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夜会の席で、侯爵令嬢アエミリアは、自分のために仕立てられたはずの深紅の花嫁衣装を、別の女が着ているのを見た。
怒りをぶつけた直後、婚約者は彼女を「浪費家で嫉妬深い悪女」と断じ、衆人環視のなかで婚約破棄を宣言する。
突きつけられたのは、アエミリア自身の署名が入った多額の支払書。
署名は本物。金が消えたのも本当。彼女が女を侮辱したのも事実だった。
誰もが勝ち目はないと和解を勧めるなか、アエミリアは王都の法院通りで、机一つを置いて依頼人を待つ男を訪ねる。
名はヴァンフリート。貴族にも法院にも容赦なく噛みつく、腕は確かだが口は最悪の代言人だった。
「署名は本物。金も消えた。お前も女を罵った。ここまでは全部本当だ。だから妙なんだよ。嘘が一つもないのに、出来上がった話だけが胡散臭い」
彼が争うのは、起きた事実ではない。
誰が金を使ったのか。誰が利益を得たのか。そして、誰が事実へ都合のよい意味を貼りつけたのか。
事実は残す。責任は分ける。余計な罪名だけを剥がす。
これは悪女を聖女に書き換える物語ではない。
誰かに作られた“悪女の物語”を、証拠と毒舌で解体する物語
文字数 371,306
最終更新日 2026.10.28
登録日 2026.09.11
急進的な改革を断行する若き皇帝に婚約を破棄され、名門ハイデルベルク公爵家は没落した。
未来の皇后となるはずだったグロリアお嬢様は、婚約者も財産も身分も、住む家さえも失った。
そして私、クラウス・アルウェルニ(28歳)も、ついでに職を失った。
仕方がないので実家に帰ろうと思ったのだが――。
「では、お嬢様。お元気で」
「何を言っているの。行くわよ」
「……どちらへ?」
「あなたの家に決まっているでしょう」
私はもう、あなたの使用人ではないのですが。
こうして、再就職活動中の無職男と、元公爵令嬢の奇妙な同居生活が始まった。
家事はできない。物価は知らない。世間の常識も通用しない。
それなのに、没落したという自覚だけは一向に芽生えず、態度は相変わらず公爵令嬢のまま。
おまけに私の就職活動は、どうにも上手くいかない。
仕事は決まらない。お嬢様は帰らない。紅茶の好みだけは、どちらも譲らない。
そんな騒がしい日々を送るうちに、二人の関係は少しずつ変わり始めて――。
これは、何もかも失ったのに偉そうなお嬢様と、何も望んでいないのに面倒事ばかり引き受ける元使用人の物語。
主従関係は終わった。
けれど、どうやら二人の縁は、まだ終わっていないらしい。
文字数 78,302
最終更新日 2026.10.27
登録日 2026.10.19
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