種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

文字の大きさ
上 下
152 / 1,095
闘人都市編

宿敵との再会

しおりを挟む
――その日、多くの警備兵たちが放浪島の東部で何時の間にか逃げ出した移動用の魔獣を追跡を行い、無数の「狼男」が縄張りとする北部山岳の境目にまで探索網を広げると、そこには異様な光景が広がっていた。


この放浪島の「東部監獄」の中でも、1、2を争う危険性の高い魔獣である狼男の群れが、芝生一面に横たわっていたのだ。しかも、その数は50匹を越えており、また黒狼のような化け物が誕生したのかと警備兵たちは震え上がった。

すぐにも狼男を撃破した「生物」の追跡を行うため、腕利きの兵士と魔術師を送り込み、北部山岳に向けて移動している事を突き止める。大勢の人間が送り込まれ、どうやら狼男以外にも無数の魔獣や魔物が倒れているのを発見され、中には大型の魔獣である「グリフォン」や「ハニーベアー」さえも含まれていたという。


明らかに「黒狼」に匹敵、もしくはそれ以上の化け物がこの島に出現したことに、警備兵は北部山岳の手前で追跡を中断し、王国に救援を求めたという――




――最初の狼男との戦闘から3日後、レノはやっと懐かしの北部山岳の土地に戻ってきた。途中、無数の魔物達と戦闘を繰り広げたため、予想以上に時間はかかったが、


「……相変わらずだな……」


辺り一面が雪景色であり、無数の枯れ木が広がっている。但し、周囲には魔物の気配は無く、間違いなく「白狼」が近くに居る事を知らせる。

この島の王者である巨大な白い毛皮の狼、白狼の周囲には常に他の魔物たちの気配は無い。北部山岳の生物は危険を避ける本能に優れており、この島に住む全ての生物の頂点に立つ白狼に自分から襲い掛かる魔物は存在しない。

そのため、白狼は自分の餌を求める時以外には滅多に戦わない。というよりは、相手の方から勝手に逃げ出すのだ。例え、白狼よりも何倍もの巨体の魔獣であろうが、意思を持たないはずの粘液性物であるスライムさえも近づく事すらしない。

あまりにも貧弱な生物は、白狼の姿を見ただけで絶命するほどの威圧感を纏っており、その姿は最早、魔獣ではなく「神獣」とさえ言えるだろう。



――そんな文字通りの「化け物」に、レノは今日、この場所で決着を付けるつもりだった。



「……待つか」


周囲を見渡し、白狼が周辺に居る事は間違いないが、相変わらず何を考えているのかは分からない。レノが何のためにここに戻ってきた事ぐらいは察知しているはずだが、殺気も敵意も何も感じない。仕方なく、傍の枯れ木に背をやり、白狼が来るまで待つことにしたが、その間にここに来たばかりの頃を思い出す。



――2年前、レノが大怪我を負いながらも偶然にも遭遇した「白狼」により、襲い掛かったグリフォンが逃げ出した事から始まった。


「死」を迎える覚悟ではなく、「生きる」ことを決意し、レノはこの場所で暮らし始める。もちろん、当初はあまりにも厳しい環境に何度も死の淵をさまよった。

基本的に野菜や果物しか食さないレノだが、この場所ではまともな植物が育つはずがない。仕方なく、生きるために種族的にもあまり口に合わない動物や魔獣の肉を貪り喰らって生き延びる。川の水で水分を補給したり、寒い中を身体の汚れ(仕留めた動物の死臭)を落とすために水浴びしなければならないのは辛かった。

当然、危険性の高い魔獣と交戦する機会も多い。特にグリフォンやホワイトベアー(ハニーベアーと比べ、現実世界のシロクマと酷似している)は深夜問わずに襲い掛かってくるので、無闇に野宿する事も許されない。

それでも尚、レノはこの場所で暮らし続けた。この山岳から離れれば、少なくともこの場所に居るよりはずっと安全で危険な生物はいない。だが、ここでなければ意味は無い。この過酷な環境を克服してこそ大きく成長出来る。


常に命の危機が付きまとう場所とは、逆に自分が「生きている」という事をより自覚させる場所でもあり、ただの詭弁にしか過ぎない考え方かも知れないが、レノはこの場所こそが自分の目的に近づける場所だと確信する。


その結果、レノは強くなった実感を得た。昔と比べ、肉体面も精神面も大きく成長し、多くの魔獣達を相手に戦い生き抜いた。この山岳での最後の心残りは、「白狼」との決着を付けずに出てしまったことであり、本来ならばもう少しこの場所で暮らすはずだったが、どうしても外の世界の事が気にかかって放浪島を去った。


あくまでもレノの最終目標は「ダークエルフ」だ。だが、彼女の元に辿り着く前に、どうしても決着を付けなければならない存在こそが「白狼」だった――



「……来たか」



――グルルルルルッ……!!



前方から聞き慣れた唸り声と、そしてダークエルフにも匹敵する異様な威圧感が身体に襲い掛かり、冷や汗を流しながらレノは顔を上げる。


そこには、体中が白い体毛で覆われた巨狼が立ち尽くしており、レノを見据えていた。その瞳は宝石のように赤く光り輝き、黒狼の比ではないほどに恐怖が湧き上がってくる。


しかし、この「化け物」を超えたときこそ、レノは初めて「ダークエルフ」の前に立てるという、何の根拠もないはずなのにそんな確信を抱いていた。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

異種族キャンプで全力スローライフを執行する……予定!

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:3,580pt お気に入り:4,744

あなたの世界で、僕は。

BL / 連載中 24h.ポイント:1,463pt お気に入り:53

転生王女は異世界でも美味しい生活がしたい!~モブですがヒロインを排除します~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:3,862pt お気に入り:1,464

可笑しなお菓子屋、灯屋(あかしや)

キャラ文芸 / 連載中 24h.ポイント:532pt お気に入り:1

処理中です...