種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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英雄編

浄化の雷光

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「久しぶりだから出来るかな……」


短剣を握りしめながらソフィアは左腕を確認し、黒衣の包帯を振りほどき、考えればこの包帯は呪詛さえも通さない素材であり、わざわざ左腕にまで魔鎧を纏う必要性が無い事に気が付く。今の状況ではそれが幸いであり、ソフィアは包帯に隠された左腕の紋様を確認し、


「解放(リリース)」


バチィイイイッ!!


左腕から事前に仕込んでおいた「天属性」の金色の雷が迸り、そのまま短剣を握りしめて魔力を注ぎ込む。北部山岳に棲んでいた頃は良く使用していた「魔力付与」を行い、上手く短剣に電流が流し込まれる。その電力は凄まじく、普通の刀剣では耐え切れずに溶解してしまうだろうが、流石に剣乱武闘の優勝賞品ではあり、成功した。


「熱っ……!?」


流石に天属性の雷撃を封じ込めるのは無理があり、短剣に高熱が帯びる。本来ならば自分の魔法で自身が傷つくという事は無いのだが、流石に刃の金属部分の電熱だけは防げない。すぐにソフィアは柄の部分に先ほどの黒衣の包帯を巻きこみ、左腕で握りしめると、


ズドドドドッ……!!


『がとりんぐすらいさぁっ!!』


天上に向けて刃状に形を変えた無数の黒色の魔弾を撃ち込むキメラに視線を向け、今からあんな化け物の懐に潜り込んでこの短剣を叩き込まない事を考えるだけで深いため息を吐き出し、それでもここであれを倒さなければ都市に凄まじい被害が生まれる。

この学園都市はソフィアにとってあまり良い思い出は少ない。それでもこの場所でアルト達と出会い、クズキの元で勉強を学び、一応は彼女にとっての学び舎なのだ。これ以上、薄気味悪い化け物に破壊させる訳にはいかない。


「あ……王様も一応いるんだっけ」


よくよく考えればこの校舎内にバルトロス国王が拘束されており、一応は彼を助ける目的で侵入したことを思い出し、ここで躊躇していたら彼の命も危ない。ソフィアは覚悟を決め、短剣を握りしめて大きく跳躍し、屋上から飛び降りる。


ダァンッ!!


勢いよく肉体強化で強化した右足を踏み出し、そのまま空中に飛び出すと滑空して地面に着地する。この姿ではレノのように瞬脚で空中を移動できないため、衝撃音にに気付いて視線を向けてくるキメラに駆け出す。


バチィイイイッ……!!


彼女の左手に握りしめる短剣を確認した瞬間、キメラは本能的にあの短剣に触れる事を恐れ、すぐに上空の結界に向けての攻撃を中止し、そのまま彼女に向けて左腕の砲身を構える。既に周囲にはキメラの放つ呪詛が蔓延しており、ソフィアが装備している聖石にも限界が迫る。その前に肉体強化で何とか近づこうとするが、


『りぼるばぁばれっと!!』


ズドォンッ!!


巨大な「黒球」が砲身から放たれ、すぐにそれが呪詛の塊である事を見抜くとソフィアはすぐに真横に方向転換し、難なく避ける。


ズガァアアアンッ!!


だが、避けた方向には鳳凰学園の校舎が存在し、黒球が壁に激突した瞬間に黒煙が舞い上がり、後方から煙が迫ってくる。魔鎧武装を形成すれば呪詛も跳ね除けるだろうが、問題は視界を封じ込められることであり、何としても黒煙が追い付く前にキメラに接近しなければならない。


「二重・肉体強化!!」


ビキィイイイッ……!!


後の酷い筋肉痛を承知でソフィアの状態でさらなる肉体強化を行い、そのままキメラに向けて真っ直ぐ突っ込む。馬鹿正直にこちらに向かってくる彼女に対し、特に高い知能を持たないキメラは何の疑いも抱かずに砲身を構え、


『だぁくふれいむ』


ボォオオオオオオオオッ……!!


火炎放射器を想像させる勢いで再び「黒炎」を放出させ、そのままソフィアの身体が飲み込まれる。キメラは彼女の身体が炎で完全に見えなくなっても黒煙を砲身から放ち続け、逆にそれが命取りとなった。


ボフゥッ!!


『ギィッ……!?』
「あぁあああああああっ!!」



――全身を蒼炎の魔鎧で武装させ、キメラが放つ黒煙を振り払いながらソフィアが出現し、そのまま彼女は左手で握りしめる短剣を構いながら突っ込む。



『うがぁあああああっ!!』



ブォンッ!!



最後の悪あがきとばかりにキメラは左腕の砲身を横薙ぎに振り払うが、彼女はそれを難なく体勢を低くする事で躱し、そのまま屈んだ状態から足の裏から、足首、膝、股関節、腹部、胸、肩、肘、腕、拳の順で身体を回転、及び加速させ、勢いを乗せて左手に握りしめる短剣を振り翳し、



「おぉおおおおおおっ!!」



――ズドォオオオオオンッ!!



短剣の刃が体勢を崩したキメラの胸元に突き刺さり、刀身が見事に腐敗竜の核を貫通し、罅割れを起こす。その直後、キメラの肉体が停止し、ソフィアがすぐにその場を離れた途端、


『うぎぁあああああああああっ!?』
『あがぁあああああああああっ!?』
『いぎゃあああああああああっ!?』


突然、キメラが胸元を抑えつけて口元から複数の人間の悲鳴を同時に上げ、ソフィアの予想通りキメラの体内に蓄積された魔力を抑制していた腐敗竜の核を破壊したことで、30人の勇者の意識がせめぎ合っているのだ。


ボコボコォッ……!!


それだけではなく、まるで水風船のようにキメラの各所から皮膚が膨れ上がり、そのまま破裂する。周囲に人間の血液とは到底思えないほどに真っ黒に染まった液体が飛び散り、地面に煙が舞う。


「うっ……」


キメラの身体に何が起きているのかは分からないが、予想していたよりも最悪の事態に向かっている事は間違いなく、どんどんとキメラの身体が膨れ上がり、ソフィアは距離を取る。


『いだいぃいいいいいっ!!』
『だずげてぇええええっ!?』
『あがぁああああああっ!!』


複数人の人間の悲鳴が聞こえてくるが、最早人間というにはあまりにも異形の形状をしており、原形を留めていないほどにキメラの身体が膨れ上がる。最初は胸元、次に両腕と両足といった順に肥大化し、頭だけは大きさが変わらないため傍から見たら異様な光景が広がる。

肥大化すると言っても筋肉が盛り上がってわけではなく、まるで風船のように内側から膨らんでおり、嫌な予感しかしない。恐らくは体内の魔力が暴走しており、このままでは爆発してしまうのだろう。


「ミスったかも……!?」


すぐにソフィアは踵を返して結界外に逃げようとしたが、校舎にはまだバルトロス国王が残っている事を思い出し、今からでは救助する時間がない。彼を見捨てて逃げるか、それとも別の手段を考えるべきか、迷っている間にもキメラは膨れ上がり、考えている時間は無い。


「くそっ……!!」


一か八か、爆発の規模を抑えられないかとキメラの肉体を魔装術で覆い囲み、肥大化を食い止められないかと試みようとした時、



「――ほあちゃ~っ!!」



ブヨンッ!!



『あぐっ!?』
『あがぁっ!?』
『ぶふっ!?』



キメラの頭部に強い衝撃が走り、そのまま毬のようにバウンドを繰り返しながら跳躍を繰り返し、怪物を蹴り飛ばした張本人が見事に地面に着地すると、



「ふうっ……どうやら間に合ったようですね」
「いや、遅いっ!!」


そこには聖剣を片手にポーズを決めるアイリィの姿があり、こんな状況でも緊張感が無い彼女にツッコミを入れたいが、今は説教をしている暇はない。


「それよりもあれ!!何とかできない!?」
「ああ……だいたいの事情は察しましたけど、逃げるのが得策だと思いますけど?」
「それが出来たら苦労はしない!!」


キメラの方を指差し、アイリィは頬を搔きながら至極当たり前のことを告げ、ソフィアはすぐに校舎内にバルトロス国王が残っている可能性を話す。


「なるほど……なら、遂にこの大聖剣の力を使う時が来ましたか!!」
「大聖剣って……これってまさか……!?」


彼女が掲げていた聖剣を受け取り、すぐにソフィアは「エクスカリバー」の修復が終えたのとばかり思っていたが、どういう事か日本刀を収納すると思われる鞘が変化しており、長剣を収納する金属製の物に変化している。


「説明している暇はありません!!いつも通り、ちゃっちゃっとやっちゃってください!!」
「了解……!?」


ソフィアは剣の柄に手を伸ばし、そのまま鞘から引き抜くと、その刀身のデザインに大きく目を見開き、間違いなく刃から「金色」の電流が迸る。



「――私の新作、エクスカリバーとカラドボルグを組み合わせた「カリバーン」です!!用途はカラドボルグのように振り抜いて下さい!!」
「……粋な事を」



聖剣の柄の部分はエクスカリバーであり、刀身の部分は間違いなく限界が迫っていると言われたカラドボルグであり、二つの特性を受け継いだように刃を覆い囲むように「光の剣」と「金色の雷」が迸り、ソフィアの状態でも問題なく使用できる。

しかも以前のように大幅に魔力を消費する感覚は無く、逆に聖剣から感じられる暖かな魔力に彼女は笑みを浮かべ、そのまま何の不安も抱かずに今にも爆発しかねないキメラに向けて振りかざす。



「カリバーンッ――!!」



――次の瞬間、凄まじい轟音が結界外にまで響き渡り、聖剣から放たれた「金色の光の奔流」はキメラを飲み込むだけでは飽き足らず、結界内の呪詛を一瞬にして浄化し、さらには内側から障壁を打ち破って金色の光線が学園側から放出された光景を都市の大多数の者達が目撃したという。
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