迷えるオトナ女子のための自分らしさのトリセツ

なぜ私たちは「本当の自分」を隠すのか?心理学が示す意外なメカニズム

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人はさまざまな「顔」を持っている

カウンセリングにいらっしゃる人の中には、「本当の自分がわからない」という人がいます。いったい、本当の自分とはなんでしょう。
わたしたちは、場面によっていろんな「顔」を持ち、状況に応じて様々な自分を表現しています。わたしも、子どもと一緒にいるときは「お母さん」の顔をしますし、母といるときは、「娘」として話をします。職場では、「心理士」の顔で仕事をしますし、食事の席では、美味しいお酒や料理をいただき、おしゃべりすることを楽しみます。
「お母さん」としてのわたし。「娘」としてのわたし。「心理士」としてのわたし。「酔っ払い」のわたし。どれが本物で、どれが偽物というものではありません。

わたしたちは、生きる上で場面に応じた「顔」をもっていて、場面に応じた役割をしています。これを心理学では「ペルソナ」といいます。「ペルソナ」とは中世の仮面を意味します。わたしたちは、様々な役割の仮面を状況に応じて付け替えながら生活しているというわけです。
会社員の「顔」、推し活をしているときの「顔」、同じマンションの住人としての「顔」、それぞれ自然と使い分けていることに気がつくことでしょう。いろんな「顔」をもつことは、社会に適応するためのものであって、誰でもそうやって生きているのです。

では、役割としての「顔」である仮面を取り外したとき、あなたの本当の顔はどのような顔なのでしょう。自然に振る舞える場面での顔が、「本当の自分」に近いのかもしれません。もちろん、この自然に振る舞う「本当の自分」も人生経験や成長に従って変化するので、一つと固定されているわけではありません。

場面ごとにキャラを変えるCさん

経理事務の仕事をしているCさんは、職場でなるべく目立たないように気を遣っています。言われたことをミスなく確実に遂行することに専念し、同僚との日常会話は最小限に抑え、余計なことを言わないようにしています。そうすることが、トラブルに巻き込まれない最善の方法だと考えたのです。職場では「おとなしい人」「真面目な人」と思われているようです。

学生時代の友人と会うときは、聞き役に回ることが多く、友人の悩み相談に乗ったり、嬉しい報告があると一緒に喜んだりします。友人からは、「思いやりがある人」「理解してくれる人」と思われているようです。

一人の時間はバトルゲームをします。プレイヤーの性別は男性に設定し、課金をして重装備でギルドの仲間を助けるので、ゲーム仲間から頼りにされています。リーダー的存在でゲーム戦略の司令塔でもあります。ゲーム内では「頼りになるリーダー」とみられているようです。

そして、2次元アイドルグループの推し活もしています。イベントにはグッズをそろえて参戦します。SNSで知り合った推し活仲間と待ち合わせし、ライブを楽しみます。職場の話をすることはありません。推し活仲間とは「一緒にライブを楽しめる仲間」として付き合っています。

職場の人たちには、休日の過ごし方を話したことはありません。職場でのイメージからは離れているようにも感じますし、なによりプライベートな側面を知られたくないからです。

このように、Cさんは、職場、学生時代の友人、プライベートな時間とそれぞれキャラを使い分けて過ごすことで、それぞれの場面に適応しているのです。
けれども、時々、キャラクターを使い分けて暮らすことに疲れることがあります。何もしていない一人の時間は、虚無感を覚え、何もしたくない、面倒くさいと感じることもあり、ただボーッとSNSを眺めています。

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プロフィール

高井祐子
高井祐子

神戸心理療法センター代表。公認心理師。臨床心理士。アンガーマネジメントファシリテーター。主に認知行動療法、マインドフルネスを用いて個人心理療法をおこなう。20年のカウンセラー歴を持ち、2025年4月までに、のべ15,602名と関わる。オンラインカウンセリングでは、日本全国のみならず海外からの相談に対応、グローバルに「こころの専門家」として活動している。著書に『認知行動療法で「なりたい自分」になる』(創元社)、『「自分の感情」の整えかた・切り替えかた』(大和出版)、『ラクに生きるための「心の地図」』(ナツメ社)などがある。

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