道を極める

大人がハマる高級“モデルカー”の仕掛人

2017.08.15 公式 道を極める 第26回 小林豊孝さん

未経験から飛び込んだ憧れの職業

小林氏:とはいえ、やはりやるからにはとことんのめり込んでしまう性格のようで、陸上競技の推薦で入った大学4年間は、もっぱら部活動に明け暮れてしまいました(笑)。おかげで主将も任されましたし、それまでは陸上を軸に頑張れば先がなんとなくありました。けれど、陸上で生きていかないと決めた以上、別の道を自ら切り拓く必要があったのですが、すっかり頭から抜け落ちてしまっていたんです。「昔から文章を書くのが好きだからマスコミを志望したい」と大学の就職課に相談したのが、4年生の8月。就職課の担当者からは「君、一回り遅いよ」と言われてマスコミは諦め、代わりになんとか滑り込んで入れたのが、インテリア業界でブラインドなどを製造・販売する会社でした。

その会社では営業部に配属され、東京地区を中心にお店や問屋さんのルートセールスをするのが自分の仕事でした。今の仕事とも、その前の雑誌の仕事ともまったく違う業界でしたが、ここで過ごした約5 年間が、今にして思えば仕事に対する「喜び」の原点になっていたんだと思います。

仕事の現場では、いくつもの想定外の事態が起きていました。そのたびにまわりの先輩・同僚や業者さん、職人さんたちが知恵を絞ってくれて、一緒に解決しようと動いてくれていたのです。そして、それに応えることで見ることができるお客さんの喜ぶ姿に「仕事の喜びってこういうことなのかな」、と感じたんです。納期がギリギリで、ブラインドを抱えて新幹線で新潟工場から現場にすっ飛んでいったこともありましたし、今でもはっきりと覚えているのですが、現場に搬入した時に寸法が5cm合わなくて目の前が真っ暗になったこともありました(笑)。

――失敗を糧にしながら学んでいく。

小林氏:そうやって仕事の厳しさと喜びを学んでいく中で、次の転機は不意に訪れました。知り合いの車の買い替えのタイミングで、安く譲ってもらったホンダのプレリュードが初めての愛車だったのですが、毎週磨いているうちに、またムクムクと車への想いが再燃してきた頃で、車の雑誌を何冊か定期的に買っては読み漁っていたんです。単純に車の情報を読むのも好きだったのですが、記事構成や企画内容、誌面上でおこなわれるキャンペーン企画の展開の仕方など、そちらの方に興味を持っていて「新卒の時は叶わなかったけど、やっぱりこういう仕事をしてみたいな」と、漠然とした思いを描いていました。

その頃、すでに結婚をしていたのですが、ある日曜日の朝に、妻から「そういえば、先週の新聞に車雑誌の求人広告が出てたよ」と言われたんです。それを聞いて急いで探し出すと、募集は新卒、中途とも若干名とありました。ダメ元で受けてみようと思ったのですが、課題作文だった「自分がやってきたこと、やりたいこと」を自宅で書いてみて、そこで妻から大量の赤字(訂正)が入ると、だんだんと真剣になっていきました(笑)。

妻の鬼の赤字のおかげで、面接まで漕ぎ着けたのですが、その帰りに職場となる編集部を見せていただく機会がありました。その瞬間「ここで働きたい!」と、理由はよくわかりませんでしたが、ものすごい衝動を感じたんです。最終面接の結果は電話でいただけるようになっていたのですが、待てど暮らせどかかってこず、いても立ってもいられないのでこちらから電話をかけてみると、「ちょうど今、採用の連絡をするところでした」と。そうして、私の編集者としてのキャリア、車を軸にして生きていく人生は、ひょんなことからスタートしました。

雑誌づくりは“お祭り”
「楽しかった」の声が聞きたくて

――躊躇なき行動が、結果を運んできてくれました。

小林氏:新卒2名、中途採用は私1名でした。現場はまさに昭和の編集部。「最初はスーツで仕事」と聞いていましたが、最初の3日間でネクタイなんてしていられない状況だということが、すぐに分かりました。隔週刊の雑誌だったので、月に2回やってくる締め切り、そのゴールに向かって編集部一丸となって突進していく姿。大きな出版社ではなかったので、企画出し・取材はもちろん、デザインラフ作り、執筆、校正など、あらゆることをみんなでやっていくんです。それは、さながら夜通し続くお祭りのようで、今の基準に照らし合わせれば「とんでもない」という評価になると思います。けれど、自分はそうやって一所懸命汗水たらして働くことが楽しくて仕方がなかったんです。

もちろんいいことばかりでなく、編集長から「こんな原稿つまらん」と、何度も突き返されて悔しい想いもしましたた。それに、発行部数30万部の先にいる読者の期待、プレッシャーも感じていました(もちろん数字だけではありませんが)。そんな状況でも、まわりは皆、目がイキイキとしていたんです。おそらく当時の自分も同じだったと思います。体力的にもキツイはずなのに、仕事終わりに編集部の仲間と恵比寿にあったミニカーショップに繰り出すのも楽しかったですし、何より嬉しかったのは取材のために、あらゆる車種の車を運転できたことでした。この時、「好きなことを仕事にする楽しさ」を実感しましたね。

――「好き」が喜びに繋がっていく。

小林氏:喜びは自分だけではありません。雑誌づくりでは、自分たちで企画を提案して、それが誌面となって読者の皆さんからダイレクトに反響がいただけます。企画に協力してくれたメーカーや業者の方々から「自分たちが関わることができて嬉しかった」という、自分にとって最大級の褒め言葉を聞けることも何よりの励みでした。

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アルファポリスビジネス編集部は厳選した人物にインタビュー取材を行うもので、日本や世界に大きく影響を与える「道」を追求する人物をクローズアップし、その人物の現在だけでなく、過去も未来の展望もインタビュー形式で解き明かしていく主旨である。編集部独自の人選で行うインタビュー企画は、多くの人が知っている人物から、あまり知られることはなくとも1つの「道」で活躍する人物だけをピックアップし、その人物の本当の素晴らしさや面白さを紐解いていく。

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