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クビの夜、俺のスマホのAIが、ダンジョンの答えを話しはじめた。
大手クラン・アセントの配信制作部で5年、「承知しました」と働いてきた柏木拓海(27)は、反対した企画の炎上の責任を押しつけられ、クビになった。
家賃のために潜った新宿ダンジョンで、ゴブリンに挟まれ、腕のスマホに叫ぶ。返ってきたのは、いつもの明るいAIの声だった。
[いい質問ですね! 結論から言うと――]
スキル【エージェント】。柏木のAIだけが、モンスターの癖も、スキルの隠れた取得条件も、協会の資料にない答えを知っている。
ただし、答えを知っていても、体が追いつかなければ負ける。手札は、5年で身についたカメラと段取りの腕と、自分で組んだ戦闘人形が1体。
同時接続数0の個人配信から、元の職場が予告した第10層の中間ボスを、先に倒しにいく。
コメント欄は、今日も「なんで知ってんの」で埋まる。
文字数 18,577
最終更新日 2026.10.14
登録日 2026.10.13
【毎日21:10更新】
「映えないし、映っても誰も見ないって。土Fは入口で待機」
妹の配信がダンジョンの崩落で途切れた日。救助の入口で、配信のカメラの前で嗤われた男がいる。
黒沢透、27歳。地質の研究員で、土魔法F。冒険者ランクは一番下。
Aランクが「ここからは無理だ」と引き返した崩落を、透は岩ひとつ壊さずに通った。
戦えないから、岩の隙間に土を詰めて、動けなくしただけだ。
その先で、正体の分からない声が、透に力を貸す。
翌日、透は掲示板で「妹を救った謎のお兄さん」と呼ばれていた。
妹1人しか登録していなかった実験チャンネルは、登録者2万を超えた。
当の本人は、録画のコマを数えていた。止めると念じてから岩が止まるまで、37コマ。
借りた力の名は《引力》。
仮説を立てて、外して、直す。次の仮説はコメント欄から来る。外れの回数は、喋る小さなモンスターが数えてくる。
救出を手柄にした大手クランの嘘は、妹のアーカイブに残った声で崩れ始める。
これは、戦えない研究員が、外した仮説の数だけ強くなっていく物語。
文字数 19,673
最終更新日 2026.10.14
登録日 2026.10.13
【毎日18:10更新】
『演技うますぎ』
『立ち姿が完璧』
コメント欄が沸く。演技ではない。
弱虫な男子高校生配信者・白瀬律の体には、本物の殺人ピエロが宿っている。
「観客がいないなら、私は人を斬る」
斬るのはモンスターだけ。体を貸すのは、律が許したときだけ。そう取り引きして始めた初配信は、同接0。
「少年、私の何がいけない。立ち方か。声の張りか」
人を斬るとまで言った道化が、0ひとつでうろたえている。
そこへ、死神のような骸骨が現れる。真っ先に前へ出た律が、膝をついた一瞬に「代わって」と許す。
丸かった背中が伸び、顔に白粉と黒い線が浮かぶ。骸骨は、一振りで光の粒になった。
翌朝、切り抜きは約12万回再生。教室で回る切り抜きの本人が、すぐ隣で卵焼きを落としかけていることに、誰も気づかない。
窓辺のピエロがねだる。「言ってやれ。あれは私だと」
言えるわけがない。
褒められるのは、いつも道化。それでも、切り抜きを見返した視聴者が気づき始める。
『震えてるのに先に出てる』
人を斬りたい道化と、斬らせない弱虫の、噛み合わないダンジョン配信。
文字数 22,321
最終更新日 2026.10.14
登録日 2026.10.13
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