183 / 208
連載
324 精霊の森へ⑤
しおりを挟む「ふい~♪ 粗方片付きましたわねぇ」
ワシらの猛攻撃によってオーガ共は消滅し、辺りにはタイタニアと魔導による破壊の跡だけが残っている。
何体かは逃げたようだが、まぁさして気にする事もあるまい。
「あいつらには私たちも困っていたのですよぉ。これに懲りて、街に来なければいいのですがぁ」
「恐らく問題ないだろう」
人型の魔物はそれなりには知能があるものも多い。あれだけの目に合えば、今後はワシらを警戒して襲ってくる事も減るだろう。
まぁ連中の持つ経験値はそれなりに多かったので、そこらへんは残念だが……魔物はこれからいくらでも倒す事は可能だ。
くっくっ、折角緋系統の魔導限界値が99まで上がったのだ。魔物の狩り甲斐もあるというものである。
限界値が低かった頃は無駄を省くために、緋系統の魔導を使うのは戸惑っていたからな。
「ねぇメア、そろそろ休みましょうよ」
「私はまだ大丈夫ですがぁ」
「先も長いのだろう? 無理をすることはない。今日はもう休もう」
そろそろ日も暮れてきたしな。
メアはまだまだ元気そうだが、渋々といった様子でうなづいた。
「わかりましたわぁ。では……」
ずうん、と音を立てタイタニアが身体を屈ませる。
ワシはひょいと飛び降りると、大きく伸びをした。
うーん、久しぶりの地面だ。
乗っているだけでも案外疲れるものである。ケツも痛い。
降りてきた皆も、同様に尻を押さえていた。
「では食事を作りましょうか」
「私も手伝いますわぁ」
「メアはずっと動いていたから、疲れているでしょう? 私たちに任せて任せて♪」
腕まくりをするミリィを、メアはジト目で見ている。
「それはそれはありがたいのですがぁ……作れますの?」
「し、失礼ねっ! すっごく美味しいの作ってあげるから、覚悟しなさいよっ!」
こらこら覚悟させてどうする。殺人料理でも食わせるつもりかミリィ。
なお、出来上がった料理はメアを驚かせるほどに美味であった。
「まぁ、本当に美味しいですわぁ!」
「ふふーん♪ そうでしょー!」
クロードも一緒に作ってたからな。とは言わないでおく。
ミリィ一人だと、食べられないこともないがまだまだだ。
「誰しも取り柄はあるものですねぇ」
「ひ、一言余計よ……!」
また喧嘩が始まりそうな二人の間にクロードが割って入る。
「まぁまぁ二人共……ところでメアさん、精霊の森というのはどういう場所なのですか?」
「そうですわねぇ。一言で言いますとぉ、常識の通じないところですわぁ」
「メアも十分常識が通用しないと思うが……」
「あらやだゼフさまったら、私にしてもゼフさまたちは十分に常識外れですわよぉ」
言われてみれば確かにそうかもしれない。
そんな中、敢えて言うという事は余程なのだろう。
「精霊の森はもっと奇妙な……そうですね、鳥が泳ぎ、魚が空を飛ぶような、そういった空間が広がっているのです」
「へぇ~何だか面白そうね」
「その変幻自在さから、私たちは迷いの森と呼んでおりますわぁ」
「ミリィは迷子にならぬよう、特に気をつけなければな」
「ま、迷子になんてならないもん!」
絶対なるくせに……これは絶対に目を離す訳にはいかないな。
首輪の一つも付けておいたほうがいいかもしれない。
それにしても精霊の森か……そういえば使い魔の本体がいるなら、アインもいるのかもしれない。
ちょっと呼び出してみるか。
「こい、アイン」
サモンサーバントを念じ、アインを呼び出そうとするが反応がない。
「む……出てこないな、アインの奴……」
「にひひ♪ もう遅いしきっと寝ちゃってるんでしょ? アインはおこちゃまだからね。私のウルクなら……あれ?」
ミリィも同じようにサモンサーバントを念じるが、ウルクは出てこなかった。
セルベリエに視線を送るが、首を振る。
「実は私も、少し前から使い魔をだせなくなっていたのだ。精霊の森が近いことが関係しているのかもしれない」
どうやらセルベリエも同様らしい。
テレポートやポータルなど、移動系の魔導はあまりに近すぎると発動しない事がある。
サモンサーバントで呼び出す際に、ある程度の距離が必要なのかもしれないな。
「へぇ、そうなんですね」
「あぁ、ここから先は使い魔には頼れない。注意して戦った方がいいな」
「でもさ! 私たちの魔力で具現化してない、本当のアインやウルクに会えるって事だよね。それはそれで楽しみかも!」
「あいつらはアクが強いからな……」
楽しみ半分怖さ半分と言ったところか。
セルベリエもどこか嬉しそうな顔をしている。
クロはセルベリエの数少ない心を許せる存在だからな。
「ふぁ……食べたら少し、眠くなってきましたわぁ。もしかして睡眠薬でも混ぜましたのぉ?」
「んなわけないでしょ! メアってば、ほんと一言多いんだから……」
「うふふ、ミリィさまはからかうと面白いのですわぁ」
クスクスと笑うメアだが、言葉の通り少し眠そうだ。
今日は一日中、タイタニアを動かしていたからな。
なんだかんだで疲れたのだろう。
「今日はもう休もう。明日も早いしな」
「そうですね。あまり疲れを出してはいけませんから」
クロードが火を消すと、荷車にて皆で休む事にした。
ちなみにメアがまた夜這いをかけてくるかと思い警戒したが、その心配はなかった。
この人数を相手取るのは流石に無理だと思ったのか、それとも改心したのか。
後者であることを祈りつつ、ワシは眠りにつく。
――――そして空に赤みが差してきた頃、ワシはパチリと目を開ける。
朝……というには少し早いか。まだ夜明け前だが目が覚めてしまった。
大きく伸びをして周りを見渡すと、皆、仲良く眠っている。
「……折角だ、久しぶりの早朝狩りをしようか」
緋の魔導限界値も上がった事だし、久しぶりにレベル上げの気分である。
皆の戦力が上がってきたのは喜ばしい事だが、戦闘力過剰でワシが戦う暇がない。
ここは一人でこっそりと……そう思い抜け出そうとすると、後ろでごそりと物音が聞こえた。
「ん……ゼフ君、どこ行くんです?」
「く、クロードか。早いではないか」
「あはは、ゼフ君の方が先に起きてるじゃないですか……あふ……」
クロードはあくびをかみ殺すと、音を立てぬようこちらに近づいてくる。
ワシの耳元に手を当て、小さな声で話しかけてきた。
「狩りに行くんでしょう? ボクも連れてってくださいよ」
「一人で行こうとしていたのだが……」
「足手まといにはなりません。それにボクを連れて行かないと、皆が起きたとき告げ口しちゃうかもしれませんよ?」
悪戯っぽく笑いながら、人差し指を唇に当てるクロード。
やれやれ、悪知恵の回る事だな。
「わかったよ。だがそんな回りくどい言い方をしなくても、別に断りはしないぞ?」
「ミリィさんみたいに、真っ直ぐそう言えればいいんですけれどね」
クロードがミリィのようにか。
ミリィのようにワシの手を掴み、行こう行こうと騒ぐクロードを想像する。……うーむ、それはそれで変な感じだ。
「……やはりクロードは今のままでいいかもしれんな」
「ふふ、皆が起きる前に早く行きましょうか」
そう言うと、クロードは荷馬車を降りていくのだった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
4,125
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。