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第五章
ナルヴィク 10 貴方を奪い返す
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「リリアーナ様?」
返事がないリリアーナを心配して、横抱きにしたままカイトが顔を近づけた。リリアーナは、はっと我に返るとすぐカイトにしがみつき、ぽろぽろと涙を零 (こぼ) し始める。驚いただけのその様子にカイトはほっと胸をなでおろした。
腕の中の姫君に顔を寄せて、こめかみの辺りに愛 (いと) おしげにキスをするカイトの姿は、旅芸人達の恋愛劇より麗しく、村人達は見入ってしまった。
カイトはサインをしていた人達に向き直る。
「リリアーナ様を部屋にお連れしないといけないので、すいませんがこれで失礼いたします」
軽く礼をして踵 (きびす) を返し、宿屋に入っていった。
サインが貰えなかったのは残念だが、アクロバティックな光景や、美しい姫君が涙を零しながらしがみ付く可愛らしい姿も目にする事ができたので村人達は満足した。そして何と言っても、二人がお似合いであることを口にする。
階段を登り始めたところで、慌てて下りてきたアレクセイと出くわした。
「リリアーナは!?」
「ご無事です。少し驚かれただけのようです」
アレクセイは安心して溜めていた息を吐く。
「カイトが下にいてくれて良かった・・・でも、君がいたから落ち・・・」
そこでリリアーナに胸の辺りを叩かれた。見るとじとーっとした目でアレクセイを睨んでいる。
「私が何か・・・?」
「いやっ、何でもない! 気にしないでくれ。リリアーナ、こちらに来るかい?」
アレクセイが両手を差し出した。
「カイトでいい」
リリアーナはカイトにしがみついたままだ。アレクセイは少し寂しかった。
(前はお兄ちゃんが一番だったのに・・・)
三階に上り、ドアを開けるとフランチェスカが飛んできた。
「リリアーナ様! ご無事ですか? 上から見たらカイトが受け止めていたようなので大丈夫だとは思いましたが」
「ええ、大丈夫。心配かけてごめんなさい・・・」
最近穴があったら入りたい行動が、てんこ盛りで恥かしいリリアーナである。
リリアーナをソファに下ろすと、カイトは念のためにどこか痛めてないか、リリアーナの身体を簡単に確認した。
「どこも痛めてはいないようです」
アレクセイもフランチェスカもほっとする。
「そうしましたら、私はこれで失礼いたします」
カイトが出て行こうとした。
「ちょっと待てカイト!」
アレクセイへ向き直る。
「はい、何でしょうか?」
「え~と、フランチェスカ、来てくれ」
「はい、え? 何でしょうか~!!」
フランチェスカが引きずられていく。アレクセイは自分がリリアーナにサイン会もどきの事を伝えなければ落ちなかったのに、と責任を感じていた。なのでせめて少しの間、二人きりにしてあげようと考えたのである。
「何か・・・気を使われたようですね」
カイトが二人が出て行ったドアを見ながら話す。
「兄様、あからさま・・・」
これでは返って気恥ずかしくなる。
「そういえば、何故窓から落ちたのですか?」
聞きたくない事を聞かれてしまった。
「カイトが・・・女の子に抱きつかれてたから、よく見ようと思って身を乗り出したの」
「それで落ちたのですか・・・」
「呆れた!?」
ぷいっと横を向く。
「いいえ、きっと私も同じ事をするでしょう」
カイトは微笑むとリリアーナの腰と膝の後ろに手を回し、子供を抱くように縦に抱き上げた。リリアーナの目線はカイトより高い。
「私・・・カイトの前だと普通の女の子になってしまって・・・ううん、普通じゃなくて馬鹿な事ばっかりやってる子」
「私の前でだけであってほしいです」
「馬鹿なまねは他でするなっていう事?」
「リリアーナ様の行動は馬鹿な真似ではないと思います。` 他でするな ‘ に対しての答えは、YESであり、NOでもあります。NOは、貴方のどんな姿も私にとっては可愛らしいので、他でそんな真似をしても気になりません。YESは・・・」
珍しくカイトが言いよどんだが、少し間を置いて後を続けた。
「貴方が他の男の前でそういう事をするということは、その男に気持ちが移ってしまったという事です。そうなったら・・・私は相手の男を殺して貴方を無理矢理、奪い返すかもしれません――」
さらっと怖い事を言われて、リリアーナが緊張した。カイトはそれを察すると、すぐ下におろす。
「私が怖くなったら、遠慮なく仰って下さい」
屈んで頬にキスをすると、一礼をして部屋を出ていった。
返事がないリリアーナを心配して、横抱きにしたままカイトが顔を近づけた。リリアーナは、はっと我に返るとすぐカイトにしがみつき、ぽろぽろと涙を零 (こぼ) し始める。驚いただけのその様子にカイトはほっと胸をなでおろした。
腕の中の姫君に顔を寄せて、こめかみの辺りに愛 (いと) おしげにキスをするカイトの姿は、旅芸人達の恋愛劇より麗しく、村人達は見入ってしまった。
カイトはサインをしていた人達に向き直る。
「リリアーナ様を部屋にお連れしないといけないので、すいませんがこれで失礼いたします」
軽く礼をして踵 (きびす) を返し、宿屋に入っていった。
サインが貰えなかったのは残念だが、アクロバティックな光景や、美しい姫君が涙を零しながらしがみ付く可愛らしい姿も目にする事ができたので村人達は満足した。そして何と言っても、二人がお似合いであることを口にする。
階段を登り始めたところで、慌てて下りてきたアレクセイと出くわした。
「リリアーナは!?」
「ご無事です。少し驚かれただけのようです」
アレクセイは安心して溜めていた息を吐く。
「カイトが下にいてくれて良かった・・・でも、君がいたから落ち・・・」
そこでリリアーナに胸の辺りを叩かれた。見るとじとーっとした目でアレクセイを睨んでいる。
「私が何か・・・?」
「いやっ、何でもない! 気にしないでくれ。リリアーナ、こちらに来るかい?」
アレクセイが両手を差し出した。
「カイトでいい」
リリアーナはカイトにしがみついたままだ。アレクセイは少し寂しかった。
(前はお兄ちゃんが一番だったのに・・・)
三階に上り、ドアを開けるとフランチェスカが飛んできた。
「リリアーナ様! ご無事ですか? 上から見たらカイトが受け止めていたようなので大丈夫だとは思いましたが」
「ええ、大丈夫。心配かけてごめんなさい・・・」
最近穴があったら入りたい行動が、てんこ盛りで恥かしいリリアーナである。
リリアーナをソファに下ろすと、カイトは念のためにどこか痛めてないか、リリアーナの身体を簡単に確認した。
「どこも痛めてはいないようです」
アレクセイもフランチェスカもほっとする。
「そうしましたら、私はこれで失礼いたします」
カイトが出て行こうとした。
「ちょっと待てカイト!」
アレクセイへ向き直る。
「はい、何でしょうか?」
「え~と、フランチェスカ、来てくれ」
「はい、え? 何でしょうか~!!」
フランチェスカが引きずられていく。アレクセイは自分がリリアーナにサイン会もどきの事を伝えなければ落ちなかったのに、と責任を感じていた。なのでせめて少しの間、二人きりにしてあげようと考えたのである。
「何か・・・気を使われたようですね」
カイトが二人が出て行ったドアを見ながら話す。
「兄様、あからさま・・・」
これでは返って気恥ずかしくなる。
「そういえば、何故窓から落ちたのですか?」
聞きたくない事を聞かれてしまった。
「カイトが・・・女の子に抱きつかれてたから、よく見ようと思って身を乗り出したの」
「それで落ちたのですか・・・」
「呆れた!?」
ぷいっと横を向く。
「いいえ、きっと私も同じ事をするでしょう」
カイトは微笑むとリリアーナの腰と膝の後ろに手を回し、子供を抱くように縦に抱き上げた。リリアーナの目線はカイトより高い。
「私・・・カイトの前だと普通の女の子になってしまって・・・ううん、普通じゃなくて馬鹿な事ばっかりやってる子」
「私の前でだけであってほしいです」
「馬鹿なまねは他でするなっていう事?」
「リリアーナ様の行動は馬鹿な真似ではないと思います。` 他でするな ‘ に対しての答えは、YESであり、NOでもあります。NOは、貴方のどんな姿も私にとっては可愛らしいので、他でそんな真似をしても気になりません。YESは・・・」
珍しくカイトが言いよどんだが、少し間を置いて後を続けた。
「貴方が他の男の前でそういう事をするということは、その男に気持ちが移ってしまったという事です。そうなったら・・・私は相手の男を殺して貴方を無理矢理、奪い返すかもしれません――」
さらっと怖い事を言われて、リリアーナが緊張した。カイトはそれを察すると、すぐ下におろす。
「私が怖くなったら、遠慮なく仰って下さい」
屈んで頬にキスをすると、一礼をして部屋を出ていった。
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