迷えるオトナ女子のための自分らしさのトリセツ

なぜ私たちは「本当の自分」を隠すのか?心理学が示す意外なメカニズム

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意外性が良い関係を生むこともある

このように、意識的にせよ無意識にせよ、場面ごとに自分のキャラ設定を変えて表現方法を変える人は増えています。仕事は可も不可もなく淡々とこなし、プライベートでは思いっきり楽しむ。オンとオフをうまく使い分けるのが時流なのかもしれません。個性の表現を場面に応じてあえて制限、分断し、使い分けるのは、自分の内面に踏み込まれたくない、傷つきたくない、評価を下げたくない、という自己防衛でもあります。

カウンセリングでは、このようなオンとオフの切り替えについて話題に上ることがあります。わたしたちは、いろんな「顔」を持っていますから、どの姿もその人らしいといえます。ただ、もう少し職場でもプライベートな姿を見せたら意外な一面が好印象を与えるのにもったいないよねとお話しすることがあるのです。逆もしかりです。
イベント会場で会う推し仲間に平日の姿をお話ししてみてはいかがでしょうか。人は「意外性」に関心を寄せます。いつもと違う一面を見せることで、親密感を感じ、友好関係が築けるかもしれません。

自分を受け入れることで自分らしく振舞うようになったDさん

Dさんは学生時代に自分の体型をからかわれたことがきっかけで、すっかり自信がなくなっていました。いつもうつむき加減で、髪の毛で顔を隠すようにして、体型より一回り大きいサイズの服をゆったりと着ています。
人と会えば挨拶するし、日常会話もしますから、周りの人は、Dさんのことを「地味な人」と思っているようでした。

けれども、Dさんはネット上では他人の悩み相談にのってあげるほど面倒見がよく、趣味で描いているイラストもとてもセンスがよくて人気なのです。対面の人間関係では自分をうまく表現できませんが、ネットの世界だと個人を特定されることはなく、体型など見た目も反映されないので生き生きと自分を表現できるのです。

やがてDさんは、知り合いのいない場所なら、自由にファッションを楽しめるのではないかと考えるようになりました。
自分のことを誰も知らないリアルな場所で、髪の毛をセットして体型にあった服装をして外出してみたところ、センスが良い、お洒落だねと店員さんや街で出会った人に声をかけられたのです。
このことがきっかけで、Dさんは自信を取り戻しました。「他の人にどう見られたって構わない。自分は自分の好きなことを楽しめばいいんだ」と思えるようになったのです。
それからのDさんは、とても明るくなりました。知り合いからも「最近、雰囲気が変わったね」「本当はこんなに楽しい人だったんだね」と言われるようになり、毎日が充実しています。

重要なのは自分の「顔」を把握すること

このように、傷つきたくない、誰かに攻撃されるのではないかと自己防衛が強く作用すると、自分らしく振舞えなくなり、いつのまにか、本来の自分を自分自身ですら実感できなくなることがあります。
現実の場面で本音を話すと、相手から否定されるかもしれないと感じるので、ありのままに感じたままを表現することを恐れ、本来の自分とは異なる「顔」をすることで身を守ろうとします。
一方、ネット上など匿名性の高い場面では、個人が特定されないことで不安や恐怖を回避できる、自分の安全性を保てる、と感じることができます。ですから、ネット上の方が自己表現しやすい、と感じる人は多いのです。

Dさんの場合、現実場面で傷つかないように「地味な人」という「顔」をして生活していました。「地味な人の顔」で生活すると安全は確保されます。けれども、本来の自分の感情や嗜好を表現することは抑圧されているので楽しくはない。安全かもしれないけれど、自分らしく生きているとは言えない状況でした。
Dさんは、「人にどう思われても構わない。自分らしく生きる」ことを選択した瞬間、これまで自分を守ってくれていた「地味な人」という仮面を外し、本来の「顔」で現実場面を過ごせるようになったのです。

わたしたちは、日常的に仮面を付け替えながら生活をしていますが、無意識に行うのではなく、様々な仮面を使い分けている「自分自身」を知っておくことが大切です。
人のこころは一つとは限りません。こころのなかには、いろんな「自分」が存在するものなのです。大切なことは、いろんな「自分」が存在することを自分自身が知っておくこと。そして、本来の自分の「顔」で過ごす場所をいくつかもっておくことです。
あなたは、いくつ「顔」をもっていますか?そして、本来の自分を表現できる場所をどれだけもっているでしょうか?

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プロフィール

高井祐子
高井祐子

神戸心理療法センター代表。公認心理師。臨床心理士。アンガーマネジメントファシリテーター。主に認知行動療法、マインドフルネスを用いて個人心理療法をおこなう。20年のカウンセラー歴を持ち、2025年4月までに、のべ15,602名と関わる。オンラインカウンセリングでは、日本全国のみならず海外からの相談に対応、グローバルに「こころの専門家」として活動している。著書に『認知行動療法で「なりたい自分」になる』(創元社)、『「自分の感情」の整えかた・切り替えかた』(大和出版)、『ラクに生きるための「心の地図」』(ナツメ社)などがある。

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