反応を起こす事がある。このツメタ石ってのは、それを上手く利用してるのだな」
「流石、ゼフさまは博識ですわぁ」

 いわゆる化学反応というやつだ。
 特定物質同士を混ぜ合わせると、爆発したり劇薬になったりと危険な組み合わせもある。
 
「この大陸には他にも色々な効果を持った石が取れますのよぉ。私たちはそれを加工したりして、暮らしていますわぁ」
「興味深いな。採掘場も是非見てみたいところだ」
「今日はもう遅いですからぁ、また後日にでも行きましょ~」

 そう言って、メアはワシの腕に抱きついてくるのであった。
 何だかメアがやけに馴れ馴れしいように思える。
 ミリィとレディアの視線が痛いので止めてほしいのだが、メアは知った事ではないと言った感じですり寄ってくるのだった。
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