1
件
1972年、マカオ。
カジノのVIPルームで二人の男が、極東最大の「準州(コモンウェルス)」となった故郷――日本の「受け皿」を模索していた。
さかのぼること1944年1月、帝都・東京。
すべては、ハルビンの特務機関が傍受した一通の「偽造暗号」から始まった。
テヘラン会談におけるソ連対日参戦の密約。
極めて精巧なそれを、誰が何の目的で作ったのか。
玄人には偽物だと分かる代物だったが、参謀本部の専門家は致命的な失点を恐れるあまり、一定の蓋然性が認められるとして、誰一人それを「偽物だ」とは断言しなかった。
東部軍情報将校・辻村中尉の、上官に対する「忖度」。
エリート将校たちの保身と疑心暗鬼、そして曖昧な態度が積み重なり、「嘘」は既成事実化していく。
結果、日本はヤルタ会談前の早期降伏を受け入れる。
無傷のインフラと人材を温存した列島は、泥沼化する大陸の戦火の中で極東の「巨大兵站基地」として稼働。
ウォール街からの莫大な投資と圧倒的な消費、さらに無関税のバフが乗り、狂乱の超高度経済成長を遂げた。
だが、膨張する経済の代償は安くなかった。
ワシントンに乱立する「501(c)免税団体」を隠れ蓑に、列島の富は合法的に米本土へ還流し、ロビー活動の原資へと化けていく。
日系の法曹たちは、地域住民の権利保護の名の下に合衆国憲法修正第14条の適用を要求。
日本の法体系は内側から米国に飲み込まれ、独立という選択肢は法理の迷宮へと消え去った。
日米の軍歴を持つロジスティック将校から政治家へと転身する真鍋。
インテリジェンスで権力構造の糸を引く辻村と越智。
彼らが向き合うのは、洗練された「法と資本」による侵食だ。
エリートたちがえんぴつを転がした結果――既成事実は積み上がり、国は八つに割れた。
「日本八州分割・州昇格案」
アメリカ大統領選の勝敗すら左右する巨大なスイングステートの誕生を、政治・軍事・経済が交錯する視点で描く、歴史改変ポリティカル・スリラー。
発端は些細なものだ。
誰かが見たいものを見てしまったに過ぎない。
……だが、一度上がった情報は、欲している者の手で「証拠」に変わる。
※本作には一部、暴力的な描写が含まれております。また、当時の専門用語や数値などが登場しますが、これらは物語の雰囲気や世界観を作るためのものです。すべてを正確に理解していただく必要はありませんので、当時のリアルな「空気感」として、お楽しみいただければ幸いです。
文字数 11,420
最終更新日 2026.04.26
登録日 2026.04.26
1
件